こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
54話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 不吉な予感
「お嬢様、いってらっしゃいませ!」
ベティが私を振り返りながら馬車に乗せ、そう言った。
「うん、ありがとう、ベティ。行ってきます!」
私はにっこり笑って、ベティに手を振り挨拶した。
ケンドリックはベティの言葉を聞いた途端、すぐに私たちの外出を許可してくれた。
その代わりに、予想通り五人の騎士が私たちの乗った馬車を護衛することになった。
そして——。
「よろしくお願いします、お嬢様。坊ちゃま。」
年配の使用人エダンが今回の外出に同行した。
アルセンが手綱を引いた。
「じゃあ、まずは衣装室に行くの?」
「はい、衣装室に寄ってから街を見て回るのがいいと思います。」
エダンの言葉が終わるやいなや、馬車がゆっくりと動き出した。
タクタクタク、馬の蹄が地面を叩いて走る音がしばらく続いた。
私は窓の外を眺めた。
エクハルト邸の敷地を過ぎると、整然とした道がまっすぐに伸びていた。
通りには巨大な建物が立ち並んでいた。
人々が笑いながら道を歩いていた。
「狼一族の家ってすごく大きいね。」
初めてエクハルト邸を見たときにもそう感じたが、狼一族の邸宅は本当に巨大だった。
たぶん一族の平均的な体格が大きいせいだろう。
狼やライオンのような猛獣たちは、見た目だけでも圧倒されるほどだったのだから。
「はい、ベルカにはもっと大きな建物もたくさんありますよ。」
「そうだね。前回は気が動転していて、ちゃんと見られなかったし……。」
「今回はゆっくりご覧になってください。お洋服の仕立てもございますし。」
エダンが笑った。
馬車はそれから間もなく、ベルカの街に到着した。
人が多い通りを過ぎ、細い路地に入った馬車がぴたりと止まったのは、巨大な衣装室の前だった。
「さきほどご主人様からご連絡があり、衣装室を空けるようにとのことでしたので、他の方々と顔を合わせる心配はありません。どうぞお入りください。」
エダンが馬車の扉を開け、アルセンを先に降ろしてくれた。
そして続いて私を馬車からそっと降ろし、衣装室の中へと足を踏み入れた。
騎士たちは衣装室の中までは入らず、入り口の前を守るように立っていた。
「お嬢様〜!坊ちゃま!またお会いできて光栄です。覚えていらっしゃいますか?セリナと申します。」
「セリナ、こんにちは!」
「やあ、セリナ。」
セリナが明るく笑いながら駆け寄ってきて、私たちを中へと案内した。
私はアルセンの手をしっかり握り、セリナが用意してくれたドレスが並ぶ試着室の中へと足を踏み入れた。
「わあ、ドレスが本当にたくさんある!」
「そうなんですよ。本当にたくさんあります。どうぞおかけください。ジナ! お菓子を持ってきて〜。」
セリナの言葉が終わって間もなく、彼女の助手が菓子皿を手に戻ってきた。
以前邸宅にも同行していた者だった。
ジナは私とアルセンの隣に、クッキーがいっぱいに盛られた皿と、ココアを二杯そっと置いた。
「隣のロゼル洋菓子店で購入したものなんですよ。本当に美味しいですよ、召し上がってみてください。」
「ロゼル製菓店なら、前に私たちが行ったところじゃない?」
「合ってる?」
「はい、前にご主人様がデザートを買われた場所です。」
私とアルセンは丁寧にクッキーを一つずつ手に取り、カリッと噛んで食べた。
その様子を和やかに見守っていたセリナが、手をパチンと叩いた。
「では、本題に入りましょうか?祝祭用ドレスを作るとおっしゃってましたよね。」
「うん。」
「うん、祭りに行くときに着るのが必要だから。」
前者は私、後者はアルセンだった。
セリナが少し考えるように目を伏せたかと思うと、私に尋ねた。
「前にお作りしたドレスはいかがでしたか? 不便な点はなかったでしょうか?」
私は首を横に振った。
「すごく着心地がよくて綺麗だった。本当に気に入ってたよ。」
「坊ちゃまはどうでしたか? ご不便な点はありませんでしたか?」
「……蝶ネクタイ。」
アルセンがぼそりと言った。
「蝶ネクタイが苦しい。首が締めつけられる感じがして。」
「でも坊ちゃま、それが一番ぴったりだったんですよ。あれよりもっとぴったりだとネクタイじゃなくて、チョーカーになると思いますよ。」
セリナはアルセンをうまく説得した。
「それでも不便だったから、今回はネクタイがないといいな。」
アルセンは不満そうに言った。
セリナはエダンと一瞬視線を交わした後、慎重に言葉を続けた。
「でも今回はネクタイが重要なんです。リンシーお嬢様の瞳の色と同じ色の宝石が中央にあしらわれているので……」
「リンシーの瞳の色?あぁ……」
アルセンはようやくイェクハルト家の伝統を思い出したのか、口をわずかに開けた。
そして。
「……じゃあ、やってみるよ。」
小さな声でそっと言った。
ぷっ!
更衣室にいた人たちはついに我慢できず、同時に吹き出して笑った。
私もくすくす笑いながらアルセンの手をぎゅっと握った。
「うん、不便でも仕方ないよ。伝統的なものだし。私も君の瞳と同じ色のヘアピンをつけることになるだろうから。」
「……“わかった”で済ませればいいじゃないか。」
アルセンはぶつぶつ言いながら腕を組んだ。
セリナは本格的に、私とアルセンに服のデザインを見せてくれた。
「でもお嬢様、この前のように背中が開いたデザインでお作りしますか? 実は、子供用のドレスは背中を出さないのが規則ではあるけれど……」
セリナが心配そうに言った。
私はセリナの心配を理解した。
大多数の一族は子どもたちに背中が開いたドレスを着せなかった。
それが一種の不文律のようだ。
でも私が背中の開いたドレスを着て祝祭に参加したら──
『……イェクハルトの名誉が傷ついたりしない?』
これまでケンドリックは私に背中の開いたドレスを着せていたが、それは私が羽をうまく調整できなかったためだった。
『でも今はちゃんと調整できるから大丈夫なんじゃない?』
私はしばらく悩んだあと、ふと目を見開いた。
「ううん、背中は開いていなくても大丈夫だと思う。」
「それなら、背中が開いていないデザインで、同じものを二着作ってください。万が一の事態に備えなければならないから。」
言い終えると、エダンが私にウインクした。
アルセンの礼服のデザインまで決めたあと、私たちは軽やかに更衣室を出た。
「デザート屋さんがこの近くにあるのですが、歩いて行かれますか?」とエダンが尋ねた。
私は少し考えた後、静かに首を横に振った。
「馬車で行こうかな。」
歩いていくと、あの護衛騎士たちがみんな歩くことになってしまうから私たちの後をつけてくるだろう。
そうなると自然と注目が私たちに集まるはずだ。
『それは嫌。』
ぎっしりとイェクハルトの紋章が付いた馬車が目立つけれど、
私を嫌っている狼たちに、自分の姿まで見せたくない。
するとイェダンは「分かりました」と答え、私をさっと抱き上げて馬車に乗せてくれた。
「一人で乗れる。」
アルセンはイェダンの手を振りほどき、一人で馬車に乗り込んだ。
「出発して。」
イェダンの言葉が終わると、御者がゆっくりと口を開いた。
馬車はまもなく、以前ケンドリックと一緒に訪れたロゼル製菓店に到着した。
「お気をつけてお降りください、お嬢様。」
エダンが、私のワンピースの裾が引っかからないように注意深く私を手助けしてくれた。
「自分で降りられるから。」
アルセンはもう大丈夫だと言い、エダンの手助けを完全に拒んだ。
私とアルセン、そしてエダンは自然に製菓店の中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!ロゼルの製菓店へようこそ!」
「2階の静かな席をお願い。」
エダンは咳払いを一つしてから、そう告げた。
従業員はイェダンの服に刻まれたイェクハルトの紋章を一度見てから、私とアルセンを一度見つめた。
そして、
「すぐにご案内いたします!」
と明るく笑いながら、私たちを2階の星がよく見える席に案内した。
パーティションが広く仕切られていて、まるで個室のように感じられるほど素敵な場所だった。
「召し上がりたいものがあれば、好きなだけ注文してください。」
イェダンは私とアルセンにロゼル製菓店のメニュー表を手渡した。
その席は座って食べていくお客様のために用意されたものだった。
私たちはメニューをしばらく眺めながら悩んだ。
さっき食べたクッキーは除いて、ケーキを一切れとエッグタルト、そして温かい牛乳を注文した。
「エダンも座って。ここのデザートは本当に美味しいよ。」
「そうそう、エダンはさっきクッキーも食べなかったじゃない。一緒に食べようよ。」
「私は結構です。」
私たちは、そばに礼儀正しく立っていたエダンに席に座ってデザートを注文するよう勧めたが、エダンはきっぱりと断った。
それほど時間も経たず、店員がトレイに注文した品を載せて持ってきた。
私はチーズケーキを、アアルセンはとても甘いチョコレートムースケーキだった。
続いて、ちょうど焼き上がったばかりの温かいエッグタルトと、砂糖の入った白いミルクが一緒に運ばれてきた。
「わあっ!」
私はすぐにフォークを取り、チーズケーキを少しすくった。
口に入れた瞬間、目が自然とまんまるく見開かれるほどの美味しさだった。
「本当においしい……。お店で食べる方がもっとおいしいみたい。アルセン、そう思わない?」
「うん、もっとおいしい。」
アルセンはチョコレートケーキを食べながらうなずいた。
私は温かいミルクを一口飲んでから、また焼きたての温かいエッグタルトを一口かじった。
口の中にふんわりと広がる柔らかいカスタードクリームは、まさに芸術だった。
「わあ、本当に美味しい。エダン、食べてみて。」
「ふふっ、私は大丈夫です。たくさん召し上がってください、お嬢様。」
エダンは丁寧に断った。
私はもう一度、エッグタルトをぱくっとかじった。
アルセンは私がエッグタルトを美味しそうに食べていたのが気になったのか、ひとつ取って口に入れた。
そして。
「……っ!!」
「本当においしいでしょ。」
アルセンは目をまん丸にして、エッグタルトをゆっくり味わいながら食べた。
私たちは30分もかからず、二人でデザートを平らげた。
『本当においしい。』
控室でドレスの調整をして少し疲れていたけれど、その疲れが一気に吹き飛ぶような気分だった。
「こんなにたくさん召し上がるなんて……」
エダンは困ったように私たちを見て、ついに苦笑した。
「おいしく召し上がっていただけたなら、それで十分です。」
「うん、本当においしかった。」
私はナプキンで口のまわりを軽く拭きながら何気なく視線を外に向けた。
ところが——
「……あれ?」
人混みの中、ロゼルの洋菓子店の2階をじっと見つめている人物がいた。
黒いフードを深くかぶったその人物は、まったく動かず、じっと私たちを見上げていた。
私は戸惑いながらも周囲を見回した。
『この辺には私たちしかいない。』
つまり、その人物がこちらを見ているのは間違いなかった。
「そろそろ行きましょうか?」
エダンが慎重に尋ねた。私は戸惑った表情で視線をそらして答えた。
「う、うん……」
「もしかしてデザートが足りなかったですか?」
エダンが片方の眉を上げて、慎重に聞いてきた。
私は首を振った。
「いいえ、お腹いっぱい食べました。」
「それはよかったです。ではもう行きましょう。」
「はい。」
私は丁寧に返事をしてから、もう一度窓の外をちらりと見た。
その人はまだ、角の建物の外壁の後ろで、陰に身を潜めながら、こちらをじっと見つめていた。
その瞬間、ゾクッと寒気がして、思わず身震いした。
そして続けて。
「……あれは?」
その男の身体には、以前エステルの身体に見えたものとまったく同じ黒い痕跡がくっきりと浮かび上がっていた。
「え?エダン、エダン!」
私はエダンの袖口をしっかり掴んで、急いで彼の手を揺さぶった。
「はい?どうなさいましたか?」
しかし——
古びた暗褐色の馬車が通り過ぎたその後、黒いフードをかぶっていた男の姿はどこにも見当たらなかった。
「お嬢様、何かありましたか?」
「……え?」
「お嬢様?」
「リンシー?」
私は凍りついたような表情で口を少し開けたまま、呆然と答えた。
「いや……はっきりと、あそこで誰かが私たちを見張っているのが見えたのに……」
「誰かが見張っていたんですか?」
「うん?誰が?」
エダンが細目の眼鏡を持ち上げながら窓の外を見た。額にはしわが寄っていた。
「うん、黒い服を着た人。そんな──」
そのとき。
一瞬にして立ち上った黒い煙が、ロゼル製菓店の2階の窓を覆った。
「うわっ!」
あまりにも突然の出来事に、反応する暇もなかった。
パンッ!
「びええっ!!」
驚きのあまり、つい手にしていたスイーツを落としてしまった。
私は羽をバタつかせながら、エダンの肩の上に飛び乗って息を呑んだ。
『あれ、何?』
そして両目を手でこすってから、再び窓を見た。
けれど。
「……っ、ええっ?」
何もなかった。
窓はきれいだった。
黒い跡どころか、ほこりさえ見当たらなかった。
見間違えたのだろうか?
『でも確かにいたのに……』
私は小さく息を飲み込みながら、エダンの肩口をそっとつかんだ。
エダンは心配そうな表情でカップを置いて、私を見つめた。
「お嬢様、大丈夫ですか?体調が優れないのでは……」
「ビー……?」
私はまだお菓子をくわえたまま、もう一度窓の方を見やった。
けれど、やはり何もなかった。
それに──
「リンシー?どうしたの!」
「お嬢様、何かあったのですか? 窓の外に何か……」
アルセンとエダンは、さっき窓を覆っていたあの黒い霧を見逃してしまったようだった。
「ビーイ……?」
なんなの、これ。
そのとき、パーテーションの端の床がかすかに揺れた。
私がうわ言のように呟いた声と、それに続くツバメのさえずりが、2階にいたお客たちの関心をそらしたようだった。
アルセンが自然な動作で私にハンカチを差し出した。
私はアルセンの手のひらにそっと乗せられ、激しく高鳴る胸をそっと撫で下ろした。
『本当に……何なの?』
そういえば、前にもエダンはエステルの体から流れてきた黒い痕跡を見なかった。
私は「ベイ……」とすすり泣きながら、アルセンの胸に飛び込んだ。
『早く邸宅に戻りたい……』
何か嫌な予感がして仕方なかった。
外に出たらまたあの黒いフードの男が現れて、私を襲ってくるんじゃないかという気がした。
「リンシー、家に帰りたい?何か変なものでも見たの?」
アルセンが、優しく小さな声で尋ねてきた。
そして自分のジャケットのすそを開き、そこにそっと私を包み込んだ。
店内にはたくさんのお客さんがいたから、私が驚かないように隠してくれようとしたのだった。
私は「ありがとう」の意味で少しだけ涙ぐんで、アルセンの服の中に顔をうずめてお菓子を口に戻した。
「ぺ、ペイイ……」
家に帰りたい……。
おかしいことに、この状態になると感情のコントロールがうまくいかなくなる。
私は明らかに12歳の子供のはずなのに、7歳、もしくはそれ以下の子供になった気分だった。
しくしく。
あまりにも驚いたせいで、涙がぽろぽろと絶え間なくこぼれ落ちた。
私が泣くと、エダンが慌てたようにハンカチを差し出してくれた。
「おやおや……何か怖いものでも見たのですか?早く戻られるのがよいでしょう。」
エダンが心配そうな低い声で言った。
「ベイ……」
私は無表情でお菓子をかじりながら答えた。
幸いにも、黒いマントの姿はもう見えなかった。
でも、私はできるだけ体を丸めて、外から見えないようにした。
他の狼たちに、怖がっている姿を見せたくなかったのだ。
でもまた人間の姿に戻ってみると……ゾッとした。
『怖い……』
アルセンの腕の中が心地よくて、また人間の姿でいたいとは思えなかった。
アルセンはハンカチで、飛び出してしまった私の尻尾をそっと隠しながら歩いてくれた。
エダンとアルセンは私を連れて急いで馬車に戻った。
御者が急いで馬車を発車させ、後衛の騎士たちが乗った馬の蹄の音が一定のリズムで聞こえてきた。
私はアルセンの胸に抱かれながら静かに呼吸を整え、考えていた。
『あれは一体……何だったの?』
もしかしてエステル?
なぜかずっと不吉な予感がしていた。
何か悪いことがこれから続けざまに起こるような、そんな気がしてならなかった。







