こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
81話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 聖女の死②
エスターは朝食をきちんと済ませた後、自分の部屋へ戻った。
すぐに何かが変わるわけではないが、これからの状況に備える必要があると感じて、頭の中は混乱していた。
「私が聖女だという事実は、いずれ明らかになるわ。」
エスターは自分の右手をそっと触りながら、小さくつぶやいた。
次の聖女の座が正式に決まっているわけではないが、ラビエンヌがいる以上、大きな混乱は避けられないだろうし、本物の聖女を見つけるのは簡単ではないだろう。
しかし、神殿に啓示が下されれば、それを完全に隠すことはできない。
「大丈夫。もう怖くない。」
初めて戻ってきた頃は、自分が聖女であることを認めるのが怖かったが、今ではその気持ちはほとんど消えていた。
再び神殿に引き戻されるのではないかと心配で、それが何よりも怖かった。
しかし、たとえ神殿であろうとも、今や大公の娘となったエスターを彼らの思い通りに連れて行くことはできない。
過去1年間、大公という存在がどれほど偉大であるかを身をもって感じてきた。
そのため、逃げ出そうなどという考えは全く起きなかった。
「・・・葬儀に行こうかな?」
ここで一人で考えにふけるよりも、いっそ現場で状況を直接確認する方が良いと感じた。
何よりも、時間を与えてくれたセスピア聖女に感謝の最後の挨拶を伝えたかったのだ。
たとえラビエンヌと顔を合わせることになっても構わない。
彼女が自分のことを忘れているかもしれないし、大公家に迎えられたことをすでに知っているかもしれないのだから。
過去1年間、ドフィンがそばにいてくれたおかげで、少しは冷静さを保つことができた。
公式の場で顔をたくさん見せていた。
それ以外にも、ドロレスに自分が神殿で迎えられたという噂が広がっていることも耳にしている。
気を引き締めて椅子から立ち上がろうとしたその時、突然後ろから大きな音が響いた。
「え?」
驚いたエスターは音の原因を探して後ろを振り返った。
棚の上にあった装飾用の彫刻が落ちていた。
その隣には、自分が起こした出来事を知っているかのように、目だけをパチクリさせている蛇が一匹いた。
「ごめんね、シュル。私、今日ちょっとぼんやりしてて、全然遊んであげられなかったね。」
シュルは蛇が産んだ卵だ。
まだ幼いせいか体も小さく、動きもかなりおとなしい。
蛇はシュルを見つめた後、音もなくどこかへ消えていった。
そういう理由からか、シュルはまるで母親に従う子供のようにエスターに付いてきた。
「私、数日間家を空けるけど、ドロレスに頼んでちゃんとお世話してもらうから、そんなに寂しがらないでね。分かった?」
エスターはシュルの頭を優しく撫でながら、しっかり伝わるように話しかけた。
そしてデルバートを探しに行き、彼にドフィンへ送る伝書を頼むようお願いした。
幸運なことに伝書鳩がすぐに来たおかげで、エスターも翌日の午後には神殿へ向けて出発することができた。
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聖女の葬儀は国葬として執り行われたため、その期間中、非常に多くの人々が神殿を訪れた。
神殿で受け入れ可能な馬車の数には限りがあったため、葬儀期間中は馬車が神殿に集まることとなっている。
「着きました、お嬢様。ここからは歩いて入らなければなりません。」
エスターも例外ではなく、神殿の正門前で馬車を降りた。
ドフィンよりも半日遅れての到着だ。
「人の波がすごいですね。」
ヴィクターはエスターが降りるのを手助けしながら、周囲を見渡し感嘆の声を漏らした。
人々は身動きが取れないほど神殿の周囲に集まっていた。
庶民は神殿の中には入れないものの、それでも聖女の死を悼むためにここまで来た様子だ。
「ええ。聖女様は神の代理人でしたから。それでもこれほど多くの人が涙を流すとは・・・少し驚きましたね。」
すすり泣く声が途切れることなく響きわたっていた。
皆が悲しみに暮れる姿を見ているだけで、目をそらせなくなる光景だった。
聖女がどれほど影響力のある存在だったかを改めて感じる瞬間だ。
エスターは物悲しい目で群衆を見つめた後、門番に身分証を見せて中へ入る。
「前回来たときとはまったく違う感じですね。なんというか・・・ずっと厳粛な雰囲気のような気がします。」
「そうね。聖女様が亡くなったことで、やはり特別な空気が漂っているみたい。」
エスターはしんみりと頷いた。
すれ違う神官たちの表情やその仕草からも、どこか張り詰めた雰囲気が漂っていることが感じられた。
「儀式の開始まであとどれくらい?」
「1時間ほど余裕があります。」
「じゃあ、少し歩いてみましょう。」
気持ちが沈んだエスターは、葬儀が行われる神殿へ直行するのではなく、庭園の方へ足を向けた。
神殿の庭園は相変わらず美しく整えられていた。
ここが廃れてしまったらどうなるのだろう、と考えながらエスターの歩みは自然と遅くなった。
反対側から歩いてくる神官の顔に見覚えがあった。
かつてエスターが神殿を去った日に彼女を見送った神官だ。
道が一つしかないため、避けることはできなかった。
その神官は遠くからすでにエスターに気づき、視線を向けていた。
「私のことを覚えているだろうか?」
胸がドキドキと高鳴る中、その神官がすぐ目の前までやって来た。
「訪問者の方のようですが、神殿をお探しですか?」
どうやら、神殿に向かう途中で道に迷った者だと思い込んでいる様子だ。
神官はにこやかで親切そうな笑顔を見せてくる。
かつて候補生だったエスターには一度も見せたことのない表情だった。
そのギャップに思わず笑みがこぼれた。
「いいえ。庭園へ行く道です。」
「ああ、そうでしたか。それではごゆっくりお休みください。」
最後の日に冷たく突き放すような態度を見せた彼が、こんなに親切な人だったとは・・・。
なんだか不思議な気持ちだ。
神官の後ろ姿を見送っているエスターに、ビクターが微笑みながら尋ねた。
「あの方はどなたですか?」
「・・・知らない人よ」
エスターの声は冷たかった。
間もなく庭園に到着し、一周回りながら気持ちを整えたエスターは、葬儀に出席するため聖殿へ向かった。
思ったより時間が少なく、足早に歩いていたエスターは、回廊を曲がったところで突然足を止める。
「ラビエンヌ。」
目を見開いたエスターの視線には、大司祭たちと共に立つラビエンヌの姿が映っていた。
後ろを振り返ったラビエンヌもエスターを見つけ、驚いた目で近づいてきた。
まさか再会するとは思わなかったが、こうして正面から向き合うと一瞬で思い出がよみがえった。
「あなた・・・間違いない、ダイナか?」
ラビエンヌは神官とは全く違う雰囲気のエスターをすぐに見分けた。
名前まで覚えていて、失った友人に再会したかのように喜びをあらわにした。
先に知っている素振りを見せるとは思わなかったエスターは驚いたが、それを表に出さずに頭を下げた。
「お久しぶりです、ラビエンヌ様。」
「そうだね。あなたを最後に見たのは神殿を出る日だったか・・・もう1年以上経ったのか?こうしてまた会えるなんて本当にうれしいよ。」
「私も嬉しいです。」
本心ではないはずなのに、親しげに振る舞って自分を受け入れるのが早いこの態度は何だろう。
エスターの目がわずかに揺れた。
「あなたも葬儀に参列しに来たのよね?もうすぐ式が始まるから、今は無理だけど、後で少し話さない?」
ラビエンヌは以前のエスターが驚きすぎて対応できなかった頃とは違い、満面の微笑みを浮かべながら優しく尋ねた。
その理由が気になったエスターも、とりあえず曖昧に頷いて返事をした。
「ええ、そうしましょう。」
「じゃあ、また後で。」
とても親しげに話を締めくくったラビエンヌは、待っている神官たちのもとへ急いで向かった。
エスターは神殿の中に消えていくその後ろ姿をぼんやりと見つめ、そっと肩の力を抜く。
『私が大公家に引き取られたことを知っているんだろうか。』
神官は自分を知らないふりをしていたが、ラビエンヌは一目で自分だと見抜いていて、変わった姿を見ても全く驚かなかった。
自然に親しいふりをして近づいてきたことを考えてみても確信した。
自分が引き取られたことを知ったラビエンヌがどう行動するのか気になっていたが、やはりラビエンヌは一貫していた。
自分にとって得になるような人物の前では絶対に本性を見せず、上品に振る舞うのだった。
当面、どうする予定もない以上、まずは様子を見守るのも悪くないように思えた。
「ビクター、ちょっと中に入ってくるわ。」
「大丈夫ですか?」
「もちろん。」
外で待つことになるビクターに微笑みかけた後、入り口の神官に身分証を見せた。
神官は非常に厳粛な表情でエスターを中の席へ案内した。
「入ってすぐ左側に曲がってまっすぐ進んでください。」
平民出身の候補生には決して許可されなかった聖殿だが、大公の娘にはあまりに簡単に開かれる門だ。