こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
128話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 淡い期待③
部屋に駆け戻ったメロディは、勢いよくドアを閉め、ベッドの上で乱れた髪を押さえた。
――初めて会ったときから、心が乱されっぱなしだ。
どうして、あの人はここまで“似ている”のだろう。
声まで――驚くほど同じだった。
その声を耳にするたび、思わず肩が震えるほどに。
それに、ほんの少し前――完全に顔を隠していたあのときの“あの人”と……話を交わしたとき――本当に、そう思ってしまったのだ。
『本物の坊ちゃまだって……思い込んじゃった。』
違う人だと、頭ではわかっているのに。
『それに……坊ちゃまが私を……探してくるはず、ないもの。』
メロディは、クロード・ボルドウィンという人物を誰よりもよく知っている。
一度交わした約束は決して破らない男。
きっと今ごろは、自分の軽率な行動に構うよりも、ロレッタのために尽力しているに違いない。
『だから、あの人は……』
メロディはあまりにも当然のことのように、声に出して言った。
「坊ちゃまじゃない。」
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
「絶対に、違う。」
かつて想いを寄せた誰かを、別の人に重ねる――それは礼を欠いた行為ではないだろうか。
クライドにも、そしてクロードにも。
『本当に……名前まで似てるなんて……!』
メロディはベッドを拳でぽかぽか叩きながら、自分でもわけのわからない苛立ちをぶつけていた。
どうして、あんなに人当たりがよくて、見た目まで整った男がこの世に二人も存在する必要があるの?
ひとしきりベッドの上で転げ回ったあと、ようやく息をつきながら、少しずつ後悔の念が湧いてきた。
――いくらクロードに会いたくて、夜ごと夢に見るほどだったとしても。
あんな態度を取るなんて、まるで恩人に背くようなものだ。
『どうしてあんな馬鹿みたいなことを……』
クライドはこの村では誰も知らないよそ者。
それなのに、薬を分け与え、手伝いまでしてくれていたのに。
『謝らなきゃ……』
そして、もしまた彼がさっきのような冗談を言ったとしても、今度はちゃんと笑って受け流そう。
――「もう一度聞くと、全然違って聞こえますね。」そう言って、穏やかに笑おう。
「……坊ちゃまは、ほんと、バカなんです。」
そして最後に、メロディはなぜか都の神官へと、心の底からの願いのような言葉を投げかけるのを忘れなかった。
翌朝。
朝食のために部屋を出たメロディは、きれいにたたまれた布団と、そこにクロードの姿がないことに気づいた。
管理人のおばさんに尋ねると、少し前に出発の準備を整え、ミンディの宿へ向かったという話を聞くことができた。
『いくらなんでも……挨拶もなしに行くなんて!?』
メロディは朝食もとらないまま、慌てて外へ飛び出した。
途中、村人たちの挨拶に軽く会釈を返しながら、ミンディの宿の前に着くやいなや、大きく息を整えた。
道の先で、荷物を抱えて歩くクライドの姿が見えた。
「クライドさん!」
メロディが呼ぶと、彼は驚いたように振り返った。
彼女はそのまま駆け寄ったせいで、息を弾ませてしまう。
「せ、せめて……ご挨拶くらい……」
「ゆっくり息をしてください。逃げたりしませんから。」
彼は両手を軽く上げて、穏やかにメロディを落ち着かせた。
「でも、何も言わずに行ってしまうから……」
「まさか。」
クライドはふっと微笑んで、これから神殿に行く予定だったのだと説明した。
「……じゃあ、また私の早とちりですね。」
メロディは両手を胸の前で重ね、ぺこりと頭を下げた。
――どうしてこの人の前だと、こんなに失敗ばかりしてしまうのだろう。
「いいえ、誤解をさせたのはこちらです。本当にすみません。」
クライドは申し訳なさそうに微笑んだ。
「いえ、そんな……私のほうこそ……」
もう一度謝ろうとしたそのとき、ふと床に目を落としたメロディの視界に、黄色い何かが映った。
「……?」
花……といっても豪華なものではない。
宿の前に咲いていた花と草を束ねただけの、素朴な花束だった。
「……これ……」
メロディが身を起こし、そっと問いかけると、彼は一輪の花を差し出した。
「よかったら、受け取ってくれますか?」
「えっ、私が……?」
「はい。」
「な、なんで……?」
「なんでって……」
彼はむしろ「当然じゃないか」とでも言いたげな顔で、柔らかく微笑んだ。
「今日は……メイさんの誕生日でしょう?」
誕生日だったのだろうか?
そういえば、病が流行してからというもの、まともに暦を見ることさえなかった。
新しい新聞を買う余裕もないほど、毎日が慌ただしかったのだ。
「顔を見たら、思い出しました。」
「ええ……それで、どうして?」
「誰かが教えてくれたんです。」
「だ、誰が?」
「たしか……おしゃべり好きなワイリーだったかな。」
彼は曖昧に答えて、少し照れくさそうに笑った。
「とにかく、これを受け取ってください。」
「えっ……あの、ありがとう。」
「お誕生日、おめでとうございます。」
メロディは、壊れてしまわないかと心配になりながら、そっと小さな包みを受け取った。
――そういえば、以前坊ちゃまが……
彼女の脳裏には、かつてジェレミアと薬草の温室で交わした会話がふとよみがえっていた。
『気に入っていただけたなら、今度のメロディ嬢のお誕生日には植物の飾りを用意しておきましょうか?』
「はい、素敵ですね。お花も混ぜて束ねれば、もっときれいになると思います。」
「黄色い春の花……ですね。一緒に準備しておきましょう。」
──もちろん、そのとき交わした約束を思い出したところで……今となっては、もう何の意味もないのだけれど。
「嬉しいです。本当にありがとうございます。」
「大したことじゃありませんよ。それに……少し前はごめんなさい。メイさんを困らせようなんて思ってたわけじゃなくて、ただ……なんというか。」
彼は言葉を探すように、そっと自分のマントの裾をいじった。
「……あなたを笑顔にできたらって、そう思ってたんです。まあ、完全に空回りでしたけどね。」
「私のほうこそ、ごめんなさい。」
メロディは一歩、彼のそばへ近づいて言った。
メロディはそっと花束を持ち上げる。
その手つきが、どこか懐かしい――そう感じたが、すぐにその感情を振り払った。
「クライドさんを恋しがるなんて、そんなことはありません。ただ……」
メロディは言葉を探すように視線を落とし、手の中の黄色い花を見つめながら、少し寂しげに微笑んだ。
「……ただ、胸がいっぱいになるくらい、大切な人だったんです。」
「――僕がその痛みに触れてしまったなら、謝らなければいけませんね。」
「違いますよ。ちょっと違うんです。」
メロディは自然に口元をほころばせた。
「ひとりで抱えて、どうにか整理しようとしていた気持ちが……こうして話してみると、不思議と少し軽くなるんです。」
「でも、そういうことは他の男の人には言わないほうがいいですよ。その人……絶対、嫉妬するでしょうから。」
「……どうして、そんなことがわかるんですか?」
「僕に似てるって言ったじゃないですか?仕草とか、そういうところが。」
メロディが小さく首をかしげると、彼はくすっと笑って答えた。
「もし考え方まで僕に似てるなら、こういう細かいことにもいちいちヤキモチを焼く、面倒くさい男ですよ。」
「そ、そんな……!坊ちゃまは、そんなに心が狭い方じゃ……!」
思わずクロードをかばってしまった自分に気づき、メロディは慌てて両手で口を覆った。
「……」
「くくっ……ははっ。」
その様子を見ていたクライドが笑い出し、メロディは顔を真っ赤に染めてぷいと体をそむけた。
クロードは神殿で司祭の祝福を受けたあと、オーガストが住む屋敷へと戻ってきた。
その頃には、変身薬の効果もすっかり切れており、彼は再びいつもの姿に戻っていた。
馬車を降りるとすぐに、執事のイサヤが「お帰りなさいませ、旦那様」と言いながら近づいてきた。
「イサヤ、少し話がある。」
彼の言葉に、イサヤはすぐさま肩をすくめた。
どうやら、もう察しているようだった。
「……メルに会われたのですか?」
「村まで行ってきた。」
「やはり……。」
「ただ、騎士として最低限の義務を果たしただけです。少し顔を見て、無事を確かめただけ。メルが元気に笑っていて、それだけで安心しました。」
「さすがでございます、旦那様。」
実のところ、イサヤはすでにメロディの居場所を把握していたのだ。
もしそんなことになれば、自分はすぐにでも駆け出して、彼女に会いに行ってしまうのではないか──そんな考えが頭をよぎった。
「それが、坊ちゃまと僕の決定的な違いなんですよ。メロディが許さないことは、僕は絶対にしません!」
どこか得意げに言う彼の言葉に、メロディは少しだけむっとした気分になった。
よく考えてみれば、クロードは今まさに、メロディが「絶対に来ないで」と言っていた場所に来てしまっているわけで……。
それなのに「偶然」を装いながら彼女を見つけ、一日中一緒に過ごしているのだから。
「……僕も、いずれはああなると思いますよ。メロディ嬢は、人を自分好みに調教(しつけ)する方法をよくご存じですから。」
そのときだった。
屋敷の近くから、蹄の音が響いてきた。
二人の視線が自然とそちらへ向かう。
ベルホルドからそう遠くない場所にいる──どうやらそのようだった。
荒野と森を越えてこの屋敷にたどり着くのは、決して容易なことではなかった。
ましてや、近年は荒野で大小さまざまな事故が相次ぎ、通る者もほとんどいないという。
イサヤは険しい表情のまま、相手を見据えて目を細めた。
「先に行って様子を見てまいりましょうか?」
その問いに、クロードは首を横に振った。
「……待ちましょう。」
その判断は間違っていなかった。
まもなく、彼らの前に公爵家の伝令が姿を現したのだ。
伝令が告げたのは――沈黙を守り続けていた公爵が、わざわざ密書を送り、クロードを呼び出したという報せだった。
「……嫌な予感がする。」
クロードは胸の奥でそうつぶやいた。
伝令がもたらした知らせは、予感通り決して良いものではなかった。
それは彼が想定し得る最悪の事態であり、ひいては爵家全体の存亡に関わる危機になりかねないものだった。
クロードはオーガストに最速で挨拶を済ませると、ほとんど荷物もまとめないまま急いで首都へと向かった。
彼がここまで慌てたのは、皇帝側近から密かに届いた極秘の報告のせいだった。
──皇帝が密偵団を派遣し、クリステンソンから逃亡したある女性について、徹底的な調査を始めたというのだ。
どのような経緯で皇帝が彼女の存在を嗅ぎつけたのかは分からない。
だが、それは非常に危険な兆候だった。
その女性──彼女はクリステンソンでサミュエル公爵と密かに恋愛関係を結んでいた。
その事実だけでも厄介だったが、さらに彼女はその地で妊娠・出産までしていたのだ。
その過程で、どんなにうまく隠そうとしても、医師か助産師の協力なしには成し得ない。
もし運悪く皇帝側がその医師や助産師を突き止めることができれば──いや、仮に突き止められなかったとしても……
手がかりを一つひとつたどって調べれば、彼女が妊娠していたという事実まで突き止められるかもしれない。
「そうなれば、陛下はこうお考えになるだろう。“あの女は長年そうしていたのだ、サミュエル公の子を身ごもり、勝手に結婚まで済ませていたのだ”――と。」
問題は、その推測が真実として扱われてしまうことだった。
その結果、皇帝がオーガストに対して厳しい処分を下すのは時間の問題だろう。
「……そうなってしまえば。」
クロードはすぐに、最小限の犠牲で済む策を考えた。
なぜなら、彼にとって大切な人々がその渦中に巻き込まれていたからだ。







