こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

249話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 平穏なひと時
「キエル様!」
山中を探し回り、遠目でも目を引く輝く銀髪、彫刻のような顔立ち。
キエルハーンが目を大きく見開いてマリを呼んだ。
「陛下?いや、どうしてここに?」
「行方不明との報告を受けて駆けつけました。一体どういうことですか?」
マリは慌てて駆け寄り、怪我がないかと彼を調べた。
幸いなことに、彼の体にはどこにも傷一つ見当たらなかった。
キエルハーンは彼女の心配を穏やかな微笑みで受け流し、穏やかな声で話した。
「こんなにも心配をかけてしまい、申し訳ありません。」
「何があったんですか?」
「それが……」
キエルハーンは困惑した表情を浮かべ、重い口を開いた。
「反乱者たちを鎮圧していました。」
「え?」
「もともとは行方不明の子供だけを探して保護しようと思っていたのですが、見知らぬ反乱者が山に潜んでいるのを発見しました。そのまま放置しておくと、通行人に危害を加える恐れがあると思い、適切に対応していました。」
マリは凍りついたような表情を浮かべた。
「それで連絡が途絶えたのですね……」
「はい、反乱者たちを追跡していたからです。人数は多くありませんが、大半は捕まえることができました。」
「それでも危険かもしれないのに、兵士たちを連れてこなかったのですか……」
キエルハーンは絵画のような穏やかな微笑みを浮かべた。
「行方不明の子供が反乱軍に囚われている状況で、あまり時間を無駄にできなかったのです。申し訳ありません。」
マリは彼の言葉に安堵のため息をついた。
他人を救うために動いたことなので、何も責められることはなかった。
「それでも、今後こういったことに関わる前には必ず教えてください。分かりましたね?」
その声に込められた心配を、キエルハーンはしっかりと受け止め、穏やかな眼差しで彼女を見つめた。
彼の深い瞳の奥には、一瞬だけ後悔と憂いが浮かんだ。
しかし、彼女がそれを察したのかと思う間もなく、その表情はすぐに消え去った。
「はい、分かりました。今後は注意します。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
彼は一礼しながら答えた。周囲の状況を再び確認し、こう続けた。
「少し先まで進むと、反乱軍がしっかりと隠れています。」
キエルハーンと同行していたシェルト騎士団の数人の騎士が反乱軍を監視していた。
「おかげさまで子どもを無事救出することができました。」
王室騎士団の騎士たちは反乱軍を捕らえ、彼らを首都に連行して法的な処罰を受けさせることになった。
「とにかく本当に驚きましたよ。心配しましたから、次からはこんなことしないでくださいね。」
キエルハーンは一瞬黙り込んだまま彼女をじっと見つめた。
マリがその視線に照れて表情を崩した時、彼はそっと微笑んだ。
「どうして笑っているんですか?」
「女王陛下が心配してくださるのが嬉しくて、つい。」
マリはその言葉に困った表情を浮かべた。
「キエル様のことですから当然心配しますよ。次からは絶対に気をつけてください。」
「は、はい。分かりました。」
気まずそうに答えながらも、特に気に留める様子もないキエルハーンに、マリは少し口を閉ざした。
実際、こういったことは今回が初めてではなかった。
さすがは「騎士中の騎士」と呼ばれる存在だと、彼女は内心で感心していた。
キエルハーンは窮地に陥った人々を放っておけず、以前も何度か危険を顧みず助けようとしていた。
「それでも、陛下の騎士として適切にお仕えできなかったこと、お詫び申し上げます。」
「いえ、それは関係ありません。それよりもキエル様がもし傷ついていたらと思うと、そちらの方が気がかりです。」
キエルハーンの謝罪に、マリは驚いた様子で彼を見つめた。
実際、彼女は今でもキエルハーンが自分に忠誠を尽くす理由が分からなかった。
彼は大切な友人であり、彼女の従者ではなかった。
戦争も終わり、これ以上彼に騎士としての役目を果たさせる必要はないと言っても、彼は変わらず彼女に仕えていた。
「キエル様。」
マリはキエルハーンを見つめてそっとため息をついた。
彼を見ると複雑な感情が湧いてきた。
常に彼女を守ろうとするその姿に感謝しながらも、同時に申し訳ない気持ちが消えなかった。
彼女には彼に返せるものがなかったからだ。
それでも彼は、まるで彼女に仕えることが使命であるかのように行動していた。
それは、自分に与えられた最も大きな喜びのようだった。
その後、彼らは特に問題もなくクマン城に戻った。
マリは国王として政務を執り、キエルハーンは騎士として彼女を守った。
彼は皆が認める最高の騎士だったが、王室騎士団の任務や王国の仕事には全く関わらなかった。
キエルハーンはただマリに寄り添い、何かしらの危険から彼女を守ることにだけ心を砕いていた。
「えっと……そんなに立っていなくてもいいんですよ。どうぞ楽にしてください。」
微動だにせず立っているキエルハーンを見て、マリは気遣うようにそう言った。
「大丈夫です。」
「でも……。」
「これが私の役目です。」
キエルハーンは、気を使わないようにと言わんばかりの口調で答えた。
「以前、トーレン陛下をお守りしていたときは、これよりずっと大変でした。私は強いですから、このくらいでお気遣いなさらないでください。」
トーレン、東帝国の先皇でラエルの父。
その名は、かつて東帝国の皇室親衛隊の団長として長きにわたり皇帝に仕えていたキエルハーンである。
「それでも……。」
彼女が気を遣い続けるのを見て、キエルハーンは真剣な表情で問いかけた。
「私が陛下をお守りすることが、何かご不便なのでしょうか?」
「……そんなことはありません。でも、申し訳なくて。」
マリは息をついて答えた。
彼は彼女にとって大切な存在だった。
しかし、これほどまでに献身的な保護を受けることに、どうしても申し訳ない気持ちが湧いてしまう。
それでもキエルハーンは微笑みながら首を振った。
「そのようにお考えにならないでください。私は今、あなたを友人としてではなく、忠誠を誓った臣下としてお仕えしているだけです。」
キエルハーンは片膝をつき、彼女の手を取った。
そして、装甲のついた手袋の甲に唇を寄せ、静かに続けた。
「何よりも陛下以外の誰に、私の忠誠を捧げられましょうか。陛下以外、このキエルハーンにはございません。」
マリの顔は困惑とともに少し赤くなった。
「そ、それでは陛下に失礼ではありませんか?」
キエルハーンは微笑んだ。
「とんでもない。陛下をお守りすることが皇帝に害を与えることなどありえませんよ。」
マリは戸惑った。
ラエルもそうであったように、キエルハーンも、日が経つにつれ徐々に自分と馴染んでいくのが感じられた。
「それでも、このままではいけません。」
「どういう意味ですか?」
「あなたは一日中ずっと私を守っているじゃないですか。それは申し訳なさすぎます。」
「それは当然私がするべきことで……。」
「だめです。私はこれ以上見ていられません。」
マリははっきりした声で言った。
「一日に8時間。それ以上は働かないでください。」
「え?しかし、それは……?」
「残りの時間は他の王室騎士たちが担当します。」
キエルハーンは反論しようとした。
彼の目から見れば、王室騎士団は東帝国の近衛騎士団や親衛隊に比べて水準が劣っていた。
万が一、彼女を危険な目に遭わせるようなことがあれば守りきれないのではないかという不安があった。
しかし、マリは譲らず、強い口調で言った。
「今のように過労が続けば、キエル様がいつかは倒れてしまうでしょう。私はキエル様が疲れ果てる姿を見たくありませんから、私の言うことを聞いてください。」
「……わかりました。」
どうしようもなく、キエルハーンは首を縦に振った。
それでも、彼は心の中で決意を固めた。
今後、自分の身分を考え王室騎士団の仕事には関与しないまでも、バルハンに指導を仰ぎ、剣術の訓練をする必要があると。
それは彼女を守る際に、どんな不足もないようにするためだ。
マリはその場でそれ以上言及しなかった。
「また特別な用事がない時は、座って待機してください。」
「陛下?」
キエルハーンはまさに納得できないという顔を浮かべた。
警護の任務をしているのに、座って待機しながら見守れというのは話にならない。
「政務を見たり何かする時、わざわざ立ったままでいる必要はありません。体力の無駄遣いです。」
過去に東帝国で侍女の生活を送っていたせいだろうか?
マリは、騎士がまるで石像のように立って黙々と待機している姿を目にするのが心苦しかった。
何もしないように見えても、ずっと立っているのはかなりの苦痛だということを彼女は知っていた。
実際、彼女はラエルの前で侍女として仕えていた頃、「座って待機していい」と言われたことに非常に感謝していた。
しかし、キエルハーンの考えは違うようだ。
彼は、従うわけにはいかないという強い意思を示して答えた。
「それはできません。従うことはできません。」
「礼儀の問題ならそんなに気にしなくてもいいですよ。」
「いいえ。礼儀の問題だけではなく、座っていることで突然の問題が起こった場合、即座に反応できなくなります。」
マリは、ほとんど起きることのないような状況の中で、キエルハーンがずっと立っていなければならないとは思えなかった。
しかし、キエルハーンはその意見を完全に否定した。
彼女が自分を気遣ってくれている気持ちはわかるが、それでも従うわけにはいかない。
「私はその程度で体力が落ちるほど弱くはありません。ですから、今回の命令だけは聞き入れてください。」
マリはどうしようもなく、一歩引くしかなかった。
いつかまたこの問題を取り上げることにして、彼女は別の提案を切り出した。
「そして、これが一番重要なことです。これは必ず守ってください。」
「聞いてみてから判断します。」
「だめです。これだけは絶対に守ってもらわないと困ります。これは絶対です。」
強い言葉にキエルハーンは少し驚いた表情を見せた。
「余暇を過ごしてください。」
「……え?」
彼は聞き間違えたのかと思い、反問した。
今何と言ったのだろう?
しかし、彼女は間違えたわけではなく、はっきりとした口調で強調して言った。
「はい、『余暇』です。この城では何もかもが仕事ばかりではありませんよ。」
キエルハーンはしばらく沈黙していた。
「余暇生活をしろ」とはどういう意味だ?
突然のことに驚きつつも、余暇生活が自分のためというよりも、むしろ彼女たちに必要なものではないかと思った。
王国と帝国を通じて最も優れた指導者として評価されるのは、まさに彼女とラエルだったのだから。
「理由をお聞きしてもいいですか?」
「……キエル様が幸せになってほしいからです。」
不意の答えだった。
「私が幸せになってほしいと?ですが私はもう十分幸せです。」
マリは口を開けたまま言葉を失った。
今自分が言ったことが、もしかすると主君には少し出しゃばったと思われたかもしれない。
「ただ私は……キエル様がもっと幸せであればいいなと思います。今よりもっと、ずっと。」
マリはキエルハーンの目を見つめた。
その一言が彼にどう受け取られるか、心配だったのだ。
『私はキエル様が本当に幸せになればいいと思っているんだ。』
もちろん、キエルハーンは今でも「幸せだ」と言っていた。
彼女のそばにいて守れるだけで十分だと。
それが本当であるにしても、彼女は彼がもっと幸せであれば良いと心から思っていた。
「……」
キエルハーンは一瞬口を閉ざし、しばらく考えているようだった。
マリがそわそわと答えを待っていると、ついに彼は口を開いた。
「わかりました。命令に従います。」
「……もしかして、不愉快に感じられたのでは?」
キエルハーンは微笑みながら首を横に振った。
「どうして不愉快になるでしょうか?もっと働けと言われたわけでもなく、休めと言われているだけですから。」
彼があっさり受け入れたことで、マリはほっと胸を撫で下ろした。
「もしかして、平素からやりたかったことなどはありませんか?」
キエルハーンは彼女の言葉を受けて一瞬考え込むような仕草を見せた。
彼女は彼がなぜ余暇時間を与えられても働くことを考えてしまうのか、少し気になっていた。
『これが私の余暇活動なんです。』
彼がこう答えたのは予想外だった。
「やってみたかったことです。そして、それに関連して一つ気になることがあるのですが。」
「それは何ですか?」
「それは……」
キエルハーンは口を開きかけて、また閉ざした。
その青い瞳が彼女の瞳にとどまり、彼女はその視線から目をそらせることができなかった。
何か言葉では表せない感情が彼の瞳に浮かび、それが彼女の心を一瞬で捕らえた。
「秘密です。」
「え?それってどういうことですか?」
マリは興味津々で尋ねたが、彼はそれ以上説明するつもりがないようだった。
こうしてキエルハーンは無理やり余暇を取ることとなった。
そして数日後、王室の騎士と職務交代をした後、城外に出た彼はぼんやりと遠くを見つめていた。
「……」
ただ立ち尽くしながら、彼は頭の中で考えていた。
『何をすればいいんだ?』
彼はこれまで余暇というものを持ったことがなかった。
幼い頃はセイトン家の次期当主として過ごし、成長してからは親衛隊の騎士として、また辺境伯として働きながら生きてきた。
肉を初めて食べた人がそれを貪るように食べるように、彼はこれまでずっと働き続けてきたため、急に時間ができても何をすればいいのかわからなかった。
「もしかして、やってみたいことはありますか?」
彼女の問いかけを聞き、彼の心にほのかな感情が浮かんだ。
休むことにはあまり興味がなかったが、ただ一つだけやってみたいことがあった。
それは彼女と共に何も考えずに街を歩き回ることだった。
しかし、それを言葉にすることは絶対に許されない願望だと分かっていた。
彼は今でも彼女を大切に思っていたが、決してその気持ちを表に出すことはしなかった。
彼女が未だに自分を負担に感じていることを察しており、彼女が気まずくならないよう配慮していたからだ。
だからこそ彼はあくまでも忠誠を尽くす従者としての立場を貫こうと必死だった。
『しかし、いくら隠そうとしても、この胸に宿る感情そのものを消すことはできないのだ。』
キエルハーンは心の中でそう呟きながら、迷いながらも一歩一歩を踏みしめて歩き続けた。
この瞬間、自分の隣に彼女がいたらどれほど嬉しいだろう。
そんな考えを密かに抱えながらも、それを表に出すことはなかった。
『それでも彼女が自分のことを思って与えてくれた余暇の時間なのだから、楽しい時間になるよう努力しなければ。』
実際のところ、キエルハーンにはこうした余暇を必要とする理由はなかった。
しかし、彼女の配慮に感謝し、せっかくの時間を楽しもうと努力した。
まず彼は、彼女が治めるカーマン城の各所を見て回った。
城内に留まることは多かったが、カーマン城全体を巡るのは初めてだった。
彼女が管理するカーマン城は、どの場所よりも活気と生命感に満ち溢れていた。
城内を一通り見て回った後、キエルハーンはふと足を止めた。
『さて……次は何をすればいい?どうやって時間を過ごせばいいのだろう?』
そう悩む彼の耳に、意外な声が響いた。
「おや、侯爵様。ここで何をされているのですか?」
「おや、バルハン伯爵。」
力強い印象的な顔立ちをした男性。
それはマリの親衛騎士団長であるバルハン伯爵だった。
「ただ散歩をしていただけです。」
「……散歩ですか?いえ、こんな場所で一体どうして?」
ここはただ人々が訪れる賑やかな場所であり、散歩を楽しむような場所ではなかった。
バルハンは鋭い目つきでキエルハーンを見つめた。
『まさか今やることがなくて、彷徨っているのか?』
実際、彼はキエルハーンを競争相手と見なして警戒していた。
国王の最側近であるマリに対する競争心からだ。
しかし、天上の騎士と称されるキエルハーンがこうしてぼんやり立っている姿を見ると、どこか可笑しさを感じた。
「こんな場所で散歩とは。もしやることがないなら、私の家にお越しになりませんか?」
「……伯爵の家に、ですか?」
バルハンは得意げに笑って言った。
「ええ、そうです。退屈しのぎにちょうどいいでしょう。ただ軽くビールでも飲みませんか?もしかして、帝国最強の騎士様が酒を嗜まないわけではありませんよね?」
キエルハーンは微笑みを浮かべた。
不意の招待だったが、彼と一杯やるのも悪くないと思った。
「お酒が飲めないわけではありません。」
バルハンはくすっと笑いながら肩をすくめた。
「こちらです。剣の腕前は見事ですが、お酒で倒れることはないでしょうから、ご心配なく。」
こうしてキエルハーンは初めての余暇をバルハンと共に酒を飲みながら過ごした。
とはいえ、特別楽しい時間というわけでもなく、平穏なひと時だった。







