こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

169話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最後の計画②
その時、アセラスが顔を上げた。
彼の視線は誰でもなく、ダリアをまっすぐに捉えた。
彼のひび割れた唇が動いた。
か細い声が漏れた。
結界が音を遮っていたはずなのに、なぜかダリアはその声をはっきりと聞くことができた。
「ダリア・ペステローズ。」
「あっ。」
ダリアは気を取られた。
結界が破れた。
「くそっ! ルウェイン!」
「くっ!」
液体が床に流れ落ちる音、木の壁が砕けるような音が響いた。
ダリアは振り返ろうとしたが、セドリックは依然として彼女の視界を遮り、首を横に振る。
「見るな」という意味だ。
ダリアはまだ結界の内側に浮かぶ日記帳を見つめた。
『もう本当に、あと少しなのに……。』
セドリックはダリアの体を急に引き寄せ、自分の腕の中に抱きしめた。
しかしすぐに、彼は諦めたように彼女を後ろへ押しやった。
そして、急いで手で印を結び、結界の一部を閉じた。
ここでダリアが日記帳を掴めないなら、残された方法はただ一つ——。
「父上、時間がありません。異空間の儀式を全面的に展開しますので、手伝ってください。」
「セドリック!」
皇帝が叫んだ。
セドリックはダリアを結界の外へ押し出そうとした。
彼の表情は思ったよりも穏やかだった。
「前もって方法を準備しておいてよかったな。そう思うだろう、ダリア?」
セドリックは静かに笑った。
ダリアは涙ぐみながら言った。
「本当に……どうして、こんなに全てが簡単に進まないの……。」
セドリックは彼女の額に深く口づけをした。
ダリアは目を閉じ、静かにそのキスを受け止めた。
彼の唇が離れた後も、彼女は目を開けずに、真剣な声で言った。
「私の言葉を絶対に忘れないでください。何があっても、セドリック様は生き延びるんです。」
「……ああ。」
「持ちこたえられる時間は、一時間です。」
「叔母様がその前に来てくれるといいんだけど。」
ダリアは唇を噛んだ。
想像しうる最悪の事態とは何か?
それは——
セドリックがアセラスの暴走を食い止めるために彼を抱えて異空間へと消えること。
そこでアセラスが暴走すれば、セドリックもその影響を受けて暴走し、異空間は崩壊して無に帰る。
もし、その中でセドリックが直接扉を閉じれば、外側からは誰も——誰一人として、その魔法を解除することはできなくなる。
——でも、本当に“誰も”いないのだろうか?
たった一人だけ、いた。
魔法を無効化する“無効化”の能力を持ちながら、アセラスの反乱時に帝国を裏切り、一度もこの場に姿を見せなかった人物——。
それは、ベオルドだった。
もしセドリックがアセラスと共に異空間へ入ったとしても、一時間は耐えられる。
その間にベオルドが異空間の魔法を解除すれば——。
異空間が消え、二人が再びこの場に現れた瞬間、ダリアがこの日記帳でアセラスを封じ込めればいい。
それがダリアの計画だった。
「危ないぞ、ダリア。」
彼女は唇を噛みしめ、後ろへ一歩下がると、すぐに身を翻して駆け出した。
まずは皇帝の隣で跪いているルウェインの様子を確認した。
「ルウェインさん、大丈夫ですか?」
「……ええ、申し訳ありません。」
声だけ聞くと、まるで何の痛みも感じていないような冷静な口調だった。
しかし、彼の足元は、彼が吐いた血で一面が真っ赤に染まっていた。
それでも、魔法陣だけは破壊されないように守り抜いたのか、魔法陣の周囲には、一滴の血もこぼれていなかった。
ダリアは急いで彼を支え、壁に寄りかからせた。
まるで兵士のように冷静で、毅然としていたルウェインだったが、ここまで顔色が悪くなった彼を見るのは初めてだった。
彼の目は開いていたが、意識を保つのが精一杯のようだった。
彼が何かを言おうとしたが、ダリアがそれを制した。
「大丈夫です。私にも計画があります。」
「……はい。ダリア嬢を信じます。」
「………。」
「私に、まだできることはありますか?」
「はい、ありますよ。これ以上無理をせず、静かに休んでいてください。」
ルウェインはわずかに笑い、そのまま静かに目を閉じた。
ダリアは振り返った。
皇帝が、苦しげに顔を両手で覆っていた。
——この人のことを忘れていた。
ダリアが見た中で、皇帝は最も強い人間だった。
しかし、自らの子の死を目前にして、彼は今にも崩れ落ちそうに見えた。
彼が、かすかにダリアを呼んだ。
「ダリア嬢、私は……これは、一体……。」
彼女は急いで言った。
「陛下、私はセドリック様と約束しました。必ず、すべてを無事に終わらせると。」
「………。」
「誰も死なず、誰も不幸にならないようにします。どうか、信じてください。」
皇帝は顔を覆っていた手を下ろし、ダリアを見つめた。
まるで彼女の表情の中に、わずかでも希望を見つけようとするかのように——。
結局、完全には納得できなかったものの、彼は仕方なく唇を噛みしめた。
「私がダリア嬢を信じなければ、一体誰を信じるというのだ?」
信じられなくても、それしか選択肢がなかった。
もはや、ダリアに託すしかなかったのだ。
その思いが、彼女の胸に重くのしかかった。
遠くで二人の会話を聞いていたセドリックが、静かに口を開いた。
「父上、三層の結界をすべて解除してください。すぐに、この空間を分離します。」
皇帝は、ゆっくりと唇を噛みしめた。
セドリックは静かに息を吐いた。
皇帝が魔力を注ぎ込んだ。
その瞬間、セドリックの全身から、想像を絶するほどの魔力が一気に溢れ出した。
並の魔術師なら、一撃で暴走するほどの力。
ルウェインが試しに発動しようとしても、魂移動の魔法によってすべての魔力を失った彼には、到底扱えるレベルではなかった——そんな次元の魔法。
帝国の皇帝、魔塔の最高魔法師たちでさえ、セドリック以外のこの世界の誰にも操れない魔法が、今、目の前で展開されていた。
床に刻まれていたルーン文字が、セドリックの魔力が流れ込んだ途端、光を帯びながら動き始めた。
同時に、セドリックの瞳が、まるで血のように燃え上がる赤に染まった。
彼の準備した異空間魔法が発動していた。
——アセラスを含むこの空間を、この世界に存在しない“異空間”へと分離する。
一度その扉が開けば、閉じることができるのは内部にいる者だけ。
セドリックは、その空間を封じ込めるために、自ら内部に残る決意をしていた。
これで扉を閉じれば、その空間にはアセラスとセドリックだけが残る。
惜しいことに、セドリック自身も異空間の扉を自らの手で閉じた後は、異空間魔法を解除することができなかった。
だからこそ、ベオルドが必要だった。
「セドリック様!」
ダリアが後ろから彼を呼んだ。セドリックは振り返った。
彼女は精一杯の力を込めるように拳をぎゅっと握りしめていた。
セドリックの記憶の奥底から、いくつかの断片が浮かび上がった。
そこには、アセラスが生み出す神聖力による爆発の光景があった。
だが、その爆発は、この世界に何の影響も与えることはなかった。
異空間とともに、すべてが消滅するだけの話。
それが、結末だった。
『そしてダリアは、その結末を変えようとしていた。』
彼女が願うのなら、そうなるのだろう。
異空間が完成した。
セドリックはダリアに微笑みながら、手を振った。
そして、異空間の中へと足を踏み入れた。
異空間の扉が閉じる音が響いた。








