こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

106話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 疑惑②
一方、ブラウンズはドフィンの視線を自然に避けながら、話題をエスターに移した。
「それにしても、大公家でも娘を引き取られたとか?」
会話の中でエスターの話題が出ると、ドフィンの目つきが鋭く変わる。
「エスターのことですか?」
「はい。その子を神殿から連れてこられたと伺いました。なんでも、私どものラヴィエンヌと友人だったとか。」
エスターがラビエンヌを支えながらどれほど辛い思いをしてきたか、そばで見守っていたドフィン。
そんな関係を「友人」と呼んでいいものかどうか、彼の口元には苦笑が浮かんだ。
「私の娘にはそんな話は聞いたことがないですね。初耳だ。」
怒りを抑えきれず、手に力が入ったドフィンは、持っていたガラスの杯を割ってしまった。
「おや、杯が……?」
「新しい杯に変えないといけないな。最近、力加減がうまくいかないので。」
「はは、気が高ぶっているようですね。」
ブラウンズは、割れた杯がまるで自分を象徴しているかのような不吉な気配を感じ、思わず唇を引き結んだ。
戦場ではお互いの出方を読み合うのが常だったが、目の前のドフィンと向き合うのはそれ以上に緊張感が必要だった。
沈着な様子で尋ねる。
「……聞いた話では孤児だったようですが、その子の両親が誰なのか調べたことはありますか?」
「幼い頃に捨てられた子に、何の両親だ。エスターにとっての親は、この私だけで十分だ。」
ドフィンはそう言いながら足を組み、背もたれにもたれかかった。
その仕草から漂う一触即発の雰囲気に、ブラウンズは思わず緊張し、無意識に息を呑んだ。
「公爵、あなたはエスターに随分と関心があるようだが、他にも知りたいことでもあるのか?」
一瞬、ブラウンズの額に汗がにじんだ。
これ以上詮索されるのを恐れ、慌てて話題をそらした。
「彼女は貴族の子でもなく、出自も分からない子を引き取った大公家として、そのようにして育てたのだろう。」
ドフィンの疑念を払拭するかのように、ブラウンズはその後、会話を完全に別の方向へと切り替えた。
穏やかに帝国の安定についての話を続ける。
昼食と短いティータイムが終わると、席を整理して立ち上がったブラウンスが、ふと尋ねるように口を開いた。
「子供たちに挨拶をしたいのですが、皆どこに行きましたか?」
「私たちの話に邪魔になるかもしれないと考え、外に出しておきました。」
「そうですか。では、挨拶はまたの機会にします。」
「お気をつけて。」
「近いうちに皇宮でお会いしましょう。」
ドフィンは玄関まで彼を見送り、その接見は思ったよりもあっけなく終わった。
邸宅を出て、ドフィンの視線から離れたブラウンスは、やっと安心して大きく息を吐いた。
どれだけ緊張していたのか、手のひらには汗がにじみ、ハンカチで拭いた。
「とりあえず終わって良かった。」
ドフィンが本当に何の意図もなく子どもを養子にしたように見えたため、ブラウンスはどうしてもエスターについて知ることができず、ますます焦りを感じた。
彼はこのまま帰るわけにはいかないと思い、馬車に乗ろうとしていた足を引き返し、デルバートを呼び止めた。
「頭が痛いので庭園を少し散歩したいのですが、案内してもらえますか?」
「はい、もちろんです。」
デルバートは突然庭園という言葉に驚いたが、それが可能だと思い、彼を隣の庭園に案内した。
しかし、邸宅の裏手から謎めいた声が聞こえてきた。
庭師たちが野生動物に噛まれることが時折あり、デルバートの顔が青ざめた。
「いや、誰か怪我でも……。」
「確認しに行かなくては?」
ブラウンスは狼狽しているデルバートを見て積極的に提案した。
「行ってきなさい。私は一人で少し歩きたいので。」
「……では、すぐ戻ります。」
公爵を一人残していくことに気が引けたが、近くに警備兵がすぐに戻ってくるという話を聞いていたので、大丈夫だと考えた。
時間を稼げたブラウンスは運が良いと考えながら、庭園の石造りの席に腰を下ろした。
子どもたちを外に出したというドフィンの言葉を参考にし、エスターに偶然出会える機会を狙っていたのだ。
そしてあまり時間が経たないうちに、庭園で遊んでいる子どもたち二人を見つけることができた。
「見つけた!」
ブラウンスは心の中で叫びながら、エスターがいる芝生に急いで歩み寄った。
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「お兄ちゃん、チーズが木に登りたがっているみたいじゃない?」
「この小さな木をそれができるの?」
ちょうどエスターはジュディと一緒にチーズの行動を見守っていた。
彼らは観察しながら楽しい時間を過ごしていた。
しかし、足音が聞こえて振り向くと、近づいてくるブラウンスを見て驚き、身構えた。
ジュディがエスターよりも先にブラウンスを見つけ、なぜ自分たちのところに来たのか疑問に思いながらエスターを守るように立ちふさがった。
すぐ近くまで来たブラウンスは、驚かせないようにと最大限親しげな声で尋ねた。
「私のことを覚えている?」
「……はい。こんにちは。」
以前、パーティーで何度か会ったことがあるため、ジュディとエスターは彼が誰であるかを知っていた。
エスターもジュディに続いて丁寧に挨拶し、少し後ろに下がった。
今日の午後にブラウンス公爵が邸宅を訪問する予定であることは父から聞いて知っていた。
しかし、なぜ父と一緒にいないのか、庭を歩き回っているのかは理解できない状況だった。
「ここで会うとは、嬉しいね。」
ブラウンスはここに現れた後、エスターから目を離すことが一度もなかった。
ジュディの後ろに隠れたまま不安そうに目をぱちぱちさせるエスターを見て、彼の目には徐々に興味の色が浮かび上がった。
「挨拶しようか?」
ブラウンスはまずジュディに向かって手を差し出しながら握手を求めた。
そしてその手は自然とエスターへと移っていった。
「君もするべきだよね?」
簡単な挨拶として、エスターも拒否することができず、彼の手を取った。
瞬間、ブラウンスはじっくりとエスターの手の甲を観察した。
特徴的な印があるか確認するためだ。
しかし、最近その印を自由に制御できるようになったエスターには、印が決して浮かび上がらなかった。
『確かにキャサリンに似ている。』
エスターを見ながら、キャサリンの昔の姿を思い出したブラウンスの目つきが鋭く変わった。
『本当にキャサリンの娘なら、この子のせいで我々のラビエンヌが……。』
聖女となるべきラビエンヌの運命を変えてしまった子。
そのように考えると、ますます怒りが湧いてきた。
たとえキャサリンに実際に娘がいたとしても、ブラウンスにとってその存在は決して歓迎されるものではなかった。
かつて茶店を経営していたキャサリンの子供など生まれてはならなかったのだ。
当時、妊娠を適切に確認せず、子供を中絶させなかったことを激しく後悔していた。
キャサリンを最後まで追い詰め、命を確実に絶たせなかったことも。
エスターは自分をじっと見つめるブラウンスの視線が不快で、ジュディの腕をしっかりと掴んだ。
『前回のパーティーでもこうだった。』
目が合った瞬間、パーティーで彼と何度も目が合ったのが錯覚ではなかったという気がした。
自分が本物の聖女であることを彼が知るはずもないのに、なぜこんなにも関心を示しているのか理解できなかった。
エスターが公爵を拒んでいることを感じたジュディは、前に出てエスターを彼の視線から遠ざけた。
いつの間にか隣にいたチーズも尻尾をぴんと立て、公爵に向かって警戒した。





