こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

9話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 新しい先生
3か月後、イサベルには新しい先生ができた。
「皇女様にお会いできるとは。ミロテル魔法連邦所属の1級魔法師、カリンと申します。」
イサベルは冷や汗をかき始めた。
彼女は叫びたかった。
「最終ボスがどうしてここで出てくるんですか!」と。
原作には存在しなかった内容だった。
ミロテル魔法連邦1級魔法師、カリン。
原作の中で彼女は大きな野望を抱いた魔法使いだった。
サイコパス黒魔法使い!
目的のためなら手段を選ばない人物でもあった。
それでいて非常に賢く、狡猾な女性。
彼女は師匠を裏切り、魔法連邦の指導者である「創成魔法師」の地位に登り詰めるのだが、その師匠すらまるで手玉に取るような緻密で計画的な女性だった。
ミロテル魔法連邦を掌握した彼女は、全大陸を支配する巨大帝国を作り上げようとしていた。
その過程で剣術帝国の皇帝となった男性主人公アーロンと対立することになる。
しかし、アーロンは主人公だから……。
どんなに強力な黒幕ヴィランであっても、結局は物語の主人公には勝てない。
彼女はアーロンに何度も敗北し、最後には仕方なく彼に「ナルビダルの秘宝」を渡す。
辛うじて生き延びた彼女はアーロンに遺言を残し、目を閉じる。
その場面で物語の一章が終わる。
「あの時は皆、彼女が死んだと思って、裏切り者だと罵ったのに。」
だがここで再び、どんでん返しが登場する。
「裏切り者と思われていた彼女が生き延びていたなんて誰が想像しただろう?」
ちなみに、この世界におけるドラゴンは魔法の始祖であり、全ての魔法の創始者とされる存在だった。
ナルビダルの落人とナルビダルの秘宝を巡る物語は唯一効果を発揮できる存在。
ある日、人間の魔法使いの秘宝をドラゴンが受け継ぐなどあり得ない話だった。
自らの記憶を封じていた女性が死の危機を乗り越え、ドラゴンとしての自分を自覚した。
その後、アーロンと女性はそれぞれの能力を発揮しながら裕福で幸福な暮らしを送るようになるというストーリーが語られるのだが……。
(言い換えれば……最強の男性主人公に、さらに強力な女性ドラゴンが匹敵するヴィランとして登場する話でもあるのよね。)
まだプロローグすら始まっていない状態だ。
この作品が本格的に始まるにはあと18年は必要だ。
『後妻の悪女が死んだ後』の後妻キャラクターがまだわずか3歳で、なぜこんなに早く出てきたのか理解できなかった。
私の意思とは無関係に体が震えた。
この程度の簡単なやり取りでも、最終的なヴィランは私の異常さに気づくだろう。
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「皇女様、ご体調はいかがですか?」
「く、苦しい……」
真剣に対応したかったが、真剣になることができなかった。
幼い体というのはこういうとき非常に不便だ。
『どうすればいい?』
三歳の人生最大の試練が訪れた。
小説の中で直接言及された一文。
「カリンは相手の心理を読み取り、弱点を突いて揺さぶるのが非常に得意である。」
実際、皇女が普通の人間とは少し異なると感じ取ったカリンは、それを武器として利用しようとしていた。
周囲を赤ん坊のように見始めた。
『主人公も危険な目にたくさん遭ったのに、私のような序盤のエキストラが狙われるなんて……』
想像するだけで身震いした。
自分が「ビンイ」だという事実が知られたら、絶対に取り返しのつかないことが起きるだろう。
私は唇をぐっと噛み締めた。
すでに体は震えている。
怪しまれるようなことは避け、論理的で理性的な態度は捨てることにした。
『答えは単純だ!』
今の私は大人のように頭が回るわけでもなく、心臓が顔にまで響き渡るような幼い存在だ。
むしろ子供らしく振る舞うことを選んだ。
「私はビアトン卿が好きです!」
「ビアトン卿と私は教える分野が異なるのですよ。」
カリンに対する敵意を抑えられず、その場を幼い態度で乗り切ることにした。
「私はビアトン卿が一番大好きなんです!」
「……」
「大好きでしょ?」
私はしっかりと唇を結び、意志を表現した。
「それでは、陛下は私を先生として認めてくださらないということでしょうか?」
「うん。ビアトン卿を連れてきて!」
私は駄々をこねて呼ばなかったわけではない。
この肉体はいつも駄々をこねており、私は理性的にそれを抑えるためにここに来たのだ。
さあ、駄々をこねる準備をどうぞ!
「うえええん!」
私はわざと大声で泣き始めた。
その間、抑え込まれていた私の本能が爆発したかのように飛び出した。
カリンは表情を変えずにただ私を見つめていた。
その真紅の瞳が怖かった。
『あ、でも待って。』
一つの考えが頭をよぎった。
原作でカリンを止める人物、それはアーロンだ。
『アーロンが覚醒するには、私がいじめなきゃいけないの?』
原作では悪女イザベルに執拗にいじめられた少年アーロンが覚醒し、世界観最強の人物になるという展開だ。
『でも私はいじめないけど?』
そうすると、彼は覚醒しないかもしれない。
たとえ覚醒したとしても、剣術帝国に縁がないため、ビルロティアンの皇宮に近づくことはないだろう。
『そうなると?アーロンは皇帝にならないの?』
カリンがアーロンと敵対したのは、アーロンが将来ビルロティアンの皇帝になるからだ。
もしそうなら、カリンとアーロンが争うこともなくなる。
『最終的なヴィランを止めてくれる男主人公がいないってこと?』
そうなると、この最終ヴィランと戦うことになるのは私の家族である可能性が高まる。
『このまま放置してしまうわけにはいかないんじゃない?』
小説のように力を育て、最終ヴィランに立ち向かえる存在にならなければならないだろう。
カリンの目的は、全世界を支配することなのだから。
ビロティアンの皇帝が誰になろうとも、いずれその座に就くことになるだろう。
『いっそ私のそばに置くほうが安全な気がするけど……どうかな?』
世界観の最強者は、もともと二人いる。
一人は父親で、もう一人は男主人公だ。
ただし、父親は母親を亡くして狂気に陥る。
『私が良い子にしていれば、父は母を失わずに済むし、それなら父も悪に染まらないんじゃない?』
父親は、男主人公を除けば、最終ヴィランと対等に戦える唯一の人物だ。
頼りになる父親は、カリンの野望を阻止してくれるだろう。
『えっと、どうしよう?』
とりあえず知らないふりをするべきか。いずれにせよ、話が本格的に展開するのは20年後だ。
その時、私はすでにこの世にはいないだろう。
だけど……
21年という贈り物を受け取った。
大それたことではなくとも、この世界に何かを残して去るのも悪くない、という思いが浮かんだ。
よし、決めた。
家族を守ってから行こう。
それが、私が受け取った贈り物に対する証拠になるのかもしれない、と思えた。
自分の人生に少しでも意味を持たせられる気がした。
「このままでは教育が難しそうですね。魔法は師匠と弟子の間の深く親密な交流が行われなければ進展しにくいものです……。」
「全部うまくいくよ。」
私は静かに涙を拭った。
不思議なほど調整がうまくいくな。
家族を守ろうと考えたら、かえって調整がうまくいった。
私はにっこりと笑った。
「赤ちゃんは赤ちゃんなりの方法で最終ボスに立ち向かえばいい。」
私の行動は、カリンにとって無力で場違いに映ったようだった。
「……はい?」
「先生を徹底的に慕えば、ビアトン卿も柔らかくなると思うの。」
ふふっ、と明るく笑った。
鏡に映った自分の姿は、自分でも驚くほど可愛らしく愛おしかった。
本当に顔全体が誇らしげに燃え立つようだった。
「私は可愛いお姉さんを慕うの。」
私は手を差し出した。
「イザベルは一生懸命学びますよ、先生。」
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外でこっそり聞いていたビアトンは、手で口を押さえながら笑っていた。
「ふふふ。」
普段は闘志を見せないイザベルだ。
そのイザベルがビアトン卿を連れてきて泣きながら頼んでいるのだ。
「本当に嬉しい。」
イザベルが新しい先生を大歓迎したといっても、少し誇張した表現に過ぎなかった。
彼は北堂で雑用をしていた侍従に話しかけた。
「見たか? 聞いたか? 気付いたか?」
「はい?」
「皇女様が闘志を燃やしておられる。」
侍従はビアトンほど聴力が優れておらず、何を言われているのか理解できなかった。
彼はぎこちなく笑った。
「は、はは! 私、私はよく……!」
「皇女様は闘志を燃やさないことで有名だ。つまり、それは私が皇女様にとってこれほど必要な人間であるということだ。」
ビアトンは懐から金貨を一枚取り出して侍従に渡した。
それは彼の三日分の給与だ。
擦り切れた制服は見た目にはみすぼらしかったが、その感情は何としても表現しなければならない素材の輝きを放っていた。
「記念すべき日だから受け取れ。」
金貨を受け取った侍従は即座に耳が開き、口も滑らかになった。
「はっきりと見て聞きました!」
「そうか?」
「そういえば、皇女様がビアトン卿に会いたいと繰り返しおっしゃっていたのを思い出します。」
「ふふふ、それは当然のことだ。」
ビアトンは自信に満ちた微笑みを浮かべ、自然と足取りが軽くなった。
彼は侍従に手を振って下がらせたため、イサベルの次の言葉を聞くことができなかった。
「カリン。どれだけ優れた魔法使いであろうとも、皇女様の心はすでに私のものだ。」
静かにささやかれた。
「死ななくても大丈夫。」
誰にも見られていなかったが、その目には鋭い決意の光が宿っていた。









