こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

102話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 肖像画②
翌朝。
エスターは日の光ではなく、どこかにある思いがけない感情に戸惑うような様子だった。
目をこすりながら目を開けた。
起き上がってすぐに見えたのは、柔らかくふさふさとしたチーズの毛並みだった。
「チーズ?なんでここにいるの?どうやってベッドに上がったの?」
以前、庭で治療してあげた猫の毛色が黄色っぽかったので、チーズと呼ぶようになった。
ジュディが直接育てると言って連れて帰ったが、時々エスターの部屋にやってきて眠るのが習慣になっていた。
今回もエスターが寝ている間にベッドに上がり、彼女の胸元に身を寄せて鼻先まで埋めていた。
「お兄ちゃんが知ったら、また気にするだろうな。」
最近、ジュディはチーズの気を引くために毎日おやつを持ってきて、せっせと努力をしている。
チーズのベッドもその部屋にあるが、眠っている間に自分のところに来たことを知られたら、ジュディは拗ねるに違いない。
エスターは兄が起きる前にチーズを連れ戻そうとした。
下に降りることを考えながら、エスターは布団を払い起き上がる。
すると、隣に横たわっていたチーズも寝ぼけた顔で両前足を伸ばしながら伸びをした。
ちょこちょこと小さく動く様子が可愛らしくて、エスターは軽く頭を撫でて見守っていると、突然、昨夜の記憶が蘇った。
「でも、どうやって戻ったんだろう?」
書斎で書類を読んでいたところまでは覚えているのだが、その後部屋に戻った記憶がなかった。
「お父さんが運んでくれたのか……。」
きっと助けてくれるつもりだったのだろうが、かえって迷惑をかけたのではと申し訳なく思った。
朝食が終わったらもう一度書斎へ行き、片付けをすることを決心し、スリッパを履いて窓辺へ向かった。
しっかり閉じられていたカーテンを開けると、明るい日差しが差し込んできた。
目をこすりながらじっと考えていると、ふとノアのことが思い浮かんだ。
『上手くいかなかったって言ってたよね。』
ノアが最も多くの支持を得たにもかかわらず、神殿の反対により結果が保留されたと聞いた。
思うように物事が進まず、苦しんでいるのではないかと心配になった。
「頑張ってって言いたいのに。」
振り返ると、ノアはいつも自分にそんな励ましの言葉をくれていたが、その恩返しはできていなかった。
だからといって、これが理由で宮廷に出向くわけにもいかない。
何か連絡を取る方法がないかと考えた末に、良い方法を思いついた。
候補生時代に聞いたことがあるのだが、中級聖女候補生以上になると、使い魔の鳥を伝書鳩として使う方法を教わるという。
エスターは下級候補生だったため試したことはなかったが、今なら何の問題もなくできる自信があった。
エスターは大きく深呼吸をし、窓を押して大きく開けた。
そして、力を込めてホイッスルを吹いた。
聖力が宿った美しいホイッスルの音色が流れると、不思議なことにすぐに鳥たちが集まってきた。
『成功だ!』
エスターはその中で最も空を切るような俊敏なビトルギ(鳥)と目を合わせ、部屋の中に呼び寄せた。
ホイッスルの音に驚いたはずだが、ビトルギは逃げることなくエスターのそばを飛び回りながら愛嬌を振りまいた。
「手紙を渡すから、少しだけ待ってね。」
ノアに手紙を送るという考えに心躍らせたエスターは、手元にあった紙を一枚拾い上げて文字を書き始めた。
しかし、上手に書こうとする気持ちが裏目に出て、最初の手紙を書くことへのプレッシャーから簡単には完成できなかった。
こんな風に書いては消し、またあんな風に書いては消すという繰り返しになった。
何度も試行錯誤を繰り返し、数枚の紙を無駄にした後、エスターはようやく納得のいく手紙を完成させ、ほっと笑みを浮かべた。
手紙を慎重に巻き上げてビトルギに結びつけようとしたが、ふと動作を止めて戸惑いを覚えた。
「変に思われたりしないかな?」
手紙を送ろうとすると少し恥ずかしさが込み上げてきた。
ノアが自分の気持ちを誤解しないだろうかと心配にもなった。
しかし、特別な意味があるわけでもなく、ただ本当に友達として気遣っているだけだと自分に言い聞かせ、手紙を丁寧に結びつけた。
「お願いね。」
エスターは真剣なまなざしでビトルギを見つめ、ノアのもとへ向かうように送り出した。
イメージングだけを頼りに。
訓練されたビトルギではなかったが、イメージングを行えば、そのビトルギは目的の人を探し出すことができた。
「ククッ!」
ビトルギはエスターの言葉を理解したかのように首を傾げ、窓の外へと勢いよく飛び立っていった。
『うまくいくといいな。』
頬が少し赤くなったエスターは、手紙を受け取ったノアがどんな表情をするのか想像しながら、指をそわそわと動かしていた。
すると突然、父や兄たちとの約束を思い出し、胸の奥に罪悪感が込み上げてきた。
「これもダメなことだったのかな?」
会うわけでもなく、ただ手紙を送っただけとはいえ、それが約束を破る行為だと思うと、心が落ち着かなかった。
「やっぱり食事のときに正直に話さなきゃ。」
そう心に決め、もやもやした気持ちを振り払おうと深く息を吸った。
そしてチーズをジュディに届けるため、部屋を出た。
ジュディの部屋は下の階にあり、階段を下りる途中でエスターの視線がふと北側の奥に向かった。
「えっ?」
本能的に何かが普段とは違うと感じ、いつも閉じられていたはずの奥の部屋のカーテンが開いていた。
そのことに気づいたエスターは、思わず足を止め、部屋の前までたどり着いた。
近づいて確認しても、いつも扉にかかっていた鍵が見当たらなかった。
「もしかして…」という気持ちでドアノブを軽く回してみたが、何の抵抗もなくスルッと開いた。
「あっ……」
ドアが開くと同時に好奇心が湧き上がった。
ずっと閉ざされていたその場所に一度は入ってみたいと思っていたからだ。
しかし、この部屋がなぜ開いているのか理由がわからず、どうするべきか迷い始めた。
父にまず許可をもらうべきかと考えつつも、次の行動を決めかねていた。
しかし、少しだけドアを開けて中を覗くことにした。
中に入るつもりは本当になかった。
ただ目で確認するだけのつもりだったが、抱えていた物にくるまっていたチーズが、ドアが開いた瞬間にピョンと飛び出した。
「えっ、チーズ、ダメ!」
エスターは慌てて声を上げ、すぐに捕まえようとしたが、チーズは既に素早く部屋の中に走り込んでしまった。
部屋に入ったチーズは、自分の部屋のように堂々と部屋の中を走り回りながら、エスターに向かって入ってくるよう催促しているように見えた。
『……どうしよう。』
エスターはチーズに外に出てくるよう手を差し伸べながら説得しようとしたが、全く効果がなかった。
結局仕方なく、チーズを連れて出るためにエスターも部屋の中に足を踏み入れた。
何もないとわかっているはずなのに、足を踏み入れると妙に緊張感が走った。
入ってはいけない場所に足を踏み入れたという気持ちで、胸がドキドキしていた。
しかし、いざ入ってみると、思っていたよりもずっとこじんまりとした部屋だった。
物も多かったが、特に肖像画が目を引いた。
「わあ。」
壁一面に飾られた肖像画を見つけたエスターは、思わず感嘆の声を漏らした。
全て同じ人の肖像画のようだったが、どうしてこんなに多くの絵が残されているのだろうと驚かざるを得なかった。
肖像画一つ一つを目で追いながら、エスターはその絵の中の人物が誰なのか、少しずつ分かってきた。
そして、父親がこの部屋をなぜ誰にも入れないようにしていたのかも理解できた。
肖像画の主を実際に見たことのないエスターでも、その人を慕う気持ちが湧いてくるような部屋だったのだ。
「こんにちは。無断で入ってしまい申し訳ありません。」
エスターは掛けられている絵の中で一番大きな肖像画の前に近づき、挨拶をした。
そしてふと、かつてセバスチャンの母が、自分がこの人に似ていると言った記憶を思い出し、絵をじっくりと見つめた。
「似ているのかな?」
分明な髪の色と瞳の色がほとんど同じだった。
しかし、肖像画の主人公はとても美しかった。
そんな人物が自分に似ていると思うと申し訳ない気持ちになり、頭を下げた。
「似たような人が一人いるだけだわ。」
そう考えながら、肖像画から目を離すと、先端に置かれていた小さな額縁が目に入った。
その中には肖像画の主人公とそっくりの女性がもう一人写っていた。
二人は明るく笑っていた。
あまりにも幸せそうな表情で、見ているだけでエスターの口元にもほのかな微笑みが浮かんだ。
すると突然、エスターの足元でじっとしていたチーズが体を硬直させ、警戒するようにしっぽをピンと立てた。
何かをしていた手を止めて振り向くと、ドフィンがドアのところに立っているのを見て、エスターは驚きのあまり額縁を落としてしまった。
「あ……お父さん!」
床に落ちた額縁を慌てて拾い上げる間、ドフィンは驚いた目でエスターを見つめていた。
彼は真夜中に勢いよく開いたドアを閉めに上がってきたのだった。
しかし、アイリーンの肖像画の前に立っているエスターを見た瞬間、何も言えなくなった。
「アイリーン。」
自分を振り返るエスターにアイリーンの顔が重なって見えた。
至近距離で見ると、これまで以上に似ていると感じた。
「私はただ、ドアが開いていたので……勝手に入ってしまってすみません。」
ドフィンの険しい表情を見て、エスターは自分の行いが彼を怒らせたのだと感じた。
「大丈夫だよ。ドアを開けっぱなしにしたのは僕だから。」
ドフィンはエスターの肩に軽く手を置きながら、彼女から額縁を受け取った。
「左側の人物は僕の元妻アイリーン。そして右側の人物はアイリーンの妹だったキャサリンなんだ。」
ドフィンの声は低く掠れていた。
アイリーンの部屋だからか、彼の目には少し憂いが浮かんでいた。





