悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【55話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

55話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • たった一人の相手

「これはもう、数でも、狩った獲物の希少さでも、エノク皇太子殿下の優勝ですね!」

「議論の余地なんてありませんよ。」

先ほどまで意見が割れていた審判たちも、今は一つの結論にまとまっていた。

誰もが、エノク皇太子が仕留めた獲物を見て、祝福の拍手を送った。

「はは、まさか生きているうちに“炎の王熊”を狩る者を見るとは!」

「いったいどうやって仕留められたのですか?序盤にあんな獲物が現れるなんてありえるんですか?」

「確かに、どちらも捕らえるのは難しいですが……それでも、炎熊と比べれば……」

ある貴族がそう言って、横目でヒルク・ビエイラをちらりと見た。

明らかに内心では、ビエイラの獲物を軽んじているのが見て取れた。

エノク皇太子はまるで大したことではないというように、落ち着いた口調で返した。

「狩りをしているうちに、気がつけば森の奥深くまで入り込んでいてね。炎熊に遭遇したのは、まったくの偶然さ」

「歴史書には、ピアスト帝国の初代皇帝も炎熊を狩ったという記録が残っていますよね?」

「ほとんど魔獣に匹敵する獰猛な生き物を、傷一つ負わずに単独で仕留められるとは……本当に見事です!」

「短時間であれだけの獲物を持ち帰られるとは……」

エノク皇太子に向けて、次々と称賛の声が上がった。

名高い狩猟大会には多くの貴族が参加していたが、その話題はただ一つ、エノク皇太子のことだった。

彼が初めて見せた狩りの手並み、そしてユリアに向けたロマンチックな姿。

それらは皆に、極めて良い印象を残したようだった。

「信じられない……これは一体……」

一方、反対側にいたビエイラの顔は、感情を抑えきれず歪んでいた。

彼が望み、夢見ていた結果とは正反対のものが目の前で繰り広げられていた。

圧倒的だった。

まるで皆が、自分を嘲笑っているように感じた。

「さっき、ビエイラ卿がプリムローズ嬢に向かって大声を上げていませんでしたか?なのに結局、優勝は逃したんですか?」

「そうなんですよ。でも、まさか皇太子殿下がご自ら出てくるなんて、誰も思っていませんでしたよ。」

「あの瞬間に現れるなんて……本当にドラマチックでしたね。」

ビエイラ卿は、まさに今、自分が最大級の不運に見舞われた哀れな狩人だと思っていた。

綿密に立てた計画は完璧だったはずなのに——。

すべてが、たった一人の男、エノク・ピアストによって台無しにされたのだ。

そして何よりも……

―プリムローズ嬢を「ユリア」と呼び、親しげに振る舞うな。

優勝が確定したあと、エノク皇太子が自分のそばを通りすがりざまに低く投げかけた一言だった。

皆の前では好人物を装っているが——実際、なんて卑劣で傲慢な人間なんだろう!

狩猟場でも、エノク皇太子が自分を妨害したということを、皆に知らしめるべきなのに!

狩猟大会でサンビョラク鳥(山白鶴)を捕まえて優勝したならまだしも、今そんなことを言ったところで、どうせ嫉妬しているとしか思われないに決まっている!

(……いっそ出場しなければよかった。これから私は……どうすれば……)

その瞬間、ビエイラと同じように、屈辱と敗北感を覚えた者がもう一人いた。

リリカだった。

彼女は、エノク皇太子という名と、ユリア・プリムローズという名が並んで語られるこの状況を信じられなかった。

(皇太子殿下が、なぜあんな家柄の娘に狩猟の獲物を贈るの?)

彼女はこれまで、何度も誘惑しようと近づいてきたが――今まで一度も見たことがなかった、あのエノク皇太子が……。

世界でいちばん特別なものを見るようなまなざしでユリアを見つめているなんて、信じられなかった。

彼が評判を確立する前ですら、あんな顔を見せたことは一度もなかったのに。

『いや、最初からおかしかったのよ。』

ビエイラ卿が自分の横を通り過ぎながら、ユリアにハンカチをよこせと因縁をつけていたときの、あの騒ぎがどれほど滑稽だったか。

そのとき、リリカはユリアが屈するはずがないと信じ、疑いもしなかった。

狩猟大会にビエイラ卿が参加するのを止めなかったのは、むしろ幸運だったとすら思った。

だが……これは一体どういうこと?

結果として、物語の主役はエノク皇太子とユリアになってしまったのだ。

リリカは楽しげな人々の輪の中に少しも混ざることなく、ただ呆然と立ち尽くした。

(この狩猟大会は、お父様が私のために開いてくださったのに!)

それなのに――ユリアを主役にしてしまう舞台となってしまった。

ビエイラ・がユリアに近づいたときでさえ、彼が狩猟大会を開いたことを誇りに思っていたのに、これは……。

――いいえ、それでもこの瞬間を自分のものにする方法があった。

もともと狩猟大会の目的は別にあったのだから。

(そうよ。予定外のことが起きても、結局は私の狙いどおりになるはず……)

リリカは、ビエイラが捕まえてきた鳥を静かに見つめた。

それは、彼女が命じて狩猟場に放たせた鳥だった。

狩猟大会の参加者の一人が、優勝への野心から、毒鳥を山ヒワと偽るのではないかと予想していた。

リリカは、人々の視線がエノク皇太子とユリアに集中していることを確認すると、ひそかにその場を離れる。

人々の輪の中、幸福そうに微笑むユリアとエノク皇太子の姿が見える。

まるで一枚の絵のような、ロマンチックな雰囲気。

まるで、自分たちが物語の主人公であるかのように。

『絶対、こんな終わり方にはさせない。』

こうなってしまった以上、ヤコブにも自分の味方をしてもらうしかない――そう決意する。

「……はあ。」

リリカは唇をかみしめた。

今この瞬間、わざと作り笑いを浮かべる必要などなかった。

本当に泣きたい気分だった。

同じく公爵の娘でありながら、母親が違うという理由で――こんなにも差別される自分。

兄と呼べる人が一人いるけれど、それもただ、血筋のためだけ。

自分はいつも、手段と方法を探して生き延びてこなければならなかった。

父がこの狩猟大会を開いたのも、ただそれだけの理由。

リリカの目に、嫉妬の光が宿った。

握りしめた拳には爪が食い込み、血がにじむほどだった。

(あなただけが幸せになるなんて、許せない……)

リリカは勢いよく身を翻し、側にいたジャコブに言った。

「ホンガ家が用意した生贄は、うまく準備できているわね?」

苦しむ者を癒やしながら光り輝く聖女が登場するには、誰かが痛みに苦しむ“犠牲者”が必要だ。

それが、狩猟大会のように人々の注目を集める場であれば、なお理想的だった。

「ヤーコブ、あなたの仕事ぶりは信頼しているわ。山ヒワにそっくりな毒鳥も、きちんと準備してくれたでしょうね?」

リリカは薄く笑みを浮かべた。

ユリアとエノク皇太子の突然の出会いは予想外の変数となったが、それ以外は全て順調に進んでいる。

『思っていたより、うまくいってるじゃない。』

ヤーコブの手腕を使えば、誰かを苦しむ役に仕立てることなど造作もないことだった。

だが——皆の視線が集まる中で、都合よく、リリカが注目を集められる場所で
偶然、誰かが倒れる――そんな出来事が本当に起こるだろうか?

結局のところ、リリカは事件を自ら仕組むしかなかった。

そして、ここで最も重要なのは「犯人の存在理由」だった。

突然人が倒れても、疑われないためには、それなりに納得できる犯人が必要だった。

リリカの後ろ盾であるプリムローズ公爵家が大会の準備の不手際で非難されるのも避けたかった。

「山ツグミを放って捕まえさせるところまでは仕向けられるけれど……捕まえる相手まで指定するのは難しかったの。でも、まさか他の誰でもなくビエイラが捕まえるなんて、これは好都合ね。」

リリカ自身でさえ、そして共犯であるホンガ家の一族でさえ、この先起こる“もうひとつの変数”を予想することはできなかった。

マルセル・ビエイラ。

まさか彼が、あの狩猟大会でここまで波紋を広げるとは思わなかった。

『皆、ビエイラ卿を「悪役令嬢の妹に告白した男」だと思ってる。

今日みたいに騒ぎが起これば、必ず私の名前まで引き合いに出されるわ。』

見せしめ程度のつもりで起こした行動までは良かった。

だが、その結果は——。

『やるならもっときっちりやっておくべきだったのよ。どうしてエノク皇太子が出てくる展開になっちゃうの?』

実のところ、リリカ自身もその瞬間はユリアが狼狽する姿を楽しんでいた。

だが結局、結果が悪ければ全てが台無しになる。

エノク皇太子とユリアが急に親しくなるなんて……。

もしビエイラ卿がいなければ、こんなことにはならなかったのでは?

リリカは唇をぎゅっと噛みしめた。

(それでも今回のことで、家門の恥はすすげるはず。)

リリカにとっては、よくわからない貴族の令息よりも、自分に恨みを抱いていたビエイラを
消し去る方が都合がよかった。

そうすれば、彼女が“妙な令息”に巻き込まれて不幸に見舞われた――そう装うこともできる。

(今日、あのしつこい男が自ら網にかかってくれるなんて、助かったわ。)

さらに、プリムローズ公爵家が突如非難を浴びるような事態も避けたいと願う人物がもう一人いた。

(お父様と、ジキセン兄さまね。)

自分が動かなくてもいい。

二人がきっと、彼女の意図どおりに動いてくれるだろう。

リリカの瞳が、不気味な光を宿して輝いた。

 



 

狩猟大会の勝者が決まったあとの予定は――バーベキューパーティーだった。

パーティーといっても、狩りの獲物を料理して皆で楽しむ打ち上げのようなものだ。

とはいえ、その準備が整うまでには少し時間があった。

『伝えなきゃいけないことがある。』

ふと視線を向けると、エノク皇太子と目が合った。

いや、偶然なんかじゃない。

彼もこちらを見ていたのだ――私が彼に気づく前から。

神秘的な緑の瞳がわずかに揺れる。

狩猟大会で優勝したというのに、彼はどこか緊張しているように見えた。

『一体、何を……?』

私とエノク皇太子は、静かに二人きりになれる場所へと移動した。

「申し訳ありません。」

そしてエノク皇太子が口にしたのは――謝罪の言葉だった。

あまりに予想外の状況に、私は思わず目を見開いた。

「えっ?陛下が私に、何か悪いことをなさったのですか?」

「その…… リリカ嬢が、私と一緒にいるのが不快だと仰っていて。私が少し目立つような真似をしてしまったようで……。」

「いえ、そんな!本当に大丈夫です!」

それは謝るようなことではまったくなかった。

私は慌てて言葉を続けた。

「むしろ…… あの場で陛下が私の手を取ってくださらなかったら、そしてあの獲物を私に譲ってくださらなかったら――私はきっと、とても気まずい思いをしていたはずです。」

こんな話をするなんて、恥ずかしい。

決して簡単なことじゃない。

でも、黙って聞いているだけという選択肢もなかった。

これまでエノク皇太子が私に向けてくれた真摯な気持ちを思えば――

『私を見て。この状況で絶対に怯えてはいけないこの人が、どうしてそんな顔をしているの……?』

彼の澄んだ緑の瞳が、不安や動揺で揺れないようにと願った。

「それに……皇太子殿下がいてくださるから、大丈夫です。」

「……どういう意味ですか?」

「みんなの視線です。」

前世で私は、リリカの策略によって数えきれないほどの濡れ衣と誤解を受けた。

けれど、今は過去に戻ってきた――もう、あの時と同じことにはならない。

けれど私も、知らず知らずのうちにかつて「悪女」と呼ばれていた頃の自分を思い出していた。

父と兄の手で毒杯を渡されたあの時のように。

(私自身も気づかなかったけど……まだ臆病だったのね。)

けれど今回の狩猟大会では――ビエイラが私を侮辱しても、私は以前のように取り乱すことはなかった。

それは、代わりに前へ出てくれたこの人――目の前の男性のおかげだった。

「ですから……」

私は何度か唇を動かし、胸の奥にある決意を押し出した。

「もう、公の場でお会いしてもかまいません。」

以前なら、そんなことを言えば軽率な人間に見えるのではないかと心配しただろう。

けれど今はむしろ、エノク皇太子から受ける視線が――誇らしく感じられた。

……それを言わないほうが、かえって不誠実なんじゃないだろうか。

もう卑怯に逃げるようなことはしたくなかった。

「もしかして、私を裏切って……」

「本当です。今は、考えが変わったんです。」

「あ……」

「だから、私の言葉を信じていただけたら嬉しいです。」

前世では悪女に仕立て上げられ、家族にすら信じてもらえず、死に追いやられた――そんな過去は語ることもできなかった。

『殿下の目には、起こってもいない出来事を言い訳のように並べているように見えるんじゃないだろうか……。』

細かくは話さなかったけれど、エノク皇太子は黙って私の言葉をきちんと聞いてくれた。

ただの気休めで聞いているわけじゃなかった。

彼が私を見るそのまなざしに、気づかずにはいられなかった。

「信じられない、というわけではありません。ただ…… リリカ嬢があなたのことでつらい思いをしていないか、気になっていたのです。」

エノク皇太子は、言葉をややゆっくりと続けた。

「私も…… 彼女と私の関係を人々がどう言おうと、気にしていません。」

「……」

「他の誰かであれば、多少は気を遣ったかもしれませんが――プリムローズ嬢なら大丈夫です。」

その瞬間、強い風が吹き抜け、森の枝がざわめいた。

木々の影を裂くように差し込む陽光に、私は一瞬、目を細めた。

「……」

けれど言葉を失ったのは、単にまぶしさのせいではなかった。

――私は、噂で聞いたことがあったのだ。

これまで、どんな令嬢と些細な問題があっても、まるで刀で断ち切るように冷たく対応してきたというのに――

それなのに、エノク皇太子は一度たりとも私にそんな態度を見せたことがなかった。

エノク皇太子は、私だけを特別に扱ってくれている。

足の先から小さな熱が込み上げ、胸の奥まで満たしていく。

「以前、令嬢がそうなさらなかったでしょう。評判の良くない自分と関われば、私にも迷惑がかかると……負担になるかと思って言えませんでしたが、正直、私はそうは思っていません。昔も今も、その気持ちは変わりません。」

「殿下……」

「令嬢は、自分で思っている以上に素晴らしい方です。」

エノク皇太子の真っ直ぐな視線が、私を射抜いた。

「他の人は気づかなくても…… 私だけは、リリカ嬢の良いところをよく知っています。」

狩猟大会のような催しなど、自分には無縁のものだと思っていた。

退屈で、騒がしくて、わずらわしいだけ――と。

だが、そんな先入観も今の私には何の意味もなかった。

ただ、この瞬間の空気がやけに甘く感じられて、その思いだけが胸の奥いっぱいに広がっていった。

(まさか、私が狩猟大会を好きになる日が来るなんて……。)

プリムローズ家が主催している行事であっても、自分には関係ないと思っていた狩猟大会。

けれど、エノク皇太子は――今日、私をその物語の主人公にしてくれた。

(やはり……)

もう、認めるしかない。

この胸の内にある気持ちを。

この人に、心から感謝した。

『いや、感謝だけじゃない……』

人が誰かを認める瞬間は、それぞれ違うだろう。

けれど、私にとってこの人は、ただの「感謝すべき人」「尊敬できる人」「学ぶところが多い人」――そんな言葉では言い表せない存在だった。

『感謝する人なんて、一人や二人じゃない。尊敬できる人も、学ぶべきところが多い人も、これから先いくらでも現れるはず。でも――』

エノク皇太子のような人は、これまでも、そしてこれからも、世界にただ一人しかいないだろう。

『この世でたった一人の人……』

好きにならずにいられるはずがなかった。

不器用で、競争心があるのかも自分では分からない私を、それでも挫けさせず、見失わせずにいてくれる――そんな人を。

強い予感がした。

きっと私は、この日を一生忘れられないだろう。

 



 

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