こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

91話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母親⑥
「違います。」
メロディは頭を下げて、彼女に近づいた。
「私が……私が悪かったんです!お母さまは少しも悪くないんです。」
正直な謝罪にもかかわらず、ヒギンス夫人は顔を背けたままだった。
たぶんメロディの言葉を、信じられなかったのだろう。
「本当なんです。私が悪かったんです。ちゃんと連絡もできなかった……それが、本当は……」
メロディはふと口をつぐんだ。
思い返してみると、お母さまは「怖くて」連絡をしなかったのかもしれない。
だが、それを正直に話してしまったら、彼女を再び傷つけてしまう気がした。
「無理に話さなくてもいいわ。」
長く悩んでいたメロディの様子が読み取れたのか、ヒギンス夫人は優しくそう言った。
「……知っているから。」
彼女の視線がふと窓の外へと向いた。
ただの一瞥だったが、通り過ぎた下女たちを驚かせるには十分だった。
彼女たちは夫人に深々とお辞儀をして、慌ててその場を離れる。
その様子を見届けながら、ヒギンス夫人は長く息を吐いた。
おそらく彼女は、下女たちを怖がらせたいわけではなかっただろう。
ただ、屋敷の中ではヒギンス夫人にまつわる噂はいつも気づかれぬまま流れており、誰であっても彼女に出会えば、今のような態度を見せるの。
『でも……私は。』
メロディはぎゅっと唇を噛んだ。
彼女も、母を怖いとは思っていた。
けれど、だからといって、彼女の目を見た瞬間に驚いて逃げ出したくなったことはない。
「お母さま、ここにいらっしゃるじゃないですか。」
メロディは、しっかりと両手を握りしめたまま、ヒギンズ夫人の表情を見つめた。
彼女の瞳には、深い悲しみがにじんでいた。
「私が間違ってました。もう二度としません。私の行動が、お母さまを傷つけるなんて思いもしなくて……。」
「……確かにね。」
ヒギンズ夫人は深く息を吐いた。
「あなたの行動が私を傷つけたわけではないの。ただ……本当に、悲しかった。」
彼女は言葉を止めた。
少し涙ぐんで、言葉を選んでいるようだった。
メロディに何を伝えるべきか、迷っているような表情を浮かべていた。
「話してください…!」
メロディは、彼女が飲み込もうとする言葉を何とか引き留めるように、切実に懇願した。
ヒギンス夫人は静かにスプーンを置いた。その仕草には、どこか自分を律するような様子が感じられた。
「あなたは……権利が………」
そして彼女がつぶやいた言葉の半分以上は、ほとんど口の動きだけ。
たぶん、独り言のようなものだったのだろう。
それでも、メロディは唇の動きから、彼女が何を言おうとしていたかをすべて読み取ることができた。
「あなたには、優しいお母さんを持つ権利があるのよ……。」
ヒギンス夫人はぎこちなく微笑みながら、「本当は、誰にでもそんな権利はあるのよ」と付け加えた。
「でもね、あなたが私の娘だからこそ、もっとその権利を得ていてほしいと願ってしまうの。…なんだか、不思議ね。」
彼女は、自分の言葉の矛盾に思わずふっと笑う。
「私がただ優しいお母さんになれればいいんだけど……それがなかなか……思い通りにはいかなくて。」
そう言って、ヒギンズ夫人の話は結局、また最初に戻ってしまった。
「ごめんなさいね。あなたにこんなことを言うことになるなんて……。」
彼女は罪悪感に満ちた顔で、そっと顔を伏せた。
正直に言うと、夫人はずっとメロディに対して申し訳なく思っていた。
あの不憫な母のもとで幼少期を過ごしたことを思うと胸が痛み、どうしてよりによってまたこんな神経質な娘として引き取ることになってしまったのか。
できる限り優しくしてあげようという思いは、いつも彼女の心の中にあった。
でも……どうしても彼女の口から出る言葉は、とげとげしい性格が滲み出たものばかりだった。
こんな状況だったため、ヒギンズ夫人はメロディが自分に何も言わずに家を出ていったことがすべて自分のせいだと思っていた。
自分がちゃんとした親の役目を果たせなかったから、こんなことになってしまったのだと。
「気にしなくていいのよ。」
彼女はわざと表情を厳しくした。
少し前に「優しいお母さん」が必要だと言っていたが、やはりこうしたことをした子どもを叱らない親はいないものだ。
「とにかく……二度と勝手に出ていくようなことはしないこと。」
「……はい。」
口ごもった返事に、夫人は再び窓のほうへと体をくるりと向けた。
「いいわ。じゃあ行ってきなさい。」
「……」
でもメロディは、彼女の背後にじっと立っていた。
「もう一度出て行けと言うべきかしら。」
夫人は少しだけ考えたが、もうやめた。
「その……」
すぐ後ろからヒギンズ夫人の背後で戸惑う声が聞こえた。
しかし彼女は、はっきりと返事をしなかった。
うっかりメロディに冷たい言葉や、心にもない小言を言ってしまうのではないかと心配だったのだ。
「……あの、いるじゃないですか、お母さん。」
それでもメロディの話は続いた。
『優しくなれなかった母の目つきを見るようなものだ。』
ヒギンズ夫人は深く息を吐き、メロディに「部屋に戻りなさい」と言おうとした。
いや、正確にはそうしようとした。
「もう私は大丈夫だから。」
けれど、その言葉は途中で止まってしまった。
一歩、さらに近づいてきたメロディが、彼女の腰をぎゅっと抱きしめたからだ。
「………?!」
驚いた夫人は、言葉を失ってしまった。
一瞬、息をするのも忘れてしまうほどだった。
そんな夫人の肩に、メロディがそっと寄り添うように寄ってきた。
「ごめんなさい、お母さん。なんて言えばいいのか、わからなくて……」
静かに響いたその声には、かすかに涙の気配があった。
『まあ……この子を泣かせるなんて。』
驚きの気持ちで、夫人はメロディの手をしっかり握りしめた。
いったいどんな勇気が必要だったのだろう。
メロディは続けて、思いがけない言葉を口にした。
「……お母さんが大好きです。」
その素直な一言からは、信じられないほどの真心が感じられた。
メロディの声と、手から伝わる温もりが、それをはっきりと示していた。
「本当に、とても大好きです。」
それでもメロディは、自分の気持ちにまだ何か足りないと思った。
何かが胸につかえていた。
それを取り除かなければ、真に伝わらないような気がした。
「お母さん……お願いです。私のそばにいてください。」
思わず口にしたその言葉に、自分でも驚いてしまった。
けれど、それこそが本心。
ようやく口にできた、大切な想いだった。
夫人の目が、かすかに潤んだ。
けれどその瞳は、優しく細められていた。
メロディは、また叱られるのではないかと心配してか、同じ言葉を繰り返した。
「許可もなく勝手に家を出てしまって、すみません。」
「………」
「戻ってきたらきっと叱られるんじゃないかと怖かったです。でも、それより……」
メロディの顔が彼女の肩に、少し深く埋もれた。
「……お母さんが、私を好きじゃなくなるのが、一番怖かったんです。」
「まあ、なんてことを!」
ヒギンズ夫人は驚きのあまり声を上げると、すぐにメロディを強く抱きしめた。
「この子ったら、まるで小さいネズミみたいなこと言って!そんな馬鹿なこと、誰が言ったの……。ああ、もう、なんてこと!」
彼女はいつものように大声をあげたが、その顔はひどく動揺していた。
「怒ってるんじゃないのよ。」
もちろん、メロディが伝えるべき思いはもうひとつあった。
「お母さんが、私を好きじゃなくなるのが怖かったの」という彼女の一言――。
ヒギンス夫人は「そんなこと絶対にない」と言っていたけれど、実際にはそうではなかった。
メロディは、すでにそれを経験していた。
それも、彼女を産んだ実の母から。
だからこそ、あの子がそんなふうに怯えるのは、あまりにも当然のことだったのだ。
……それを、どうしてあんなに激しく責めてしまったのか。
「メロディ。」
ヒギンス夫人はそっと手を伸ばして、メロディの頬を優しく撫でた。
涙に濡れたその目を伏せたまま、彼女は唇を固く閉じて、なんとか泣くのをこらえているようだった。
「もう……その唇、痛くなっちゃうわよ。」
「………」
その言葉に反応して、強く噛みしめていたメロディの唇から力が抜けた。
ヒギンス夫人は両手でメロディの顔をやさしく包む。
「大丈夫よ、メロディ。私は、あなたが何を言っても、どんな子でも、変わらず愛しているわ。」
その言葉に、メロディの瞳が大きく揺れた。
その目には、言葉にならない感情が溢れていた。
「私があなたを好きじゃなくなることなんて、絶対にないの。」
メロディはついに泣き出してしまい、ヒギンス夫人の胸にしがみつく。
そして、ずっと心の奥に押し込めていた不安や恐怖が、涙となって溢れ出したのだった。









