家族ごっこはもうやめます【１６４話】ネタバレ

「お嬢様！ご加護をお授けください！」

ナビアは自分に祝福を求めたり、病気を治してほしいと願う人々の叫びを聞いた。

『やっぱり、絵描きの仕事が一番いいわね。』

彼女は絵描きの特権を利用し、正門を基準に人々を左右に分けた。

まるで見えない壁が立ちはだかり、絨毯を囲む人々を後ろへ押し戻したようだった。

「え……？」

「うわっ！何だ、何だ？」

ナビアは群衆が一瞬で散らばった様子を見て、少し驚いたが、すぐに「もう十分だわ」という表情で再び車に乗り込もうとした。

しかし、ラルクは運転席から降りてきた。

クリードも同じように降りてきた。

ラルクは苛立ちを隠さない表情で、人々に向けて警告を発した。

「みんな、よく聞け。」

小さな声だったが、まるで耳元で直接話しかけられたかのようにはっきりと聞こえた。

その瞬間、人々はラルクの言葉が魔法によるものだと気づき、静まり返った。

周囲が一瞬で静寂に包まれると、ラルクがようやく口を開いた。

「俺の家の前で騒がしくするやつは、次回から全員敵として処理する。分かったか？」

……ざわざわとした小声が漏れ始めた。

「お父さん……」

ナビアは名分の重要性を十分理解しているにもかかわらず、ラルクが前時代的で乱暴なやり方をするのをどうにもできないことに困惑した。

ラルクを見て、ナビアは深いため息をついた。

『もう知らない。どうにでもなればいい。モニカが少し苦労しながら噂を抑えれば済むことだし、私はできる限りのことはやったわ。』

こうしてやっかいな人がいるのもすべてモニカの運命なのだと思い、特に気にせず流すことにした。

ナビアはいつの間にか、ラルクに振り回されることに慣れてしまった自分に気づいていた。

『そうよ。もうこうなったら一気に押し切っちゃいましょう。』

ナビアは再び力を使い、身長2メートルほどの騎士たちを作り出した。

その騎士たちは人々を押し返し、さらに後ろへ追いやった。

ラルクはその対処が非常に気に入ったのか、満足そうに微笑んだ。

「中に入ろう。」

これで家に着いたので、もう群衆を車で移動させる必要はないだろう。

ラルクは指をパチンと鳴らした。

パチッ！

すると、車は公爵邸の本館のすぐ前に移動した。

ラルクは庭園や建物を眺めながら簡単な感想を口にした。

「ふむ、結構変わったみたいだな。」

「内装はかなり変わりましたよ。」

ナビアは、ラルクがいない間に豪華に改装した邸宅の内部を見せたかった。

扉が開かれ、シャンデリアの光がきらびやかに反射する邸宅の内装が見えた。

黒い壁や床が過度に暗い印象を与えないように工夫された、華麗なインテリアは威厳がありながらも印象的だ。

ラルクはロビーに入ると、口を開いた。

「なんだよ、この家の中の雰囲気は？老人の趣味みたいだな。」

その言葉に、クリードも思わず口を閉ざしてしまった。

ラルクがどうしてそのように感じたのか、少しは理解できるような気がしたからだ。

そしてナビアは衝撃を受けた。

「……老人、ですか？」

邸宅の内装は、ミネルバを含む他の専門家の助けを借りて仕上げたが、ナビアの好みも少し反映されていた。

『私が、老人趣味だと……？』

そのとき、マーガレットがいつの間にか彼らのそばに歩み寄り、久しぶりに見る主君の横腹を軽く突ついた。

「まあまあ、お嬢様の趣味は高尚で上品ですから、ちょっと重厚感があるように感じるだけですよ、主君。」

久しぶりに再会できて喜ばしい気持ちではあったが、とにかくナビアがひどくショックを受けているようなので、この場を収めるのがよさそうだった。

「へえ、ナビアがやったのか？でも、一番若いのになんでこんな風になった？」

「主君……。」

「……。」

ナビアは「老人」という言葉が頭から離れず、呆然とした表情を浮かべていた。

マーガレットは話題を変えようとした。

「とにかく、お戻りになられてよかったです。少しの間に国でこれほど多くのことが起きるとは思いませんでした。」

ラルクは自分を出迎えるマーガレットを見て、口元をわずかに上げた。

『やはり、歳月の流れは誰にも等しく訪れるものだな。こうして年老いたマーガレットの姿を再び見ることになるとは。』

そして思えば、今やラルク自身の年齢も相当なものだ。

外見上はまだ若々しい印象を保ってはいたものの。

ラルクは感慨を込めて言った。

「おお、久しぶりに会ったら随分と年を取ったな、マーガレット。こんな風に年を取った姿を見るのも久しぶりだ。」

その言葉にマーガレットはいつものように落ち着いた微笑みで応えた。

「ふふ、そうですね。このような無礼も本当に久しぶりです。」

ラルクは彼女の穏やかな言葉に少し呆れるような笑みを浮かべた。

ラルクは他の誰かを探すように視線を素早く動かした。

「ソルレイだけは？」

「中でお待ちです。皆さんお腹が空いていませんか？ダイニングルームでお食事を始められたらいかがでしょうか？」

「食事」という言葉に、ラルクは肩をすくめて答えた。

「そうだな。ナビアはまだ何も食べていないんだから。」

『娘を気遣うのは立派だけど、その一方で言動を少し改めてもらえるとありがたいんだけど。』

マーガレットは困惑した笑顔を浮かべながら、一行をダイニングルームへ案内した。

その間、ナビアは自分が「年を取った」と言われたショックから抜け出せず、ふらふらと足元がおぼつかない様子で歩いていた。

彼女が大きく落ち込んでいるように見えたので、クリードが言った。

「僕は姉さんが飾った家が好きだよ。」

「……。」

『どういうこと？年寄り趣味ってこと？年寄りとは言わないけどさ？』

その言葉に少し救われた気持ちはしたものの、クリードの励ましがそのまま心に響くわけではなかった。

『確かに、私の装飾スタイルは新興貴族の嗜好とは違うかもしれないけど……。これまでアグニス家の生き残りを支えながら磨いてきた腕前が、まさか年寄り趣味だったなんて言われるなんて？』

大貴族の間では、ナビアが飾り付けたアグニス公爵邸のインテリアをそのまま真似るのが流行った時期もあった。

『結局それも、大貴族の趣向に合わせた流行だったんじゃないの。結局、自分の趣味は年寄り趣味だということなのか……。』

ナビアの表情が沈んでいたその時、ダイニングルームの扉が勢いよく開き、爆竹の音が響き渡った。

「お誕生日おめでとうございます、お嬢様！」

「お誕生日おめでとうございます、小公女様！」

ダイニングルームでナビアを待っていたエセルレッド家の家臣たちが、一斉に祝福の言葉を口にした。

ナビアはぼんやりとしていたが、突然の出来事に驚いた表情で視線を上げた。

『もう4月26日になったの？』

慌ただしい4月を過ごしているうちに、誕生日のことをすっかり忘れてしまっていた。

最近あまりにも忙しくて、自分でも忘れていた誕生日を、みんなが覚えていてこうして祝ってくれたのだ。

おそらくナビアの指示に従ってみんなが動いてくれたのだろう。

そう思うと、胸がじんわりと温かくなった。

『ついに帰ってきたんだ』

これで大変だったことは全て終わったという実感が、じわじわと心に満ちてきた。

本当に色々なことがあり、気づかないうちに随分と疲れが溜まっていたようだ。

それで家に戻ってきて、ようやく気持ちがすっと軽くなった。

やはり、自分の居場所はここ、エセルレッド公爵邸なのだと感じた。

ナビアは穏やかな表情でほほ笑みを浮かべ、静かに言った。

「みんな、ありがとう。」

ダイニングルームは一瞬にしてざわついた。

シュレーマンは涙をいっぱい浮かべた顔でラルクに駆け寄り、彼をぎゅっと抱きしめた。

「戻られたんですね、公爵！お会いしたかったです！」

ラルクはすぐさま挨拶をかわしながら、少し驚いた様子で言った。

「なんでそんなに大げさなんだ？壊れちゃうよ？」

「本当に何一つ変わらずそのままなんですね……！」

そのそっけない反応に、シュレーマンはさらに感動した様子だった。

ナビアは侍女たちの勢いに圧倒されながら、上座に座った。

「さあ、早く座ってください！ろうそくも吹き消さなきゃいけないし、ケーキも切らなきゃいけないし、プレゼント開封式もやらなきゃいけませんよ！」

予定が詰まっているかのように、彼女の前に巨大なケーキが運ばれてきた。

生クリームの上にはチョコレートで「素晴らしい人生を祝して」と大げさな文字が書かれていた。

筆跡を見れば、それがラルクのものであることが分かる。

『一体いつこんなことを準備したの？』

ナビアは大笑いした後、急いでキャンドルの火が消えないうちに目を閉じて願い事をしなければならなかった。

さっきまで、自分の趣味が「年配の趣味」だという驚愕の事実に動揺していた彼女だったが、すぐに気を取り直し、楽しげな雰囲気に引き込まれていった。

素早く願い事を済ませた彼女は、キャンドルの火を吹き消し、ケーキを切り分けた。

その後も次々と運ばれてくる料理をラルクが全部食べ尽くそうとするのを止めるのに苦労した。