家族ごっこはもうやめます【１３１話】ネタバレ

「クアアアアン！」とラルクが突き出した拳に当たったアレスは、巨大な鉄槌に打ちのめされたかのように後ろにさっと飛んでいく。

彼とぶつかった石壁が粉々に砕けるほどのものすごい怪力だった。

ニアラトテップが作った黒い領域も全てラルクの力に耐えられずに引き裂かれる。

「クウウウ、誰が・・・？」

ラルクはアレスの頭をつかんで持ち上げた。

目つきは殺気で半分ほど味がついている。

「この野郎、よくもうちの娘に触れたのか？」

アレスの目は再び黒く染まり、奇怪で陰惨な空気を広めた。

「放せ！」

アレスが怒声を上げると、一帯が揺れ、地震が起きたかのように激しく鳴った。

それで終わりではなかった。

キギギク！キギギク！

その瞬間、陰惨な音が聞こえ、あらゆる不吉な形のものが四方から押し寄せてくる。

クリードはすぐにナビアから守り、アレスはラルクの手の内を抜け出して神格を完全に開放した。

彼の神格にしびれる威圧感が感じられた。

ナビアはクリードの腕に抱かれたまま、ただラルクだけを見た。

（パパは大丈夫かな？相手は神様なのに・・・）

ところが、ラルク特有の傲慢で余裕のある表情と揺れる態度に、ある瞬間安心し始めた。

「お父さんは大丈夫だと思う）

お父さんは世界で一番強いから。

アレスはびくともしないラルクに怒鳴った。

「なんてこった、人間なんかが！」

その怒鳴り声だけでも再び地が震動するほどだった。

しかし、ラルクは少しの脅威も感じなかった表情で、片方の口角をひねる。

「あえて？」

本当に面白くもないというように、おかしくて言葉を失ったという表情だ。

「私にあえてと言ったのか？ 『昔の支配者』にもなれない、たかがニアルトなんかが？」

ラルクは呆れていた。

格だけを考えてもそれよりずっと下の格であるあのような神格が、あえて自分の娘を飲み込もうとしたことがとんでもないことで腹が立つ。

約束した日より1年も遅れてしまった分をこの野郎に全部こぼさないと。

ラルクはそう思い、首をひねりながらやくざのような身振りを披露した。

「君は今日、うまくいくと思うよ」

話を締めくくると同時に彼はこぶしを振りまいた。

アレスも今度はあっけなく隙をつかなかった。

「ドーン！」とラルクが振り回した拳とアレスが持ち上げた腕がぶつかると、巨大な岩がぶつかり合ったかのような音が響いた。

恐ろしいほどの巨大な破空音は、短い時間に何度も続く。

力の優劣は明らかだ。

ラルクが圧倒的に強かった。

力の差はすぐに広がり、アレスが容赦なく後ろに押し出された。

「こんなはずがない！」

自分は神である。

全身から湧き上がる強力な力がこんなに鮮やかなのに、魔法なんかあえて自分に傷をつけることもできないのに！

「クアアッ！」

すぐに彼の腕が切れた。

いつの間にか全身は満身創痩だった。

負けた。

完璧に敗北した。

（いや！そんなはずない！私が、神の力を持った私が！）

アレスの目は不安で震える。

極度の不安が彼を蚕食した。

いや、これは本当に不安感に過ぎないのか？

恐怖じゃなくて？

視線を持ち上げると、自分を虫でも見るようなラルクと目が合う。

彼はあの目つきをよく知っていた。

自分が人間を見つめる時、あんな目をしていた。

「止まれ、止まれ・・・！」

ラルクは聞いたふりもせずに彼の頭を踏みにじる。

アレスは逃げる力もなく床に倒れた。

ラルクはもう終わりにする時だと覚悟した。

「この程度の騒ぎなら、神界でも事件に介入する名分を得ただろう。ニックスが来るかもしれないね」

彼が手を振り回すと、黄金色の茎が床を突き抜けて伸び、アレスの全身を縛る。

「止まれ、この無礼者め！」

それまで気絶していたダイアナが、両目を見開いて飛びかかった。

しかし、化身でもない人間に過ぎない彼女がラルクの相手になるはずがなかった。

「きやあっ！」

ダイアナもアレスと同じく全身が縛られて床に投げ出される。

怪物はアレスが縛られ神格が抑えられた時に消えた。

この全てがラルクが登場してから5分以内に起きたことだ。

ラルクはゆっくりと後ろを向いた。

この11年間、最も待ちに待った瞬間だ。

「ナビア」

娘に気づかない不詳事などは存在できなかった。

子供はカミラに似て美しく秀麗で、また自分に似て妙に冷たい風が吹く高慢さも漂わせている。

理知的な目つきもまっすぐで正しい姿勢は、8歳の時も今も少しも変わっていなかった。

相変わらず眩しいほどめらめらと燃え上がる私の白い炎。

私の娘。

「お父さんが来たよ」

彼は両腕を大きく広げた。

ナビアの表情が歪むのは一瞬だけ。

「パパ！」

子供が走ってきて彼の胸に抱かれる。

微かに震える体が、無理やり飲み込んでいくすすり泣きが、子供が一人で耐えてきた時間を代弁してくれるようだった。

「お父さん、お父さん・・・」

彼は娘をぎゅっと抱きしめ、抑え込まれた声で話した。

「お父さんが遅くなったね？ごめんね」

本当に申し訳なかった。

この申し訳なさをすべて言葉で表現する方法を一生かかっても見つからないと確信するほど、あまりにも。

見守れなかったのに、一人でこんなに綺麗で愛らしく育った。

父親として子供にあまりしてあげたことがなかった。

それが辛いし、悲しかった。

申し訳なかった。

「あなたにしてあげたいことが多すぎる」

これから全部やろう。

君がしたいこと全部しよう。

パパが何でもしてあげるよ。

「だからお父さんといつまでも一緒に暮らそう」

死だけを望んでいた彼が心からそう言った。

いつまでも、一緒に。

ナビアは子供のように泣き出した。

10年だけ寝て起きると言ったじゃないですか！

どうして約束を守らなかったんですか？

なんで、なんで来なかったんですか？

寂しかったです。

とても不安で怖かったです。

すごく、すごく・・・。

会いたかったです。お父さん

彼は何かする必要はなかった。

ただそばにいてくれれば。

私たちが他の人たちのように一緒にご飯を食べて幼稚な喧嘩をするなど、平凡な父親と娘になれるなら何でも良かった。

ラルクはいたずらっ子のようにむずかるナビアの頭を撫でる。

あまりにも遅く子供の甘えを受けてくれるようになったようで、これ以上愛してあげられなくてどうしようもない気持ちで慰めた。

「ごめんね」

自分が言えることはそれ以外にない

ごめんという言葉のほかに、そして愛してるという言葉以外はすべて苦しい言い訳だった。

にもかかわらず、彼はあえて言い訳をする。

「早く来ようとしたのにごめんね。お父さんを、たくさん待った？」

「うん」

ラルクは胸が熱くなった。

涙で顔がびしよびしょになり、手をぶるぶる震えている娘を抱きしめれば、誰でもそうだろう。

「やっばり何とかして、もっと早く来るべきだったのに」

ナビアは見ている人の鼻先がじいんとするほど悲しそうに泣いた。

涙は止まなかった。

11年間じっと我慢して、たまに怖くなる夜にはチェサレを抱いて静かにパパの部屋で一人で寝ながらも我慢した涙が今全てあふれていた。

「ふぅ・・・怖かったです。お父さんが帰ってこないか心配で・・・」

自分が子供の世界でどれほど大きな存在なのかを悟ることは、非常に怖くなると同時に、息が詰まるほと胸がいっぱいになることだった。

彼は娘がかわいそうで胸が痛かったが、自分をこのように喜んでどうしていいか分からず泣く姿を見ると、一方では幸せになる。

娘がいて家に帰った。

自分のことが大好きで、愛する娘がいて帰ってきた。

「お父さんが悪かったね。だよね？」

うんうん。

正直、悲しそうに泣く娘には少し申し訳なかったが、可愛くて笑いが爆発しそうになってしまう。

「お父さんもナビアにすごく会いたかった」

ラルクは神界にいた頃は一度も浮かべなかった優しい笑顔でナビアを慰める。

もし、ここに他の神々がいたら、憎しみに苛立っていただろう。