悪役なのに愛されすぎています

悪役なのに愛されすぎています【121話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役なのに愛されすぎています】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介...

 




 

121話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • うそつき

ジェレミアが到着する日。

公爵家の朝は、いつになく賑やかだった。

普段よりも丁寧に選ばれた食材が並び、料理の品数もいつもより増えていた。

長い間閉め切っていたジェレミアの部屋にも、新しいカーテンがかけられ、柔らかな香りの香料が焚かれていた。

さらに、同じカーテンと香りが施された一階の来客用の部屋も用意されていた――もちろん、エバンを迎えるために。

冬の出来事以来、屋敷全体が久しぶりに活気づいていた。

それは本当に久しぶりのことだった。

そんな中でもロレッタは、まだ暗い自室のベッドで深い眠りについていた。

昨夜は胸の高鳴りがなかなか収まらず、ほとんど眠れなかったが――その分、ようやく訪れた朝にはぐっすりと寝入ってしまっていたのだ。

彼女の枕元には、翡翠の宝石のような飴が詰まったガラス瓶が六つ並んでいた。

そのうち、いちばん形のきれいな飴だけを集めた最初の瓶は、エバンのためのものだった。

残りの瓶は三人の伯父と父、そしてイサヤに贈るために用意したもの。

六つの瓶は並べて見るとほとんど違いがなかったが、ロレッタがエバンの瓶にだけ少し特別な気持ちを込めていたことを、誰も知る由はなかった。

ロレッタが深い眠りから目を覚ましたのは、遠くから響いてきた蹄の音のせいだった。

うっすらと目を開けた彼女は、手の甲で軽く目をこすりながら身を起こした。

周囲を見回したが、誰もいなかった。

それに、妙にあたりが明るい――。

「……っ!」

ロレッタは思わず声を上げ、飛び起きて窓のほうへ駆け出した。

カーテンを開けた瞬間、真っ白な朝の陽光が顔いっぱいに降り注ぎ、彼女は両腕で頭を抱えながら叫んだ。

「もう朝がほとんど終わってるじゃないの!」

今日は早起きして、砂糖瓶にリボンを結び、手紙を書くつもりだったのに――!

慌てて足踏みしながら窓の外を覗いたロレッタの視界に、一台の馬車が飛び込んできた。

さっき耳にした車輪の音は、どうやらその馬車のものだったらしい。

「……あの馬車……」

どこかで見たことがあるような気がして目を凝らすと、方向転換した馬車の横腹に、見覚えのある紋章がはっきりと見えた。

「ま、まさか……!もう来ちゃったの?!」

ジェレミアとエバンが来るのは、夕食の一時間前だと聞いていたのに――!

「どうしよう、どうしよう!」

ロレッタは焦った心を抑えきれず、部屋の窓辺をうろうろ歩き回った。

そして鏡の前に駆け寄り、自分の姿を確認する。

「ひゃっ……!」

鏡に映った自分の姿にロレッタは息をのんだ。

寝不足のせいで髪はあちこちに跳ね、まるで爆発でもしたようにふわふわと広がっている。

もちろんエバンは、どんな彼女を見ても可愛いと言ってくれるだろう。

でもロレッタは、こんなひどい姿では会いたくなかった。

そのとき、部屋の扉を「コンコン」と叩く音がした。

「お嬢様、もうお目覚めですか?」と侍女の声がする。

どうやらロレッタの慌てた足音が、外にまで響いていたらしい。

ロレッタは顔を真っ赤にして侍女のもとへ駆け寄った。

「助けて!髪型が変になっちゃったの!」

侍女はロレッタの髪を見て一瞬きょとんとしたが、すぐににっこりと優しく微笑み、彼女を安心させた。

「ご心配なく。いつものお姿に戻して差し上げます。」

「ううん、いつも通りじゃダメ!いつもよりずっと可愛くしてもらわなきゃ、わかるでしょ?」

「お任せください。」

 



 

ロレッタは侍女の手を借りながら、落ち着かずそわそわと足踏みをしていた。

本来、品格ある貴族の令嬢なら、こんなに落ち着きなくするべきではないと分かっていた。

だが――仕方がなかった。

だって、エバンとやっと会えるのだ。

彼が到着したというのに、駆け出して迎えに行けないなんて……!

「まだなの?まだ乾いてないの?」

ロレッタは、自分の髪を整えてくれている侍女に、もう何度も同じ質問を繰り返していた。

「あと少しだけです。」

「でも、さっきもそう言ったじゃない……!」

不満をもらしながらも、ロレッタは唇をきゅっと結んだ。

時間がかかるのは、彼女自身がいつもより丁寧に仕上げてほしいと頼んだからだ。

「はい、お嬢様。もう終わりましたよ。」

侍女が手を離して一歩下がると、ロレッタは勢いよく立ち上がり、鏡をのぞき込んだ。

爆発したようだった髪は、今では柔らかく整えられ、髪のすき間には小さなリボンや宝石飾りがきらきらと光っていた。

「いつもより素敵に仕上がりましたよね?」

侍女が誇らしげに言うと、ロレッタは顔を赤らめ、思わず親指を立てて見せた。

「最高!本当に大好き!」

「恐縮です。それでは、私は下へ行って厨房の侍女たちを手伝ってまいりますね。さっき馬車の音が聞こえたので、もしかすると導師様はもうお着きになっているかもしれません。」

「“かもしれない”じゃなくて、“確実に”よ!私、窓から馬車を確認したもの!」

「ま、まさか……本当に魔塔家の馬車だったんですか?!急いでお迎えしなくちゃ!」

侍女が慌てふためき、ロレッタはしばらく考え込んだ末、砂糖の瓶を手に取った。

本当は夕食後のデザートに出すつもりだったが、今すぐ渡してもいいかもしれない――そう思ったのだ。

『それに……エバンが喜ぶ顔を早く見たいし。』

ロレッタは両手に砂糖の瓶をひとつずつ持った。

右手はジェレミア用、左手はエバン用――。

忘れないようにと、両方の瓶をしっかりと抱え込んだ。

着替えを終えたロレッタは、ドレスの裾を軽くつまみながら廊下を抜け、階段へ向かった。

屋敷の中は静まり返っていた。

まるで、まだ客人が到着していないことを物語っているようだった。

公爵家では来客の際、華やかに迎えるのが常だったが、客が到着した後も公爵は決して浮ついた空気を出さず、常に冷静で上品な雰囲気を保っていた。

階段を下りたロレッタは、ちょうどお茶を運ぶトロリーを押していた使用人とすれ違った。

「お客様はどちらに?」

「大広間でございます、お嬢様。」

ロレッタがトロリーの上を覗くと、そこには紅茶のポットとミルクティー用の牛乳が置かれているだけだった。

――なんて地味なの!

ロレッタは唇をとがらせた。

ジェレミアなら濃厚で熱いチョコレート、エバンなら温かいミルクが好きなのに。

なのに、こんな普通の紅茶だけなんて。

『もしエバンが「この屋敷、思ったより地味だね」なんて思ったらどうしよう……?』

ロレッタの胸に、不安がふくらんでいった。

ロレッタは侍女の後ろを歩きながら、手に持ったガラス瓶をもう一度確かめた。

――エバンを喜ばせられるものといえば、今の自分にはこの砂糖しかない。

応接間の近くに着くと、扉の前に立っている執事ヒギンスの姿が見えた。

「お嬢様、こちらへはどのようなご用件で?」

「ご用件って……。公爵家にお客様がいらしたのよ?私はこの屋敷の女主人なんだから、当然お迎えしなきゃでしょ。」

「は……?」

「クロードお兄様がおっしゃったの。お兄様が結婚されるまでは、私が女主人として振る舞わなきゃいけないって。お兄様の言葉に間違いがある?」

「い、いえ……間違いは……ございませんが……」

ヒギンスは言葉を濁しながら、どこか渋い顔をした。

ロレッタの胸に、わずかに嫌な気持ちがよぎった。

ジェレミアはいつもメロディのことを案じ、疲れきった様子を見せていた。

そんな彼の耳を自分が気安く喜ばせているように見えたら――少し気が引けた。

「私、少しはしゃぎすぎたわね。ごめんなさい。」

「いいえ、お嬢様。」

「応接室には私が行くわ。お兄様は少しお休みになったほうがいいでしょうし。」

ロレッタは使用人に合図し、すぐに扉をノックするよう頼んだ。

執事ヒギンスが何か言いかけたが、その前に扉が開いた。

ロレッタは背筋を伸ばし、慎重に一歩一歩、応接室へと足を踏み入れた。

そして深く礼をして、声を張った。

「いらっしゃいませ、ジェレミアお兄様。そして……修練者エバン。」

何度も練習した挨拶を終えて顔を上げると、ソファにはクロードとロニ、そしてローブ姿の魔法使いが座っていた。

だが――その魔法使いは、エバンでもジェレミアでもなかった。

……そこにいたのは、見知らぬ男だった。

「……?」

ロレッタは思わず目を見開き、見慣れない男を凝視した。

そして無意識のうちに、少し無作法な質問を口にしてしまった。

「ど、どなた……ですか?」

男は席を立ち、ロレッタの前で恭しく一礼した。

「魔法使いのピアスと申します。ボルドウィン嬢。」

言われてみれば、その名前を聞いたことがある気がした。

――そう、エバンが何度か話してくれた、ジェレミアとエバンをよく世話してくれている魔法使いのことだ。

「お会いできて光栄です、魔法使いピアス。」

「こちらこそ、光栄です。」

彼がにこりと微笑み、再び丁寧にお辞儀をする間、ロレッタは彼の周囲をきょろきょろと見回した。

「魔法使いピアス、もしかして……お一人でいらしたんですか?お兄様と、えっと……弟子の方は……?」

ロレッタの顔には、心配と戸惑いが入り混じった表情が浮かんでいた。

それを見たピアスは、何か言おうとして口を開きかけたものの、結局言葉が出ず、気まずそうにローブの裾をいじった。

「えっと、その……もう行かないといけないみたいです。」

「まだお茶もお出ししていないのに……魔法使いピアス?」

ロレッタが慌てて呼び止めたが、彼は逃げるように頭を下げ、そそくさと部屋を出ていってしまった。

ロニと使用人、それに執事のヒギンスまでが彼を見送るために後を追ったため、広い応接室にはロレッタとクロードだけが残された。

ピアスの態度に、ロレッタの胸に嫌な予感がよぎる。

長く待ち望んでいた今日という日に、何か思いがけない出来事が起こる――そんな、理屈では説明できない直感。

しかしロレッタは小さく首を振り、その不安を振り払った。

「きっと少し予定がずれただけ……」と自分に言い聞かせながら。

遅れて到着することになったという話を、ピアスを通じて伝えに来たのかもしれない。

『……いや、もしかしたら一日くらい遅れるってことかも。』

たった一日、もう少しだけ待たなければならないなんて――胸がきゅっと締めつけられるような思いだったが、耐えられないほどではなかった。

メロディが去って以来、ロレッタの毎日は「待つこと」の連続だった。

泣き出したい気持ちを何度も押し殺しながら、彼女はずっと静かにその時を待ち続けてきたのだ。

エバンにさえ会えれば――あの温かな魔力が自分を包み込んでくれさえすれば――この胸を締めつける痛みや、ひんやりとした寂しさはきっと消えてなくなる。

『だから……一日くらいなら、我慢できる。この長い待ち時間が無駄じゃなかったって、そうわかるだけでいいの。』

「ロレッタ。」

やがてクロードが、彼女の前に歩み寄り、そっと膝をついた。

ロレッタはクロードの目をまっすぐに見つめた。

「お兄さま……?」

その声は、少し震えていた。

ロレッタはようやく、自分が不安で手まで冷たくなっていることに気づいた。

彼女は両手でキャンディの瓶をぎゅっと握りしめ、無理に笑顔を作った。

「ねえ、さっきの魔法使いピアスは何の用だったの?もしかしてお兄さまが遅れるって伝えに来たの?」

「ロレッタ、それは違う。」

「じゃあ、予定が一日延びたの?困ったわね。厨房ではもう準備が始まってるのに。時間がかかる料理もあるのに……」

ロレッタは一方的に話しながらも、クロードが何も返してくれないことに気づいた。

――怖くて、答えを聞くのが嫌だったのかもしれない。

「みんなに悪いわね。でも、今日の料理なら明日でもおいしいはずよね?きっと大丈夫。うん、きっと……一日くらい、何も変わらないはず……」

その言葉は、まるで自分に言い聞かせるように、かすれて消えていった。

「……ごめん、ロレッタ。」

言い出しにくそうに、クロードがそっと口を開いた。

「ジェレミアは……来ない。」

本当なら、もっと慎重に伝えるべきだとクロードもわかっていた。

だが、その瞬間、適切な言葉は何一つ浮かばなかった。

「……ごめん、こういうことになってしまって。」

もう一度謝る弟の表情を、ロレッタはじっと見つめた。

一瞬、彼女の顔色がさっと青ざめたかと思うと――透きとおるような青い瞳に、あっという間に涙が滲み始めた。

「ロレッタ!」

クロードが慌ててハンカチを取り出そうとする間に、ロレッタは震える指先で目元をぬぐいながら、か細い声で尋ねた。

「……どうして?」

「魔塔主様のご容体が……すぐれないんだ。まだ正式には発表されていないけれど、かなり重いらしい。」

ロレッタはぎゅっと目を閉じ、できるだけ理性的に状況を整理しようとした。

(塔主さまは、お兄さま――ジェレミアをとても信頼しておられる。だから、塔を離れられないのも当然……)

そう心の中で繰り返してみても、胸の奥に込み上げる涙は止まらなかった。

唇が震え、こぼれそうな嗚咽を必死に飲み込む。

「ジェレミアお兄さま……大丈夫よね?悲しんでない……よね?」

クロードは短く息を吐き、静かに答えた。

「わからない。きっと、とても心配していると思う。おまえも知っているだろう?ジェレミアにとって塔主さまは、親と同じような存在なんだ。」

「……お兄さまの弟子、エバンは?」

「エバンのことか?あの子は今、ジェレミアのそばにいるはずだ。あの子なら、きっと支えになってくれている。優しくて、芯の強い子だからな。」

クロードの言葉に、ロレッタはほんの少しだけ胸をなでおろした。

ジェレミアのそばにエバンがいる――それは、彼女にとって救いだった。

(……でも、私だって……エバンの慰めが、今いちばん欲しいのに。)

胸の奥で、誰にも言えない寂しさが静かに疼いた。

ロレッタはふと、胸の奥に芽生えた小さな嫉妬心に気づき、そんな自分を少しだけ嫌悪した。

――悲しみに沈むおじさまのもとから、エバンを「連れてきたい」だなんて……。

「ロレッタ、そのお菓子……もしかして」

クロードが、彼女の手に握られている砂糖菓子をちらりと見やった。

「ジェレミアとエバンに渡そうと思って持ってきたのか?」

ロレッタが小さくこくりと頷くと、クロードは優しく微笑み、手を差し出した。

「それなら、僕が届けよう。二人にちゃんと渡しておくよ。」

「届けるって……お兄様が?どうやって?」

「うん。魔塔主様のご容体が悪いのに、放っておけるわけがないだろう?ジェレミアにはご両親もいないし……僕も行かないと。」

その言葉に、ロレッタの瞳がぱっと輝いた。

『そうか……!私が行けばいいんだ!』

屋敷のようにゆっくり会えるわけではないけれど、せめて顔を見て、手作りのキャンディを渡すくらいならできる――ロレッタはそう思い込もうとしていた。

(運がよければ……お兄さまたちの目を盗んで、ほんの少しでも魔法をかけてもらえるかもしれない。)

涙をぬぐったロレッタは、勢いよく顔を上げて叫んだ。

「わたしも塔に行く!」

「……え?」

「お兄さまもわかってるでしょ?わたし、今日のためにどれだけ準備してきたか!お願い、一緒に連れて行って!」

ロレッタの必死の訴えにも、クロードは静かに目を伏せた。

その表情には、ためらいも迷いもなかった。

「どうして?どうしてダメなの?」

「それは……」

クロードは言葉を詰まらせた。

――塔へ向かうことが、ロレッタの身体にどんな影響を及ぼすか、彼には確信がなかった。

けれど、その「理由」を彼女に告げることもできなかった。

「まさか……お父さまが行くのを止めたの?そんなの、不公平だわ!だって、私は……!」

ロレッタは、これまでに何度か魔塔を訪れたことがあると口にしかけて、思わず唇を噛んだ。

エバンに迷惑をかけることになるかもしれない――その不安がよぎったのだ。

「……どうかお願い、お兄様。ね?」

「本当にすまない、ロレッタ。でも、砂糖と君の気持ちは、きちんとジェレミアに届けておくから。」

「嘘よ。」

「……。」

「お兄様には、私の気持ちなんて一つも伝えられないわ!」

クロードが肩に手を置こうとしたその瞬間、ロレッタは反射的に身を引いて、その手を振り払った。

「だって……この屋敷で、私の気持ちをわかってくれる人なんて、もう誰もいないんだから!」

「ロレッタ。」

慰めようと一歩近づいたクロードに、ロレッタは反射的に身を引いた。

彼を拒むように腕を振り払うと、手にしていたガラス瓶が床に落ち、甲高い音を立てて砕け散った。

散らばった破片を見つめた瞬間、彼女はようやく悟った。

――もう、エバンにこのキャンディを渡すことはできないのだと。

それまで必死にこらえていた涙が、一気にあふれ出した。

「お兄さまなんて……わたしの気持ちなんて、何もわかってない!大嫌い!一生許さないんだから!」

叫び声を上げると、ロレッタは勢いよく踵を返し、応接室を飛び出した。

扉の前にいたロニとすれ違いざまに一瞬だけ視線が交わったが、ロレッタはそのまま駆け抜け、自室の扉を乱暴に閉めた。

騒ぎを聞きつけて駆けつけた侍女たちと、公爵までもが彼女の部屋の前に集まったが、ロレッタは肩で息をしながら、嗚咽まじりの声で叫んだ。

「いや!みんな出てって!誰も入らないで!放っておいてよ!」

涙に濡れた声は、扉越しでもはっきりと震えていた。

「……あんな人とは、もう一生口をきかないんだから!」

そのあとロレッタは、駆け足で自室に戻ると、ベッドに飛び込んで毛布をぎゅっと抱きしめた。

「うぅっ……メロディ……」

泣き声の合間から、自然と懐かしい名前がこぼれ落ちた。

どれほど切実に呼んでも、もうメロディの温もりがロレッタを包み込んでくれることはなかった。

ふと、ロレッタはメロディと交わした約束を思い出す。

『ロレッタは立派な淑女になるんだよ』

『わたしがもっと幸せにしてあげるから!ねっ!』

いつも笑顔をくれたその約束は、今のロレッタにとっては涙を誘う記憶にしかならなかった。

「メロディの……うそつき……」

恨み言をつぶやいた途端、また泣き声がこぼれる。

ロレッタは毛布を抱きしめたまま、それを思い切り床へと叩きつけた。

ベッドの端にうずくまり、また泣き出したころ――静かだった空に、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。

やがてそれは激しい雷雨となり、稲妻が部屋のカーテンを一瞬ごとに白く照らし出した。

ロレッタは両手で耳をふさぎ、その轟音に震えながら嗚咽を漏らした。

身体の震えは次第に止まらなくなり、やがて彼女の意識は闇の中に沈んでいった。

 



 

 

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