こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

179話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カミーラ③
ラルクはそんなことは知らずにカミーラの手首を持ち上げて見た。
こんなにも細い手首とは。
もう少し強く握っていたら折れていたかもしれない。
彼は少し慌てて手を放し、素直に言った。
「痣にはなってない。」
「そうですか?」
カミーラは手首をなでながら、ラルクをじっと見上げた。
視線がぶつかる。
お互い半分は陽射しに包まれ、もう半分は影に包まれて、そうして見つめ合っていた。
ラルクは思わず彼女の銀色の髪を掴んだ。
陽射しに照らされた銀色の髪はこんな感じなんだな。
いつも部屋に引きこもり、暗闇に呑まれていた母も、陽射しを浴びればこんなに美しい銀色の髪だったのだろう。
しかし、その機会はなかった。
消えろ、この化け物!
ラルクは母をまともに見ることができなかった。
母は彼をひどく恐れ、忌み嫌っていた。
呪わしい赤い両目で睨みつけながら。
何かを見せようとすれば、容赦なく物を投げつけたり、自分の髪の毛を引きちぎっては罵声を浴びせた。
ラルクにとって彼女は悪夢であり怪物だった。
その時、カミーラが突然ラルクの髪の毛をひと束引き抜き、彼の手にぐいっと握らせた。
「……何してるの?」
カミーラはくすっと笑った。
いたずらっぽさのにじむ、色気ある微笑だった。
「気に入ったからです。」
『空気が読めない女だな。』
これのどこが気に入ったというんだ?
さっきまで思い出していた記憶は、普通トラウマとして残る痛い記憶なのに。
ラルクは呆然とした。
カミーラは思い切り自分の頭をぐいっと差し出した。
「もっと触ってもいいですよ。引っ張ったりしなければ……。」
泥棒の髪なんだから、引っ張られても仕方ないけど。
ラルクは手をピクッと動かした。
この女、本当に普通じゃないな。
そう思いながらも手は自然と上に伸びた。
そのまま彼女の頭に手を置いた。
柔らかい銀色の髪が手のひらの下でくすぐるような感触を伝えてきた。
カミーラはおとなしくしていた。まるで銅像にでもなったかのようだった。
ラルクは息を吐き出して、ようやく自分が息を止めていたことに気づいた。
無意識のうちに手もわずかに震えていた。
『笑えもしないな。』
彼は自分の状態を認めたくないように手を振り払おうとしたその時、カミーラが顎をぐっと持ち上げた。
二人の顔がほんのわずかな距離を隔てて正面から向き合った。
カミーラは彼が震える息を吐いたのを、泣くのだとばかり思い、驚いて顎を持ち上げたのだった。
だが、ラルクは泣かなかった。
そのおかげで状況が奇妙になった。
カミーラは顎を持ち上げたままの姿勢で固まってしまった。
『距離が、近すぎた……?』
思わず、乾いた唾をゴクリと飲み込んだ時――
パチン。
「えっ?」
厨房に新しい人がやってきた。
朝食を準備しようとしていたマーガレットだった。
カミーラは妙に持ち上げてはいけない幕をめくったような気分で、はっとしてラルクの前で一歩後ずさった。
ラルクはその場から動かず、視線は離れたところにいるカミーラに固定されていた。
マーガレットは笑みを含んだ表情で二人を見回し、優しく挨拶した。
「今日は天気がいいですね。最近雨がたくさん降りましたよね?」
「え?あ、はい。そ、そうですね?」
カミーラは突然交わすことになった日常的な挨拶に戸惑いを隠せなかった。
こんな挨拶がどれだけ久しぶりなのか、気分がくすぐったくなった。
実はマーガリットも今かなり驚いていた。
3階にこっそり入り込んだあの男が台所にいるのも驚きなのに、なんと美しいお嬢さんと妙にしっとりとした雰囲気を醸し出しながら一緒にいるのだ。
しかも二人はまるで絵のようにお似合いだった。
マーガリットは、あの女性が男が隠していた恋人なのかと推測してみた。
ラルクはマーガリットの表情から何を考えているか察した。
「勝手な誤解はしないでください。」
「まあ、私が何を……?」
マーガリットは怪訝そうな顔でフフッと笑いながら台所を見回した。
見ると、お嬢さんがパンを食べていたようだった。
「ふふ、パンを召し上がっていたのですね。何かお好きなお料理でもありますか?」
「は、はい?」
「パンだけじゃ、きちんとした食事とは言えませんよ。食べたいものがあれば何でも言ってください。」
カミーラは慌ててマーガレットとラルクを交互に見た。
ラルクは眉間にしわを寄せているだけで、特に止めはしなかった。
「でも私なんかが……。」
カミーラは丁重に断ろうとした。
彼女はもともと遠慮深い人だった。
少し世話を焼かれただけなのに食事だなんて。
『ここの人たちは本当に優しいな。』
なぜか鼻の奥がツンとした。
マーガレットはカミーラを見て、名家のお嬢様が外で苦労していたことをすぐに察した。
痩せてやつれた様子から、ちゃんと食べられていなかったのが見て取れた。
「お嬢様はうちのご主人様のお客様じゃないですか。お客様を粗末に扱うわけにはいきません。それに、食事は分け合って食べるのが一番おいしいんですよ。」
「誰が俺の客だって……!」
ラルクは反論しようとしたが、突然こぼれ落ちた涙のせいで、カミーラのせいで言葉を詰まらせた。
カミーラは口をすぼめて笑いを堪えた。
微笑みながら何か言おうとしたが、涙が出てきたせいで、なんとも言えない変な表情を浮かべてしまった。
「……あ、スープ料理が食べたいです。」
声がわずかに震えた。
「卵料理と……お肉も食べたいし……」
温かい料理が食べたかった。
家で作られた湯気がもくもくと立ち上り、人の匂いがする……。
「な、何でもいいです。」
自分には温もりが一番必要だった。
ううっ!
カミーラはしゃくりあげながら言葉を続けようとしたが、ついに子供のように泣き出してしまった。
マーガレットも目尻が赤くなりながら、震えるカミーラをしっかり抱きしめた。
カミーラはさらに声を上げて泣き、マーガレットにしがみついた。
「な、何の音だ?」
突然響き渡る泣き声に驚いて、シュレーマンが厨房に入ってきて目を丸くした。
え、これは一体どういう状況……?
ラルクもシュレーマンと同じように呆然とした表情を浮かべていた。
彼はこういうことが一番苦手だった。
カミーラに対してだけは、どうにかしてでも手綱を握っておきたかった。
「大人がそんなに泣くなんて。貴族の品位もない。」
彼はカミーラに向かってポンと声をかけた。
「こら、もう泣くのをやめな。」
「うわああん!でも、やめたいのに、涙が止まらない……ひっく……!」
「……はぁ。」
もうこれ以上は無理だという表情で、彼はカミーラの横を通り過ぎた。
部屋に戻るつもりだった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
カミーラは慌てて涙をゴシゴシ拭いながら、立ち去ろうとするラルクを引き止めた。
その湿ったぬくもりに、ラルクはその場でピタリと立ち止まった。
それで終わりではなかった。
カミーラが彼にぎゅっと抱きついたのだ。
びくっ!
ラルクは彼女を突き放すことができなかった。
自分の胸にすがりつくカミーラを振り払うことができず、その事実に歯ぎしりした。
「ありがとう、本当にありがとう。」
「……湿っぽい。離れて。」
「ひっく、ほんと、ありがとうってば。」
「離れろって。」
「何でもします。必ず必ず恩返しします。命に代えてでも……。」
「わかったから離れろ!」
ラルクが思わず苛立った声を上げると、ようやくカミーラはおずおずと離れた。
涙でぐしゃぐしゃの顔がひどく見苦しかった。
赤く染まった目と鼻先が。
ああ、なんてしおらしいのか。
少しでも力を入れたら全部崩れ落ちそうだった。
火照った頬を伝って流れる透明な涙は、その不細工な顔よりも見ていられなかった。
「うるさいから、もう泣くのやめてくれ。」
カミーラはすすり泣きながらも、悔しそうな表情を浮かべた。
「そ、それが自分の思いどおりに、なるわけじゃ、ないんです……」
ラルクはうんざりしたように大きくため息をついた。
マーガリットは穏やかな笑みを浮かべていたが、しばらくして静かに口を開いた。
「ではこのお嬢様は私がお世話します、旦那様。」
それはカミーラを正式に迎え入れるという意味と同じだった。
通常、貴族の家門では正式に招かれた客が来たときは部屋を提供して、出ていくまで滞在させるのが一般的だった。
ラルクは笑うなと言いながら怒ろうとしたが、泣きそうな表情で自分の顔色をうかがうカミーラを見つけた。
まったく。
「好きにしろ。」
あの女がここにいる間のことなんて気にしなければいいんだ。
ラルクは投げやりに言い放ち、3階へ行ってしまった。







