偽の聖女なのに神々が執着してきます【９７話】ネタバレ

カッシュが私を直接送ってくれると言ったが、気まずくて一人で馬車に乗って戻ってきた。

同じ馬車の中で顔を再び見る自信がなかったからだ。

デイジーが玄関まで出てきて、手をこすりながら待っていた。

「聖女様。こんなに遅くなるとは思いませんでした。何かあったのではないですか？」

「寝ていたらそうなったの。」

「聖女様が戻らないのに、どうやって先に目を閉じることができますか？とても心配していました。」

キューは、私が来たことにも気づかず、丸くなって眠っている。

「大したことないわ、デイジー。今日は昼まで寝るつもり。だから、あなたももう休んで。」

「わかりました、聖女様……ぐっすりお休みください。私が毛布をかけますね。」

私は目を閉じ、深い眠りに落ちた。

死にかけたからなのか、体がだるく感じる。

まだ昨日の出来事の余韻が残っているせいか、唇が自分のものではないように熱を持っていたが、疲れには勝てなかった。

私が再び目を開けたのは、正午を過ぎたころだった。

大きく伸びをして体をほぐしながら、私は寝ぼけまなこで顔をこする。

昨日の出来事が夢のように感じられる。

死の神の宮殿、サレリウムでの出来事と……目覚めた後、カッシュと一緒にいた出来事。

「うぅ……！」

彼の唇が開くと、私は慌ててコップを持ち上げた。

そうだ、昨日は私も、カッシュも衝動的だった。

夜と寝室と二人きりの男女、キス……できてもおかしくない状況では？

私はほてった頬を手のひらで包み、熱を冷ますように撫でた。

そして、机の上に置かれていたリタの首飾りを手に取り、首にかける。

「今やるべきことを考えよう。」

[愛の神オディセイは、すべての行動の最優先事項は常に愛であると強調します。]

しばらくすると、外からノックの音がした。

廊下の扉が開くと、見慣れない顔が入ってきた。

「レイハス様。」

[芸術の神モンドがレイハスを見て喜んでいます。]

[慈愛の神オーマンは、カッシュ – レイハス – カイルの順で進めるのが良いとつぶやきながら、選択肢リストに2つの項目を追加します。]

私は現れた彼の顔を見て、明るく微笑んだ。

レイハスの顔色は以前見たときよりも良く見え、彼の金色の瞳は明るく輝いていた。

「今日は少し遅くまで寝ていたようですね。」

「ええ……はい、少し疲れていて。でも、今日はいつもより顔色が良さそうですね。」

私の言葉に、レイハスが微笑んだ。

それにしても、彼だけにフィルター効果がかかったように顔が明るい。

「悩んでいたことを誰かに話したら、気持ちがずいぶん軽くなりました。」

「あ……。」

「聖女様も何か悩み事ができたら、私たちに話して心を軽くしてください。」

[正義の神ヘトゥスが静かに顎をさすります。]

[死の神カイロスは少し和らいだ目でレイハスを見つめ、ある書物の内容を思い返しています。]

何を悩んでいたのかは分からないが、緊張はすっかり消えていた。

これは幸いなことだ。

「明日行われる大聖会について議論したくて来ました。」

彼は私の部屋のテーブルの向かいに座った。

私は自然に彼と向かい合って座り、しばらくするとデイジーが果物を持ってきた。

「レイド神の神格剥奪に関することですか？公式に発表すれば、国中で大騒ぎになるでしょう。」

「それでも慎重に進めるべきことです。消滅した神をいつまでも隠し続けるわけにはいきませんから。至る所にあるレイド神殿や神官たちの処遇についても、徐々に他の神々と議論を進めていかなければならないでしょう。」

彼の言葉に、私はそっと紅茶を口にした。

帝国のほとんどの人々は九柱の神を信仰しており、その中でレイドを信仰する人々は少数派だ。

少なくとも十人に一人がレイドを信仰している。

もしレイドが魔王レトであり、神格を剥奪されたと公式に発表されれば、多くの人々が混乱に陥ることだろう。

「その……モレ聖会でレイドの神格剥奪を発表する際に、もう一つ案内してほしいことがあります。」

実は、レイハスに直接会って相談しようとしていた問題だったが、彼がちょうど訪ねてきたので、この機会に話を切り出した。

「案内するのは……」

「魔王レト……レイドとの戦いに勝利した証拠として『カミーラの真の聖像』を展示することです。そして、カミーラが死んだことも公式に発表してもらえればいいのですが。」

レイハスは理解できないという目で尋ねた。

「カミーラは死んだとしても、その彫像はディエゴの工房にありますよね。廃棄すると言っていましたが？」

「本当の姿を公開することはないでしょう。囮として使うのです。」

どうすればベラトリクスに会えるか、いくつかの方法を考えた。

最も確実な方法は、カミーラに囮を仕掛けること。

「自分が死んだと公式に発表されれば、カミーラは私たちが本当に死んだと思うでしょう。」

[知識の神ヘセドがあなたの計画に拍手を送ります。]

「聖女様のおっしゃることは……カミーラが死んでいない可能性が高いということですか？」

私はコーヒーを一口飲んだ。

「はい。その証拠については順を追って説明します。いずれにせよ、カミーラの目には、私たちが余裕を持って彼女を助けていないように映らなければなりません。彼女自身が行動を起こすように仕向けるべきです。」

勝利に酔いしれ、敵が死んだと思い込んだまま、敵の戦利品を展示する。

映画やドラマでは、こうした状況で油断した側が逆転されて敗北することがよくある。

それと同じだ。

そして、私はその方法こそがカミーラを引き戻すための囮になると考えた。

「カミーラは彫像がどうなったのか全く知りません。この状況で、それが展示品として公開されると聞けば……きっとどんな手を使ってでも奪おうとするはずです。自分の力を取り戻す機会だと考えるでしょう。」

レトが死に、レイドも消滅したが、それでも彫像にはレトが生前に込めた強力な魔力が残っていた。

ディエゴがそれをうまく吸収したことは、カミーラには知られていなかったのだ。

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外から窓を通して、穏やかな陽光が差し込んでいた。

デビアモン・ギルドの秘密の建物の中で、ディエゴは鉄のカチャカチャとした音を立てながら手袋をいじっていた。

「気に入ったなら、あげようと思ってたんだが。」

戸惑いながらも彼の顔を見つめた彼女の口元に、ふっと微笑みが浮かんだ。

「反応が面白い女だな。」

手袋を引き出しにしまったディエゴはコーヒーを口にする。

市場もひとまず落ち着いたようで、信頼できる部下たちに仕事を任せてきた。

市場はいつものように、今日もまた秩序と野心、血の飛び交う争いと陰謀によって平穏を保っていた。

彼らが何をしているのか心配する必要はなかった。

「久しぶりに神々を讃えてみようか。」

神々は嫌がるかもしれないが、それもまた一興だ。

ディエゴには、もう気にしないと決めた彼女の声がときどき思い出されることがあった。

特に天気のいい日や、曇りの日、今のように少し蒸し暑い日には、なおさら。

もともと魔族は人間を苦しめるのが好きだった。

だからディエゴにとって、アリエルのことを思い出すのも単なる幻想に過ぎなかった。

彼が再びくすっと笑ったとき、誰かがノックした。

しばらくしてドアが開き、入ってきたのは彼の人間の部下の一人だった。

「旦那様。」

彼は身をかがめて挨拶し、口を開いた。

「しばらく前、ユークルリス・アカデミーのドレイブ教授に何か問題があったようです。」

ドレイブ・ルベレン教授。

ディエゴもその顔を知っている人物。

魔族並みに強力な強制魔術を使うことで知られる人間だ。

「問題とは、何のことを言っているんだ？」

「一か月ほど休職していたそうです。しかし、倉庫で強制魔術に関する適切な証拠が発見されました。ユークルリスの私たちのギルドメンバーが最初に見つけ、速やかに処理しましたが……。」

強制魔術は黒魔法の一種とされ、人間の間では禁止されている術だった。

それにもかかわらず、それを適切に処理せずに逃げるように休職？

何かおかしい。

「彼が休職願を出す前夜、カッシュ・ロイドと聖女がユークリプスへ行ったことが分かりました。」

その言葉にディエゴは興味深そうに眉を上げた。

「聖女が？」

「そうです。しかし、ドレイブが強力な魔法を使うのを聞いたなら、聖騎士や兵士たちが彼を護衛して行ったはずですが……そうでもないようで、何があったのか把握するのが難しい状況です。」

「興味深い話だな。」

ディエゴの赤い唇が微かに歪んだ。

「さらに調べて、ご報告します。」

「いや、その件からは手を引く。」

「え？」

ディエゴの言葉に対し、疑わしげな表情を浮かべた。

「俺が直接調べる。」

彼の紫色の瞳が、深い興味に満ちて輝いた。

退屈を吹き飛ばす絶好の遊び道具を見つけたような顔だ。