こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

72話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最後の晩餐②
約束は約束だから。
私がこうしなければ、ラーちゃんが生きられないから。
ラーちゃんは、私にとって大切な友達だ。
そう思い続けながら、私は祭壇に横たわった。
『怖い。』
私に与えられたこの命が大切であるほど、失ってしまうかもしれない「5年」という時間がとても怖かった。
その時、大賢者様の声が聞こえてきた。
「では、始めましょう。」
大賢者様の手がほんのりと白く染まった。
言葉では言い表せないような温かな気配が私を包んだ。
少し眠くなってきた。
そのとき――ブンブン!という音が聞こえてきた。
[反対.]
[絶対反対!]
「キャーッ!キャアアッ!」
鋭い羽音も聞こえた。
私は目をぱちっと開けて自分のお腹を見下ろした。
お腹の上にラーちゃんがとまっていた。
『ラーちゃん?』
声を出そうとしたが、音にならなかった。
ラーちゃんの体から、きらびやかなマナがあふれ出していた。
――【イサベルを守れ。】
――【絶対に守れ!】
ラーちゃんは私のお腹の上に座り、こちらへ近づいてくる大神官に向かって牙をむいていた。
『声も出ないし、体も動かない。ラーちゃんを止めなきゃいけないのに。』
ここでラーちゃんがまた暴れたら、本当に大変なことになる。
5年で済まないかもしれない。
ロベナ大公の目尻がわずかに震えるのが見えた。
「お母さんもわからな……」
お母さん?
たしかにさっき「お母さん」と言った気がするのに、もうそれ以上は声が聞こえなかった。
なんというか、世界から切り離されたような感覚だった。
見えてはいるのに見えていないようで、聞こえてはいるのに聞こえていないようだった。
隔絶された世界にふっと沈んでしまったような気がした。
そんな中、不思議な声が響いてきた。
「お前が皇女の命の代わりになると?」
人の声なのに、人の声ではないような奇妙で神秘的な響き。
まるで夢の中で聞く声のようだった。
『だめ!』
私は思わず手を伸ばした。
「そうか。ならばお前の5年を――いや、10年を――代わりに持っていく。」
――違う、それじゃない。
――だめだ。
その時、不思議なことに少年の声が聞こえてきた。
「10年。認める。10年与える。代わりに、イサベルを、絶対に守れ。」
口調はラーちゃんそのものだったが、声は確かに人間のものだった。
あの少年が、はっきりとそう答えたのだ。
『私……今、夢を見ているみたい……』
そう思った瞬間、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
北部大公ロベナ。
本当は「知恵の竜」ラビナである彼女は、くすくすと笑っていた。
「私はそうだとしても、お母さんさえも気づかないなんて!」
今は大神官の姿をしているが、本来は黒炎竜カデルリナは深いため息をつきながら眉をひそめた。
「そうだな。」
子を育てたところで、結局は何も残らないものだ。
はあ……
大地が裂けるようなため息をついた。
「それも人間たちの言葉だとわかるか?竜が子どもに何を期待する?だから幼いころから自我が揺らがないようにしっかり押さえつけておかなきゃいけないんだ。お前は竜なのか、人間なのか?」
「もういい、戦いさえ強ければそれでいい。」
「……そうだな、まあそういうことにしておけ。」
ラビナとカデルリナは、イサベルのお腹の上で眠るアーロン(ラーちゃん)を見つめた。
「本当に命を懸けるとはね。」
「その姿、まるでどこかで見た誰かみたいじゃない?」
「誰のことだ?」
「思春期がとてもひどく、力も桁違いに強かった竜だよ。ある人間があまりにも愛おしくて夢中になってしまった、とんでもない狂竜。」
カデルリノンは鼻歌を歌いながら、呆れたように舌打ちした。
しばらくの沈黙の後、ラビナが言った。
「もうすぐ両方とも目を覚ますわ。ともかく確認はできた。イサベルは本当に悪くない子だって。」
「ふん、良い子かどうかはこれから見極めないとな。」
「まったく、人間みたいに言うじゃない。」
知恵の竜ラビナは、人間の世界の言葉を口にした。
「もう姑みたいに小言を言うつもり?落ち着いて。あの子はただのラーちゃんの声にすぎないわ。」
「だ、誰がそんなこと言ったの?」
「しかも厄介な姑コンセプトなんて、人間界でも500年前の発想よ。もう時代遅れで遺物になったコンセプトってわけ。」
まあ、あなたが活発に活動して子を育てていたのが500年前だから、その時代の考え方に縛られているのも不思議じゃないけど。
「とにかくお姉ちゃんならどうするの?」
「私なら、イサベルとラーちゃんが幸せに暮らせるように全部差し出したわ。公式には10年を差し出した。ラーちゃんの声はこれから最低でも5年は生きられるかどうか、ってところね。」
「5年か……」
「イサベルと一緒にたくさんの経験を積めば、アーロンだって十分に立派な竜に育つはずよ。アーロンのアイデンティティが揺らがないよう、しっかり支えてあげて。」
そうは言ったけれど、ラビナはすでに気づいていた。
『お前はアーロンの記憶を受け継いでいるのだろう?』
ラビナが知るカデルリノンは、とても特別な竜だった。
『これからが楽しみだ。』
イサベルとアーロンがこれからどんな未来を描いていくのか、興味深く見守ることにした。
しばらくして、イサベルが目を覚まし、ロベナが尋ねた。
「ラーちゃんが言っていたわ。お前の5年の代わりに、自分の10年を差し出すと約束していた。どう思う?」
「だめです。」
まだ体は動かせなかったが、涙がぽろぽろとあふれた。
「ラーちゃんは、私と約束したんです。」
「え?」
「ラーちゃんが私よりも後に死ぬと約束したんです。」
イサベルはしばらく泣き続けた。
カデルリナとラビナは、竜の眼差しでイサベルの本心を読み取った。
二人とも同じ結論に至った。
『イサベルはアーロンのためなら自分の命を迷わず差し出す子だ』という結論だった。
ロベナが口を開いた。
「もうラーちゃんの10年を奪ってしまった。すでに終わったことだからどうにもならないんだよ、坊や。」
イサベルは30分ほど泣き続けた。
ロベナは、世界のすべてを失ったかのように泣きじゃくるイサベルをしばらく見つめてから、ついに口を開いた。
「今さら私がこんなことを言うのもなんだけど――」
イサベルには、もうロベナ大公の声は届かなかった。
今は何の音も聞こえなかった。
声も出せず、ただ泣いているだけだった。
まだ体はまともに動かせなかったが、手だけをかすかに動かして、ラーちゃんのお尻の横に触れた。
指先を通して、ラーちゃんの温もりが伝わってきた。
それが、今のイサベルにできる精一杯のことだった。
『守れなくてごめんね。』
ラーちゃんの10年が失われてしまったのだと思うと、イサベルは泣き続けた。
ロベナはその姿を、竜の目でじっと見守っていた。
イサベルの感じる悲しみと苦しみが、ロベナにもひしひしと伝わってきた。
その深さは、人間が耐えられるにはあまりにも深かった。
『どうして小さな子供がこれほど深い絶望を感じられるのだ?』
堅固な精神を持つ知恵の竜ラビナの心でさえ、震えを覚えるほどだった。
『たかが7歳の精神世界で、この程度の暗さを感じるのは容易ではないはずだ。』
本当に数多の逆境と苦難を乗り越え、長い時を生き抜いてきた者でなければ、ここまで深い感情を抱くことはできないだろう。
『自分の命ですらなく、ラーちゃんの10年のために、これほどの悲しみを抱くというのか?』
知恵の竜ラビナは、この状況を理性的に理解しようと努めた。
竜は本来、寿命に執着しない。
むしろ、退屈と無聊に耐えかね、自ら命を絶つ竜もいるほどだ。
『この子にとって「10年」というのは一体どんな意味なのだろうか?』
「病も治してあげるし、薬もあげるわ。」
――でもね、イサベル。あの子は竜なのよ。
10年差し出したところで、人間の基準では1秒にもならない。
それに、あなたは賢い子でしょう?
あの子にはナルビダルの刻印もないのに、私たちがどうやって寿命を削って持ってくるの?
そんなの理屈に合わないじゃない。
『その程度の判断もできないくらい、理性が大きく揺らいでしまったのね?』
竜ラビナにとって、それは正確には理解しがたい感情だった。
けれども、その感情が確かに存在することだけは分かっていた。
「私もあなたの友達になるわ。だから、もう泣かないで。これからはお姉さんって呼びなさい。」
北部大公の役目を退いていたラビナは、再び北部大公として復帰することを決意した。
イサベルとアーロンを、もっと近くで見守るために。
しかし、イサベルの涙は止まらなかった。
「ねえ、“お姉さん”って呼んでくれる?これはものすごく光栄で、尊いことなんだよ……」
イサベルは大きく泣き声を上げた。
「ふええええん!」
「……ああ。本当に、嘘だろ。命なんて持ってきてないんだ!」
「ふええええええん!」
「少しは考えてみろ。あの子にナルビダルの刻印があるのか?」
その途端、イサベルは動けるようになった。
ラビナがイサベルを縛っていた魔力を解いてくれたからだ。
「ふええええええん!」
「ナルビダルの刻印もないのに、どうやって10年を奪ってきたって言うんだ!」
「やめて、もう泣かないで。大変なことになりそうだわ。」
抑えきれないほどの感情の嵐に呑み込まれ、イサベルは理性で自分の体を制御するのが難しかった。
「大嫌い!」
「……え?」
「お姉さん、信じてるから!」
そうして叫んでからようやく、イサベルの意識は戻ってきた。
『やっちゃった。』
とても、とても、ものすごくやってしまった。
あの恐ろしい北部大公ロベナに向かって、「信じてる」と言ってしまうなんて。
しゃくりあげながら。
いや、いったいいつまでしゃくり上げているんだ、この身体は!
ようやく正気を取り戻したものの、呼吸は浅く、少し目眩がした。
ロベナ大公の目を窺ったが、表情を読み取るのは難しかった。
「……なんて言った?」
「それは……」
「さっき“信じる”って言ったような気がするが。」
「わ、私がですか?」
よく分からない。とにかく、まずは掴んで離さないことだ。
泣き顔に笑顔は勝てないと言う。できる限り華やかに笑ってみよう!
「涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でいくら笑っても、ひとつも可愛くないぞ。」
ロベナ大公が指を鳴らすと、不思議なことが起こった。
虚空に水の泡が立ちのぼると、その中から半透明の幻影の少年が姿を現した。
『精霊?うわ、なにこれ? なんでこんなにイケメンなの?』
この世界では精霊までがイケメンだった。
思わず目を見開いてしまった。
『年が近く見えるから余計なのか、このイケメンぶりがドラマチックに心に響くな……。』
その美しさに圧倒されて、私は自然と現実感を覚えてしまった。
『だから泣いている子に飴をあげたら笑うのか。』
一つのことに夢中になると他を完全に忘れてしまう、まるで子供のような感覚に襲われ、少しだけ正気に戻った気がした。
けれど、その現実感も長くは続かなかった。
精霊がふっと微笑むと、イサベルの顔をロベナ大公が指先で軽くつついてくれたからだ。
「くすぐったい!」
くすっと笑ってしまった。
本当に子どもそのものだった。
自分の手で頬をぺたぺた触ってみると、肌がとてもすべすべしていた。
ロベナ大公の声が聞こえてきた。
「ようやく少しすっきりしたな。」
精神も落ち着き、洗顔も済ませた。これでようやく正気を完全に取り戻せた。
――状況を把握しなければ。
ロベナがくれたのは状況だけだろう?
寿命を奪ったわけではないだろう?
この状況は感謝すべき状況ではないか?
なのに信じると言ったのに、結局泣き喚いたのか?
「イザベルは、だだをこねてしまいました。ごめんなさい。イザベルが悪かったです。」
ロベナ大公はしばらく私を見つめていたが、くくっと笑いを漏らした。
「私はね、自分の名前を自分で呼ぶのは嫌いな人間なんだよ。」
「えっ、私、そんなことしました?」
記憶にない。
別にそう言うつもりはなくて、ただ「私」と言おうとしただけなのに、口が勝手にそう動いてしまった気がする。
「あなたにお姉さんになってあげるって言ったのは、嘘じゃないから。」
すると、大臣官の老人が「お姉さん!」と叫んだ。
その様子が少し奇妙で、私はついおじいさんの方を見てしまった。
理由は分からないけれど、おじいさんはほんのり怒ったように見えた……?
いや、違う。
少し不満そうな気もするけど……え?なんだろう?
私がロベナ大公を「お姉さん」と呼ぶのが、少し気に入らないように感じるのは気のせいだろうか?
「……とおっしゃいました?むしろ叔母が正しいのでは?」
え、私の気のせいだったのか。
「年齢差がものすごく大きいですから。」
「……え?」
ああ、そうだ。年齢差は確かに大きい。
でも、それは別に関係なかった。
「全然おかしくないですよ。」
「お姉さん」という呼び方がとても自然に似合っていた。
やっぱり魔力が強いからか、本当に全然老けて見えない。
ロベナ大公が何歳なのか正確には分からないけれど、見た目は二十代前半から中盤くらいにしか見えなかった。
『それくらいなら、もう“お姉さん”だ!』
思わず、にっこり笑みがこぼれた。
ラーちゃんも無事だし、私も大丈夫。
何事も起きなかったうえに、あの北部大公が自分を「お姉さん」と呼んでくれるなんて、これ以上の幸せはなかった。
「後で必ずお返ししますね。ありがとうございます。お姉さんができて、とても嬉しいです。」
深々とお辞儀をした。
「二つ差し上げますね。」








