こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

97話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 贈る花⑧
三人は侯爵家を後にし、それぞれの務めへと戻っていった。
ノアはまず首都院へ戻ると言った。
急いで調合しなければならない薬があるのだという。
ヴァレンタインは、せっかく得た自由をしばらく満喫しようと、第二城壁を少し見て回ってから戻るつもりらしい。
そしてクラリスは馬車に乗り、公爵夫人のもとへ戻ることにした。
「では、また後で会いましょう。」
そう言って別れようとした時、
「ノア。」
クラリスは彼女を呼び止め、去ろうとするノアに問いかけた。
「ねえ、最後に夫人が何か……おっしゃっていた?」
彼女はどうやら、かすかな声で交わされた会話を聞き取ることができなかったようだった。
ノアは微笑んだ。
「たいしたことではありませんよ。夫人が私たちを許してくださったというだけです。」
「そうなの?」
「そうです。何も気にしないでください。」
彼はクラリスの頭を軽くトントンと撫でた。
「公爵ご夫妻によろしくお伝えください。」
「うん、ノアが一緒なら喜ばれると思うんだけど……。」
「分かっています。でも第三城壁が私を通してくれない以上、仕方がないでしょう?」
もしノアがローブを脱げば、単なる「公爵の客」として一日くらいは身分を偽り、クラリスとともに第三城壁に入ることもできるかもしれない。
しかし、どこへ行ってもローブを着るべしという魔法師団の規則があるため、彼はそのような便宜を図ることはしなかった。
「良い週末を過ごしてください。」
彼がそう言って別れの挨拶をすると、クラリスも明るく微笑み、馬車に乗り込んだ。
ノアは彼女の乗った馬車が見えなくなるまでじっと見送った。
そして同時に考えていた。
侯爵夫人の最後の質問を。
「どんな状況でも、クラリスを心から祝福できますか?」
それはとても簡単な質問だったので、ノアは当然ながらうなずこうとした。
彼女の最も親しい友人として、どんなクラリスであっても祝福する自信があった。
「あなた以外の誰かと特別な関係になったとしても、です。」
しかし、夫人が添えたこの一文を聞いた瞬間、ノアの頭の中が一瞬真っ白になった。
今まで、そんな方向で考えたことはなかった。
クラリスがノアではない誰かと特別な関係――つまり恋人になるということ?
いや、友人であるノアとはそうなるはずがないが、いつかは当然そうなるのだろうが……。
奇妙だった。
口の中に何かが詰まったような、落ち着かない気分だった。
この感情は次々と押し寄せ、彼は結局何の答えも出せないまま応接室を出ることになった。
ただ幸いなことに、夫人はこの質問に対する明確な答えをすぐに求めているわけではないようだった。
もしかすると、彼女はこのような問題を一人でじっくり考える機会を与えたかったのかもしれない。
そして、この問いには明確な意図が……込められていた。
『もしかして夫人は、私が彼女に過剰に依存していることを問題視しているのか?』
幼い頃から、彼はクラリスを通じて世界と関わってきた。
しかし、今や彼らは子供ではなく、それぞれの立場で自立していく必要があった。
結婚……特別な誰かを見つけること。
『あ……』
ノアはまたも心臓がざわつくのを感じた。
この痛みの正体は、ただの唯一の友人を失うことへの寂しさなのか。
それとも……。
『自分と彼女が違う存在であることが、こんなにも突き刺さるとは。』
特別な誰かができるという奇跡は、クラリスやバレンタインのように普通の外見を持って生まれた人間だけが享受できるものだ。
ノアのような異端者が、そんなものを求めていいはずがない。
激しい個体は、生態系の中で静かに消えていくものなのだから。
ノアはしばらく仮面を指でなぞった。
それだけが今の彼にとって唯一変わらぬものだった。
だが、それがなぜか新しく息苦しく感じられるのは……。
『どんなことがあっても祝福しないと。』
彼は自分にそう言い聞かせた。
クラリスの人生に特別な誰かが加わることは、喜ばしいことのはずだった。
そうでなくても、彼女は人と関わるのが好きで、ときに寂しさを抱えることもあったのだから。
『できれば、優しくて立派な青年ならいいのに。』
彼は、クラリスにふさわしい理想の相手を想像してみた。
お金もたくさん持っていればいいし、それを惜しまずクラリスのために使ってくれる人ならもっといい。
クラリスはその身分上、自分でお金を稼ぐ機会を得ることはできないのだから。
そんなことで不自由を感じないように、余裕のある行動ができる相手であればなおさら良かった。
さらに少し欲を出すなら、学識のある人が望ましい。
クラリスは幼い頃から勉学に励んでいたのだから、ある程度会話が成り立つ相手でなければならないはずだ。
運動も継続的にしている人がいい。
もしその男が病気になれば、クラリスが涙を流して悲しむのは目に見えていたから。
クラリスが泣く姿は、どんな状況でも見たくなかった。
泣いても可愛らしいが、やはりクラリスは元気いっぱいに笑っているのが一番だった。
そして、さらに……。
これからノアは、クラリスにふさわしい男性の外見だけでなく、内面に至るまで慎重に考えなければならなかった。
もちろん、どんな条件をつけても完全に満足することはないのだが。
「……うーん。」
その考えをまとめようとした矢先、胸の奥から得体の知れないむずがゆさがこみ上げてきた。
最近は、以前にも増してこの症状がひどくなっており、ノアは一旦その場にしゃがみ込み、薬草の束を探った。
今にも痛みに倒れそうだったので、とりあえず生の薬草を一枚ちぎって噛み締めるしかなかった。
『まさか、変な病気にでもかかっているんじゃないだろうな?』
そんな疑念を抱きながら、彼は大きな薬草の束をじっと見つめ、必要なものを探していた。
そのとき、誰かが彼のそばを足早に通り過ぎた。
急いで駆け抜けていくその人物は、しゃがみ込んだノアをちらりと見たようだった。
ノアは驚いて、思わず顎を上げた。
そわそわと歩いていた足も、思わず止まり、彼は振り返った。
目が合った。
「……!」
ノアは驚いて身を起こした。
相手は一見すると普通の使用人の服を着ていたが、明らかに魔法使いだ。
決して見間違うことはなかった。
クラリスが魔法使いの城を訪れたとき、彼女を案内していたあの灰色のローブの男だったのだから。
驚いたのは相手も同じだったようだ。
規律を破ってローブを脱ぎ、王都を歩き回っているのだから、それも当然のことだったが。
しかし、男の唇が動いたかと思うと、何か言おうとするのをやめたように見えた。
そして、突然体を翻し、慌ただしく走り去ろうとした。
「手紙……を持っていたのに。」
ノアは彼が去った場所をぼんやりと見つめながら、手元の薬草をじっと見つめた。
そして、ひとつを口の中に押し込み、噛みしめた。
最高級の薬草を買ったおかげか、胸の奥で騒いでいた鼓動が少しずつ落ち着いていくのを感じた。








