こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

184話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カミーラ⑧
結論から言えば、ラルクは呆然としていた。
それでもラルクが具合の悪い姿を見せたのはこの人生で初めてだったので、皆が彼の寝室にわっと集まってきた。
彼らはラルクを無理やりベッドに押し込んだ。
ラルクは懇願した。
「お願いだから、出てってくれ。」
誰も彼の言うことを聞かなかった。
「やっぱり普段から粗末に食べてるのが問題だったんですよ!」
あんなに大きく育っておいて、似合わない偏食だなんて!
カミーラはそう言って呆れながらも、台所へとドタバタ下りていった。
「食べない。食べないってば!もともと食べなくても平気なんだ!」
ラルクは苛立った様子で奥歯をぎゅっと噛み締めた。
そして険しい表情のまま侍女たちに命じた。
「今すぐ出ていけ。」
彼の普段と変わらない冷静な口調に、侍女たちは安心したようにすぐに部屋を出て行った。
最後に、マーガリットが寝室の扉を閉める前にラルクに声をかけた。
「カミーラ嬢と親しそうにしていらっしゃるのが微笑ましいですわ、旦那様。」
ラルクはそれが本心なのか皮肉なのか、冷たい表情のまま短く言い放った。
「失せろ。」
「かしこまりました。」
マーガリットはわざと語尾を引き延ばしながらドアを閉めた。
ラルクは内心ぐつぐつと煮えたぎっていたが、ベッドにじっとしていた。
「はあ、バレたか?」
自分がカミーラに親しく接していることが、そこまであからさまに見えるってこと?
……本当にプライドが傷ついた。
その日以降、彼らにはまた新しい変化が訪れた。
カミーラはラルクをほとんどガラス人形のように扱うようになり、ラルクはカミーラの存在をさらに意識するようになった。
カミーラは執務室へ向かうラルクの後をとことこと付いて行きながら、そわそわと声をかけた。
「私が背負ってあげようか?」
「頼むからくだらないこと言うのはやめろ。」
「じゃあ、おんぶじゃなくて肩貸してもいいよ!」
「そこを――!」
ラルクの言葉は最後まで続かなかった。
カミーラが「肩を貸す」と言いながら彼の腕を広げ、自分の顔をぴたりと押し付けたのだ。
彼女はしっかりとした表情でラルクを見上げた。
「私に頼って。」
本当に呆れるほどのお人好しだった。
ラルクはその場で立ち止まり、カミーラを降ろそうとしたが、すぐに思い直した。
彼は一瞬のうちにカミーラの背に腕を回し、彼女の足を持ち上げてひょいと抱き上げた。
「うわっ!」
びっくりしたカミーラが彼の首に凍った腕を巻きつけた。
「な、なに?驚いたじゃない!」
彼は口元の片側だけを上げて前に歩き出した。
まるで重さを感じない人のように落ち着いていた。
カミーラは彼の安定した力強さに笑みをこぼした。
「ラルクって、バカみたい。」
「本物のバカにそんなこと言われたくない。」
「なに?私がなんで本物のバカなのよ?」
ラルクは答えずに書斎のドアを開けた。
「きゃっ!」
突然の大きな音にカミーラは思わず叫び声を上げ、ラルクをさらにぎゅっと抱きしめた。
ラルクは魔法を使えば片手で十分に押して普通にドアを開けられるのに、あえて荒っぽい方法を選んだのだ。
カミーラが驚きやすい性格だと知っていたので、わざとやったのだ。
カミーラはドキドキする胸元を押さえながら深呼吸し、険しい顔をした。
そして無言で拳を握りしめ、ラルクの胸をパンチした。
ポコ!ポコ!
「あなた、わざとやったでしょ!」
「違うけど。」
「この浮気者!」
「違うって。」
ある意味ではそうだし、浮気とも言えるかもしれない。
カミーラは壁のようにびくともしなかったラルクを叩くのをやめた。
彼が痛がっているのは自分自身だと気づいたからだ。
それはまるで意味のない行動のようだった。
「降ろして。行かなきゃ。」
その言葉にラルクは眉間にしわを寄せた。
「どこへ?」
「仕事。」
ラルクはただこのままカミーラを抱いていたかった。
だが、彼女の行動を止める理由はなかった。
ラルクは渋々カミーラを降ろした。
カミーラはニヤリと笑ってラルクの両頬をつまんだ。
「いっぱい稼いでお姉さんが美味しいもの買ってあげるからね、ラルク。」
ラルクはぷっと吹き出した。
「お姉さんって何だよ。」
「私、あなたより1歳年上なんだから!」
「お、お前……」
ラルクは、自分がどれだけ長く生きているか反論しようとしてやめた。
その代わりにカミーラの額を軽くコツンと叩いた。
「ふざけるのはやめて。で、いつ来るんだ?」
「今日は4時。」
ラルクがぼそっと答えた。
「……早く来て。」
カミーラはまさかそんな言葉を聞けるとは思っていなかった表情で目を丸くしたが、すぐに明るく笑った。
「うん、すぐ行くね!走って行く!」
ラルクは返事もせずに急いで方向を変えて机に向かってスタスタ歩いていった。
耳まで真っ赤になっていた。
カミーラはドアへ向かって一歩ずつ動くたびに振り返った。
「本当にすぐ戻ってくるからね!」
さらに一歩進んで、また振り返った。
「本当に本当に急いで戻ってくるから!」
「……もう行け。」
カミーラは嬉しさを隠しきれない表情だった。
ラルクは「早く戻ってくる!」という声があまりにも嬉しすぎて、どうしたらいいか分からないほど顔がくしゃくしゃになっていた。
嬉しさでパンパンに膨らんだ頬が、もし刺したら果汁でも出てきそうだった。
カミーラはドアを閉める瞬間までウキウキしていた。
「4時前に戻るね!」
「早く行け!」
結局、恥ずかしさで首まで真っ赤になったラルクは思わず叫んでしまった。
カミーラはクスクス笑いながらドアを閉めた。
「えへへ。」
ラルクがこんなに自分を頼ってくれるなんて。早く行ってこなきゃ。
カミーラは軽やかな足取りでぱたぱたと廊下を駆けていったがピタリと立ち止まった。
初めて見る男と目が合ったからだ。
男は黒髪を短く切り揃えた、鋭い目つきの青年だった。
『誰……?』
階段を上っていた男もカミーラを見ると、眉をピクリと上げた。
その視線は一瞬でカミーラの全身を舐め回すように見つめた。
「なんだ、お前は?」
彼はテオルバンだった。
テオルバンはカミーラの質素な服装を見て、すぐさま彼女を庶民だと見下した。
貴族の令嬢がこんな場所にいるはずがないと思ったのだ。
『それにしても、あんなに反応してるなら、よっぽど気に入ったってことか。』
そんな外見の貴族であれば、社交界でも本物だろう――。
そんな噂が立っていた。
「何やってるメイドが3階にいるんだ?ああ。」
テオルバンは何か知っているような顔で皮肉っぽく笑った。
「ラルクがメイドを雇うとは思わなかったよ。」
カミーラは呆れた声を次々と出すのに忙しく、テオルバンをじっと見つめていた。
『うわあ、こんなに典型的な貴族の男は久しぶりに見るわ。』
そんなことをぼんやり考えていた。
テオルバンはカミーラを見ながら唇を舐めた。
『ダイアナ・ルチア、この子もエステル・アイルと同じくらい美しいな。』
その素晴らしい美女たちは、皇帝のものになる予定だった。
だが、それ以上に、さらに希少で美しい美女が目の前に現れたのだった。
『銀髪……いいね、気に入った。』
彼女はまるで氷のように清らかな銀髪の持ち主だった。
テオルバンにとっても、こんなに美しい銀髪を見たのは生まれて初めてだった。
彼はにやけた笑みを浮かべながら、カミーラに近づいた。
「俺はテオルバン・アルビン伯爵だ。エセルレッド家の家長代理でもある。つまり実質的なエセルレッド公爵ってことさ。」
カミーラはようやく男の正体を理解した。
「あっ!あなたがあの、寄生虫?」
「……なんだって?」
「おっと。」
カミーラはあきれた表情を見せた。
『「寄生虫」って、陰でテオルバンを指す隠語じゃなかったっけ!』
面と向かって「寄生虫」と言われたテオルバンの顔は真っ赤から青ざめるまで変わった。
カミーラは本当に申し訳なさそうな顔で謝った。
「寄生虫は取り消すよ。」
「お、お前-!」
「じゃあこれで!」
カミーラはテオルバンを通り過ぎて階段を下りようとした。
「このふてぶてしい女め!」
テオルバンはあからさまに無視されたという侮辱感に震えながら、カミーラを掴もうとした。
いや、掴みかけた。
パシッ!
カミーラは伸ばしてきた腕をひねってそのまま押さえ込んだ。
「うわっ!」
テオルバンは一瞬でバランスを崩して前につんのめった。
カミーラは彼の背中を押し、腕を後ろにねじり上げた。
完璧な護身術だった。
彼女は暗殺を専門としていた魔法使いだった。
そのため、魔法しか使えない一般的な魔法使いとは違い、格闘術も習得していた。
暗殺を行うには、卓越した身体能力が必要だった。
「うぎゃっ!これ、離さないの?」
「うっかり、クセでやっちゃった。」
カミーラは冷たい表情をしていたが、ふいに驚いたように彼を放した。
テオルバンは腕を押さえながら後ずさった。
ただの顔がきれいな召使いかと思っていたが、それ以上の何かがあるようだ。
カミーラは身をかわして階段の手すりをつかみ、数段下りたテオルバンに尋ねた。
「大丈夫ですか?」
テオルバンには彼女の態度が皮肉にしか感じられなかった。
そのとき複数の足音が聞こえてきた。
テオルバンが連れてきた兵士たちが騒ぎを感じて駆けつけたのだった。
「閣下!ご無事ですか?」
「何事ですか!」
だが、それで終わりではなかった。
「主君の許可もなく、どこへ侵入しているのか!」
老練なシュレマンがスリッパのような靴音を響かせて、風に乗って彼らの前に立ちはだかった。
階段の上で両者が対峙する構図となった。
テオルバンはカミーラを指差し、騎士たちに命じた。
「その召使いをすぐに捕らえろ!」
「はっ!」
シュレマンが魔力を呼び起こした。
「これ以上近づけば、命の保証はできないぞ。」
「………」
騎士たちがたじろぐと、テオルバンが鋭く叫んだ。
「ジェネガー伯爵!あの召使いが私に無礼を働きましたが、どうお考えですか?これは明らかに私への侮辱ではありませんか!」
「このお嬢さんは主君の客人だ、アルビン伯爵。」
「はあ、つまり私はラルクの愛人風情にもひざまずかなきゃならないということですか!」
カミーラは慌てた。
『いや、愛人じゃないのに!』
でも説明するすべもなかった。
カミーラは急に暑さを感じて額の汗を手でぬぐった。
とはいえ、シュレマンがどんなにすごい魔法使いでも、テオルバンが連れてきた騎士は5人。
中には魔法使いもいた。
この全員が一斉にかかってきたら、防ぎきれるはずがなかった。
カミーラは無意識にシュレマンの魔法を真似てみた。
万が一のときは自分も戦うつもりだった。
そのとき、下の階からマーガリットが従者たちを連れて現れた。
「主君がいらっしゃる場所で騒ぎを起こすとは、正気か?」
目の前に堂々とした魔法使いが立っているのを見て、テオルバンを含む騎士たちは圧倒された。
「この女が私の体に手を出しました!平民が貴族に手を出すとどうなるか、おわかりでしょう?」
「……」
その言葉にはマーガリットもシュレマンも返す言葉がなかった。
彼らもカミーラが平民ではないと考えていた。
しかし本人が自ら身分を証明できない以上、それを示す方法はなかった。
平民が貴族に危害を加えれば、身体の一部を切り落とされるのが当然だった。
テオルバンは騎士たちに命じた。
「平民が私を冒涜したことを裁判にかける代わりに、寛大に扱ってやるべきだな。」
その言葉とともにテオルバンが騎士たちに言い放った。
「彼女を連れてこい。」
そのときだった。
「彼女?」
低く響く声とともに、新たな影が現れた。
それはすぐにテオルバンの主導権を奪った。
バシッ!
「ぐはっ!」
「閣下!」
騎士たちは血の気が引いた顔で倒れたテオルバンに駆け寄った。
テオルバンは目の前がチカチカするのを感じながら、どこの馬の骨が自分に手を出したのか確認しようと首を勢いよく持ち上げた。
「……ラ、ルク。」
殺気を帯びた目で見下ろしていたのは、ラルクだった。
テオルバンは肩をすくめた。
「俺の客に対して“あの女”とはな。言葉に気をつけろよ、口ごと引き裂かれる前にな。」
テオルバンは屈辱を味わった思いで顔が赤くなった。
「お、お前、どうして私にこんなことを!家門のためにこれほど尽くす兄を捨てて、たかが平民の女一人に命を懸けるのか?」
ラルクは面倒くさそうな顔をすると、そのままテオルバンの首をがっしりと掴み上げた。
「ぐわっ!見ろ、見ろ!これは何だ!」
「お前がうざい。だからもう死ね。」
彼は本気でテオルバンの首を絞めようとしていた。
「だめ!」
そのとき、カミーラがラルクの腰に抱きついた。
「ラルク、やめて。家族じゃない……」
カミーラの必死な言葉に、ラルクは少しだけ落ち着いた。
「こんな家畜以下のやつが俺の家族なわけないだろ。」
「やめて。私のせいでそんなふうにしないで、お願い……」
カミーラは訴えるように、しがみつくようにラルクを強く抱きしめた。
ラルクは何かさらに怒りが湧いてくるような表情を浮かべた。
「ぐっ!く、苦しい……!」
「……チッ。」
しかし、彼女の願いどおり、テオルバンを素直に放してやった。
いや、投げ飛ばしたのだった。
「コホッ!コホッ!」
「おい!」
ラルクはしゃがみ込んで苦しむテオルバンには目もくれず、カミーラの手を取った。
彼女を連れて3階へと駆け上がった。
「や、やつを殺せ!今すぐあいつを殺さなければ、お前たちの首をはねてやる!」
テオルバンの乱暴な言葉に、シュレマンとマーガレットがすぐさま気勢を上げ、鋭く指令を出した。
「テオルバン!やめてください!」
彼らがうろたえている間に、すばしこい騎士の一人がすぐに距離を詰めて3階に駆け上がった。
ラルクが手のひらを振るう。
パシッ!
その瞬間、カミーラは不穏な気配を感じた。
「ひゃっ!」
そして、3階を照らしていた騎士が首を切られて、跡形もなく消えた。
信じられないほど凄惨な光景だった。
テオルバンはもちろん、他の騎士たちも悲鳴を上げた。
「う、うわああっ!」
「怪物だ!怪物だ!」
ラルクは彼らが何を言おうと気にも留めなかった。
どうせ一匹残らずピラニアどもなのだ。
──なら、死ぬしかない。







