こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
118話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 雪だるま
ロレッタはロニの魔法の力を借りて、大きな雪だるまを二つ作っていた。
ロニが雪だるまの鼻に使うニンジンを探しに行っているあいだ、ロレッタは雪だるまの隣にちょこんと座りこんだ。
――雪が降ると、いつもメロディと一緒に雪だるまを作ったのに。
彼女はそっと枝を拾い上げ、真っ白な雪の上に指で文字を刻んだ。
「会いたい、メロディ……本当に会いたい」
そう呟きながら、もう一度彼女の名前を書こうとしたそのとき。
「にゃあ。」
背後から、小さな猫の鳴き声が聞こえた。
公爵家の庭園にはもともと飼っている動物などいなかったため、ロレッタは驚いて振り返った。
そこには、驚くほど――いや、妙に見覚えのある猫が立っていた。
「まさか……」
ロレッタは厚手の手袋を外し、猫の前にゆっくりと歩み寄って手を差し出した。
「エコ……なの?」
差し出した指先に、しっとりとした鼻先が触れる。
「エコじゃない!」
ロレッタは嬉しさのあまり大声を上げ、すぐに慌てて口を閉ざした。
公爵家の人々は動物には寛容な方ではあったが、エコはただの猫ではない。
――魔塔の猫なのだ。
だからこそ、誰かに見つかってはいけないという予感が走った。
「エコ、どうしてここまで来たの?まさか……歩いて来たの?」
「にゃあ。」
短く返事が返ってきた。
「もう、だめじゃない!冬は寒いし、あの屋敷とこの町はすごく遠いのよ!」
ロレッタはエコーの体を調べながら言った。長旅のあいだにケガでもしていないかと心配したが、幸い彼は元気そのものだった。
(実際のところ、賢いエコーは何台もの荷馬車を乗り継いで、悠々とここまで来たのだ。)
「まさか、私に会いたくて来たの?」
そう尋ねると、エコーはちらりとロレッタを見上げた。
その目にはどこか“そんなわけないだろう”とでも言いたげな光が宿っていた。
「……やっぱり違うのね。」
ロレッタが苦笑したそのとき――
「にんじん見つけたよ!」
ロニの声が雪の向こうから聞こえてきた。
ロレッタは驚いて立ち上がり、エコーとロニを交互に見つめた。
「え、どうしよう……?」
ロニが困ったように立ち尽くすのを見て、エコーは尻尾を一度だけぱたんと振った。
――まるで、「お手並み拝見だ」と言わんばかりに。
ただ単に寒さが嫌だったのだろうか。
エコはロレッタの膝の上によじ登り、そのまま彼女の分厚い外套の中へと潜り込んでしまった。
「えっ!?エコ!?」
ロレッタは慌てて自分の腹のあたりに腕を回し、エコが滑り落ちないようぎゅっと抱きしめた。
「な、なにそれ……なんでそんな格好で座ってるの?」
「えっと……その……乗られちゃって……」
「お腹、なんでそんなに抱えてるの?どこか痛いの?」
そう言って相手が近づき、お腹に手を伸ばそうとした瞬間――ロレッタは慌てて立ち上がり、数歩後ずさった。
もちろん腕は腹のあたりをしっかり抱えたまま。
「ち、違うの!痛いわけじゃなくて……!」
「じゃあ、その腕は何なの?」
「え?」
ロレッタはぱちくりと目を瞬かせた。
「う、うん……おなかが痛いの。だから部屋に戻るね。」
「送っていこうか?」
その優しい申し出に、ロレッタは少し迷った末に首を振った。
けれど、ロニとロレッタのあいだにエコーが割り込むように座っていたので、もしそのまま残っていたら、妙な気まずさが生まれていたかもしれない。
「大丈夫、一人で行くわ。それよりお兄ちゃん、雪だるまに早く鼻をつけてあげて。鼻がないと息ができなくて困っちゃうでしょ?そうなったら、かわいそうで夜眠れなくなっちゃうかもしれないし。」
ロレッタはしょんぼりしたような歩き方で、とぼとぼと雪の上を踏みしめながら歩き出した。
「それって、いったい何の話だよ……?」
「わたしを悲しませないでって意味!」
そう言い捨てて、ロレッタはくるりと体を返し、凍える空気の中を家の方へと駆け出した。
幸いロニは追いかけてこなかった。
ロレッタは部屋に戻ると、侍女たちをすべて下がらせ、暖かい暖炉のそばにエコをそっと下ろした。
念のため、小さな器に水を汲んで差し出すと、エコはすぐにぺろぺろと勢いよく飲み始めた。
どうやら長い旅で喉が渇いていたらしい。
ロレッタもエコと同じように床にぺたんと座り、ちょこんと横で水を飲む猫の姿を眺めた。
「エコ……かわいすぎる……」
見ているだけで心がふわっと温かくなり、足の先までとろけるような愛しさが込み上げてくる。
「……あ、そういえばお腹もすいたな。ちょっと台所に行ってこようかな」
ロレッタがそう呟いて立ち上がったとき、エコもぴょこんと一緒に顔を上げた。
「にゃあ。」
その声に気づき、ロレッタがふと膝のそばを見ると、エコーが静かに歩み寄ってきていた。
「エコー?」
まるで何かを伝えたがっているような仕草。でもそれが何なのか分からず、ロレッタはエコーの足や尻尾をおそるおそる覗き込んだ。
すると――エコーの首に、柔らかな布でできたリボンが結ばれているのを見つけた。
ロレッタがそれに手を伸ばすと、エコーは自ら首をかしげ、床に伏せて首元をロレッタの方へ差し出した。
まるで「ほどいてごらん」と言わんばかりに。
「……もしかして」
ロレッタは凍えた指でそっとリボンを解き、布を広げた。
掌の半分ほどの小さな布の中には、折り畳まれた紙切れが一枚。
その上には――見覚えのある文字が並んでいた。
「エヴァンの字だわ!」
ロレッタは手紙を高く掲げると、ぱっと笑顔を咲かせた。
彼と会えなくなって、もう何週間も経っていた。どうしても会いたくて、もしかしたら皇宮で偶然会えるのではと、ずっと機会をうかがっていたのだが……。
ロレッタは大きく深呼吸をして、手紙を読み始めた。
【突然のお便りをお許しください。あの、エコが届けてくれると聞きました。私はお嬢様にどうしてもお会いしたくて……。お元気でいらっしゃいますか?】
短い文面だった。
小さな紙にびっしりと書かれていたのは、それだけ。
けれど、一日中沈んだ気持ちで過ごしていたロレッタにとって、それは何よりも大きな贈り物だった。
ロレッタはその手紙を胸にぎゅっと抱きしめた。
心臓が驚くほど速く、ドキドキと高鳴っている。
「どうしよう……!うれしすぎる……!」
彼女は床に寝そべっているエコを見下ろしながら、お腹の奥から幸せがこみ上げてきた。
ロレッタはくすっと笑った。
「エコー、届けてくれたのね。ありがとう。やっぱりあなたは最高の猫ちゃんだわ!ううん、この世で一番すてきな生き物よ!」
その大げさな褒め言葉にも、エコーはただ尻尾をゆるやかに一度だけ振った。
――まるで「当然でしょ?」と言いたげに。
「そうだ、ごはんを持ってくるね。長旅で疲れたでしょう?うちでゆっくり休んで。ね?そして……」
「にゃあ。」
エコーはまた軽く尻尾をパタンと振った。
「もしかして……この手紙も届けてくれたの?」
ロレッタの問いに、エコーはふんわりとあくびをしてから、彼女の足元にぴたりと寄り添って寝そべった。
――まるで「もうそれ以上同じこと聞かないで」と言っているみたいに。
「エコー、あなたは本当に最高!だいすき!」
ロレッタは嬉しさのあまり立ち上がり、軽い足取りでキッチンへと駆け出した。
エコーの金色の瞳が、その背中を静かに見送っていた。
エコはロレッタの部屋で一晩ゆっくり過ごしたあと、翌朝早くに旅立った。
ロレッタは、エコがゆっくり休んでから出発できるようにと手紙を机の上に置いただけで、わざわざ首に結びつけてやりはしなかった。
けれど、どういうわけかエコはちゃんと手紙をくわえ、見事に飛び立っていったのだ。
エコは、まだロレッタの視線が残っている中庭を横切り、来た道をたどって再びマタプへと向かった。
エバンは暖炉の前で分厚い本を抱えたまま、そわそわとページをめくっていた。
明らかに、エコがいなくなってからずっと落ち着かず、夜も眠れなかったのだろう。
エコはそんな彼の膝の上に飛び乗ると、くるんと身体を丸めた。
冷えきってしまう前に、もう一眠りするつもりらしい。
――工房まで行く体力はもう残っていないだろう。
【エヴァン! 手紙を受け取って本当に嬉しかったわ。早く会いたい。私の魔力がちゃんと保たれているか分からないけど、最近少しだけ寂しさが薄れた気がするの。】
ロレッタの手紙を受け取ったエヴァンは、すぐに返事を書いた。
もちろん今回も、エコーが疲れないように配慮して、手紙をそっと鞄の中に忍ばせた。
だが、少し目を離したすきに、エコーはまたしても手紙をくわえてどこかへ飛び出していった。
【お嬢さまにもっと強い魔力を与えられたらいいのに。僕の力が弱くて、寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。もっと勉強して、修練を積んで、お嬢さまの支えになれるように努力します。】
エコーの健気な働きのおかげで、ロレッタは毎日、手紙の返事を心待ちにするようになっていた。
押し寄せていた寂しさの波から、ほんの少しだけ抜け出せた気がした。
エバンに宛てて手紙を書くときは、短い文しか書けない分、その一言一言に気持ちを込めるため時間をかける必要があった。
さらに、届く返事もやはり短い文だけなので、その短い一文に込められた彼の思いを想像しながら、心の中で何度も読み返した。
それでもロレッタは、ときおりメロディへの恋しさに胸を締め付けられることがあった。
けれど、自分ばかり沈んでいても仕方ない。
エバンとエコが楽しそうにじゃれ合っているのを見るたびに、ロレッタは「私はこのまま沈んでなんていられない」と思い直したのだ。
そうして季節は過ぎ、屋敷の屋根に積もっていた雪がとけ始め、ぽたぽたと水滴が落ちるある日——再び、エコが嬉しそうに一通の手紙をくわえて戻ってきた。
「お嬢様、主君からのご命令で、私をボルドゥイン公爵家の屋敷まで連れて行ってくださるそうです。直接お嬢様に声をかけることはできませんが、遠くからでもお会いできればと……本当に幸せです。】
「エヴァンが、うちに来るって!?」
ロレッタは目を見開き、勢いよく立ち上がった。
手紙をポケットに入れると、スカートの裾をつまみ上げてクロードの部屋へ駆け出した。
ふだんなら扉の前で返事を待つところだが、今日はそんな余裕もなく、勢いのまま扉を開け放った。
「お兄さま!」
けれど次の瞬間、ロレッタはその軽率さをすぐに後悔した。
部屋の中には、見知らぬ若い神官たちが三人も座っていたのだ。
「……す、すみません……」
顔を赤らめたロレッタは、頭を下げてそそくさと扉を閉めた。
「うぅ……」
急に恥ずかしさがこみ上げ、頬まで熱くなる。
――こんなことして、ボルドウィン家の娘が“無作法なお嬢さま”だなんて噂が立ったらどうしよう……。
彼女がどうしようかと考えていると、少し前に閉まっていた扉が再び開いた。
クロードが友人たちに事情を話して席を外し、ロレッタを追いかけてきたのだ。
「クロードお兄様、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。あの子たちはアカデミー時代の友人にすぎない。それより、俺の時間はお前が最優先だって、前に言わなかったか?」
クロードは少し乱れていたロレッタの長い髪を優しく撫で、穏やかに答えた。
「うん……でも、今はお客様がいらっしゃるから……」
「あとで話す」と言おうとしたその瞬間、クロードがロレッタのわずかな表情の変化を読み取った。
「ああ、ジェレミアのことか?」
「え、うん?」
「使用人たちからジェレミアが来るって聞いたんだ。詳しい事情を俺に話しに来たんじゃないのか?」
ロレッタは「違うの」と言うべきだと思った。
でも、どうしても声が出なかった。
「図星って顔してるね、くくっ。」
「えっ、どうして分かったの?」
「うちのお嬢さんがね、末っ子の兄上に会いたくてたまらないみたいだから。」
「……。」
本当のところ、ロレッタが会いたいのはジェレミアの弟子であるエヴァンだ。
でも、そんなことは口が裂けても言えない。
そもそも彼と親しくなったきっかけ自体が、父の言いつけを破って魔塔に忍び込んだことだったのだから。
「それで、いつ来るの?」
「十日後だよ。」
「お兄さま、泊まっていくんでしょ?そうでしょ?」
両手を胸の前でぎゅっと組んで尋ねるロレッタに、クロードは苦笑しながら肩をすくめた。
「それは……ジェレミア次第だね。でもまあ、そんなに楽しみにしてるなら――兄としては応援したくなるよ。そっちにも一度お願いしてみるね」
「本当!?」
「うん。だめなら……せめて向こうで一週間くらい、ゆっくり過ごしてから帰ってきてもいいしな」
一週間!
ロレッタは嬉しさのあまり、クロードの腰にぎゅっと抱きついた。
「クロードお兄様は最高よ!この世で一番素敵!大好き!!」
そのとき、クロードの背後の扉がわずかに開いた。
彼の友人たちが、好奇心に満ちた顔で扉の隙間からそっと覗き込んでいたのだ。
「お兄様のお友達?」
ロレッタがクロードの腰に抱きついたまま振り向くと、彼らはヨラン法石を落としそうになりながら、両手をわたわたと振って慌てだした。
実は彼らは以前から、クロードに「可愛い妹さんを一度だけでいいから会わせて!」とお願いし続けていたのだが、そのたびに断られていたのだ。
「お兄様のお友達、こんにちは。ロレッタです」
「ロレッタ・ボルドウィンです。」
ロレッタがにこやかに礼をすると、部屋にいた青年たちは一斉に立ち上がり、慌てて彼女の方へ駆け寄ってきた。
「うわっ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」
「やっぱり妖精って本当にいたんだ!」
「クロード・ボルドウィン、ずるいぞお前!」
彼らは興奮気味に口々に叫びながらも、ロレッタの前に並び直して自己紹介を始めようとした。
「えっと、僕は――」
しかし紹介が始まるよりも早く、クロードがすっとロレッタを抱き上げた。
まるで友人たちの手の届かないところに避難させるように。
「ロレッタ。この三人は兄上の友人その一、その二、その三だ。」
「え?そのいち?」
「左から順番に一番、二番、三番。それ以外に覚える名前は一つもない。」
その言葉に三人の青年は一瞬ぽかんとした後、揃ってクロードを睨んだ。
――まるで「お前、それはないだろ!」と言わんばかりに。
妹に特別な相手でもできたら、一体どうするつもりで、こんなにも警戒しているのだろうか。
彼らは公爵家の後ろ盾を持つ、未来のどんな男性にも先んじて威圧感を示していた。
おそらく、普通の家の男では、この兄たちを前にしてひるまない者はいないだろう。







