こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

104話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 皇帝の願い④
カイルが剣を振ると、数十メートル先の的の木彫りの人形が数体、地面に転がった。
演武場の柱にもたれかかっていたセインは、カイルの様子をうかがいながら口を開いた。
「本当にこのまま送り出しても大丈夫なんですか?」
その言葉に、カイルのまぶたがわずかに動いた。
「後悔はなさらないのですかという意味です。」
カイルは答えず、黙々と剣を振り続けた。
前方で小さな爆発音が起こる。
それはかつて誕生日の宴で登場した、初代皇帝の銅像が爆破されたときの音だった。
そしてそのとき、勇敢に自分を守ったアリエルのまなざしが、今もなお鮮やかに思い出された。
彼女が少しずつ背を向け始め、目に涙を浮かべたその瞬間――
『殺してしまおうか。』
目につく場所に縛っておけば、一日中吠え立ててうるさいことだろう。
でも彼女はいつも堂々と歩いていた。
悪意に飲み込まれることなく、自分を守る術を知っていた。
長い時間をかけてそれを身につけてきたかのように。
彼が知っていた、無防備でおろおろしていたアリエルと同じ人物なのだろうか。
カイルは文字どおり「アリエルという人間が変わった」と感じた。
重要なのは、彼女を見ると心臓が高鳴るということ。
そして体が熱くなる。
狩猟大会で自分を抱きしめてくれたあの柔らかな手と、揺れる瞳がよみがえるとき――まるで恋に落ちた若者のように……。
『くそ。』
「陛下、今からでも思いとどまり、正直な気持ちを告白なさるのが……」
「そのつもりはない。」
カイルは荒々しい動作で剣鞘に剣を収めて言った。
そしてセインを振り返った。
赤く充血した目に宿る深い陰に、セインは言おうとしていた口を開いたまま、はっきりとカイルの意思を悟った。
「私は誰よりも強い皇帝になる。」
執務室には重苦しい雰囲気が立ち込めた。
「その前に帝国の基盤を再び立て直し、すぐにでも取りかからなければならないことが多い。」
皇后派はすべて粛清されたが、彼らによって生じた税金問題や乱れた制度は依然として残っていた。
軍もまた同様だ。
「ですが聖女様は皇太子妃として民心を集めてくださればよいのではありませんか。」
「まったくだ。後ろで見ていると、能力はとても高い。怠けているふり、無関心なふりをしながら、他人を助ける時にはそれが真心なのだから。」
だからこそ、目を引く女性だった。
「……だから今はだめなんだ。」
皇帝は身体がかなり弱っていて、回復したとはいえ、いつ正常に政務に戻れるか分からない。
おそらく亡くなった皇妃が毒を盛ったことで、老化が早まり、能力が一気に落ちたからだ。
「聖女様のことを本当に大切に思っておられるようですね。我が陛下はこんな方ではなかったのに。」
セインはカイルを幼いころから見てきたため、彼のことをよく知っていた。
カイルは、自分がやりたいことは何でもやり遂げる人物だった。
自分が欲しいものは何であれ手に入れてしまう。
些細なことに欲を出すことはなかったが、一度欲しいと思ったものは必ず手に入れなければ気が済まない、まるで強引な男と言えるだろう。
だから彼が女性を好きになったなら、女性についても同じように考えるだろうと思った。
『反応があろうがなかろうが、手に入れてしまうだろう。』
誰が帝国の皇太子を拒めるだろうか。
ただ、それだけのことだ。
だが今のカイルは確実に慎ましかった。
主人の関心が欲しくてうろうろするが、それ以上にはっきりと近づくことはできない子犬のようだった。
セインは変わった皇太子を見て、小さくため息をついた。
「これほど誠実で能力ある男性を、なぜ聖女様は拒まれたのでしょう?」
その言葉にカイルの眉がピクリと動いた。
「振られたんじゃない。俺がアリエルのために国婚の強行を一時的に取りやめてやったんだ。さっき遠回しに理由を言わなかったか?」
セインは哀れむような表情でカップを軽く傾けた。
「まあ……さっき会議で見たことは見なかったことにしてあげますよ。そうですね。我らの陛下が絶対に振られたわけではありませんとも。ええ、陛下のご判断でございます。」
「セイン。」
カイルの目に赤い殺気が宿った。
「ひっ。」
「どうせ誰かを呼んで代理を立てようとしてたけど、ちょうどよかったよ。」
カイルが再び剣を抜き取ると、セインが逃げ出そうとし始めた。
「おお、殿下。違います!誤解です、ミスなんです!」
今日はカイルのプライドを傷つけた代償を払うことになるだろう。
「殿下! 私、剣使えないのご存じでしょう!!」
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皇帝に謁見した後、見慣れない顔がちらっと見えた。
「えっ?」
目をまん丸にしている私の前にノアが現れ、丁寧にひざまずいた。
私は慌てて微笑みながらノアに手を差し出した。
ノアが差し出された手の甲にキスをした。
「元気にしていた?」
ノアが明るい顔で席から立ち上がった。
「はい、聖女様のおかげです。」
簡素な騎士服を着たノアの体格はまだ小さかったが、それでも初めて会ったときよりもずっとたくましくなっていた。
「宮中での生活はどう?皇太子殿下にいじめられたりしてない?」
ノアはにっこり笑いながら首を振った。
「皆さん、とても親切にしてくださいます。まるで別の世界に来たような気分です。」
盗賊ギルドに所属して街をさまよっていた過去とは違い、温かく安定した生活に、ノアはとても満足していた。
「訓練はつらくないの?」
「まあ、ちょっときついけど…… 立派な騎士になるには強くならないと。」
目の輝きを見るに、心配はいらなさそうだった。
「でも…… 皇帝陛下にはお会いになったんですか?」
「ああ、うん……」
「皇宮で聖女様が皇太子殿下と婚約するって噂が広まってるんですけど、聖女様も…… やっぱり?」
ノアは言葉を濁した。
盗賊ギルドの子供だ。
観察眼も情報にも鋭く、噂が嘘の情報であることは察していたはずだ。
私はうなずき、ノアはにっこり笑った。
「そうだと思いました。」
カイルは確かに帝国最高の権力と力を持ち、非の打ち所のない立派な男だった。
私がレイドの預言で読んで想像していた通り、冷静で冷酷になれば剣を振り回す殺人狂でもあった。
しかし、結婚や恋愛となるとそれとはまた別の評価が必要だった。
「聖女様。私は聖女様のご決断を尊重します。でも……」
私が一瞬カイルについて考えていたとき、ノアが口を開いた。
「皇太子殿下がいつも聖女様を大切にしたいとおっしゃっていたことはご存じでいてほしいんです。」
ノアはそう続けた。
「皇帝陛下は以前から何度も聖女様をお呼びになろうとしましたが、皇太子殿下がそれを阻止され、世間の噂もご自分で収められました。それに、神殿に関することにも最大限の注意を払っておられます。」
【破壊の神シエルが、あなたに判断を委ねようとしています。】
【慈愛の神オーマンは、必ずしも本命の夫ではなくても、側室としての価値があるのではとあなたを説得しています。】
「男が見ても立派な方ですよ。」
少し考えた私は、顎を軽く触れた。
「そうだったのですね。」
どういうわけか、さっきカイルが言った言葉が思い浮かんだ。
「もし、俺が結婚するほど君のことを好きだとしたら。」
『本気……なのか……』
しばらくして、私はノアをそっと見つめながら言った。
「でも、皇太子殿下にあまりにも簡単になびいたんじゃない?ノア?」
私の言葉にノアはハハハと笑いながら頭をかいた。
「そう見えますか?」
「いずれにせよ、今日また会えてうれしいです。」
私はノアを見ながら言った。
「訓練も大切だけど、あまり無理せず、いつも体には気をつけてね。」
ノアは微笑みながら首をかしげた。
カッシュがかつて1万ゴールドで買おうとしていたガーネットの首飾りは、本来あるべき場所へと戻っていった。
どうせ遺物で処分もしづらい物だったから、皇帝の関心を買って関係を築くためにうまく利用したようなものだ。
神殿に到着すると、後ろからすごい速さで馬車が追ってきた。
「聖女様! 聖女様!」
馬車と一緒に来た近衛騎士は、私に礼をとって挨拶した後、口を開いた。
「皇帝陛下が聖女様からの贈り物に対するお返しとして、下賜品をお与えになりました。」
「え?」
馬車の扉が開くと、再び金貨がぎっしりと見えた。
少なくとも3〜4万ゴールド。
きらびやかに光り輝く金貨の山を見て、私は思わず手で口を覆う仕草をした。
そして近衛騎士に言った。
「ぜひ皇帝陛下に感謝をお伝えください。」
「はい、聖女様。」
宮殿から送られた馬車は再び帰っていった。
ドウェインと聖騎士の2人が、皇帝からの贈り物を持って私の後についてきた。
「もう競売には参加される必要はないでしょう。」
ドウェインが私をちらりと見て、すごいとでも言いたげに言った。
[芸術の神モンドが少し寂しがっています。]
「まあ、そうですね。もう使い道もないですし、ドウェインにも私の秘密を少し教えて差し上げましょうか?」
私の言葉にドウェインは興味津々な表情を浮かべた。
「一体どうやって価値のある品を見分けておられるのです?競売鑑定の技術でもお持ちで……」
「当然ですよ……」
私が声をひそめると、ドウェインが耳を近づけてきた。
私は子供のような声で彼に大きく言った。
「彼みたいな天賦の才能が必要なんですって。」
「うわっ!」
突然声が大きくなったので、ドウェインはびっくりして肩を跳ね上げた。
後ろから他の聖騎士たちがクスクスと笑う声が聞こえた。
私もつい笑ってしまった。
[一部の神殿関係者は拍手喝采しています。]
[一部の神殿関係者はドウェインを気の毒に思っています。]
「聖女様!!」
ドウェインが耳が凍りついたようなリアクションをしながらどもった。
はははと笑い出した私を、向かいのレイハスが見ていた。
視線を向けると、彼もまたにっこり笑っていた。









