こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

104話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- side ノア
皇宮の奥深くには、皇后が自ら管理する野外庭園があった。
それほど広くはないが、手入れの行き届いた高級な花々が揃う庭園だった。
ノアはその庭園のテラスに座り、皇后である母親、そして姉と一緒に穏やかな時間を過ごしていた。
「どうしてこんなに心配させるの?少しでも良いから気遣ってよ。どれだけ心配したと思ってるの。」
レイナは感情を抑えきれず、ノアに詰め寄った。
その心配が怒りとともにあふれ出てきた。
「そんなに大げさにしないで。ノアだってどうしようもなかったのよ。」
皇后は再び皇宮に戻ってきたノアから目を離せないでいた。
信じられないというような表情で、ノアを見つめ続けている。
ノアを見つめる皇后の目には、涙が浮かんでいた。
皇帝がノアに対して抱いた感情と同じように、皇后もノアに対して申し訳なさと責任を感じていた。
「こうして健康に戻ってきてくれて、どれだけ感謝しているか……こんな日が来るなんて想像もできなかったわ。」
ノアは、泣き出しそうな母を安心させるように、笑顔でこう言った。
「もう本当に大丈夫です。」
「絶対治らない病気だなんて……奇跡よ。あなたには女神の加護があるに違いないわ。」
ノアが皇宮から姿を消していた間、皇后は女神に祈りを捧げながら神殿を訪れていた。
しかし、完治して戻ってきたノアを見て、祈りが届いたのだと信じていた。
過去に対する拒絶感は完全に消え去っていた。
今ではむしろ感謝の気持ちが湧き上がり、今後は神殿への支援を惜しまないと考えるようになっていた。
「私の病気が治ったのは女神の加護のおかげではありません。」
ノアは母親が神殿を擁護することに気が進まないようで、毅然と答えた。
「それじゃあ?」
「私を治療してくれた友達がいるんです。」
「どういうこと?治療法なんてないって……。」
レイナはもっと詳しく話を聞き出そうとしながら、ノアにじっと身を寄せた。
彼女の性格からすると、気になって仕方がない様子だ。
「話せません。ただ、私が治ったということだけで十分でしょう?」
「まあそうだけど……気になるのよ。」
「後でね。今はお姉さんやお母さんがどう過ごしていたか話してください。」
ノアが皇宮のそばで暮らし始めて3年以上が経過していた。
その間に話したいことが山ほど溜まっていた。
三人は静かな会話を交わしながら、心から幸せを感じていた。
同じ空間に一緒にいられるということだけで、三人にとっては夢のような時間だった。
「……あのことで、たくさん心配させてしまいましたよね?」
「私が苦労することなんてないわ。君が外で辛かったのに。今度こそ、君をどこへも行かせたりはしないわ。」
「君がいなくなった後、お母さんは毎晩まともに眠れなかったのよ。」
「どこが私だけよ?レイナも毎晩泣いて過ごしていたわ。」
母親と姉の温かい歓迎を受けて、ノアはようやく本当に家に戻ってきたという気分を味わった。
『生き延びられてどれだけ幸運だったか。』
囚われの身となっていた間にそのまま人生を諦めていたら、このような瞬間は決して訪れなかっただろう。
母の優しさと、懐かしい姉の愛情が手を握りながらじんわりと感じられた。
ノアは心からエステルに感謝した。
この瞬間を取り戻せたのは、すべてエステルのおかげだ。
三人で穏やかな時間を過ごしていると、突然、一羽の鳥がノアの周りを旋回し始めた。
「まあ、あなたの頭の上にだけいるのね?」
レイナがにっこり笑いながら、その鳥を手で軽く遮った。
「足に何か巻き付いてるみたいね。手紙じゃない?」
「手紙ですか?」
ノアは少し戸惑いながら、空を見上げて鳥をそっと捕まえた。
鳥はノアと目が合うとすぐに落ち着き、テーブルにおとなしく降りた。
そして、ためらうことなくノアに向かって鳥の足をそっと差し出す。
本当に手紙が結ばれていた。
「誰が送ったんだろう?」
「不思議ね。どうやってここまでたどり着いたのかしら?」
レイナと皇后は鳩の能力に感心しながら見守る間、ノアは疑い深い表情で手紙を受け取り、ゆっくりと開いた。
その瞬間、何の期待もせず手紙を読んでいたノアの顔が一瞬で明るくなり、口元に笑みが浮かんだ。
その様子を見た二人は、そばで目を見張った。
ノアの表情の変化が非常に顕著だったためだ。
「まあ、見てごらん……。お母様、ちょっとその顔見てください。」
「ノア、外で女の子の友達でもできたの?」
核心を突くような母の質問に、ノアの耳が赤く染まった。
「そんなことありませんよ。」
しかし、そうではないと否定しつつも、ノアは手紙から目を離すことができなかった。
「ウソでしょ。表情を見ただけで分かるわ。君、赤くなってる。」
「相手は女の子なのかしら?」
くすくす笑いながらからかうレイナに、冗談なのか本気なのか分からず、皇后の態度のせいでノアは心を落ち着けることができなかった。
「ちょっと待ってください。」
少しの間を置いて再び集中し、ノアは手紙を読み直した。
それは短い内容で、「頑張れ」と励ますものだったが、エスターが先に送ってきたという事実が重みを持っていた。
「僕を治してくれた友達がいるって言ったじゃないですか。その友達なんです。」
ノアが母にエスターのことを話す際の表情は、誰が見ても恋に落ちた人の顔つきだ。
到底隠しようもないほど、ノアの顔に出ている様子を見て、レイナはつい笑いをこらえきれなかった。
「君、その友達好きなんでしょ?」
帝国の名門貴族たちの前でも堂々としていたノアだったが、家族の前では恥ずかしがり屋の少年だった。
「うん。僕、すごく好きだよ。」
ノアは後頭部をかきながらも、照れ隠しすることなく自分の気持ちを素直に明かした。
「きゃっ!」
その答えに、レイナは悲鳴を上げて飛び上がり、皇后は驚いて目を大きく見開いた。
「本当なの?」
「君がそこまで惹かれるなんて、どんな子なのか気になるわ。」
「とても優しい人なんです。普通なら耐えられないような状況でも、いつも毅然としていて、誰よりも強いんです。それにとてもきれいで……。」
エスターを思い出すノアは、頬が紅潮しながらもその笑顔を隠すことができなかった。
「外にいるとき、その子が君のそばにいてくれたんだね?」
「はい。」
城壁の中で過ごした時間を思い返すノアの目が、少し切なげに揺れた。
本当に死にたかった、一番辛かった時期に、夢の中でエスターに出会うことが日々を支える力となった。
もう一度生きたいと思えたのも、生きなければと思ったのも、すべてエスターのおかげだった。
「本当に感謝しきれない出来事だね。その子にどう感謝を伝えればいいかしら。」
以前なら、どこかの家の子供くらいにしか思わなかった皇后も、ノアの経験を通じて変わった。
ただ外の過酷な時間を耐え抜いたノアのそばに、支えてくれる存在がいたというだけで、感謝の気持ちが湧いてきた。
ノアが今こうして明るい姿でいるのは、その子のおかげであることは言うまでもなかった。
ノアが既に好きになっている子供がいると知り、その子が誰であれ、可愛らしく思えてきた。
ノアがその子を好きだというだけで、彼女の心は温かくなった。
たとえその子の身分が低いとしても、皇后は彼らを受け入れるつもりでいた。
「そうね。一度顔合わせでもできればいいのだけれど。いつか一緒に食事ができたら嬉しいわ。いっそのこと、皇宮に招待するのはどうかしら?」
「まだそれは無理です。その子は一人が好きだから、負担になると思います。」
「本当に?」
皇后は驚きながらも微笑みを浮かべた。
それは不思議なことだ。
どこにいても目立つ存在のノアが、一人の子供に夢中になっているとは。
「ほほ、どんどん気に入っていくわね。どんな子か本当に気になるわ。」
レイナは一人で考え込んだあと、意図ありげな表情でノアの肩をポンポンと叩いた。
「それでも手紙を送ったということは、君に対して特別な気持ちがあるんじゃないかな。」
「そう? 少し期待してもいいかな。」
その言葉を嫌がる様子もなく、ノアはにこやかな笑顔を浮かべながら、そっと手紙をなぞるように指で触れた。
「母上、ちょっとこの手紙の返事を書いてきますね。」
「もちろん。」
ノアは皇后に許可をもらうと、すぐに立ち上がり、自分の部屋へ向かった。
エステルに返事を書くことを思うと心が弾み、勢いよく駆け出していったが、途中で偶然見かけた花壇の花に目を奪われて足を止めた。
「似ている。」
ノアはそっと微笑み、膝丈ほどの高さに咲いている花に視線を注いだ。
その中でも特に目を引いたのは、エステルの瞳のような優しいピンク色のチューリップだった。
他の花と同じ種類ながら、その一本だけが格別に香り高く感じられたノアは、そっとその花を摘み取った。
「香りも届けようと思って。」
ノアは手紙に花びらを添えて送ることを考えた。
離れていても同じ香りを共有することができると考えながら。
淡いピンク色のチューリップを手に持ちながら歩くノアの隣には、小鳥が「プドゥドゥ」と鳴きながらついてきた。





