こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
152話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 遠い過去
遠い過去、セフェス王国の王城。
「私が後宮に入ることで、王は本当に満足なさるのでしょうか?」
アメルダ――彼女が王と婚姻し、初めて“セフェス”の名を名乗った日。
彼女は、かつての侍女であったエレオノールの私室を訪れ、
深く頭を下げて静かに問いかけた。
エレオノールは、有力な家門に生まれた若く美しい後妃の言葉を受け止めながら、その奥に滲む不安と覚悟を、確かに感じ取っていた。
彼女はどこか皮肉めいた笑みを浮かべながら、楽しそうにしていた。
「まあ、なんて活発なお嬢さんなの!可愛くて仕方がないわ……本当に嬉しいわね」
「私はレノクス家の娘です。あなたとは、生まれながらに違います」
そのため、身の程を知って奥へ引き下がれというような言葉を向けられても、彼女は少しも気分を害した様子を見せなかった。
それができるなら、やってみなさい、ということだろうか。
いや、そもそも彼女はアメルダを競争相手として扱ってすらいないようにも見えた。
少しでも隙があれば「可愛いわね」と言って抱きしめようとするのが、その証拠だ。
たかが五歳ほど年上なだけの相手に。
エレオノールのこうした態度は、王の確かな寵愛を受けているという自信の表れだったのだろうか。
いずれにせよ、アメルダはそんなエレオノールを心から大切にしていた。
だからこそ、ついには彼女を殺してしまおうと決意するほどに。
アメルダは、眠り香が濃く漂う部屋で目を覚ました。
頭痛を和らげ、深い眠りにつけるようにと処方された薬だったはずだが、どうやら今は、その効果も薄れてしまっているらしい。
彼女はずきずきと痛む額を押さえたまま、深く息を吐いた。
呼吸をするだけで、胸の奥を棘が引き裂くように痛む。
――夢のせいだろうか。
『アメルダは本当に可愛いわ。ああ、私もこんな妹がいたらよかったのに』
『お誕生日おめでとう!あ、贈り物は私が使っていたものだから恥ずかしいけれど……それでも、アメルダによく似合いそうな宝石の装身具を選んだの。どうかしら?』
また、彼女の夢だ。
不思議なことに、アメルダの人生に影響を与えた人物は、決して少なくない。
厳格な父、彼によく似た兄、そして――少なくとも身をもって愛してくれた男性もいた。
それなのに。
こうして彼女の夢に、最も頻繁に、そして最もしつこく現れるのは、結局いつもエレオノールだった。
今では先王と呼ばれる夫の、最初の恋人であり、そして最後の恋人でもあった女性。
どれほど彼女を愛していたとしても、夫は後妻として迎え入れた若く美しいアメルダに、ほんのわずかな関心すら向けなかった。
ただレノクス家の体面に傷がつかない程度に、形式的に彼女の居所を訪れるだけで、二人の関係が深まることはなかった。
もちろん夫婦ではあったが、結局のところ、心の通った関係を持つことはなかったのだ。
だがそれは、彼が酒に深く酔ったある夜、アメルダがエレオノールの香水をまとったまま身を任せた時のことだった。
その夜、夫は何度もエレオノールの名を呼んだ。
不快に感じるほど、濃く深い愛情を帯びた声で。
自ら望んだこととはいえ、まるで地獄のようだったその夜が明けるとアメルダはすぐにエレオノールのもとを訪れた。
愛する夫の痕跡を、全身にまとったまま。
后妃を見て、彼女は何を思ったのだろうか。
いつものアメルダなら、「それを見せびらかして、あなた一人が夫の愛を独占しているつもり?」などと、皮肉のひとつも投げつけていたに違いない。
だが、なぜかその日だけは、ただ声を上げて泣いてしまった。
エレオノールは、長い時間アメルダを抱きしめていた。
そこに嘘はひとつもない、ただ純粋な温もりだけを込めて。
――だからこそ、王は彼女を愛したのだろうか。
その柔らかな胸の中で、アメルダは悟ってしまった。
自分がエレオノールを憎む、本当の理由を。
それは決して、彼女が手に入れられない種類の愛。
誰であろうと溶かされてしまう、その甘さが疎ましく、同時に、どうしようもなく妬ましかったのだ。
それ以降、アメルダはエレオノールの無垢な言葉を、よりいっそう恐れるようになった。
『王宮に、愛なんて必要ないわ。私の子が、次の王になるの。それだけで、あなたよりも私の方が尊い存在になるのだから――』
彼女はそう言って、自分自身に言い聞かせるように微笑んだ。
「まあ!素敵な考えね。アメルダの子なら、きっと可愛くて賢いでしょう?」
問題なのは、愚かなエレオノールが、その言葉が自分を傷つけるためのものだという事実を、まったく理解していなかった点だった。
救いようがないほど鈍感な女だった。
「女の子だといいわね。アメルダの娘なら、強くて美しい女王になる気がするもの。」
「……」
「可愛いアメルダが小さな女の子を抱いている姿を想像するだけで……!ああ、本当に!名前はどうする?何がいいかしら?ねえ、お願い、一緒に考えてくれない?」
ここまで来ると、もう適当に受け流して静かにしてほしいと思うほどだったが、エレオノールは本気だったようだ。
実際、しばらくしてから、彼女はわざわざアメルダのもとを訪ね、こんなことを言ったほどなのだから。
「長い間考えてみたのだけれど、やっぱり娘の名前は、ユジェニがいいですね。」
『……どうして、あなたは私の娘を“私たちの娘”と呼ぶの?』
『え?それは……だって、私たちの娘でしょう……?』
エレオノールは、自分とアメルダを交互に指さしながら、悪びれもせずに笑った。
言葉に詰まる。
『もういいわ。あなたが口出しすることじゃない。その子が生まれるとき、産室の席に座っているのは、私だけなんだから。』
『席なんて関係ないわ。私はただ、アメルダが子どもを産むその瞬間を、そばで見守りたいだけなの。……お姉さんとして。』
いつもは堂々と冗談めいたことを言ってのけるエレオノールも、このときばかりは頬を赤らめ、言葉を探していた。
それが「姉」や「妹」という呼び方を、ひどく真剣に口にした瞬間だったからだ。
どうやら、妹を欲していた気持ちは本心だったらしい。
そのくだらない欲望を、なぜ生まれつきのアメルダにぶつけるのかは分からないが、とにかくそういう話だった。
『本当よ、アメルダ。』
『……』
『アメルダが私の出自を恥じていることは分かっているわ。でも私は……アメルダが本当に大好きなの。ずっとそのことを伝えたかった。』
「この世で、偽りのない心より大切なものなんてないでしょう?」そう言って、彼女はまた愚かそうに笑った。
……真心。
睡眠香の中にいたアメルダは、はっとして体を起こした。
軽い貧血のせいでめまいがいっそう強まり、彼女は手にしていた物をつかみ、無意識のままどこかへ投げつけてしまった。
カチャン!
何かに当たったグラスが砕け散る音が響いた。
恐怖に息を詰めたままの侍女の、かすかな呼吸音も聞こえてくる。
……愚かな女。
本当に、哀れな女だった。――なぜ、あそこまで「真実の娘」を愛してしまったのか。
だからこそ……。
『だめよ、アメルダ。これ以上、嘘を重ねたら、不幸になるのはあなた自身よ。正直にお話しすれば、陛下はきっと受け入れてくださる。私も、あなたのそばで一緒にお願いするから。ね?』
真実を明かそうとする彼女を、殺す以外に道はなかった。
その選択を、後悔したことは一度もない。
そもそも、命を懸けるほど大切な相手ではなかったのだから。
何より――あのとき、そうしなければ死ぬことになったのは、アメルダと、彼女の子どもだった。
「……陛下。」
様子をうかがっていた侍女が、そっと彼女のもとへ歩み寄る。
「処刑が、陛下のご命令どおり整いました、と。市鐘が鳴る前にと仰せの、あの者たちです。」
「……分かりました。」
アメルダは、よろめきながら寝台から身を起こした。
侍女が慌てて支えようとするのを、彼女は手で制する。
――行かなければならない。すべてを終わらせるために。
彼女は、静かに息を整え、その目に、かすかな決意の光を宿して、歩き出した。
彼女は手を上げて、それを制した。
「一人でできます。」
侍女は急いで彼女の寝間着を脱がせ、湯を用意して戻ってきた。
別の侍女たちは、着替えと装身具を手早く運び込んでいる。
忙しなく伸びては離れる彼女たちの手に触れるたび、不眠と悪夢、そして頭痛に苛まれていた疲れ切った人間は、やがて“王室の赤い薔薇”と称される優雅な大王妃へと姿を変えていった。
最後に小さな宝石の飾りを身につけ、侍女たちをすべて下がらせる。
――これから彼女は、死刑囚を処刑する。
処刑人を介さず、自らその場に立つのは、ほんのわずかな疑いすら残したくなかったからだ。
いったい、どこから噂が漏れたのだろう?
バレンタイン王子には双子の妹がいる、という話。
彼女が双子を出産した事実を知る者はごくわずかで、そしてその大半は自らの手で処分した。
あの一件に関わりながら、命を奪われなかった者は、ただ一人。
――彼女の、幼い娘だけだった。
なぜ、あの子を生かしたのか。
『あの男』の頼みを聞き入れる条件として、そうしたから?
……いいえ、それだけではない。
『王の血は、双子を宿さない』
その事実は、一度に一人しか生まれなかったという現実が、アメルダの「不貞」を雄弁に物語っていた。
だからこそ、本来であれば、あの子もまた、死ぬべき存在だった。
たとえ、あの男がどれほど懇願しようとも。
――それなのに。
彼女は、あろうことか娘に「ユジェニ」などという、つつましく、平凡な名を与え、あの男とともに、宮廷の外へ追いやった。
アメルダの脳裏に浮かぶのは、どこかの町で、平民として暮らしているであろう少女――“ユジェニ”の姿。
自分の血を引く、高貴な娘が、粗末ではないが決して豪奢でもない服をまとい、少し固いだけのパンを手に、何も知らぬ顔で生きている。
そう思うと、胸の奥が、かすかにざわついた。
――哀れみ?
――それとも、後悔?
いいえ、違う。
それは、理解しがたい感情だった。
本来なら、存在してはならないはずの命が、今もどこかで、静かに息をしているという事実。
アメルダは、ゆっくりと目を閉じた。
――あの子は、王家の者ではない。
――ただの、平民の娘。
そう、何度も、自分に言い聞かせながら。
ともあれ、あの子は……くだらない争いに巻き込まれるようなことは起きなかった。
街の平民の多くがそうであるように、特筆すべきことのない人生を送り、やがて死んでいくのだろう。
アメルダは、どうかその子がそんな不幸のない生を全うできますようにと願った。
――もっとも、私の目に触れたら、殺すしかないのだけれど。
彼女は自分自身をよく理解していた。おそらく、ためらいもせずに手を下すだろう。
「私は……生きたいのだから。」
自らの腹を痛めて産んだ子を、直に殺すことになったとしても。
エレオノールが、なおも重要だと語った“真実”とは、結局のところ、生き残った者が都合よく語る物語にすぎなかった。
だからこそ、アメルダは最後の最後まで生き残るつもりだった。
永遠の名誉を授かるために。
すべての偽りを、“真実”として塗り替える、その時まで。