こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
135話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 過去の告白②
その間も、ジュディとデニスは、ラビエンヌをどう処罰するのがよいか、途切れることなく議論を続けていた。
「私は超酸性の花を手に入れて、毎晩火矢を呪いを撃ち込む、って手もあるよ」
有名な呪詛の手法を思い浮かべたジュディは、腕を組んで不敵に笑った。
「助けに行くときは、私の分も一緒に助けてね」
普段なら「くだらない冗談はやめろ」と止める側のデニスでさえ、「それはいい考えだな」と珍しく同調する。
「明日、書店に寄って、呪いの書や刑罰の本をいろいろ買ってこよう。もっと……苦しそうな方法を探さないと」
ドフィンは、子どもたちの会話に割って入るほどの余裕はなかったが、耳だけはぴんと立てて、しっかり聞いていた。
「ベン。矢を……三本……いや、余裕を見て十本ほど、矢筒に用意しておけ」
“呪いの矢を放つ”という話に、ドフィンは代表してベンに指示を出す。
そうでもしなければ、この胸の奥で渦巻く怒りを、少しも鎮められそうになかったからだ。
「え、えっと……陛下も、ですか?」
「……だめか?」
低く問い返すその声に、冗談の色は微塵もなかった。
「ええ、わかりました。」
ベンは戸惑いを表に出さないよう努めながら、ひとまず日誌に熱心に書き留めた。
ちらりと時計を見たドフィンは、思った以上に夜が更けていることに気づく。
「そろそろ寝る時間だな。今日は皆で一緒に寝るのはどうだ?」
「お父さんとお兄ちゃんたちも、みんな一緒?」
ドフィンの提案に、エスターはぱっと目を丸くした。
ジュディとデニスは「いいね」と言いながら、すぐに準備を始める。
ソファから勢いよく跳ね起き、靴ひもをきつく結びながら、ジュディは「どこへ行けばいいの?」と首をかしげた。
「誰の部屋で寝るの?」
「四人で寝るなら、やっぱり客間がいいだろうな。」
大きなベッドが二つある部屋なら、ゆったり眠れる。
ちょうど都合のいい客間が空いていたので、今夜はそこに決まった。
そうして、何事もなかったかのように床に就くことになった。
それぞれ手を洗い、客間に集まったエスター、ジュディ、デニスの目は、まだ少し赤いままだった。
「じゃあ、寝る場所を決めようか」
ジュディは腰に手を当て、横一列に並んだ寝台を見渡す。
「エスターは、当然まんなかね」
満場一致で配置が決まり、エスターは小走りで寝台へ向かうと、真ん中にごろんと横になった。
部屋から持ってきたウサギのぬいぐるみとヘビのぬいぐるみを、左右の脇に一つずつ挟んでいる。
「私はエスターの左ね」
ジュディが、するりとエスターの左側へ潜り込んだ。壁際で、一番落ち着く場所だ。
「そこ、私が先に取ってたんだけど?」
「先に寝た人の場所が、その人のものって知らない?」
取るに足らないことで言い合う双子を見て、ドフィンは公平を期すように言った。
「……よし、じゃんけんで決めろ」
「やっぱりね、こうなると思ってた。」
「勝負の世界は冷酷なものだろ。」
結局、じゃんけんで勝ったデニスが得意げに笑いながら、壁際の席へとすっと入り込んだ。
唇を少し突き出したままのジュディがエスターの右側に横になり、
ドフィンは端の位置に体を斜めにして寝転がると、子どもたちの首元まで布団を引き上げてやった。
「エスター。今日はつらい話をしてくれて、ありがとう。」
エスターが経験してきた十四回の回帰を、完全に理解できたわけではない。
それでも、その苦しみの重さだけは、切実に感じ取れた一日だった。
「信じてくれて、ありがとうございます。」
「当たり前だ。」
エスターはふと、今この状況すべてが夢のように感じられた。
これ以上ないほど満たされた現実が、そこにあった。
しかし、胸の奥にかすかな不安が残っていた。
「……眠って、目を覚ましたら……全部、消えてしまってたりしませんよね?」
「そんなわけないさ。眠って起きたら、今日よりもっと幸せな明日が待ってる」
「……本当ですか?」
布団を手繰り寄せたエスターは、不安をにじませた瞳でドフィンを見つめた。
「約束する」
いつまでも、何があっても守ってくれそうなドフィンの声に、エスターはほっと息をつき、かすかに微笑んだ。
ひとりで眠るよりずっと狭く、体が触れ合うほどぎゅっと寄り添って横になっているのに、不思議と心地いい。
――独りじゃない。夢でもない。
辛い記憶を思い出した夜は、いつも悪夢にうなされていたけれど。
今夜はきっと、悪い夢を見ずに、ぐっすり眠れそうだ――エスターは、そんな予感を胸に、静かに目を閉じた。
「おやすみ。愛してる。」
照れくさくて、普段はこんな言葉を口にしないドフィンだが、今夜だけは勇気を振り絞った。
ドフィンはゆっくりと体を動かし、近い順にジュディ、エスター、デニスの額へと、そっと口づけを落とした。
初めて額にキスをされたエスターは、何も言えず、照れたように自分の額をそっと触った。
「さあ、寝よう。」
ドフィンは目を閉じないまま、子どもたちが眠りに落ちるまで、静かに声をかけ続けた。
最初は小さなおしゃべりと落ち着かない声が聞こえていたが、やがてそれも消え、かすかな寝息だけが部屋を満たした。
――よく眠っているな。
ドフィンは、いつの間にか深く眠り込んだ子どもたちをしばらく見つめたあと、音を立てないよう、そっとベッドから降りた。
そして彼は、足音を忍ばせ、気配を完全に殺したまま廊下へと出た。
部屋の扉のすぐ前で、ベンが壁にもたれ、膝を抱えたまま眠っていた。
扉が開く微かな音に、ベンははっと目を開き、慌てて体を起こす。
「中へは、入らなかったんだな」
「……出てくる気がして、待っていました」
誰よりもドフィンを理解しているベンは、彼の胸に渦巻く苛立ちを察し、あえてその場で待ち続けていたのだ。
「……はぁ……」
一度は沈んだはずの怒りが、ドフィンの瞳の奥で再び燃え上がり、その輪郭を露わにする。
エスターの記憶を目にした瞬間から、怒りはすでに頭の芯まで達していた。
隣に立つベンの指先が痺れるほど、張り詰めた気配が周囲を圧している。
二人は無言のまま、場所をバルコニーへ移し、そこで言葉を交わすことにした。
「さっき、何を見たんですか?」
「悪魔を見た。」
「……お嬢様、本当に神殿で何かをされたのですか?」
「そう。」
握りしめた拳で壁を打ちつけたドフィンの目は、さっと冷めていた。
暗い廊下の中で、ドゥヒの周囲だけに火花が散っているように見えた。
「神殿を壊す。」
「戦争はだめです。」
動揺したベンが、できるだけ慎重な口調でドゥヒを止めた。
「戦争はしない。偽物を引きずり出して、正当な罰を与えるだけだ。」
「それなら、すでに噂を流すことにされたのではありませんか?」
ラビエンヌに関する噂を流せば、いずれ起きることで、あとは時間の問題にすぎない。
ベイは慎重に意見を述べた。
「……さてな」
ドフィンは神殿そのものにも思うところはあったが、ラヴィエンの後ろ盾であるブラウンス家そのものを、簡単に許す気にはなれなかった。
「四大公家が成立した経緯は、帝国の歴史と切り離せないものだろう?」
「はい、その通りです」
「その四大公家の一つが滅びれば、帝国は大きく揺らぐことになる」
「へ、陛下……まさか……?」
ドフィンの言葉の端から真意を察したベンは、思わず息をのみ、慌てて制止するように声を上げた。
「……ああ。ブラウンス公爵家を、地に落とす」
「しかし……四大公家は、そう容易く崩せるものではありません」
四大公家はいずれも、長い歴史の中で培われた強大な権力と影響力を有していた。
とりわけ、数多くの聖職者を輩出してきたブラウンス家は、その中でも異彩を放つ存在だった。
だからこそ――その名を汚し、権威を失わせることの意味は、計り知れなかった。
「太古に、家門同士で結ばれた誓約があったはずだ。」
「はい。もちろん……誓約の破棄に関する条項も存在します。いずれかの家門が四大家門全体の名誉を失墜させた場合、他の家門が合意のうえで、その家門を除名する――そのような内容です……」
確かに、誓約破棄に関連する条項は存在していた。
しかし四大家門は帝国の象徴であり、誰も実行しようとしなかったため、事実上形骸化した誓約でもあった。
ベンも、はるか昔にアカデミーで学んだ記憶を、ようやく思い出しながら、たどたどしく誓約を口にした。
「名誉を失墜させる、か。単純だな。」
唇の端を噛むドフィンから、ぞくりとするほど鋭い気迫が感じられた。
「私にできないとでも?」
「……いいえ。殿下がお望みであれば、できないことはありません。」
それが、最大の問題だった。
ドゥインには――皇帝の座を狙わずとも余りあるほどの力が、すでに備わっていた。
「ただ……陛下が公爵家に直接手を下せば、反発を招き、思わぬ逆風に晒されかねません。それが、私の懸念です」
人々は常にドフィンの動向を注視し、警戒している。
その一挙手一投足が、歪んだ形で受け取られる可能性は否定できなかった。
「それでも、やる」
「……承知しました」
ドフィンの決意は、すでに揺るぎない。
ベンもこれ以上の進言は無意味だと悟り、静かに首を縦に振った。
「直ちに、ブラウンス家の弱点と――これまでに犯してきたすべての不正を洗い出せ」
手すりに置かれたドフィンの拳は、なおも怒りに震えている。
エスターが受けた苦しみと同じだけの代償を支払わせなければ――この胸を焼く怒りが鎮まることは、決してないだろう。
「単なる没落では足りない。どん底まで引きずり下ろしてやる。」
丸く浮かぶ月を見上げるその眼差しは、いつになく冷え切っていた。
「ああ、キャサリン嬢とブラウンス公爵の関係を調べるよう、ご命令なさっていましたね。」
もともとドフィンに報告すべきことがあったベンは、声を整えた。
「何かあったのか?」
「はい。キャサリン嬢が経営していた茶店に、ブラウンス公爵が出入りしていたという情報がありました。」
かなり昔の話だったため、情報源を突き止めるまで相当な手間がかかったが、近隣住民への聞き込みの末に得られた証言だった。
「何だと?呆れるな。」
ドフィンは一瞬、本当に馬鹿らしいとでも言うように、ふっと乾いた笑いを漏らした。
「記憶違いということはありません。複数人に確認していますから。」
いったい、ブラウンス公爵とキャサリンの間に、どのような繋がりがあるのか。
そう考えてはいたものの、まさか“密偵”という形で浮かび上がるとは――想像すらしていなかった。
「……嫌な予感がするな。どうやら、ブラウンスとは直接会って話をする必要がありそうだ」
「日のあるうちに、面会の約束を取り付けておきます」
さらに冷静さを取り戻したドフィンは、深く息を吐きながら、静かに廊下を進んだ。
淡い月光に照らされたその端正な横顔には、拭いきれぬ陰りが差していた。







