こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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213話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 決死③
そのように多くの人々が呆然と胸を痛めている時、ケイル川の急流の中で—
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!ゴホッ!」
一人の痩せた少女がずぶ濡れのまま、苦しそうに咳き込んでいた。
それはマリだった!
すべての祈りが通じたのか、奇跡的に彼女は生き延びたのだ。
「ゴホッ、ゴホッ!」
マリは気を失いそうになりながらも必死で咳を続けていた。
肺にどれだけ水が入ったのか分からないほど息が詰まり、咳が止まらなかった。
それでも涙を流しながら苦しむ中、彼女は感謝していた。
(生きてる!私、本当に生きてる!)
確かに急流に流されても生き延びる可能性があると踏んで計画が実行されたのだ。
建国王シェルマンの逸話から分かるように、ケイル川の流れは、聖地を少し過ぎれば穏やかになるので生存する可能性があったのだ。
しかし、それでも無事でいられるかは運に左右された。
それは一つの計画だった。
生存の可能性よりも死亡の可能性がはるかに高い計画。
しかし、彼女はこうして生き延びたのだ。
「ここはどこ?」
マリは咳き込みながら周囲を見回した。
本来なら離岸地点であろう場所には、バルハン卿が救助隊を派遣しているはずだったが、その姿は見当たらなかった。
どうやらかなり下流まで流されてしまったようだ。
「こんなところで時間を浪費していられない。早くキエル様と合流しなければ。私の『死』によって西帝国の視線を引きつけている間に、最後の作戦を成功させなければ。」
水に濡れた体温が奪われたせいか、彼女の顔色は青白く、体全体が震えていた。
手先もかじかみ動かしづらくなっていたが、のんびりしている余裕はなかった。
マリは気力を振り絞り、その場から立ち上がった。
「できるだけ早く合流地点に行かなくては。遅れてはだめ。」
彼女は一歩一歩苦しそうに足を運んだが、それは容易なことではなかった。
何度も足に力が入らず、数歩進んでは倒れ込むのを繰り返していた。
『だめだ。もっと力を出して、マリ。こんなところで時間を無駄にしている場合じゃない!』
膝をついたまま、力を振り絞って耐えているマリの耳に、思いがけない声が飛び込んできた。
「マリ様?」
驚きと恐れ、心配と安堵が入り混じったその声。
マリはその声を聞いて目を見開いた。
顔を上げると、そこにはキエルハーンが立っていた。
「キエル様?」
「マリ様!」
キエルハーンは駆け寄り、彼女を力強く抱きしめる。
そして水気を含んだ声で言葉を続けた。
「マリ様。あなたが無事かどうか、どれだけ心配したことか!」
その声の温かさを感じながら、マリはそっと目を閉じた。
その力強い腕が彼女を包み込み、守るようにしっかりと抱き締めていた。
普段の柔らかさを保ちつつも、今はその優しさ以上に強さと決意がみなぎっていた。
「もう二度と……絶対にあなたがこんな危険な目に遭うのを見過ごしたりしません。」
マリはキエルハーンの顔を見上げた。
その顔には普段の冷静さとは異なる苦悩の表情が浮かんでいた。
「キエル様……」
マリはそっと頷いた。
彼がどれだけ心を痛めていたのかが伝わってきた。
その時、キエルハーンが水で濡れたマリの顔を優しく撫でた。
彼女が本物かどうか、確かめるかのように慎重で切実な手つきだった。
「約束してください、マリ様。」
キエルハーンは唇を固く結びながら言った。
「もう二度と、こんな危険なことはしないと約束してください。もし約束していただけないなら、私は絶対に見過ごしません。」
その言葉に、マリは静かに頷きながら答えた。
「はい、約束します。」
・
・
・
ストーン伯爵の遺体が発見されたという知らせはなく、そのまま川の下流へと流されたものと思われる、という報告だった。
「そうですか。ストーン伯爵の遺体は確認されたのですか?」
「ストーン伯爵の遺体はまだ見つかっていません。恐らく、川の底に沈んでしまったのでしょう。」
キエルハンはさらに厳しい事実を話しているような印象を与える表情を浮かべた。
『まさか、まだ生きている可能性があるのでは……?』
マリの胸に一瞬、不安がよぎった。
だが、すぐにその感情を振り払い、しっかりと口を結んだ。
首に深い傷を負った状態で急流に流されて生き延びることなどあり得ない。
『いずれ時間が経てば、遺体は見つかるだろう。』
彼女がストーン伯爵に近づいて実行しようとしていたことには二つの目的があった。
一つ目は西帝国軍の要となる彼を排除すること。
二つ目は自らの死を装うことで全ての視線を欺き、攪乱させることだった。
ストーン伯爵が彼女に執着していることを利用して、必ず誘き寄せられるだろうと計算していたのだ。
『無謀とも言える作戦だったけれど、全てがうまくいった。』
「これで最後の作戦さえ成功すれば、西帝国に勝利できる。」
マリはそう内心で考えた。
そのとき、彼女の考えを見抜いたようにキエルハンが冷静に言葉を発した。
「しかし、次回からはこのような作戦を絶対にやってはいけません。」
「はい。」
「約束できますか?」
マリはぎこちない笑みを浮かべた。
自分が本当に死んでしまったかもしれないという現実がキエルハンの心にどれだけ影響を与えたのか、彼女には想像もつかなかった。
キエルハンは何度も念を押すように彼女に問いかけた。
「はい、必ず守ります。」
そうして彼と共に目的地へ向かいながら、彼女の心には切ない思いが漂っていた。
『陛下も私の事故の知らせを聞かれたはず。きっと……悲しんでおられることでしょうか。』
マリはその顔を思い浮かべた。
彼は自分にどのような感情を抱いているのだろうか?
この瞬間、自分は彼を傷つけ、悲しませたことを深く悔やんでいた。
だが、たった一つ、彼を忘れることができない。
それほどの存在だった彼は今、どんな気持ちでいるのだろうか。
『……陛下、本当に申し訳ありません。』
マリは少し曇った表情で深いため息をついた。
そのとき、キエルハンが彼女に問いかけた。
「バルハン伯爵に陛下の訃報を伝える必要があると思いますか?」
「はい、敵を欺くためには、私がこのまま死んだことにされるのが最善だと思います。」
キエルハンは軽く頷き、彼女の考えを受け入れた。
「分かりました。そのように従います。」
「合流地点はどこですか?」
合流地点。
それは、西帝国との戦争を終わらせるために彼女の最終計画が開始される場所だった。
「もう少し進めば到着します。皆が準備を整えて待っています。」
キエルハンはそう言いながら西側の方向を指さした。
そこは西帝国と接する国境の監視所だった。
二人は険しい道を進み、やがて人里離れた静かな場所へたどり着いた。
そこには驚くべき光景が広がっていた。
「女王陛下と伯爵を敬礼します!」
威厳のある声が響き渡る。5,000名にも及ぶキエルハンの精鋭部隊が隠れて待機していたのだ。
その5,000名は全員が訓練を積んだ精鋭であった。
「準備は整いましたか?」
「すべて完了しています。」
シルト騎士団の団長であるヘインが毅然と答えた。
キエルハンは彼に感謝の意を示し、マリと共に5,000名の兵士の前に進み出た。
「皆、待たせてすまなかった。これから我々は西帝国との戦争を終わらせるための最後の作戦を実行する。」
キエルハンは兵士たちを見渡しながら、マリが考案した作戦の概要を話し始めた。
「現在、西帝国軍は大混乱に陥っている。総司令官のストーン伯爵が死亡し、さらにモリナ女王陛下の死の知らせが王国軍の強い抵抗に直面しているためだ。」
兵士たちは静かに耳を傾け、キエルハンの言葉を飲み込んでいった。
「我々はこの混乱の隙を突く。」
「西帝国軍の背後を突くということですか?」
ある騎士が問いかけると、キエルハンは静かに首を横に振りながら答えた。
「いいえ。我々は西帝国軍を攻撃しません。」
「では?」
西帝国軍の背後を突かないという言葉に、兵士たちは困惑した表情を浮かべた。
今、西帝国軍は混乱状態にあり、その隙をつけば大きな利を得られるはずでは?
「我々は西帝国軍を相手にせず、国境を越えて西帝国の首都に直接進軍するのです。」
「……!」
キエルハンの言葉に、周囲の将官たちは驚愕した。
西帝国の首都に直接進軍するというのか?
「そ、それは……?」
シルト騎士団の団長であるヘインが震える声で問いかける。
その隣に立っていたマリが一歩前に出て、代わりに答えた。
「はい、その通りです。西帝国軍の目が私の死に向いている今こそ、彼らが私の死に気を取られている間に、我々は別動隊を使って西帝国の首都を制圧し、ヨハネフ3世を捕らえます。」
「……!」
将官たちは全員言葉を失った。
首都を直接制圧するなど、非常に大胆な作戦だった。
しかし、それは十分に実現可能な計画でもあった。
20万の大軍が移動している現在、西帝国内には他の軍勢がほとんど残されていないからだ。
西帝国軍の主力が彼女の死に集中している今を逃さず行動すれば、西帝国の首都を占領し、ヨハネフ3世を捕らえることができる。
そうなれば、この戦争は我々の勝利で終わる。
その時、マリが兵士たちに向かって声を上げた。
「ここにいるすべての皆さんに、まず感謝を申し上げます。この作戦が成功すれば、我々は西帝国という大きな敵に勝利を収めることができます。誰よりも私が先陣を切りますので、皆さん、どうか力を貸してください。我々は必ず勝つことができます!」
彼女の短い演説の後、兵士たちは大きな歓声を上げた。
高々5,000の少人数の兵力ではあるが、西帝国に勝利できるという事実が彼らの士気を奮い立たせた。
マリは事前に準備されていた境界線に向かい、馬上に登った。
そしてキエルハンを振り返り言った。
「進軍します。目標は西帝国の首都、ヨハネフ3世を捕らえます。」
こうして国境を越え、別動隊が進軍を開始した。
5,000人の全員が馬に乗った騎兵隊であったため、進軍速度は非常に速かった。
戦争の流れを変えるための鍵となる進軍だった。
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