こんにちは、ちゃむです。
「夫の言うとおりに愛人を作った」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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83話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 自身の過去⑥
空が澄み渡る秋の日だった。
無数の穀物を覆う穂や、木々にたわわに実った果実のおかげで、村全体が活気づく季節だった。
黄金色の陽光が世界を照らす中、ルイーゼは一人、無表情のまま魚を釣っていた。
籠に魚を入れて持ちながら歩いていた道だった。
「……あ。」
反応した時にはもう遅かった。
彼女は石につまずいて転び、籠を放り出してしまった。
目の前で放り出された籠から魚が飛び出し、地面に散らばる。
周囲の地面が籠からこぼれた水で濡れ、鮮やかな色に変わっていった。
流れる髪を掻き分け、散らばった魚を拾おうとする彼女の前に、一つの膝が屈み、手が差し出された。
「大丈夫ですか?」
そっと顔を上げると、眩しい日差しのような青年が立っていた。
美しい金髪と青い瞳が澄んだ晴れた天気を思わせた。
彼女に差し出された手は、かつて握ったことのある誰かの優しく温かい手を思い出させるようだった。
その姿はまるで彼女を救うために現れた救世主のようにも見えた。
「いいえ、大丈夫じゃありません。」
彼女は紫色の瞳で、ぼんやりと彼を見上げた。
その瞳には一瞬で涙が溜まり、溢れ出した。
「全然、大丈夫じゃありません……。」
ルイーゼは震える唇をぎゅっと閉じて息を整えた。
初めて会った相手の前で、まるで子どものように泣くわけにはいかないと思った。
彼女は彼の手を取り、立ち上がった。
「……驚かせてしまいましたね。すみません。でも、大丈夫です。」
こらえた涙を飲み込むルイーゼは、床に散らばった魚を拾い、かごに戻し始めた。
男性はそんな彼女を静かに見つめながら、最後に魚をかごに入れ立ち上がったルイーゼの前に真っ白なハンカチを差し出す。
ルイーゼが不思議そうな顔で彼を見上げると、彼は口を開いた。
「使ってください。」
「知らない人の前では泣きませんよ。」
「手を拭くために渡したんですけど。」
「あ……。」
ルイーゼは慌てた表情でハンカチを受け取った。
彼女が手を拭く様子を見守りながら、彼は再び口を開いた。
「私の名前はレイアード・ディ・クルエイトです。本当は涙を拭いてほしいと思って渡したのですが、これでお互い顔見知りになったので、大丈夫だと思います。」
ルイーゼの動きが止まった。
彼女はためらうように、二度ほど唇を動かした後、小さな声で言った。
「……ルイーゼ・ディ・セレベニアです。」
知らない人に自分のフルネームを紹介するのは、これが初めてのことだった。
彼女は彼から受け取ったハンカチで頬を軽く拭き、流れ落ちる涙をぬぐった。
どこからともなく溢れる涙は、しばらくの間、止まることがなかった。
彼はその様子をじっと見つめた後、彼女の涙がようやく落ち着くころ、両腕でシャツを捲ってかけ直すと、かごを持ち上げた。
「売りに行くんですか?」
「はい。」
「一緒に行きます。ちょうどやることも終わったところです。これは私が持つことにします。」
「いいえ、私が持ちます。」
「首都の紳士は、女性がこんなものを一人で持つことを許さないと聞いています。」
「……首都から来たんですね。」
「はい。」
ルイーゼは手を引っ込め、少し悲しげにレイアードの顔を見上げた。
彼は明確な表情で肩をすくめた。
彼にとってはこれが本当に当たり前のことのようだ。
「お願いします。」
「はい。」
レイアードは片手でしっかりと荷物を持ち、もう片方の手でルイーゼのカゴを持ちながら彼女の後を歩いていった。
二人は互いに簡単な話を交わしながら歩き続けた。
今日の穏やかな天気や、魚の種類、あるいはそれが直接釣られたものなのかといった内容だった。
ルイーゼは初めて会う誰かと話をするのがとても久しぶりで、そのぎこちなさの中にも悪い気はしなかった。
なぜか、彼に目が向いてしまう。
金色に輝く髪が風に吹かれるたびにさらさらと揺れていた。
ふと、彼女は彼の青い目にこれまでどんな世界が映ってきたのか気になった。
首都には怪物しかいないと言われていた。
しかし、そこから来たこの男性は怪物とは程遠い人だった。
初めて会った彼女にも親切で、美しかった。その姿は彼女が夢に見た首都のイメージのようにきらきらと輝いていた。
「どうしてここに来たのですか?」
「上司が何かを探してこいと言ったので、そこで行き詰まって、結局見つけられませんでした。」
いつの間にか、彼女の質問は彼の言葉以上に増えていた。
自信に満ちた歩き方と整った体つきは、有名俳優のように魅力的だったが、それ以上にルイーゼの視線を奪ったのは彼の微笑みだった。
そのさりげない微笑みは、ぱっと見では冷たくも感じられるかもしれないが、不思議と親しみやすい雰囲気を持っていて、それが彼女の心を妙に揺さぶった。
そんな奇妙な気持ちの中、彼らは市場に到着した。
ルイーゼは魚を袋に詰めたまま商人に渡した。
値段をつける間、商人はルイーゼの隣で彼女に付き添う男性をちらちらと見ていた。
ルイーゼが代金を受け取り市場を出た後も、レイアードはその場に留まっていた。
ルイーゼは、このままここで彼と別れてすぐに家に帰る気にはなれなかった。
彼女は少し迷いながら口を開いた。
「助けてくださってありがとうございます。あの……もしよろしければ、お礼として夕食の材料を買わせていただけませんか?」
「夕食の材料を買うってことは、一緒に食べないって意味に聞こえますね。」
「ご迷惑かと……」
「一緒にするほうがいいです。一緒に行くのはどうですか?」
「はい。」
男性が提案を取り下げる前に、ルイーゼは急いで答えた。
「それから、セレベニアさん。差し支えなければ、お名前を呼んでもいいですか?」
「ええ、気にせずどうぞ。名前を呼んでいただいて構いませんよ。」
「そう。」
話を交わした結果、レイアードは彼女よりも少し年上だった。
ルイーゼは戸惑ったような顔で魚を包んだ。
「さて、ルイーゼ。」
レイアードが魚を渡し、彼女と目を合わせた。
「こんなことを言うのは早いかもしれないけど、たぶん僕は君に一目惚れしたんだ。それで、夕食は僕がご馳走したいと思ってる。」
彼が太陽のように笑った。
「夕食が気に入れば、もう一度僕と会ってくれない?」
ルイーゼは一瞬、呆然とした表情で彼を見つめたが、自分でも気づかないうちにそっと魚を包み始めた。
夕食は美味しく、彼との会話は楽しいものだった。
それがレイアードとルイーゼの初めての出会い。
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