こんにちは、ちゃむです。
「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

29話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 温室②
ドカーン!
次々と成長を続ける吸収壁は、ユリアの設計図通りの形に沿ってひび割れたりもした。
ユリアが一番心配していた曲線設計の部分だ。
しかし、その光景をエノック皇太子は見てもいなかった。
当然のように自分の意志通りに実行されることを知っているかのように、視線も向けずに設計案だけを見ていた。
そしてどれくらい時間が経っただろうか?
驚きすぎて唾も飲み込めなかったユリアが小さく咳をして目を閉じ、再び開けると、魔法はすでに終わっていた。
「……」
最初に壁が突き出た場所から漏れ出た煙が消える前に、すでに土壁の工事は終わっていた。
「大丈夫ですか?」
「えっ?」
そしてそれは、土壁を一瞬で建ててしまった男が初めて発した言葉だ。
ユリアは思わず言葉を失ってしまった。
『今、私に「大丈夫か」って言ったの?』
彼女は自分の小さな咳がそんなに大したことだったのかと、思わず戸惑っていた。
これほどの大仕事をやり遂げても、平然とした様子で自分の体は大丈夫かどうか先に気にするものなの?
人が謙虚なのもほどがある!
『人にやらせたら何カ月も……もしかしたら何年単位になるかもしれないのに……』
思ったよりもあまりにスムーズに終わって茫然としていた。
「皇太子殿下…本当にすごいです。」
温室工事だけでも長く見積もっていた期間が、今となってはむなしく感じられた。
あまりにも見事な瞬間を目の当たりにして、むしろどう褒めたらいいかもわからなかった。
今しがた目の前で繰り広げられた光景は、どんな賛辞を送っても足りないほどだったから。
「殿下が腕の立つ魔法使いだとは聞いていましたが、まさかここまでとは……」
魔法というのは本当にすごかった。
いや、これはエノック皇太子が魔法使いだからではなく、その実力がすごかったのだ。
フリムローズ家には祝福の力が与えられ、皇家には魔法が授けられるというが…。
「温室の工事が… こんなにも一瞬で終わるとは思いませんでした。確かに魔法をお願いしましたけど、正直、魔法使いを何人か追加で呼ぶか、時間を長く取る必要があると思っていたんです。」
「恐縮ですが、それほど感嘆なさるほどの実力ではありません。令嬢の設計案は本当に素晴らしかったです。それに比べて私は、ただ学んだ通りに実行しただけです。」
エノック皇太子はやわらかい微笑みとともに、そっと肩をすくめた。
「誰かと戦うわけでもなく、ただ静かに集中できる環境でしたから。喜んでいただけてうれしいですが、感謝には及びません。」
「殿下、そうおっしゃるのはちょっと変ですよ。」
「え?」
「この温室で作物を育てたらどれだけすごいことになるかわかっていらっしゃるんですよね。でもそれを作ったご自身のことを、なぜすごいと思わないんですか?」
ユリアは本気で出した褒め言葉がこんな形で返されるとは思っていなかった。
「もしかして私を褒めるためにご自身を貶していらっしゃるなら…私は全然嬉しくないですよ。」
そう言った後、ユリアはハッと口をつぐんだ。
『さっきまで私が主導権を握ってたのに。』
ただエノック皇太子は、謙遜の言葉を一言口にしただけかもしれないが、今この瞬間、ユリアは溢れてくる気持ちをものすごく真剣に受け止めすぎているのだった。
結局、ユリアは謝罪の言葉を口にした。
「すみません。温室が建って、少し興奮していたみたいです。」
「いえ、私も令嬢に似たようなことを言ったことがありますから。うーん……」
事業において、自分の仕事を明確に区別することは大切だ。
しかし、エノック皇太子の目にはユリアがあまりにも輝いて見えたため、思わず称賛しようとして適切な言葉が見つからなかったのも事実だった。
「では、私たち二人とも……うん、自分を貶めるような言葉は控えましょうか。」
「……あ。」
「そういう悪い習慣は、きちんとお互いに守るべきですよね。そうでしょう?」
「……それは、そうですね。」
ユリアは過去の日を思い返した。
化粧品の事業性と彼女の能力を高く評価し、出資したいと言って訪ねてきた皇太子に対して、報奨だけの提案は断ると話したことがあった。
『あのときは私が先に出る前に、誰かが私の何かを高く評価してくれるなんてダメだと思ってたんだよね。』
ユリアはちらりと周りを見渡した。
『あのときの皇太子殿下も、今の私と同じ気持ちだったのかな?すごいことをしておいて、自分では大したことじゃないって言われるのって、やっぱりあまり嬉しくないものだよね…。』
それを今でも覚えていたなんて。
私が堂々と自信に満ちているふりをしても、ときどき見え隠れしてしまう弱気な姿を、全部見抜かれていたんだな。
時間を遡る前も、今も──
『皇太子殿下って、本当に素敵な方だな。』
もちろん、エノック皇太子が自分にだけそう接しているわけではなく、誰に対しても親切なのだろうが。
「ありがとうございます。私の言葉に気を配ってくださって。」
それでもユリアにとっては大切な助けだったから。はっきりと伝えたかった。
「そして……今日は、私の夢を現実にしてくださって、ありがとうございます。」
心を整理し終えたユリアは明るく笑った。
その笑顔を見たエノック皇太子は、今回ばかりは黙ってしまった。
どんな時も余裕のある彼が──
『こんな風に笑うのは、初めて見るな……。』
ユリアは無表情だけを演じているわけではなかったのだ。
時折、口元だけを少し上げて笑みを浮かべたり、小さく笑って興味を見せることはあった。
しかし、今のようにぱっと明るく笑うのは初めてだった。
今のユリアは、ためらいや恥じらい、いろいろな余計な思いをすっかり振り払ったように見えた。
『これまで私の前で笑っても、どこかぎこちなさが見えてたのに…。』
彼はぽかんと目を見開いた。
一瞬、時間がゆっくり流れた気がした。
今日この場は、もともと礼拝施設を作るために来ただけだったのに。
「お役に立てて…幸いです。」
本来の自分は、かなりスマートに話すのが得意な人間で、誰と話しても言葉に詰まることはなかった。
人間関係でも特に問題なく、皇太子として、ひとりの人間として、よくやってきたけれど──
「……でも、化粧品のお店をオープンするにはまだ少し時間がありますよね?」
「はは、それもそうですね。」
なぜか言葉を口にするまでに少し時間がかかった。
エノック皇太子は、ユリアの会話の中の一部分が気になったのか、ふと口を開いた。
「でも、今日の出来事が令嬢の夢……だったんですね。」
「はい。私は家門の意味とは関係なく、ユリアという一人の人間として事業をしたかったんです。」
フリムローズ公爵も、兄という存在も、妹リリカも──すべて嫌だった。
ただ、それらに縛られず、今は自由でいたかった。
「今やっているこの事業は、ただ、私がずっと夢見てきたものなんです。私がやりたかったこと。」
プリムローズ家の人々の愛を求めるのではなく、ユリアという個人として存在したかった。
「ははは。今日はなぜか殿下にいろいろ話してしまいますね。」
エノック皇太子はようやく、なぜ今日ユリアの微笑みが目に焼き付いたのか、その理由がわかった。
今日のユリアはとても無防備だった。
何の期待もせずに心を開き、余計な思いもなく私の前で笑うほどに。
いや、もしかしたら無防備だったのは自分のほうかもしれない。
『ただの過ぎ去った初恋なのに…。』
自分の感情は自分でコントロールできると思っていたのに、不思議だった。
目の前の女性があまりにも輝いて見えた。
祖父である皇帝の望むとおり、満足させるように動いていた自分とは違う。
ひとりの「主体的な人間」として。

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