こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

117話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 疑惑の聖女
聖女に任命されたラビエンヌは、毎日さまざまな業務をこなさなければならなかった。
これまで聖女の地位が高かった理由は並外れた能力によるものでもあったが、それだけやるべき仕事も多かった。
セスフィアが長く病床に伏せっていたため、特に神聖力を必要とする業務が山のように積まれていた。
「……終わりがない。本当に。この作業を毎日やらなければならないなんて。」
聖女宮の温室で聖花の浄化をしていたラビエンヌが、額に汗を浮かべながら一人黙々と動いていた。
中央神殿で特別に育成されている聖花は、一日経つだけでも毒が溜まるため、毎日特別に気を遣って毒を浄化しなければならなかった。
セスフィアが病気の間は代行官がこれを担当していたが、今や聖女となったラビエンヌが責任を負わなければならなかった。
実のところ、聖花を浄化するのはラビエンヌにとっても能力的に厳しい業務だった。
候補生の中では最も神聖力に優れていたため──ラビエンヌは、自分でも驚くほど黙々と毒を排出することができた。
一日中聖火にたまった毒を浄化したラビエンヌは、こわばった肩をさすりながら温室を出てきた。
「聖女様、お疲れさまでした。お水です。」
外で待っていた侍女たちが駆け寄り、ラビエンヌに水を差し出した。
「ありがとう。」
ラビエンヌは疲れた様子を隠しながらも、ごくわずかに微笑んだ。
いつものように穏やかな笑顔で。
その後、疲れた体を引きずって執務室へと向かっていると、待っていた神官が彼女を呼び止めた。
「聖女様!聖花を見ておられる間にお待ちしておりました。」
「何かありましたか?」
「はい。今、デイモン皇子様がお見えになって……接見室におられます。」
「デイモン皇子ですか?」
ラビエンヌは一瞬で口元がピクッと動いた。
溜め息をつきそうになったが、かろうじてこらえて苦笑した。
『疲れて死にそうなのに、何の用事よ……』
心の中では断りたかったが、待っているという皇子を無下にすることもできず、仕方なく向かった。
静かにカーペットの上を行き来していたデイモンは、ラビエンヌが入ってくるとすぐに駆け寄ってきた。
「聖女様、全て終わりましたが、これからどうしましょうか?」
いきなり本題から話し出すデイモンに、ラビエンヌは表情を引き締めた。
「皇子様、いくら急いでいても、連絡はしてからお越しください。今後はこうして突然来られてもお会いできませんよ。」
候補生の頃はともかく、今や聖女となったラビエンヌは、かつての皇子デイモンとは立場が逆転していた。
「……申し訳ありません。気が焦って……。ノアが皇太子になるなんて、これはおかしくありませんか?」
デイモンは激しく怒っていた。
自分を信じていた臣下たちの目がどれほど赤く染まっていたか、彼の目には明らかだった。
「それでも大理(デイリン)という地位にまで引き上げられたのは、私たちの努力の結果です。」
ラビエンヌが冷静に応じると、デイモンは一歩下がって、できるだけ丁寧に語りかけた。
「それは承知しています。ただ、もう少し努力してほしかったのです。」
そして、彼の目が険しくなった。
「ところで、もしかして香りも匂いも痕跡もない毒というものが存在しますか?」
「毒ですって?ノア皇太子を殺そうとでも思っているのですか?」
「ノアは元々体が弱かったのです。僕が皇太子になるなら、死なない程度には騒がれて当然じゃないですか。」
真剣に語るデイモンのせいで、ラビエンヌは頭痛が押し寄せてくるような気分になった。
「それはダメです。」
まず、デイモンが変な考えを起こさないよう、はっきりと拒絶した。
「方法を探します。無差別に毒を使うのは私たちにとっても危険です。」
「そんなに待てません。このままじゃノアが……!」
「心配しないでください。連絡しますから。」
ようやくなだめてデイモンを帰らせたラビエンヌは、うるさく騒ぐ頭を手のひらでしっかり押さえた。
「やっぱりあの子じゃない。どうにかしてノアを絶対に私の味方にしなきゃ。」
もう去って行ったデイモンには、全く関心がなかった。
……関係を維持するふりをしながら、今後は少しずつ縁を断ち切るつもりだった。
「ノア皇太子側に連絡を取って、約束を取りつけて。」
「かしこまりました。」
ラビエンヌは侍女にスケジュールの調整を任せ、執務室へ戻った。
その間に机の上には古代文字に関する書類が山積みになっていた。
「………」
ラビエンヌは黙って口を引き結んだ。
聖女になればすべてうまくやっていけると信じていたが、いざその座に就いてみると想像以上に困難なことばかりだった。
そのとき、大神官がドアをノックした。
「聖女様。」
「はい、ルーカス大神官様。」
ちょうどよかったと、古代文字の解読をお願いしようとしたが、彼の表情があまりに深刻そうなのを見て、目を見開いた。
「その……悪い知らせをお伝えしなければならないと思います。」
「話してください。」
「最近、境界地帯周辺で伝染病が流行しているとのことです。」
伝染病という言葉に驚いたラビエンヌは、口を大きく開けた。
「……境界に亀裂が……?」
「どうやらそのようです。」
ラビエンヌだけでなく、ルーカスの表情も良くなかった。
境界に亀裂が入るのはすぐに解決できる問題ではないうえ、伝染病が広がり始めたというのは、すでに境界が危険なレベルにあるという意味だった。
「どうしましょう。」
「私たちの神力で防ぐには限界があって……。どうやらセスピア聖女が長年時間をかけて結界を維持してきたのが原因のようです。」
数年間すでに弱くなるべくして弱くなっていた結界が、今その問題点を表し始めたようだ。
「それでも、今は大神官様しかいません。神力を加えて結界を補わなければなりません。」
「私たちもそうしたいのですが……最近の祈祷でもそうでしたし、すでに神力をかなり使ってしまったので、回復するまで時間が必要です。」
神力は無限に湧き出るものではなく、うまく使えなければ命にも関わるため、軽々しく使えないというのが神官たちの本音だった。
ラビエンヌは思い悩みながら、目をぎゅっとつぶって開けた。
「本当に治療しなければいけませんか?」
やるべきことが山ほどあるのに、伝染病で死にゆく一般市民まで救うことはできない。
「今はまだ問題ないですが……もし伝染病がさらに広がったら、その時は手遅れになってしまいます。」
「では、まず境界周辺の神殿から支援に出させましょう。噂が立たないよう、細心の注意を払ってください。」
帝国に聖女が現れて以来、何年もの間、伝染病のような病が流行したことは一度もなかった。
それゆえに、伝染病が発生したという噂が広まり始めたというのは、すなわち現聖女の無能さを示すものだった。
「わかりました。噂は最善を尽くして防いでみます。」
いつの間にかルーカスも、ラビエンヌに対して不満を募らせていた。
ラビエンヌが聖女としての能力を発揮できないため、彼の信頼を受ける大神官たちばかりがその解決に奔走していた。
だが、彼は言葉には出さず、かすれた声で次の言葉を続けた。
「それと……貴族たちが祝福の祈りを望んでいます。」
もともと神殿では聖女を用いて祈祷の儀式を行っていた。
貴族たちに祝福の祈りを施すためだ。
そしてその代価として莫大な金額を受け取っていた。
数年間はセスピアが病気のため一時中断していたが、新たな聖女が現れたことで、皆早く祝福を受けたいと騒いでいた。
「祝福の祈り……」
暗かったラビエンヌの顔にぱっと光が差した。
実際、聖女の祈りには祝福の力が宿っており、祈るだけで貴族たちを満足させることができた。
しかし、いかに候補生出身で神力の強いラビエンヌといえども、そういった祝福を与える力は持ち合わせていなかった。
「もう少しだけ時間をください。」
「わかりました。」
困り果てたルーカスもまた、同じく困っていたが、今ラビエンヌには答えがないことを知っているため、黙って部屋を出た。
ただでさえ過重な業務で疲れていたところに、ルーカスの言葉まで追い打ちとなり、ラビエンヌはいつものような余裕を失って慌ただしい様子を見せた。
「聖女を早く探さなければ。」
今はどうにかやっているものの、今後正式に聖女の儀式を行うためには、本物の聖女の血がどうしても必要だった。
「カルディスはいつ来るの?」
ラビエンヌは無意識にペンのキャップを外し、横にあったペンを取って苛立った様子で投げた。
ラビエンヌがルーカスと会話していたその時、聖女宮の温室では、聖画を管理していた前聖女たちがどこか異変を感じ取っていた。
「ねえ、ここちょっと見て。」
「何があったの?」
エイニーは、メイが慌てて呼ぶ声を聞いた。
そして振り返って近づいてきた。
「聖花がひとつも浄化されてない。」
「まあ……本当ね。」
二人は深刻な表情で聖火を見つめた。
一時間前に浄化したばかりの聖花なのに、こんなに毒が残っているのはおかしかった。
「見落としてしまったのかしら?」
「でもこの周辺、全部そうなの。ちゃんと浄化されたものはひとつもないわ。」
メイは誰かに聞かれないように、声を潜めて小声で伝えた。
アニーが見ても周辺の聖花の状態は良くなかった。
神力も特に感じられず、光沢もない。
「ちょっとおかしいわね。」
聖火を扱うのは聖女の最も基本的な素養だった。
毎日やっていることなのに、まだ不慣れだなんて……。
「聖女になってまだ間もないからかしら。」
「そうね、きっとそうだわ。」
二人はラビエンヌを理解しようとぎこちなく笑った。
しかし、違和感を完全に拭うことはできなかった。
ラビエンヌが懸命に浄化をしていても、他の聖画はどんどん汚れていき、聖女宮の花も枯れていっていた。
「他の侍女から聞いたんだけど……古代文字の解読もすごく遅れてるんだって。」
「忙しすぎるせいでしょ。」
「うーん、でも聖女様によって聖力に差があるって言うし。今回の聖女様は神聖力が特に優れてないのかも。」
エイニーはおしゃべりなメイの言葉に苦笑いを浮かべた。
「何をこそこそ話してるの?」
「い、いえ、なんでもありません!」
ちょうど中堅の侍女ラヘルが二人に近づいてきたため、エイニーは凍りついたようにすぐに立ち上がった。
慎重に、二人は毒が込められた花びらを一枚ずつ取り除いた。
それが今のところ彼らにできる唯一の応急処置だった。
ドフィンは朝から忙しい一日を過ごしていた。
家臣たちに会い、騎士団の訓練にも参加していた。
昼食の後にはまた処理すべき業務が山積みだった。
「ノラン伯爵がいらっしゃいました。」
ドフィンのすべてのスケジュールを管理するベンが、ノランとの面会の予定を伝えてきた。
ドフィンは顎をなでながら接見室へ向かおうとしたが、突然足を止めた。
そして屋敷の外へと向きを変えた。
「ノラン?接見室での面会は好まないな。」
彼の冷たい視線に、ベンは唇をきゅっと閉じた。
何か考えがあるのだろうと思い、とにかく従った。
公爵との面会も後回しにして、ドフィンが向かった先は、ルシファーを閉じ込めた地下牢だった。
他の囚人たちと同じ牢に入れるわけにはいかず、ルシファーだけを地下の独房に移して収監していた。
ドフィンは入口を守っていた騎士の敬礼を受けて、迷いなく牢の中へ入っていった。
昼間なのに薄暗い廊下を進んでいくと、格子の中に横たわるルシファーの姿が見えた。
しばらく見ない間にやつれてしまった顔だった。
両手はすっかり切断されて包帯でぐるぐる巻かれていた。
「起きろ。」
ドフィンの声が聞こえると、死んだように横たわっていたルシファーがびくっと驚いてぱっと起き上がった。
そして命乞いするようにおどおどしながら窓のそばへと近づいた。
「お、お願いです、助けてください!すべて私が悪かったんです。私が間違って……」
ルシファーは涙と鼻水を同時に垂らしながら泣いていたが、ドフィンの目つきを見て自ら口を閉ざした。
軽はずみに口を開けば命がないかもしれない、という直感だった。
「お前、キャサリンが子どもを産むのを見ていたと言ったな?」
「え?見ていたわけではないですが……産んだ後は見ました。」
「それで十分だ。」
ドフィンはさらに鋭い目をして、ルシファーに一歩近づいた。
ルシファーの足が震え始めた。
麻痺したかのように立っているのもやっとだった。
「いつだったか思い出せ。キャサリンが子どもを産んだ日付のことだ。」
「な、なんで急に日付なんて……」
14年以上も前の出来事を日付まで覚えているのは無理だった。
ルシファーにとって特別な日でもなかった。
「日付を思い出せば、命だけは助けてやると約束しよう。」
ドフィンの言葉に、ルシファーは大きく息を呑んだ。
彼の命は14年前の日付にかかっていた。
失っていた記憶まで必死に探ろうと頭を振った。
「たしか……7月だったのは間違いありません……あ、7月の第2週!確かに第2週でした!」
ドフィンがなぜルシファーを捕らえてこんなことを尋ねているのか、ようやくベンもその意図を察して大きく目を見開いた。
つまりドフィンは、ルシファーから今のエスダーの誕生日、生まれた日を突き止めようとしていたのだ。
「7月の第2週だな。嘘じゃないんだろうな?」
「どうして嘘をつきましょうか。命を懸けて、そんなことはしません。」
「・・・いいだろう。」
正確な日付までは分からなくても、エスダーが生まれた月と週を知ることができたドフィンは非常に満足していた。
7月まではまだ3か月も残っていた。
誕生日パーティーを準備するには十分な時間だった。
監獄から出たドフィンの口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。
「おめでとうございます。私はお嬢様の誕生日のことを考えたこともありませんでしたが……さすがですね。」
「今年はちゃんと祝ってあげられそうだ。エスダーにも知らせないと。」
「はい、とてもよかったです。」
ベンも予想外の成果に喜んだ。
今まで誕生日が分からないからとパーティーを断っていたエスダー。
今回ばかりは誕生日を祝ってあげられるという事実が、とても嬉しかった。
ドフィンは再び、驚きの白衣姿の者と会うために歩き出した。
「前に見た時、エスダーが人形をひとつだけ持っていたね。」
「…ああ、ウサギの人形のことですか?あれはジュディ様がプレゼントされたものです。」
「そうか?」
エスダーが毎日抱いて寝ている人形がうらやましかったドフィンも、エスダーに人形をプレゼントすることにした。
「ウサギの人形よりもっと気に入るようなのをひとつ買ってあげよう。」
ジュディがくれた人形ではなく、自分があげた人形を抱いて寝てほしいという、ささやかな願望だった。
「エスダーは何が一番好きかな?」
ベンも一緒になって真剣に考え、あらゆる動物をひとつひとつ思い浮かべていた。
するとふと思いついたように頭をたたいた。
「お嬢様はヘビのぬいぐるみが一番お好きではないでしょうか?」
「ヘビ?それもありえるな。」
エスダーはすでに2匹のヘビを飼っていた。
ベンの言葉にも一理あると思ったドフィンは、ゆっくりとうなずいた。
「すぐに人をやって、ヘビの人形を種類ごとに買ってこさせろ。」
「ご予算はどれくらいをお考えでしょうか?」
「関係ない。」
「かしこまりました。」
このときまで、2人ともドフィンの一言のせいで、市街地の玩具屋にあるヘビの人形がすべて売り切れることになるとは夢にも思っていなかった。





