こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

92話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 再会④
同じ時間、同じ場所。
ノアとエスターは気づいていなかったが、ファレンやヴィクター以外にも二人を見守る人物がもう一人いた。
「一体何者なんだ?」
ジュディは大きな木の後ろに身を潜め、鋭い目つきで火花を散らしていた。
約1時間前、エスターと鉢合わせした瞬間のジュディのことを思い返す。
ジュディの頭の中には、セバスチャンが話していた内容が浮かんでいた。
「エスターに恋人っているの?」
パーティーでその言葉を聞いたときは、そんなことあるわけないと流していた。
しかし、綺麗に着飾って出ていくエスターを見て、あの時の言葉が再び思い返される。
それで、念のためと思いながら馬車を追いかけてきたのだ。
「本当に…。一体誰なんだ?」
ジュディの目は鋭く細められていた。
怒っているわけではないが、エスターが誰か知らない男と一緒にいるのを見て、どうしようもない苛立ちを感じていた。
おそらくセバスチャンが見たという男ではないかと思い、一生懸命に目を凝らして見ていると・・・。
「どこかで見たことがあるような顔だな。」
記憶をたどり、ついにノアを思い出す。
「そうだ!第7皇子じゃないか!」
もっと近くで見ていたら、もっと早く気づいていただろうに…。
距離が遠く、数年ぶりに見る姿だったため、誰なのか分かるのに時間がかかった。
子供の頃から公式行事で何度も顔を合わせたことがあるため、彼が誰かを認識することができた。
しかし、男性の正体がノアだと分かった瞬間、ジュディの混乱はさらに大きくなった。
「病気にかかって消えた皇子じゃないか」
ノアが数年間姿を消していた理由は、皇位継承者の地位を剥奪されたためだった。
その後、彼の姿を見ることはなかった。
そんな第7皇子がなぜテレシア領地にいるのか、そしてなぜエスターと一緒にいるのか、まったく理解できなかった。
二人の雰囲気を見る限り、一度会っただけの間柄ではなさそうだった。
真剣な様子で親密そうなエスターの姿を見つめるジュディは、思わず首筋を掻きながら呟いた。
「あの馬鹿、正気じゃないのか?なんでうちのエスターに触れてるんだ?」
ノアがエスターの手の上に自分の手を重ねた瞬間だった。
それを見て、顔が真っ赤になったエスターの様子を目にしたジュディの表情も、怒りと混乱が入り混じって変わった。
「信じられない。今すぐ行って二人の間に割り込むべきかな?」
そう思ったが、エスターがとても楽しそうに見えるため、ためらいが生じた。
エスターが戻ってきて幸せだったのに、大きな嵐が近づいているような気がして、ジュディの頭上には不安がのしかかった。
手元にあった花びらを握りしめて、床にばらまいた木の葉が無意味に散らばっていた。
「第7皇子がうちの純粋なエスターを誘惑してるなんて信じられない。エスターは今、魅了されているんだ。」
ジュディは怒りが込み上げ、まるで足元にある石を蹴り飛ばしたい気分だった。
その音を聞きつけた敏感なビクターが驚いて振り返り、ジュディを見つける。
驚いたビクターはすぐさまエスターに知らせようとしたが…
その後、動いたら殺すというようにジュディはじっと黙ったまま睨みつけて、ビクターは喉を詰まらせて言葉を発することができなかった。
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その日の夕食の時間。
今日は家族全員が集まり食事を取る日だった。
久しぶりに実家に帰ってきたドフィンも一緒にいた。
「いただきます。」
好きな料理が出てきて味を堪能していたエスターは、ナイフを持ち上げたところでジュディと目が合った。
ジュディは自分が好きな料理にも一切手をつけず、ただエスターを意識してじっと見つめていた。
「……?」
その異様さに気づいたのはエスターだけではなかった。
軽い前菜で食欲を満たしていたドフィンも、緊張感に眉をひそめてジュディを見つめた。
「ジュディ、どうした?」
「いや、ちょっと考え事をしていただけです。」
ジュディは特に何でもないという様子で、視線をエスターからドフィンに向けた。
「でも、お父さん。数年前に病気で衰弱していた皇子がいたでしょう?」
ノアの話題が出ると、食卓の雰囲気が一瞬で静まり返った。
特に今日ノアに会ってきたばかりのエスターは、その場で置いてあった水を急いで飲み込んだ。
「そうだ。神の呪いにかかったという噂の皇子がいたな。」
「その皇子は今どこにいるんですか?」
「突然どうしてそんなことが気になるんだ?」
ドフィンは鋭い目つきでジュディを見つめた。
ドフィンの目に射抜かれるような視線を受けて、困惑していたジュディは深く息をついてついに事実を打ち明けた。
「エスター、ごめん。実は今日、君の後をつけていたんだ。」
その言葉を聞いたエスターは驚いてその場で固まってしまった。
デニスは状況がよく分からないまま、ジュディの話に集中していた。
「昼間、エスターが外出するのを見て、こっそりついて行ったんです。でも、そこで話題の皇子と会っていたんですよ。」
ここまで話すと、エスターを見つめていたノアの表情が頭をよぎり、ジュディは歯を食いしばった。
「どう考えても、その皇子がエスターに良からぬことを企んでいる気がします。病気にかかって宮廷から追放されたのに、エスターと会うなんて。怪しくないですか?」
ジュディは懸命に考えた末、ひとつの結論にたどり着いたようだ。
「病気で権力を失ったその皇子が、大公の娘であるエスターに接触して、再起を図ろうとしているんです。ノアのことを知らなければ、誰だってそう思うのが自然でしょう?」
しかし、ノアが皇太子の座を狙っていることを知っているドフィンは、深刻そうな表情でエスターに尋ねた。
「本当に皇太子様に会ったの?」
「はい、会いました。」
何かが気まずくなったような空気を感じたエスターは、耳を塞ぐように答えた。
すると、隣にいたデニスがエスターの味方をするように言った。
「そんなに追及しないでください。エスターが驚いてしまったじゃないですか。」
そう言いながら、デニスはエスターが震える手でつかんだカップに水を注いでくれた。
「怒っているわけじゃない。ただ驚いただけだよ。それで、どうしてそんなことになったのか、君の口から話してくれないか?」
落ち着いたドフィンの声を聞き、エスターも正直に話すことに決めた。
「昨日、セバスチャンお兄さんのパーティーで偶然会ったんです。久しぶりに戻ってきたと言っていて、今日ちょっとだけ会ってきました。」
まず許可を得ずに誰かと会うのは間違いだった。
しかし、エスターが密かに会った相手が男性で、さらにその男性がノア皇太子であるという事実が、ドフィンにとっては大きな問題だった。
「二人が別々に会うほど親しいとは全く知らなかった。」
「初めて知り合ったときの友達なんです。似たような話題が多くて、何度か話しているうちにすぐに親しくなりました。」
エスターはこの状況を切り抜けるため、最大限の説明をしてノアをかばった。
しかし、それで簡単に済む話ではなかった。
『うちの娘に近づいたのは何か目的があるに違いない。』
ドフィンは手に力を込め、握ったフォークが軽く揺れた。
ノアが皇太子の座を狙っているという事実を知っているドフィンとしては、十分すぎるほど警戒心を抱く理由があった。
デイモンがそうしたように、ノアもエスターにどれだけ関心を抱いているのかは明白だ。
さらに政治的に利用しようとする可能性がある。
ノアがどんな意図を持っているのか分からないため、エスターが傷つくことのないよう守らなければならなかった。
「これからは皇太子様とは距離を取ったほうがいい。」
「……はい。」
普段はエスターの意見を優先するドフィンだが、今回は意見を聞くことすらしなかった。
エスターは何か言い返そうとしたが、そのまま受け入れることにした。
ドフィンの言葉を否定したくはなかった。
「エスターがノア皇太子と親しいだなんて、全く知らなかった。珍しいことだ。」
隣で聞いていたデニスも一言漏らした。
エスターが自分に話さなかったことが、どうにも納得できない様子だ。
エスターはよく分かっていなかったが、彼女に対するこの3人の所有欲は非常に強かった。
目に入れても痛くないほど大切な娘、そして妹なのだ。
一緒に過ごして1年ほどになるが、他の誰かに渡すなんて到底考えられない存在だった。
これからノアが絡んでくるであろう厄介な事態を想像するだけで不安だった。
「もしまたあの皇太子に会うことがあったら、私と一緒に行くんだ。私がきちんと叱ってやるから。」
ジュディはノアに対して不快感をあらわにしながらも、エスターを安心させようとしていた。
ドフィンの提案はまさに適切だと感じた。
その後、エスターは食事が口に入っているのか鼻に入っているのかも分からないまま、どうにか食事を終えた。
食後のデザートも断り、自室に戻ると今にも涙が溢れそうな表情でベッドに横になった。
「みんな、ノアを誤解しているんだわ。」
エスターはノアが自分を助けてくれた人だと信じており、彼の意図を一度も疑ったことはなかった。
しかし、お父さんやお兄さんたちから見ると怪しく思えるのも理解できた。
それが余計に心を痛める。
エスターがしょんぼりしていると、クッションに寝そべっていたシューがそばにやってきて頭を手に乗せ、甘えるように近づいてきた。
「シュー、どうしたらいいの?」
愛らしいシューのおかげで少し気持ちがほぐれたエスターは、彼の頭を撫でながら深く考え込んでしまった。
そのとき、エスターの手の甲に浮かび上がった模様が光り、シューに触れるたびに輝きを放った。
ノアと家族のどちらを選ぶべきか迷っていたエスターは、簡単な結論にたどり着き、そっとため息をついた。
「何があっても、家族は家族よ。」
エスターはノアを大切に思っているものの、彼女の新しい生活を守ってくれる家族ほどには大事に思えなかった。
今のエスターにとって家族が最優先だった。
ドフィンが「会うな」と言うのであれば、ノアに会わないようにするつもりだった。
これからはノアとの距離を確実に取ろうと決心し、エスターはベランダに顔を向けた。
気分よく再会した後、乾いた空に飛ばされた落ち葉のような心地がした。
考えが少し整理されてくると、昼間ノアと交わした会話が一つ一つ新たに思い起こされた。
自分自身を取り戻すために努力していたノアを見て、多くのことを感じ取った。
このまま何事も起きないようにと願いながら、ただ手をこまねいているのが歯がゆく感じた。
「僕も何かしたい。」
「私も何かしたい。」
神殿に身を捧げるか、神殿で自分を探すか、どちらもやってみても解決にはならない気がした。
ただ、一人では難しいが、テレシアのこの土地でなら問題を抱えた状態で軽率に行動すると、何かしら問題を起こす可能性もあった。
エスターが何か間違えれば、ドフィンに批判が向かう。
家門に被害を与えるようなことは避けなければならなかった。
「……小さな救護団体を作るくらいならいいかもしれない。」
悩んでいたエスターは、良い考えを思いつき、瞳を輝かせた。
最近亡くなった聖女の葬儀に参列した際に目にした平民たちの姿。
一度も直接会ったことも、助けを受けたこともないにも関わらず、彼らが聖女のために涙を流していた。
それほど臣民たちにとって神殿は精神的支柱と同じ存在だったが、実際には神殿は平民にとって非常に遠い存在であった。
そのギャップを埋めるため、エスターは小さな救護団体を作ることを考えた。
また、新たな信仰が芽生えれば、神殿の精神的な支柱の役割を補完できると信じて。
「ダイヤモンドも十分あるからね」
毎週、鉱山から採掘されたダイヤモンドは、エスターが私室の倉庫に保管していた。
使う必要もない大金だったのでそのまま蓄えていたが、それを使えば十分な資金を賄えると考えた。





