こんにちは、ちゃむです。
「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

29話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 不可解な気持ち
セリーナがノクターンと会うことにした日。
「今回の狩猟祭に同行されるんですか?」
ノクターンが手ずから茶碗に緑茶を注ぎながら尋ねた。
「はい、そのようになりました。」
セリーナはお茶を一口すすると、軽くうなずいた。
前回ノクターンの執務室を訪れて以来、たびたび会って助言を求めていた。
状況によっては、ノクターンが皇宮の図書館に来ることもあり、またセリーナが自ら彼の執務室を訪ねることも。
今日は、セリーナが彼の執務室を訪れる日だった。
「ちょうどしばらく都を離れそうだとお伝えしようとしていたので、良かったです。」
「え?どこに行かれるんですか?」
セリーナが戸惑いながら尋ねると、ノクターンが答えた。
「私もグリーンウッド出身です。」
「そうだったんですね。」
セリーナは、彼が向かう場所がグリーンウッド領だと気づいた。
今でこそ爵位を受けてグリーンウッド城を出て別に暮らしているが、彼もまたグリーンウッド所属だった。
グリーンウッド領で狩猟祭が開かれるとなれば、領民は皆一箇所に集まらなければならなかった。
ノクターンも例外ではなかった。
「すみません。失礼しました。」
「大丈夫です。私もこんなときでもなければ戻ることもなかったでしょうから。」
「グリーンウッドといえば、とても美しい森の道が有名だと聞きました。」
「並木道のことをおっしゃっているのですね。」
「はい。伯爵様も行かれたことがあるのですか?」
「気軽にノクターンと呼んでください。私もセリーナさんと呼びます。」
ノクターンはセリーナの呼び方を決めながら、穏やかに笑った。
こうした提案にすぐ乗るセリーナらしく、彼女はすぐに呼び方を変えた。
「はい、ノクターンさんもあそこに行かれたことがあるのですか?」
「子どもの頃に何度か行きました。木々がとても高いところにあって空がよく見えない森です。」
「そうなんですね。」
「実は、あまりいい思い出がない場所なので好きじゃないんです。」
「どうして?」
「兄たちがよく僕を縛って放置していた場所なんです。」
ノクターンは顔色一つ変えずに苦い笑みを浮かべた。
セリーナは自分の口を叩きたくなった。
今日はなぜか、口を開くたびにノクターンの痛いところを突いてしまう気がした。
「今日は運が悪い日みたいですね。変な質問ばかりしてしまって……。」
「大丈夫です。今では僕のほうが兄たちよりもずっと偉いので。」
ノクターンは肩をすくめた。
もっとも、彼は現在皇帝の寵愛を受ける四人の親友の一人だった。
未来が有望なのは、グリーンウッド家の兄たちではなく、ノクターンだった。
「もしかしたら、将来縛られるのは兄たちかもしれませんね。」
「かなり怖いことをおっしゃいますね。」
「まあ、そんな想像したことありませんか?私なら毎日してたと思います。」
「あはは。」
ノクターンは愉快な話を聞いたかのように、声を上げて笑った。
その顔には親しみがにじんでいた。
「この機会に一度やってみるのもいいですね。」
「ぜひやってみてください。ちょっとスッキリしますよ。」
「そんな想像をよくしていたみたいですね。」
「実は私も小さい頃、姉と兄にいじめられながら育ったんです。」
「おや、ビンセント家のエイミーとエリオットのことをおっしゃっているんですね。」
ノクターンの言葉に、セリーナは軽く肩をすくめて言葉を続けた。
「まあ、しつこくいじめられるのに疲れて、家を飛び出したくらいですから、あの人たちのせいで。」
「もともと優秀な異母兄弟は警戒されやすいものです。むしろ才能すらなければ関心も持たれなかったでしょうに。」
ノクターンは淡々と答えながら、緑茶を一口飲んだ。
頭脳が明晰で性格もひねくれていないノクターンは、グリーンウッド家の兄弟たちにとってかなり協力的な存在だっただろう。
「それでも能力があったからこうして生き残れたんだと思います。」
「そうですか?」
「何の役にも立たない女児や男児が、あの激しい貴族社会で生き延びられるはずないですよね?」
セリーナが同情のまなざしを向けると、ノクターンは柔らかく微笑んだ。
「それも正しいですね。」
「よく耐えましたね。あんな厳しい環境でも立派に成長されて。」
セリーナはノクターンが真っ直ぐ育ったことを褒めたかった。
ノクターンは予想外の褒め言葉に少し戸惑った顔をした。
いつも理性的な表情ばかりだったノクターンの顔に、一瞬だけ動揺が走ったのだ。
「医者だからでしょうか、褒め言葉に弱いんですね。患者さんたちに好かれそうです。」
「褒める価値があったから褒めたんですよ。陛下からはなかなかお聞きできないことですから。」
「なんと。陛下にも抗議しないといけませんね。」
「本当にそうですよ。」
セリーナはアジェイドを思い浮かべながらくすくす笑った。
最近は患者として真面目に生活しているアジェイドだが、本人が聞いたら怒り出しそうな話だったので、ここにいないのが幸いだった。
その時、ノクターンが何かを思い出したように表情を曇らせた。
「だから陛下が、ビンセント家の城の庭園を燃やしてしまったんですね。」
「えっ?陛下が何をなさったんですか?」
セリーナはノノクターンの唐突な言葉に目を大きく見開いた。
何かとんでもないことを聞いたような気がしたが、ノクターンは無表情のまま、あっさりと続けた。
その様子に、セリーナはさらに驚いた。
「あの狂った人間が行って何をしでかしたの?」
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セリーナはノクターンとマナコアについて簡単に話を交わし、その後すぐに皇宮へ向かった。
馬車の中で、ノクターンが話してくれた内容をセリーナは改めて思い出していた。
『人的被害はなかったが、庭園は復旧不可能になったそうです。』
『修理費は王宮に請求するよう指示しましたが、本当に請求する貴族がいるわけないでしょう。』
『どう見ても、陛下が腹いせに破壊したとしか思えませんね。その後、ヴィンセント夫人は日中でもほとんど城の外に出てこなくなったそうです。』
『それに、ヴィンセント家の令嬢が最近また社交界に姿を見せるようになったのですが、周囲の評判はあまり良くありません。万が一でも皇帝陛下の寵愛を受けるようなことがあればと、警戒されているようです。』
ああ、皇帝陛下よ。いったい何をなさっているのですか。
セリーナは、いくら考えてもアジェイドの行動を理解できなかった。
あのとき彼女を捕らえに行ったのに、なぜか途中であきらめ、代わりに庭園を焼いて帰ってきたという。
セリーナは不可解な気持ちだった。
とにかく、彼が暴君のように暴れていたことだけは確かだが、それ以外のことは分からなかった。
ビンセント家だというだけでも気に入らないのに、その上、あのガラスの温室を燃やしてくれるなんて。
セリーナの心の重しがすっと軽くなった気分だった。
まるで鼻をかんでスッキリしたような気分だった。
「到着しました。」
御者の合図で、セリーナは馬車から降りて、すぐさま庭園の方へと向かった。
今の時間なら、アジェイドが散歩を終えてデザートを食べる頃合いだ。
庭園を横切ると、あずまやの下で優雅にティータイムを楽しんでいるアジェイドの姿が見えた。
アジェイドはまるでデザートを食べ終えた猫のように、満足げに庭園の噴水を眺めていた。
その姿が、満腹した猫のようで、セリーナは思わず本来の目的も忘れてクスッと笑った。
アジェイドはその笑い声を聞き、セリナの方を振り返った。
「ノクターンには無事に会いに行って来たのか?」
「ええ。そしてとても驚くべき知らせも聞きました。」
セリーナは笑みを引っ込め、彼の前へと歩み寄った。
「何の話かはわかりませんが、座ってください。そんなふうに立っていると、なんだか怖いです。」
「何か後ろめたいことでもあるんですか?」
セリーナが素直に彼の向かいに座ると、彼女は新しいティーカップと一緒にお茶を差し出した。
「きっとノクターンからヴィンセントの話を聞いたのでしょう。」
「一体なぜそんなことを?」
実は、セリーナが本当に聞きたかったのはこの質問だった。
いくら考えても、彼がヴィンセント城の庭園を台無しにした理由がわからなかった。
だから本人に直接尋ねようと思ったのだ。










