こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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212話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 決死②
この出来事は瞬く間に周囲に広まり、次第に広範囲にまで伝わった。
―モリナ女王とストロン伯爵が共に命を落とした!
その知らせを聞いた人々は皆驚愕し、恐怖に打ち震えた。
一方で総指揮官を失った西帝国の軍勢は大混乱に陥った。
「こんなことが……」
ヘリアン伯爵は茫然自失した表情で呟いた。
ストロン伯爵は単なる指揮官ではなかった。
ヨハネフ3世が重病で意識を取り戻せない今、西帝国を実質的に統率していたのはストロン伯爵だったのだ。
この出来事によって、西帝国が直面する事態は予想を超える混乱へと発展していった。
彼の突然の死は、西帝国軍の侵攻意欲を大きく弱める結果となった。
「これからどうすれば……」
突然、西帝国軍を指揮することになったヘリアン伯爵は、困惑した表情を浮かべた。
しかし、彼の苦悩はモリナ女王を失ったクローアン王国の悲しみに比べるべくもなかった。
王国民たちは信じられないという表情をしていた。
「陛下が?そんなはずない……」
「嘘をつくな!陛下がそんな死に方をするわけがない!」
王国民たちは涙を流しながら叫んだ。
モリナは単なる王ではなく、彼らにとって家族のように大切な存在だった。
そんな彼女が、王国民のために命を散らしたのだ。
「だめだ、信じられない」
「そうだ、こんなことありえない!」
王国民たちは目を赤く腫らしながら涙を流し、激しく悔しさをにじませた。
彼女の死を受け入れることは到底できなかった。
しかし、皆が分かっていた。
これがただの噂話ではないことを。
彼女の死を確かに見届けた人々がいたのだ。
1つの叫びがまた1つ、悲しみはやがて怒りへと変わり始めた。
「陛下を死に追いやった西帝国を許してはならない!」
「私が死んでも必ず西帝国軍に報復してやる!」
「全員立ち上がれ!西帝国軍に立ち向かうのだ!」
王を失ったものの、クローアン王国民の抵抗の意志は消えていなかった。
それどころか、自分たちのために命を捧げた女王を思い、その意志はより一層強固なものとなった。
事前にマリから命令を受けていたバルハン伯爵が、そのような王国民たちをまとめ上げた。
「一歩も退くな!陛下の死を無駄にしてはならない!」
バルハン伯爵は歯を食いしばって叫び、王国軍はモリナ女王を胸に抱きつつ、その死を惜しみながらも戦いに突入した。
そして、総司令官を失った西帝国軍は混乱に陥り後退。
クローアン王国は燃え上がる抵抗の火を掲げ、西帝国軍に立ち向かい、新たな戦局を迎えるのだった。
『陛下……』
バルハン伯爵は心の中でそっとつぶやいた。
『すべては陛下の計画通りに進んでいます。ですが、果たして我々が西帝国軍に勝利できるかどうか……。』
マリがストロン伯爵に近寄る前、短い計略で終わるような話ではなかった。
バルハン伯爵が西帝国軍の足元を抑え込む中、巧妙な後続の作戦が、彼女の計画の最終段階として着々と進んでいた。
その作戦が成功すれば、西帝国との戦争は王国の勝利に繋がる。
『しかし……。』
バルハン伯爵は顔を上げ、心の中で訴えた。
『陛下、本当にここまで覚悟されていたのですか?どうかお答えください、お願いします。』
今起こっているすべての出来事は、彼女が計画していたものであった。
ストロン伯爵がどのような手を使ってでも自分を支配しようとすることを見越し、聖地で彼と対峙する計画を練ったのだ。
そのため、王国軍は聖地の崖の下に彼女を救出するための人員を密かに配置していた。
建国王シェルマンが生還した場所からわかる通り、崖の高さは思っていたよりも低いことが判明していた。
急流がほんの少しでも緩やかになれば、漂流する速度が明らかに遅くなり、うまく救助されれば死を装いながらも生き延びられるかもしれない計画だった。
しかし、計画に問題が発生した。
時間が経過しても救助隊が彼女を見つけられなかったのだ。
彼女が下流に流されてくるだろうと予測していた地点を慎重に観察していたが、彼女の姿は見当たらなかった。
「陛下……」
バルハンは焦りの表情を浮かべた。
もしこのまま彼女が発見されなかったら?
もし彼女がすでに命を落としていたとしたら?
考えただけでも胸が締め付けられるような思いだった。
「駄目だ。絶対に。」
彼は拳を強く握りしめた。
あまりに強く握りしめたせいで、指が手のひらを傷つけるほどだった。
「神よ、どうかお助けください。このような状況をお救いください。お願いです……。」
バルハンは祈るように、切実な心で目を閉じた。
・
・
・
モリナ女王の死去の知らせは、即座に東帝国へも伝わった。
その重要性から、間を置くことなく直接的に伝達された。
そしてその報せを受け取った東帝国の皇帝ラエルは……。
ガシャーン!
蒼白になりながら激しく震え、彼の手から落ちたインク壺が粉々に砕け、インクが床一面に広がった。
「なんだって? 今、私が……。聞き間違えたのか?」
「……。」
報せを伝えに来たオルンは、気まずそうな表情を浮かべていた。
ラエルの全身は恐怖に凍り付いたように震えていた。
オルンは彼がこれほど動揺する様子をこれまで見たことがない。
「モリナ女王が聖地で身を投げ、亡くなったとのことです。」
ラエルの身体は糸が切れた人形のように大きくよろめいた。
「陛下!」
周囲の人々が驚いて彼を支えようと駆け寄った。
ラエルは震える声で口を開いた。
「……それは本当なのか?本当に彼女が死んだというのか?」
「遺体の確認はできておりません。ただ……」
オルンは言葉を濁した。
彼女は死んだ可能性が高い。
そのように判断するのが妥当だった。
しかし、ラエルは深い息をついた。
そして拳をぎゅっと握りしめた。
「違う。私はそうは思わない。彼女は他の誰でもない。彼女がそんなふうに死ぬわけがない。」
「……陛下。」
「数々の奇跡を起こしてきた彼女が、そんなに簡単に流れに身を投げたというのか?そんなことはあり得ない。オルン、お前もそう思わないか?」
ラエルの最後の言葉は泣き声に近かった。
オルンは目を伏せた。
どうしても彼の目を見ることができなかった。
胸を裂かれるような彼の痛みが、ひしひしと伝わってきたのだ。
「はい、遺体が発見されていない以上、判断するのは難しいかもしれません。」
そう言いながらも、オルンは彼女が生存している可能性がほぼないと感じていた。
それが当然の結論だった。
おそらくラエルもそのことを理解しているはずだ。
彼女が生きている確率は非常に低いということを。
「……少し失礼します。」
オルンは彼に感情を整理する時間を与えるため、従者たちと共に退室した。
ひとり残されたラエルは、両手で顔を覆った。
「マリ……」
その口から、神の名を呼ぶように彼女の名前が漏れた。
「俺は信じている。お前がこんな形で死ぬなんてありえない。俺は信じている。」
ラエルはまるで呪文を唱えるようにその言葉を何度も繰り返した。
いつも奇跡を起こしてきた彼女なら、今回もまた信じられないような形で生き延びているはずだ、と。
「だから悲しむ必要なんてない。お前はきっと生きている。心配することなんてない。」
唇を噛み締めながら震える声で自分自身に言い聞かせるようだった。
彼の手のひらを伝って一滴の涙がこぼれ落ちた。
それは涙だった。
「マリ……お願いだ……お願い……。」
ラエルの肩が震えていた。
彼は彼女が生きていると信じている。
彼女が死んだはずはない。
しかし、そう信じても涙は止めどなく流れ落ちた。
この痛み。
この感情をどう言葉で表せるだろうか?
まるで心臓が掴まれて引き裂かれるような感覚だった。
「私は……君が約束したではないか。永遠に一緒にいると。」
ラエルは彼女との愛の誓いを思い出していた。
あの時、彼と彼女は永遠を誓った。
それだけではなかった。
彼女と共に過ごしたすべての瞬間が彼の胸を鋭く突き刺した。
生きている心臓が強く痛むあまり、むしろ感覚が麻痺するようだった。
「お願いだ……お願い……マリ……。これから先、どれほど痛くてもいいから。」
ラエルは心臓を締め付けられるような切実な声で言葉を紡いだ。
「どんなことがあっても、生きていてくれ。」
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