こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

40話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 謎の少女③
「……こうやって書くの、合ってる?」
「違うかも……?」
私は“招待状”と書かれた紙を落ち着かない気持ちでじっと見つめた。
アルセンが「私がやる」と言って笑いながら渡してくれたものだ。
『本当にこんな招待状を配るの?』
なんだか笑ってしまいそうになる気分だった。
私は高級な紙をもう一枚取り出し、カリカリと丁寧に招待状を書き始めた。
『挨拶から始めなきゃ。』
招待状はもちろん、手紙すらほとんど書いたことがなかったので、とても難しく感じた。
アルセンが肩越しに私が書くのをじっと見ているのを感じた。
そのとき。
「リンシー?」
アルセンが何か疑うような声で私を呼んだ。
私は羽をぱっと回してアルセンと目を合わせる。
「なに?」
「ねえ、首にこれ、前からあった?」
アルセンの指先が、私の黒い斑点をぴたりと指した。
私は驚いて目を大きく見開いたまま、反射的に首元を手で覆った。
「これ……これって。」
「もともとはなかった気がするけど。」
アルセンが首をかしげながら言った。
どうして分かったの?
そのほくろはとても小さくて、私自身が確認するにも目を凝らして鏡をしっかり見ないと分からないくらいだ。
だから誰にも気づかれないと思っていたのに。
私は無意識のうちにそのほくろについて答えようと口を開いた。
ところが。
「ゲホッ!」
突然、ほくろのある首元がものすごく火照って、言葉が詰まった。
「リンシー?リンシー?ねえ、どうしたの。」
私は真っ赤になった顔で首を覆ったまま、かろうじて息だけを吐き出した。
な、なんでこうなるの?
『まだ何も話してないのに!』
悔しさで涙がにじみそうだった。
斑点について話そうとする「だけ」で、こんな反応が来るなんて。
私はぎゅっと目を閉じ、斑点と呪いについての思考を振り払おうと必死になった。
すると。
「……ぷはっ!」
詰まっていた喉がふっと解けた。
私の首を締めつけていた力が抜けるような感覚だった。
私が慌てて息を飲み込むと、アルセンが私の肩をトントン叩いて声をかけた。
「リンシー、リンシー?どうしたの。」
私は慌てて首を振って見せた。
「ううん、大丈夫……。」
どうしてこうなるの?
前回はここまでではなかったのに、急に何かに反応するように“禁制”が活性化された。
「どこか具合が悪いんじゃないの?ヘレン先生のところに……」
「私がどうして病気なの。そんなのじゃないよ……、とりあえず招待状でも書こう。」
私はかすれそうになる声を無理に押し出して言った。
アルセンは疑わしそうな表情で私をちらちら見つめていたが、やがて再びペンを取った。
私は黙々と招待状を書いているアルセンを見つめた。
『おかしい……、前はこんなに強く反応しなかったのに。』
あんなに痛くもなかった。
それに今回は、言葉を発したわけでもなく、発しようと思っただけなのに。
でも、呪いは私が話せないように首を締めてきた。
私は「はあ〜」とため息をつき、机に頭をゴンと打ちつけた。
『なんなのよ、この苦労は。』
ただでさえ神経を使うことが山ほどあるのに、妙なことまで重なるなんて。
私は気になるあまり、いつもそっけなかった侍医エステルのことを思い出した。
『治療してあげると言ったとき、強く拒んだ人だったよね。』
ある日、彼が脚をけがした様子でびっこを引いて入ってきたことがあった。
だから急いで駆け寄り「治療してあげます」と言ったのに……
「結構です、お嬢様。おせっかいですね。」
エステルは冷たく私の手を払いのけ、びっこを引きながら去っていった。
私は呆然とその場に立ち尽くし、彼の背中を見送るしかなかった。
『とりあえず、エステルが危険な人物であることは確かみたいだけど……』
問題は、それを話すことができないということだ。
『グレネともっと話をしてみた方がよさそうなんだけど……』
招待状を書いて、午後にはケンドリックに会いに行かなくてはならないので、グレネに会う時間が取れそうになかった。
私はちらっと、私たちの隣に座っているベティを見た。
ベティに内緒で会いに行くことも考えてみたけれど……。
『すぐに戻ってくればいいよね。』
はぁ〜。
私はまたしても、深いため息をついた。
そのとき、アルセンが一生懸命書いた紙を私の方へそっと差し出した。
「これ見て、どう?」
私はアルセンが一生懸命書いた招待状を読んでみた。
「うん、よく書けてる。」
「今、適当に見て答えたでしょ。」
アルセンが目を細めてじっと私を見つめてきた。
ドキッ。
私はアルセンの書いた招待状をもう一度じっくりと読みながら、褒めてあげた。
「ううん、本当に上手に書けてる。素晴らしいよ。」
「……ほんと?」
アルセンが疑わしそうな目つきで、自分が書いた招待状をベティに差し出した。
「お嬢様も書かなければなりませんよね?」
ベティはアルセンの招待状を受け取って一度読んだあと、こう言った。
「うーん……アルセンの招待状で一緒にってダメかしら?一緒に考えたことだし……」
私はこっそりアルセンの脇腹をひじでつついた。
「……うん、一緒に考えて書いたんだ。」
ベティは目を細めて私たちを見まわした。
そしてすぐに席を立った。
「では、ひとまずこれをお持ちしますね。そして……、昼食後にご主人様と面会のご予定がありますか?」
「うん、今日だよ。」
「まずはお食事をなさって、それからご当主様にお会いすればすぐに分かると思います。」
ベティが笑いながら席を立った。
・
・
・
「その子を連れてこい。」
「その子とは、どなたのことをおっしゃっているのですか?」
「通りから連れてきたあの子のことだ。エイデンと一緒にいた。」
ケンドリックは、それすらすぐに理解できないのかとでも言いたげな、苛立った視線を送った。
そこでようやくイェダンは「あっ」と小さく口を開けて、答えた。
「すぐにお連れします。」
エダンはケンドリックの執務室を後にした。
そして、そう時間も経たないうちに、エダンが執務室の扉をノックした。
「お入り。」
ケンドリックの許可が下りると、重厚な木の扉がすっと開き、エダンが再び姿を現した。
「お連れしました、ご主人様。」
「こちらへ通せ。」
エダンはドアの外に立っていた少女を室内へと招き入れた。
おずおずと部屋の奥まで入ってきた少女は、そっと羽をたたんだ。
ケンドリックの冷たい視線が、か細い体つきの少女をなぞった。
まだ洗ってもいないのか、肌には垢のようなものがにじんでおり、ぼろぼろに破れた粗末な服を着ていた。
ケンドリックがふっとため息をついた。
「イェダン、話が終わったらこの子を洗わせて服を着替えさせろ。このまま邸宅をうろつかせるわけにはいかない。」
イェダンがこっそりとうなずいた。
ケンドリックは「もう出て行け」というように手を振った。
イェダンが部屋を出たあと、
「君の名前は?」
ケンドリックが少女にもう一度問いかけた。
今回も答えなければすぐにでも問い詰めてしまいそうで、軽く喉を鳴らした。
しばらく悩んでいた少女が、おずおずと口を開いた。
「グレ…グレネ……」
「そうか、グレネ。前髪を少し上げてごらん。」
ケンドリックの命令に、グレネは震える手で自分の前髪を持ち上げた。
焦点の合わない淡い灰色の瞳が現れた。
「目はいつから見えなくなったんだ?」
「……」
グレネは口を固く閉ざした。
ケンドリックは深く息をついた後、グレネをじっと見つめながら思案にふけった。
『おかしいな。』
とりあえず邸宅に残してほしいという願いを受け入れはしたが――
リンシー、あの子はいったいどんな考えでそんな頼みごとをしたのか、まったく見当もつかない。
それにしても――
「年はいくつだ?」
「……じゅ、十歳です。」
グレネが震える声で答えた。
ケンドリックは眉をひそめたまま、グレネをじっと見つめた。
『こんなに小さいのに、十歳だと?』
もちろんリンシーやアルセンよりは年上だが、リンシーとアルセンは特別なケースだ。
アルセンは病弱のせいで成長が遅く、リンシーは生まれつき体が小さく生まれてきたのだから。
だが、普通オオカミ族の血が混じっている子どもなら、それよりも成長が早いはずだ。
ケンドリックはため息をついた。
『しかも変異種かもしれないって言ってたな。』
ケンドリックはグレネの外見を改めてじっくりと見つめた。
灰色の瞳に白い髪。
いったいどの種族との混血なのか、見当もつかない容姿だ。
ケンドリックはその後もあれこれと質問したが、グレネはそのたびに口を固く閉ざした。
まるで言葉を知らない動物のように。
結局、ケンドリックはグレネから意味のある返事を引き出すのを諦めた。
そして、近くにいた侍女のひとりを呼んだ。
「この子を連れて行って洗わせて、この子ができそうな仕事を探してあげなさい。どうせ邸宅に住まわせるのだから。」
侍女が深く腰を下げて挨拶をした後、グレネを連れて執務室を出ていった。
ケンドリックは目を細めたまま、グレネが去った場所をじっと見つめていた。
「リンシー、アルセン。」
私は耳に馴染みのある声に反射的に首をぐるりと向けた。
ケンドリックが遠くから歩いてきていた。
ケンドリックはシャツが窮屈なのか、ネクタイを緩めながら足早に私たちの方へ近づいてきた。










