こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
53話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- お土産②
翌日、私はケンドリック、そしてアルセンと一緒に魔具館を訪れた。
本来は前日の夕食後にすぐ魔具館に行く予定だったが……。
日が暮れたので、翌日に行ったほうがいいというケンドリックの意見により、ヘクターとの会合は少し遅れた。
「おやまあ、ご主人様!」
「ギルバート、久しぶりだな。」
ケンドリックが馬具係ギルバートに落ち着いた様子で挨拶した。
ギルバートが腰を曲げ、丁寧にお辞儀をして挨拶した。
そして、ヘクターが待っている厩舎へと歩みを進めた。
「まだ草地に出したことはありませんが、この子がこんなにおとなしく従順なら、他の馬たちと一緒に放しても大丈夫でしょう。」
フフッと笑ったギルバートが厩舎の扉を開けてくれた。
「元気だった?ヘクター?」
私はヘクターに両手を差し出した。
ヘクターは嬉しそうに尻尾をゆらゆらと振りながら、力強く私をトンと押した。
私は全身でヘクターの頭を抱きしめたあと、こめかみにそっとキスをした。
その様子をじっと見つめていたケンドリックが、感心したように言った。
「本当におとなしくなったな。エイデンが乗っていたときだけでも暴れていたのに。」
「はい、お嬢様の前ではどれだけ高慢な者でも……お嬢様の前では天使もかすんでしまいますから。」
私がヘクターをなでているのをじっと見ていたアルセンが手を引いた。
ヘクターはアルセンが自分の頬をなでるのを許してくれた。
「うわあ、くすぐったいよ、ヘクター。」
私は柔らかい飴玉を口に入れるヘクターを見て、くすっと笑いながら、角砂糖を二つそっと差し出した。
ヘクターは口を開け、私の手のひらにあった角砂糖をぺろりと食べてしまった。
「このくらいなら……問題ないな。リンシー、できればすぐに騎乗指導できる先生を探してくれ。」
「騎乗ですか?」
「そうだ、ヘクターに乗って移動しないと。こいつも君を乗せて走りたいと思ってるみたいだしな。」
ケンドリックの言葉に、ヘクターが「ヒヒーン!」と長くいなないた。
私は胸の高鳴りを抑えながら、ヘクターのたてがみと背中を優しく撫でた。
そして、思わずつぶやいた。
「これからも君がケガをしたら、私がいつでも治してあげるからね。」
「ヒヒーン!」
「もちろん、痛くならないのが一番ですが……万が一そんなことが起きたときには治療してくれるという意味ですよ。」
ヘクターが従順なまなざしで瞬きをした。
その様子を見ていたケンドリックが、ヘクターの頬にそっと手を添えた。
ヘクターは嫌がる様子もなく、ケンドリックにも頬を撫でさせてくれた。
「うまく馴らせば良い馬になるぞ、リンジー。エイデン卿が乗っていたときも、すばらしい名馬だと思った。」
「ヘクターは今でも良い馬ですよ。」
「速く走れるって話さ。ほかの馬よりも下半身がしっかりしているから、もっと速く走れるだろう。この機会に走らせてみよう、ギルバート。」
ケンドリックの命令で、ギルバートがヘクターを厩舎から連れ出した。
ヘクターは嬉しそうにギルバートの手に従った。
そして、厩舎に続く広い放牧場にヘクターを放した。
そして、
「行って遊んでこい。」
ギルバートがヘクターのお尻を軽く叩いた。
だが、ヘクターは今にも走り出しそうになりながらも、こちらをじっと見つめてそわそわしていた。
「まあ、嬢ちゃんを乗せて走りたいみたいですね。こりゃ困った。」
「うん、ヘクター。私、乗馬を覚えてくるね。それまで、ちょっとだけ我慢して。」
ヘクターは私の言葉をちゃんと理解しているかのようだった。
ゆっくり何度か首を振るようにしてから、ゆったりとした歩調で納屋の中へと歩いていった。
その姿をじっと見つめていたケンドリックが言った。
「エイデン卿から良い贈り物をもらったね。」
「はい、本当に感謝していて、どうお返しすればいいのかわかりません……」
「君が彼を治してくれたから、エイデン卿が君に報いてくれたんだよ、リンジー。」
ケンドリックは軽く言葉を続けた。
「もう行こう。ヘクターはもう少し遊ばせておこう。」
「はい。」
私は丁寧にお辞儀をした後、ケンドリックの後に続いて屋敷に戻った。
屋敷ではベティとクロエが、私とアルセンを待っていた。
「お嬢様、ご主人様とはうまくお話できましたか?」
「うん、ヘクターを飼ってもいいって許可してくださったよ。」
私はドレスの裾を指でいじりながら、えへへと笑った。
「ヘクターは本当におとなしいですね。今度は私も一緒に見に行きましょう。」
「はい、ぜひ。お嬢様、たくさん食べて、早く大きくなってヘクターに乗れるくらいにならないといけませんね。」
ベティは優しい声でそう言った。
「うん、早くヘクターと遊びたい。」
私はベティの手をぎゅっと握って、自分の部屋に上がり、ベッドにごろんと横になった。
その時。
『そういえば、あの花。』
少し前、グレネが去るときにベッドにぽつんと置いていった花が目に入った。
不思議なことに、花が枯れていなかった。
グレネが去ってからかなりの時間が経ち、庭の花々もすっかり枯れてしまったというのに、この花だけはまだ枯れていないのだ。
『早く枯れないようにって花瓶に挿したけど……』
花はまるで昨日摘んできたかのように、いきいきと新鮮な姿を保っていた。
私は花びらを指先で軽くはじいてみた。
花びらはわずかに揺れたが、ひらひらと落ちることはなかった。
『まだこんなに元気に咲いているなんて……』
じっとグレネが置いていった花を見つめていると、彼女が去った理由がますます気になってきた。
本当に、どうして去ったのだろう。
私に禁制のことを話したくなかったから?
『理由はグレネにしか分からないよね。』
そのとき、アルセンが私の部屋の扉を勢いよく開けた。
「リンシー!」
「うん?」
「出かけよう、外で遊ぼう。家の中にばかりいると退屈すぎるよ。」
「うん、わかった。今行くね。」
私はすぐに花から手を離し、足音を響かせながらアルセンのもとへ駆け寄った。
だから気づかなかった。
花びらが一枚、ひらりと落ちたことに。
「祭りで着ていくドレスを新しく仕立てなければいけませんが、お嬢様はどんな色がお好きですか?」
「ドレス?」
「はい、お祭りですから、もちろん新しいドレスを仕立てますよ。有名な衣装室はすでに去年の上半期には予約がいっぱいでしたが……お嬢様はエクハルトの一員でいらっしゃいますから!」
ベティは誇らしげにそう言った。
「有名な仕立て部屋のデザイナーを直接お屋敷に呼ぶこともできますよ。この前のように。セリーナ様をまたお呼びしましょうか?」
「それじゃあ……仕立て部屋に直接行ってドレスを仕立ててもらうこともできるの?」
私は目を輝かせて、ベティを見つめた。
「ご自分で行かれるのですか?」
「うん、アルセンと一緒に行きたいの。少し遠出もして……この前はそれができなかったから……」
「では、ご主人様に申し上げてみます。きっと許可してくださるでしょう。」
ベティは自信たっぷりに言った。
「本当に?」
「はい、その代わり護衛騎士はたくさん連れて行ってくださいね。」
「それは関係ないわ。私だってケンドリック様が何を心配しているのかよく分かってるから。」
狼族の一派は、私に対して良くない感情を抱いていた。
それはあまりにも明白な事実で、今さら私の口から言及するまでもなかった。
『問題は。』
少し前に、イライジャ家の令嬢が私を侮辱したという理由で、近臣の処罰を受けた。
聞くところによると、イライジャ家全体に同じ処罰が下されたという。
つまり、イライジャ家に従う他の狼たちにとって、私は目の上のたんこぶのような存在であるに違いない。
「もちろん、アンシアのように親切な狼族もいるでしょうけど……」
その数は極めて少ないだろうと、私は確信していた。
でも、もしかすると私を襲おうとする狼族もいるかもしれない。
「あるいは、ただ傷つけようとする狼族がいるかも……」
一族間の差別は以前から存在していたし、狼族の一族と新しい一族の間には、さらに深い溝があるだろう。
だから私は、ケンドリックがこんなにも心配している理由を理解した。
「この前行ったデザート屋さんにもまた行きたいな。ケンドリック様がいないと行けないのかな……?」
「たぶん、外出されるならエイデン様が付き添うことになるでしょう。」
「はい。でなければ私が同行するか、聞いてくることもできます。」
ベティがクスッと笑いながら、私の髪を一生懸命にとかしてくれた。
私はベティの手の動きに目を閉じて、心地よく髪を任せた。
「そうだ、リボンやアクセサリーの色はたぶん青になると思うので、仕立て屋でドレスを仕立てるときはその話も必ずしてくださいね?」
「青?理由があるの?」
「はい、イェクハルト家の伝統なんです。慶事があると、夫婦が互いの瞳の色に合わせて装飾品の色を揃えるんですよ。もちろんお嬢様はまだ結婚されていませんが、ふふっ。」
「うん、そうなんだ。そう、まだ結婚はしてないのよね。ケンドリック様に早く話を通してみるって言ってたけど……」
最近のケンドリックは、どこか気が抜けているようだった。
ほぼ毎日屋敷を留守にしていて、ときには丸一日、ふらっと姿を消してから戻ってくることも珍しくなかった。
『禁制について調べているのかしら?』
あの日、ケンドリックに禁制のことを話してからは、一度もその話題について口にしたことがなかった。
私が無意識に避けていたのかもしれない。
エステルとのことが、それだけ嫌な記憶として残っていたから。
「とにかく、早く結婚できればいいのに。」
「そうなったら、結婚されたら“小さな奥様”とお呼びしなきゃいけませんね。違いますか?」
「私は、ベティが“お嬢様”って呼んでくれるほうが好きだわ。」
「ふふ、それではお嬢様とお呼びしますね。ご希望であれば。」
ベティはすぐに私の髪の手入れを終えた。
「さあ、終わりましたよ。」
「ありがとう、ベティ。」
私は両側で束ねられた髪をそっとなでてみた。
髪は初めて狼族の邸宅に来たときよりも長くなっていて、今では腰まで届くほどだった。
「はい、それではゆっくりお休みください。私がご主人様にお伝えしてきます。」
「うん、お願い!」
ベティはケンドリックに外出の許可をもらってくると言って、その場を離れた。







