こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

92話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母親⑦
メロディは目をうるませながらヒギンズ夫人を見上げた。
怪我をしていないか確認するように、慎重なまなざしで。
「お母さん……」
メロディが震える声でそう呼びかけたとき、大きな瞳からついに涙がこぼれ、ヒギンズ夫人の温かい手の中に流れ落ちた。
歯を食いしばりながら見つめていた夫人は、そっと頷きながら答えた。
「……あなたが何を言おうと、それだけは変わらないわ。」
「えっ?」
すすり泣き交じりに聞き返したメロディに、ヒギンズ夫人はハンカチを取り出して彼女の顔をやさしく拭きながら言った。
「私があなたを好きじゃなくなることなんて、絶対にない。」
「……ほ、ほんとう?」
「そうよ。この屋敷の床をどんなに汚して歩き回ったっていいから!それでも私はあなたを嫌いになんてならないんだから!」
その声には揺るぎない自信が満ちていた。
ヒギンス夫人は、メロディに対する愛情を決して失うことはないと――。
「だからね、メロディ。そんなことは二度と考えちゃダメ。わかった?」
優しい言葉とは裏腹に、ヒギンス夫人の表情はとても真剣だった。
その顔をおずおずと見上げたメロディは、そっとヒギンス夫人の服の裾をつまんだ。
すると、ヒギンス夫人はふわりと微笑み、メロディの髪を撫でてくれた。
「このおしゃべり小羊ちゃんめ。」
その愛情に満ちた調子に、メロディはたまらずヒギンス夫人にぎゅっと抱きつく。
ヒギンス夫人は、腕いっぱいに子どもを抱きしめ、優しく背中をぽんぽんと叩いてくれた。
「それでも……私が悪かったんです。」
「おやおや。」
「いっぱい心配させちゃいましたよね?」
「……無事なのはわかっていたけれど、ね。」
「えっ?!」
夫人の言葉に、メロディは目をまんまるに見開いて彼女を見つめた。
「坊ちゃまは、いつでも公爵様の人たちが静かについてきているだけよ。」
「そう……。」
静かに後ろについてきた者たちがいて、彼らが情報を伝えてくれていたようだ。
もちろん、そうだからといってヒギンズ夫人の心配が軽くなったわけではなかったが。
「反省してるならそれでいいわ。子供があまりにも大きく謝ってくると、叱る気にもならないっていうけど、今がまさにそれね。ふふ。」
彼女が肩をすくめてメロディの顎をなでたとき、そばのほうでノックの音がした。
控えめな声がそれに続いた。
「失礼します、奥様。」
ヒギンズ夫人はゆっくりとドアのほうへ歩いていき、静かに扉を開いた。
やって来たのは台所の使用人の一人で、少し申し訳なさそうな表情だった。
メロディはまるでひどく青ざめた顔をしていた。
どうやら彼女はヒギンス夫人をひどく怖がっているようだった。
「何があったの?」
ヒギンス夫人は、小鳥のようにおびえて震える若いメイドにも、きっぱりとした表情で毅然と尋ねた。
すると青ざめていたメイドの顔色が、少しずつ赤らんでいった。
「じゃ、じゃがいもが……」
「何ですって?」
「奥様がむいておかれたジャガイモを、どのように調理されるご予定かを、う、伺おうと思って……調理長が。」
「調理するって?!」
夫人は鋭い声で繰り返し、メイドはあわててスカートの裾を握りしめながら言い訳を続けた。
「も、もちろん奥様のお望み通りにされるって……おっしゃってました!いまはほんの少し、塩をふっただけで……」
「塩よ!まったく、気が狂ったノロットね!」
そう叫んで、夫人は勢いよく扉を開けると、厨房へと駆け出していった。
扉のところに取り残された使用人の少女は、夫人の後ろ姿を見つめながら、うろたえていた。
もしかして自分が失敗でもしたのではと心配しているようだ。
「大丈夫ですよ。」
メロディのその一言にも、少女は黙ったままだった。
「でも、お嬢様……。奥様はすごく怒ってらしたみたいでした。」
「はっきりと怒ったわけではないと思うわ。」
「そうですか?」
「きっと心配してるのよ。」
「えっ!?」
少女は驚いた目でメロディを見返した。
どう見てもヒギンズ夫人の態度は心配というよりはるかに距離があるように見えた。
それでも、メロディの言葉があながち間違いでもないように思えてきた。
それでも夫人が自分を責めるようなことが何かあったのだろうか?
あのジャガイモを山のようにすりおろしていただけなのに。
「奥様がご自分を責めるようなことはないと思いますよ……。」
「うん、実は私もそう思っているの。」
メロディは肩をすくめるようにして、ヒギンス夫人の後を追って台所へ向かう。
まもなく台所から夫人の怒声が響いてきた。
「塩を振るだなんて!色や栄養ごとに野菜まで刻み入れるだなんて!」という言葉とともに。
そばにいたメイドのひとりが「ひっ」と声を上げて泣き出した。
「やっぱり奥様、とてもお怒りのようですね。」
メロディは今回も「ご自分を責めておられるのかも」と言った。
メイドはその言葉を信じていないような表情だったが――数分後、メロディは自分の部屋のベッドの上に横たわっていた。
彼女の顔には薄い布がかけられ、その上にヒギンズ夫人がきれいにスライスした冷たいジャガイモを丁寧に並べていた。
「美容用のジャガイモを揚げ物に使うなんて!」
夫人は少し前に厨房であった出来事を何度も思い返していた。
実は彼女は、メロディの日焼けした顔を鎮静させるために、新鮮な夏のジャガイモを薄くスライスして準備していたのだ。
ところが彼女が少し席を外していた隙に、そのジャガイモに塩と色とりどりの野菜が加えられ、油でおいしく揚げられるという事件が起きてしまった。
もちろん、夫人はそのことで使用人たちを叱るようなことはしなかった。
ただ、美味しくなるはずだったジャガイモを見つめながら、じっと目で非難するだけ。
おそらくそれは「口を出すなと言ったのに…」という、自分を責めるような眼差しだった。
ただし、使用人の中でその目の意味を正しく理解した者はいなかった。
『お母様には申し訳ないけど、それ、結構おいしかったと思う。』
じゃがいもと油は永遠のコンビなのだから。
メロディは台所の騒ぎを聞きながら、そっと微笑んだ。
でも、それはあまり良い考えではなかったらしい。
「まったく、じっとしてなさい。せっかくすり下ろした貴重なじゃがいもがこぼれ落ちるわ。」
夫人の一言で、メロディの口にあったすり下ろしじゃがいものかけらが、喉元を通りすぎてぽとりと落ちた。
「このおしゃべりな小鳥はどうしたらいいのかしら。」
じゃがいもを新たに持ち上げながら、ぶつぶつ言うヒギンス夫人の言葉は、明らかにメロディを小言でたしなめている口調だった。
しかしあまりにも率直な言葉の中にあふれる優しさと愛情があまりに明確に感じられて――
メロディは再び微笑みを浮かべた。
ちょうどそのとき、動かずに耐えていたジャガイモの一切れが彼女の喉元までつつーっと流れ落ちた。
「じっとしているのがそんなに難しいなら、いっそ蒸してしまえばいいわね。ん? このままだとあなたのベッドがすっかりジャガイモ畑になりそうよ。」
ああ、どうしよう。
筋肉をリラックスさせなければならないのはわかっているのに、メロディはそれができなかった。
いや、むしろますます笑いが込み上げてきて、今度は彼女の目の上にあったジャガイモさえもボロっと落ちてしまった。
「やだ、私のジャガイモ! 私のジャガイモがっ!」
遠く台所のほうから、ジャガイモと油が出会った美味しそうな香りが漂ってきた。
メロディは、なんだかようやく「本当にこの家に戻ってきたんだ」と実感するのだった。
『これからは絶対に、両親の許可なしに屋敷を離れてはいけない。』
そうして、できることなら、ずっとこの場所で暮らしたいとメロディは思った。









