こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

178話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カミーラ②
もぐもぐ!
女はまるで飢えた人のようにパンを口いっぱいに頬張った。
彼女は明らかに由緒ある名家の令嬢であるはずなのに、作法はひとかけらもなかった。
気品ってものを知っているのか?
見た目だけ上品で、振る舞いはただの裏通りの食いしん坊そのものだった。
ラルクは何かに気を取られていた自分を奮い立たせるように、その動揺を見せずにいた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
女はひどく喉が渇いていたのか、胸を上下させながら切なげな目で彼を見上げた。
視線で訴えてきた。
「水、ちょうだい。」と。
ラルクは少し苛立ちを感じたものの、結局はため息をつきながら素直に水を出した。
パチン。
彼が指を鳴らすと、女の前に水の入ったコップが現れた。
女は魔法には驚く暇もなく、すぐにコップを手に取って飲み干した。
「はあ〜。助かった〜。」
女はパンを食べながら、死にかけたかのように咳き込んでむせた。
ラルクは耳をふさぎたくなった。
女はパンをかじりながらも視線をちらちらと動かし、ラルクを観察した。
『私と年が近いかも。』
乱れた黒髪の隙間から無表情に覗く赤い瞳が、空中を見つめるその姿は妙に魅惑的だった。
ちょうど朝日が昇って日差しがラルクに淡く射し込んできた。
光とは交じり合えない闇のように見えていた彼が、どこか花のように優しく見える瞬間だった。
しばらく見つめているうちに、思わず引き込まれそうな気がした。
『なんか……イケメンじゃん。』
カミーラはその男――ラルクが家主なのか何者なのか見極めようと、好奇心を隠しきれずに彼をじっと見つめていた。
内心では感嘆を禁じ得なかった。
今まで自分の弟が一番ハンサムだと思っていたけれど、この男は違っていた。
何より、その表情からは感情が読み取れず、若さに似合わない威厳が漂っていた。
普通の人ならラルクを見て恐怖を感じただろうが、カミーラはむしろ興味津々だった。
男は悪人には見えず、むしろ孤独で寂しげだった。
空っぽの瞳は、まるで「これ以上失うものなどない」とでも言いたげな印象を与えていた。
『なんか、気になるじゃない。』
そう思いながら、カミーラは手に持っていたパンを飲み込み、ずっと気になっていた質問をぶつけようとした。
「魔法使いなんですか?」
水も魔力も、男は明らかに魔法使いだった。
じゃなければ、どうやって指を一振りするだけで水の入ったグラスを出現させられるというのか?
『そうなると、この男は召喚士なのかな?』
カミーラは疑念を抱いた。
実は、彼女がこの男を幽霊だと勘違いした理由があったのだ。
『もし生きてる人間だったら、私が仕掛けた防御魔法に反応してたはず。』
しかし、彼女が振り返るまでの間、緻密に張り巡らせた防御魔法はまったく反応しなかった。
ということは、この相手は人間ではないということでは?
『それに、カフェの魔法も効かなかったし。』
カミーラは乾いた唾を飲み込んだ。
『……もしこの人が幽霊だったらどうしよう?』
いくら見た目がよくても、幽霊はやっぱり厄介だ。
そもそもどうやって相手にすればいいのかもわからない。
ラルクは無言でテーブルに肘をつき、カミーラにぐっと顔を近づけた。
カミーラは思わず身を引きそうになったが、結局は逃げずに視線を合わせた。
「君の目には、僕が何に見える?」
「……。」
(魔法使いかどうか聞いただけなのに、なんだこの意味深な質問は?)とカミーラは内心でツッコミながらも、目の前の相手が人間か幽霊かはともかく、やはり普通じゃないと確信した。
それでも、とりあえずは返事をした。
「……イケメン?」
それが、カミーラがラルクについて知っている最も確かな情報だった。
「はあ。」
ラルクはその反応を聞いた途端、呆れたような表情を浮かべた。
カミーラは唇を尖らせつつも、さらに男を注意深く観察した。
男はハンサムで、若く、服装も……どこか艶っぽかった。
『静かな夜中に、3階で出会ったイケメンって……え?』
カミーラは目を大きく見開いた。
「えっ、あなたって、エセルレッド家の人?」
信じられないといった調子で、ラルクの眉間にまたしわが寄った。
「完全なバカじゃないんだな。」
カミーラは口をぽかんと開けてラルクを見つめた。
『この人がエセルレッドの後継者だなんて。めちゃくちゃ若くてイケメンじゃない! でもなんで外に出ないんだろう?』
カミーラはふと相手の年齢が気になり、自分の年齢を先に話して探りを入れることにした。
「私はもう二十歳なんですけど、公爵様はおいくつですか?」
ラルクは穏やかに答えた。
「二十歳。」
本当は死ぬことも老いることもない不死の存在であるラルクが「二十歳」と名乗るのは、どこか無理があった。
カミーラは彼の年齢を聞いてさらに驚き、こう言った。
「二十歳なんですか? 私より若いじゃない!“お兄ちゃん”って呼んでもいいくらいだわ。」
…頭のおかしい女か?
ラルクは呆れるどころか、あまりに突拍子もなくて言葉も出なかった。
そんな彼の表情を見たカミーラは、ふっと笑った。
「冗談よ、冗談。」
「話にならない。」
その冷ややかな突き放しに、カミーラはおどけたようにクスクスと笑った。
涙がうっすら浮かぶほど笑いながら、彼女の明るい笑顔がラルクの視線を引きつけた。
ラルクにとって、銀髪の人物が自分にこれほど明るく笑いかけるのを見るのは初めてだった。
軽くふざけたり、親しげに接したりするのも、すべて初めてだった。
それは実のところ、ただの言い訳だった。
今までずっと意図的に銀髪を避けてきたのだ。
何度も髪を抜いては苦しみ続け、最終的には自殺してしまった母親の姿が頭をよぎり、不快だったからだ。
一方、カミーラは表面的には明るく見せていた。
まるで愛されて育ったかのように振る舞っていたが、ラルクの目にはその演技は見抜けた。
彼女の奥底には深く沈んだ暗闇があり、そんな彼女が明るいふりをしているのが逆に際立っていた。
むしろ、彼女は死にたがっているようにも見えた。
『この女、確かこのあたりで死んだって話を聞いたような……』
となると、死ぬ前にこの家を盗みに入ったのか?
そんな筋の通らなさにラルクはさらに困惑する。
カミーラは腹いっぱい食べ終え、いつの間にか完全に明るくなった空を眺めていた。
口元の穏やかな微笑みが、今にも壊れそうなほどに見えた。
それが辛かった。
『物乞いが銀髪なんて……』
ラルクはテーブルの下に置いていた手をぎゅっと握った。
彼女が無表情な理由は、すでに深く染みついているものだった。
人生に未練がないからだ。
いつか死ぬという事実を、まるで雨が降るように当然のこととして受け入れ、無感動に生きているのだ。
辛かった。
そんなふうに生きることが、そしてそんなふうに生きる女性が銀髪だなんて、あまりにもやるせなかった。
侵入者が誰であるかも確認せずに、あんな風に適当に扱ってしまうべきだったのに。
ラルクは彼女の虚ろな瞳に、自分の母を見た。
そして自分自身も見た。
人生に何の未練もないその瞳が、耐え難く、ぞっとした。
『一体お前が何者で、なぜそんな目をするんだ!』
ラルクは心の中で怒りに似た感情を募らせていた。
いや、これは嫉妬か?自分でもわからなかった。
『お前は死ねるじゃないか。』
毎回あの時期に死ぬが、自分とは違って覚えていないくせに。
二度とそんな目をするな。絶対に俺の前でそんな目で笑うな!
「公爵様。」
カミーラは突然柔らかな声で呼びかけながら、何かを取り出して差し出した。
それは使い古された硬貨だった。
「少額ですが、私の持っているのはこれしかなくて……もらってくれませんか?」
この銅貨は、明らかに彼女の全財産だった。
カミーラは、付け足すように言った。
「ご飯代です。」
彼女はにっこりと笑った。
「あなたに会えて幸運でした。」
その言葉の前には、ある言葉が思い浮かんだ。
「最後に。」
ラルクは聞いていなかったが、それが事実だとわかった。
最後に自分に会えたことが幸運だったというのか?
「どこへ行こうとしてるんだ?」
そんな質問をされるとは思わなかったのか、カミーラは少し驚いた目でラルクを見つめ、答えた。
「特に決めた場所はないんです。」
カミーラは幼いころから酷く虐げられてきた。
それでも表面上は平静を装っていたが、内心は限界寸前だった。
自分の寿命がもう残りわずかであることも、何となく悟っていた。
さらに、彼女は自分が生き残ることを決して許されない存在であることも理解していた。
ブラディナの元老たちは、裏切り者を消すためにわざわざ開発した「処刑呪文」を持ち出してまで、徹底的に証拠隠滅を図るほどだった。
追跡弾は文字通り、殺人のために作られたものだった。
弾丸は追跡していた目標物を発見すると、即座に爆発した。
これまではその追跡弾をうまく避けてきたが、それもそろそろ限界だった。
カミーラは未練なく命を終える覚悟を決めた。
そんな時、偶然入ったエセルレッドでラルクと出会った。
『死ぬ前にイケメンに助けてもらえるなんて、悪くないわね。』
「では、私はこれで。」
カミーラは心から感謝の気持ちを込めて挨拶し、立ち去ろうとした。
パッ!
ラルクは自分でも気づかないうちに、彼女を引き止めた。
「公爵様?」
ラルクは疑わしげな視線を向けながらも、その手を放さなかった。
自分でも理由がわからず混乱していた。
『なぜこの女を引き留めた?』
彼は自問した。
外で孤独に死んでいく彼女の姿がどうしても引っかかり、無意識に手を伸ばしていたのだろうか?
『それがなぜ気になる?』
ラルクは心の中でさらに問いかけた。
『遅まきながらも同情心を持ちたかったのか?』
自分でも呆れるような思考だった。
静かに眉をひそめたラルクは、死んだように生きてきた自分を探し出し、この家の扉を叩いたこの女を、そのまま見捨てることはできなかった。
「勝手に、私の家に入り込んで、物を置いてそのまま行ったって?」
彼は軽く女性を非難した。君に罪があるなら、私は裁きを下すということだ。
カミーラは涼しげな表情を浮かべた。
「……そうですね。どんな罰でも甘んじて受けます。」
銀色のまつげが下にひらりと落ちるように半ば伏せられた。
穏やかに差し出されたその姿がラルクの胸を締めつけた。
無意識に彼女をつかんだ手に力が入った。
「………」
カミーラは慌てて唇をぎゅっと閉じ、唾を飲み込んだ。
しかし、わずかに顔を歪めるほどの痛みをこらえることはできなかった。
ラルクは火傷した人のようにその手を放した。
彼は自分に向けられた不思議そうな視線にハッとした。
しかし手は離さなかった。
混乱していた。
『なぜ自分はこの女を引き留めたんだ?』
このまま行かせてはいけない気がした。
この女が外で誰にも知られず寂しく死んでいくのが気に障った。
それで掴んだのだろうか?
『それがなぜ気に障るんだ?』
ラルクは自分を嘲笑った。
『今さら同情でも持った人間のふりをしたかったのか?』
本当に、嫌になるほどだ。
ラルクの眉間がゆっくりと狭まった。
静かに、死のようにいたかった自分の元へ来て波紋を起こしたこの女を、そのまま帰すことはできなかった。
やってしまった。
「………」
「………」
謝罪はなかった。
ただ沈黙だけが気まずい空気を埋めるだけ。
ラルクはこういう時、どうすればいいのか分からなかった。
関係を繋ぎ、築き、磨くという行為を忘れて久しかった。
彼は珍しく、自分が愚かに思えた。
「手を出せ。」
謝罪はしなかったが、薬はあげることができた。
だから手のひらを差し出してカミーラに手を出すよう言った。
カミーラは無表情で彼を睨むように見つめたが、素直に手を差し出した。
そして心の中で思った。
『慎ましい人なんだな。』
それがこの状況に合った考えかは分からないが、少しかわいらしく思えた。
やはり二十歳か?
カミーラは自分より一歳年下のラルクを弟のように感じ、心の中で微笑んだ。







