こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

116話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 臨時会議
会議室には神殿の代表団とデイモン、そして皇帝が先に到着してノアを待っていた。
「皆さんお揃いですね。」
最後にノアが会議室に到着すると、扉が重く閉じられた。
「さあ来なさい。ここに座りなさい。」
皇帝はノアに自分のすぐ隣の席を勧めた。
デイモンの向かい側だ。
ノアが座りながらデイモンに目で挨拶を送ったが、デイモンは見ていないふりをして視線をそらした。
「これで皆さんお揃いですね。それでは、私たち神殿の決定をお伝えいたします。」
神殿の代表団はカイル大神官とそのほかの上級神官たちで構成されていた。
カイルは関係者がすべて揃っていることを確認すると、ためらうことなく神殿の決定を発表し始めた。
「前回の会議以降、我々はノア皇子殿下の健康状態を数回にわたって確認いたしました。」
ノアの病気が治ったことを確認すると言い、何度もではなく四度にわたり入念に診察を行った。
ノアは彼らの要求に一度も欠けることなく応じた。
その結果、神殿でもこれ以上疑念を抱くことはできなかった。
「驚くべきことに、皇子殿下は確かに“不治の病”とされていた病から完治されました。」
ノアは当然だという表情で肩をすくめた。
デイモンは怒りを抑えきれず、歯ぎしりをした。
「それでは、これで会議の結果に異論はないな。」
満足そうに言う皇帝の低く重みのある声が、会議室に響いた。
「……はい。再投票を行うほどの異論はないと判断し、我ら神殿としてもノア皇子様を皇太子として認めることにしました。」
あまりにもあっさりと認めたことに驚いた皇帝は目を細めた。
『何か裏があるのか?』
案の定、神殿は簡単には引き下がらず、隠していたカードを切ってきた。
「ただし。」
カイルが皇帝に一歩近づき、深く身をかがめた。
「ノア皇子様は候補にはなかったにもかかわらず、突然現れました。さらに、回復したとはいえ体が弱く、いつ再び病が発症するか分かりません。」
「要点だけ言え。」
「ですので我々は、万一の事態に備えてデイモン皇子を代理人として立てようということです。」
「どういう意味だ?」
「文字通り“代理人”です。ノア皇子が皇太子にはなりますが、亡くなったり病気になった場合には、その地位はデイモン皇子に移るということです。」
結局は表面だけ取り繕ったも同然の話で、皇帝はあきれて乾いた笑いを漏らした。
「そんなことが通用すると思っているのか?」
「もちろんです。我々も一歩譲ったのですから、陛下にも我々の気持ちをくんでいただければと思います。」
神殿はこの条件を受け入れなければ容赦しないという強硬な姿勢を見せた。
デイモンはこうなることを予期していたのか、ただ黙ってノアを見つめていた。
『デイモン……ここまでするつもりだったのか。』
「陛下はお子様たちを平等に扱ってくださいませんから。私も生き延びなければ。」
皇帝の眉間には深い皺が刻まれた。
ノアが健康であれば何の問題もないだろうが、神殿の主張には納得しきれないものがあった。
「私は大丈夫です。」
ノアの意見もあり、ひとまず皇太子任命についてはこの程度の線で合意し、会議を終えることにした。
誰もが完全に勝利したわけでも支持されたわけでもなく、勝敗がつかなかったとはいえ、皇太子となったのはノアだった。
神殿の代表団とデイモンが会議室を出た後、ノアは皇帝と二人きりになって会話を続けた。
「神殿の横暴さがどんどんひどくなってきているな。」
皇帝は眉間を揉みながら言った。
自分の目の前でもあのように堂々とした態度をとるとは、納得しがたいものだ。
「このまま放置するわけにはいきません。大神殿の権限を縮小するというのはどうでしょうか? 領地ごとにひとつずつあるのは、正直言って多すぎます。しかも、機能もまともに果たせていません。」
ノアは、ちょうど良い機会だとばかりに、顔をしかめている皇帝に遠慮なく提案した。
こんな中枢の議論ができるほど成長したノアを見て、皇帝は思わず微笑んだ。
「その考え、私もまったくしなかったわけじゃない。だが、そうなると今後は神殿とは完全に対立することになる。」
「私はこれ以上引きずられるくらいなら、対立した方がマシだと思います。神殿の勢力が大きくなりすぎたのは事実ですから。」
長年、神殿に対してあまりに寛容にしてきた結果だった。
良かれと思ってすべて受け入れてきたのが、結局この有様だ。
皇帝は深刻な表情で、テーブルをトントンと軽く叩いていた手を止めた。
「……よいだろう、会議を招集しよう。」
以前であればこのような選択はしなかった皇帝だが、神殿が先に一線を越えたことを、彼ははっきりと感じていた。
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皇帝は決心するとすぐに、神殿の勢力を削減するという名目で臨時会議を招集した。
本来であれば、主要な貴族たちが出席し、彼らの賛同を得なければならなかったが、今回はすべて無視した。
大きな反発が予想されたが、神殿の顔色をうかがって意見をまともに言えない貴族が多かった。
その代わりに皇帝は、非常時に使うための対策を用意し始めた。
最終決定権を行使して、神殿の廃止を命じた。
どの領地の神殿を縮小すべきかについては、皇宮に仕える学者たちと夜通し協議して決定された。
「これで最終決定だな。」
皇帝は重々しい表情で、総務長の文書に印を押し、封印して開封できないようにまでした。
「この日が来るのを待っていました。これまで神殿の堕落がどれほど深刻だったか。ようやく正すことができます。」
皇帝とともに夜を徹して神殿を選定していた学者たちは、感激した面持ちで頭を下げた。
長年、神殿が巫女を前面に押し出してどれほど悪辣な方向へと変質していったか、彼らは誰よりもよく知っていた。
「大きな領地を含められなかったのは残念だが、これで十分だ。」
文書の送付先は大半が中小の領地だった。
すぐに大きな神殿を封鎖するには、予想される反発があまりにも大きかった。
今回の小規模神殿の閉鎖は、まず神殿側に送る宣戦布告のようなものだった。
皇帝は準備していた文書を、随行員たちに手分けして渡した。
「できるだけ早く目的地に到着しなさい。」
「はい、陛下。」
命令が下されるやいなや、随行員たちは文書を大切に抱え、それぞれ指定された領地へと出発した。
「ふう、これほどまでに動き回ったのは久しぶりだな。」
会議室から学者たちと随行員をすべて送り出した皇帝は、疲れた様子で椅子に深くもたれかかった。
「お疲れ様でした。」
ノアは会議室に散らばっている書類を片付けながらそう言った。
ノアは資料を整理しながら、空いていた文書の一枚を拾い上げた。
そして、随行員たちが持って出発したものと同じ内容の文書をもう一通作成した。
神殿廃止を命じるその文書を手に取り、皇帝の目の前まで堂々と歩いて行った。
「お父様、ここにも文書を送ることを許可してください。」
しばし休んでいた皇帝は不思議そうに椅子から身を起こした。
「送るところはもう全部送ったが、どこを言っているのだ?」
「テレシアです。」
一瞬で皇帝の瞳孔が広がった。
テレシアの神殿は、夜通し選定された小型神殿とは事情が異なっていた。
「それはダメだ。テレシアの神殿をすぐに処理するのはあまりにも軽率だ。」
テレスィアは帝国内でも有数の大領地であり、そこに位置する神殿もやはり規模が大きかった。
どれだけカリードと神殿の関係が悪かったとしても、いきなり大規模な神殿を取り壊すにはリスクが大きすぎた。
慎重にすべきだと苦言を呈する皇帝を見て、ノアは少し真剣な表情で言葉を続けた。
「テレスィアは四大貴族の中でも唯一の公爵家です。彼らが神殿を排除すれば、他の領地もはるかに簡単に追従するでしょう。」
皇帝ももちろん理解していることだった。
テレスィアが前例となってくれるなら、それだけで十分な後押しになる。
しかし、カリードが彼らの望み通りに動いてくれるかが懸念だった。
「長年見てきたが、カリード公爵は簡単な相手じゃない。その内心を読み取ることはできない。この件についても我々の味方をすると保証できない。」
一線を越えるなというような皇帝の視線が鋭くなった。
しかしノアは避けず、むしろより強く出た。
「カリード大公は私たちの味方になってくれるでしょう。いいえ、味方でなくても神殿を排除することには同意するはずです。」
「……何か知っているのか?」
カリードを説得する自信があるように見えるノアを見て、確信していた皇帝の考えも少し揺らいだ。
「はい。カリード大公がこの案に賛成することは確かです。詳しいことはテレシアに行ってからお話しします。どうか私を信じて任せてください。」
ノアの表情は断固としていた。
久しぶりに皇太子になりたいと訪ねてきたときと同じ目の光だった。
皇帝はこのような表情のノアなら、もう一度任せてみようと決心した。
そして、ノアが今回の件をどのように解決するのかを見守ることで、皇太子としての資質があるかを見極めようとした。。
「よし。お前がテレスィアで過ごしたと聞いたときから、妙だと思っていた……この件と関係があるのか?」
「それは違います。」
「お前がしきりにテレスィアに行きたがるから、何かあるのかと思っていたぞ。」
「それよりもっといい理由があるんです。」
皇帝はノアの表情がどこかおどけたものに変わったのを見て、「こやつめ」と笑いながら、手で軽くつついた。
「分かった。気をつけて行ってこい。今は時間がないから、戻ったら詳しく聞こう。」
「では、行ってまいります。」
皇帝から許可を得て会議室を出たノアの顔は、最近になって最も明るく輝いていた。
「パレン、私たちこれからテレスィアに行くよ。」
「え?行ってもいいんですか?」
「そんなに驚かないで。今回は公式な任務だ。」
ノアは驚いた様子のパレンの肩を軽く叩いた。
瞬く間に二人の後ろには護衛たちが数人ついてきた。
久しぶりに顔をぱっと明るくしたノアを見て、パレンも思わず微笑んだ。
「そんな表情、久しぶりですね。テレシアに行くことになって気分がいいのでは?」
「そうだ。」
ノアの明るい笑顔が真昼の陽光を受けて爽やかに輝いていた。
「正確には、エスターに会えるのがうれしいんだ。」
そして簡単な荷物を取りに部屋へ向かう途中、ふと思い出した考えに足を止めた。
『カリード大公が……嫌っているのか。』
エスターに自分と会うなとまで言っていたので、その境界線からまず取り払わなければならないと思った。
「パレン、お前が娘を持つ親だったら、どんな贈り物が一番いいかな?」
「何を持って行っても嫌がられると思います。」
「……役に立たないかもしれないけど。」
ノアは少し困った様子でパレンを見つめながら、何を持って行けばよいかを考えた。
とはいえ、今や接近禁止命令も解かれ、皇太子にも任命されたため、以前とは状況が違った。
「少しでも受け取ってもらえたらうれしい。」
何よりも、持って行く新殿廃棄の文書がエスターを大切に思うドフィンには一番の贈り物になるかもしれない。
行く途中に果物かごでも買って行こうかと思い、ノアはクスッと笑った。





