こんにちは、ちゃむです。
「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

30話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 不可解な気持ち②
アジェイドは答えづらい質問を受けたかのように肩をすくめた。
「ただ、庭園がいまいちだから。」
「あの庭園、すごく有名ですよ。首都ではなかなか見られない花が多くて、貴婦人たちに人気なんです。」
「そうか?俺には安っぽい花ばかりに見えたけど。」
「それもそのはずです。皇宮では最高級の植物しか育てませんから。」
セリーナはアジェイドの無遠慮な一言に喉を詰まらせた。
怒るべきなのに、あの言い方には反論できないのが悔しい。
アジェイドが背もたれに凭れかかっていた体を前に傾けると、セリーナは思わず身を引いた。
「そんなに気に入らなかったから、私の領地に入ってすぐに駆けつけてきたんですね。」
「誰が気に入らないって言いました? 正直に言えばすごくすっきりするのに。」
「そう?じゃあ他のところも燃やしてあげようか?」
アジェイドは乾いた声で冗談を言いながら笑った。
もし頼めば本当に燃やしそうな気配に、セリーナはぎょっとして咳払いをした。
「結構です。誰もそこまで迷惑をかけることはないでしょう?」
「どうせヴィンセント家みたいなクズたちは、貴族の名から消えたほうがいいでしょう。」
「どうせ捨てるならさっさと見限って、屋敷から追い出してください。無駄に手を汚すことありません。」
「君がそう言うならね。」
アジェイドは興味を失ったように、食べ終えたデザート皿をフォークでコツコツ突ついた。
表情からして、もう一皿食べたそうだったが、目の前には何もなかった。
「もう一ついかがですか?」
「ん?」
「最近、治療に真面目に取り組んでくださったお礼として、特別なプレゼントです。」
「……自宅で自分のデザートをねだられたのは初めてだな。」
「召し上がりたくないですか?」
「誰が嫌だって言った?」
アジェイドはセリーナがまた何か言い出すのを防ぐために、すぐに侍女に指示してデザートをもう一皿持ってこさせた。
しばらくして、セリーナとアジェイドそれぞれのデザートが新たに運ばれてきた。
「私の分までご用意いただかなくてもよかったのに。」
「美味しいものは分け合って食べるのが礼儀だ。」
「いただきます。」
セリーナは彼の妙な理屈に思わず笑い、目の前のレモンマドレーヌをフォークで切り分けて一口食べた。
口の中でふわりとほどけると同時に、さわやかなレモンの香りが広がり、心地よかった。
その後に感じられる甘さは、木槿とパッションフルーツを混ぜたような味わいだった。
「おいしい?」
「まあ、普通に。」
「そういうときは素直に『おいしい』って答えるんだ。」
「自分の口で答えるのに、そんな決まりがあるんですか?」
「言えないなら仕方ないけど。」
アジェイドは口の端を軽く上げると、自分の前にあるレモンマドレーヌを大きく一口で頬張った。
よほどおいしかったのか、彼の口元がほころぶように緩んだ。
体中から喜んでいる様子が見て取れた。
『甘いものがそんなに嬉しいものなのか。』
実のところ、セリーナは甘いものを好んで食べるほうではなかった。
ほんのひと口なら大丈夫だが、それ以上は重く感じる程度だった。
一方アジェイドは、ホールケーキを丸ごと持ってきても、その場で食べ切ってしまいそうなほど甘いものが好きだった。
『最近はだいぶ我慢してたけどな。』
セリーナは、彼がかつて砂糖中毒だったことを思い出した。
デザートを絶え間なく食べていた彼が、今では一日一デザートの厳しい治療を受けているのだから、こうして二回目のティータイムを喜ぶのも無理はなかった。
セリーナはふと、以前ノクターンを褒めた時のことを思い出した。
思い返せば、アジェイドにも褒め言葉が意外と響いていたようだった。
「陛下は何を食べてもおいしそうに召し上がりますね。」
「まさか、今さら来て食べるなって言うつもりじゃないよね?」
アジェイドが警戒するような目を向けると、セリーナは思わず吹き出した。
この状況でもデザートを奪われるか心配するなんて、なんて無邪気なんだろう。
この男がこの国の皇帝だなんて、誰が信じるだろうか。
「私は人から奪ったりしませんよ。」
「それはよかった。」
「ただ、あなたが食べてる姿があまりにもよかったので、つい褒めたくなっただけです。」
カチャリ。
その瞬間、アジェイドは使っていたフォークを落とし、セリーナをじっと見つめた。
その視線にたじろぎそうになったセリーナだったが、アジェイドが口を開いた。
「正直に言って。俺、太ってきてる?」
「え?違いますよ?」
「違うなら、急に俺を褒めたりしないだろ。」
アジェイドは、セリーナから褒められたことがそれほど衝撃だったのか、落としかけた一片のケーキを完全に忘れていた。
どこか照れたような様子に、セリーナは気まずく笑った。
「これからは、もっとたくさん褒めますね。」
「いや、やめろ。しなくていい。」
アジェイドはむっつりしながらナプキンをいじった。
それがかえってセリーナのいたずら心を刺激していることに、この男は気づいていない。
セリーナは、アジェイドをからかおうと思い、懐からハンカチを取り出した。
そして手でテーブルを支えながら、彼に近づいた。
その間にセリーナが彼の口元についたクズを拭いながらにっこり笑った。
「うちの皇帝様は、口にくわえていてもイケメンですね。」
「うわっ!」
アジェイドはセリーナがからかおうとしたのを一瞬で察知して叫んだ。
すると椅子の上で体を軽く押さえつけ、唇をこすりそうになりながらバタバタ暴れて叫んだ。
「セリーナ、それはやめろ。」
「イケメンだから褒めたんですけど、なぜ?」
「そ、それ、気分が変になるから!とにかくやめろ!」
アジェイドはもがきながら体を離そうとした。
デザートはまだ残っていたが、椅子から飛び上がる勢いだった。
セリーナはハンカチで軽くアジェイドの口元を拭った。
「陛下、これを召し上がってから行ってください。」
「いらない。お前のせいで急に食欲が失せたんだから、お前が片付けろ!」
アジェイドは後ろも振り返らずに逃げるように立ち去った。
その背後でセリーナのくすくす笑う声が大きくなったのは、もはや予定されていたかのようだった。









