乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する【１６５話】ネタバレ

現れたのはセドリックだった。

髪も服も乱れており、どこか疲れた面持ちだったが、いつものように彼女を心配するような優しい眼差しで見つめていた。

「ダリア、大丈夫か？」

ダリアは考える間もなく彼の手を掴んだ。

指輪ははめられていないままだった。

セドリックが微かに動き、力なく笑いながらダリアの頬に手を添えた。

彼があまりにも疲れた様子だったので、ダリアは心が締めつけられるのを感じた。

「セドリック様……ご無事ですか？」

返事は少し遅れて返ってきた。

「うん。君を見つけたから。」

「……」

ダリアは彼が開けて入ってきた扉の向こう側を見つめた。

しかし、剣を持つセドリックが彼女の目を遮った。

その心情を察したダリアは、ただ彼の手を握り、彼の顔を見つめ続けた。

真っ白な光を帯びたルビー色の瞳がダリアを見据え、柔らかい笑みを浮かべていた。

どうやって彼は一人であれほど多くの人間に立ち向かったのだろう？

本当に無事だったのか？

どうして彼はダリアが危険にさらされていることを知ってここに来たのか？

そんな数多くの疑問がダリアの頭を駆け巡った。

しかし、彼女はただ彼を見つめ続けた。

口から出た言葉は、まるでこう言っているかのようだった。

「どうすれば……ほかにするべきことがあったのではないですか……」

「メルドンが少し信用できなくて。」

彼は冗談めかして笑った。

その笑みが自然に消えた頃、セドリックは内心の思いを表情に隠して彼女をただ静かに見つめていた。

その日の彼の瞳は、古びたペンダントに溜まった埃を思い起こさせた。

それは少し物寂しいようでもあり、ただ落ち着いた感じもした。

彼はふとメルドンに目を向け、軽く皮肉を言った。

「お前は……ダリアを守ると言っておきながら、何も役に立ってないじゃないか。」

普段なら皮肉に対して文句を言うメルドンだったが、今日は妙にセドリックをじっと見ているだけだった。

そして、しばらくして苦笑いを浮かべながら言った。

「お忙しい中、お嬢様を助けに来る時間はあったのですね？」

「まあ、そんなところだ。もう行くよ。これ以上危険なことはないだろ？」

「もう大丈夫です。セドリック様がこちらの信徒たちを片付けてくださったおかげです。」

セドリックは顎を軽く上げ、ダリアを見つめた。

彼は笑みを浮かべながら彼女の頬に軽く触れた。

「全く、ダリア。俺が助けに来たというのに笑顔の一つも見せてくれないのか……。」

ダリアはようやく事態を把握し、彼の言葉に気づいた。

その瞬間、彼女の目が潤み始めた。

セドリックが冗談を言った直後、彼女はすぐに彼の胸に飛び込み、しがみつくように抱きついた。

セドリックは驚いた表情を浮かべながら、メルドンと視線を交わした後、彼女の背中をそっと抱きしめた。

「そんなに心配させてしまったのか？」

「……いいえ。」

「泣いてるの？」

セドリックはダリアの肩に手を置き、彼女の体を少し後ろに引き寄せた。

そして彼女の顔をじっと見つめた。

彼は微笑み、優しく語りかけた。

「それでも君の言う通りだ。すぐに戻らなければならない。アドリシャがまだ彼の精神世界から抜け出せていないからな。もし失敗したら、俺が必要になるだろう。」

「あ……。」

ダリアは目をぱちくりとさせた。

「必要だ」という言葉に込められた意味が彼女の心を刺した。

たとえアドリシャが失敗しても、ルウェインはまだダリアの日記を持っていた。

彼は新しい方法を見つけると言っていた。

しかし、セドリックがアセラスと共に虚空へ行くことになることはなさそうだった。

『それでも……。』

「セドリックさん、私も一緒に行きます。」

「……どこへ？」

「アセラスがいる場所へ。」

セドリックは初めて少し困惑したような声を漏らした。

「本当に？」

ダリアは軽く頷いた。

彼女は彼の胸から少し身を引いた。

「もし私が行くことで邪魔になるなら、行きません。」

「そういうわけじゃないけど……。」

セドリックはメルドンに視線を向けた。

「神徒たちもほとんど片付きました。彼らもこれ以上ここで得るものがないと分かっているでしょう。」

「……。」

セドリックは複雑な表情でダリアを見つめた。

何かを言うのが難しい様子だ。

いくつかの葛藤があるようだ。

彼女の安全に対する心配、そして――

「実は、ルウェインと私は……万一の事態に備えて、君をここから送り出すことを考えていたんだ。ここはアセラスの暴力の支配圏外だから。」

「……。」

「今、君を送り出して後悔しないわけがない……。」

ダリアは何も言わずに彼をじっと見つめた。

どんな答えを返しても、彼の気持ちを受け入れることになるだろうと思った。

セドリックもダリアを見つめ返した。

どんな状況でも視線を逸らさず、自分をしっかりと見つめるこの決然とした穏やかな眼差し。

疲れた顔にある薄青い瞳が長い睫毛に覆われ、美しく輝いていた。

疲れているはずなのに、その顔はまだ彼女の心を乱すほど魅力的だった。

返事はすぐには返ってこなかった。

セドリックは代わりに手の甲でダリアの頬を撫でた。

そして彼女の腰を引き寄せ、腕の中に抱きしめた。

彼の心臓がいつもより少し速く鼓動しているのが感じられた。

彼がそっと、けれど少し甘えたように彼女の肩に自分の顔を埋めると、彼女に囁くように話しかけた。

「それでも君が最後まで僕と一緒にいてくれたらいいのに。僕ってひどい奴だよね？」

ダリアは微笑みながらうなずいた。

「私もセドリック様とずっと一緒にいたいです。」

どんなことがあっても、最後までダリアは彼の力になりたかった。

遠い未来、彼女が微笑みながら「あの時そんなこともあったよね」と振り返る日が来る時、その回想の中で、自分がただ安全な場所で「よかった」と言っている姿はどうしても想像できなかったからだ。

ダリアはセドリックに抱きついたままメルデンを見た。

セドリックは少し困ったような表情で笑った。

「それなら、僕も一緒に行けるかな？」

ダリアは軽く笑い、こくりとうなずいた。

その瞬間、消えたケルシオンの不在が妙に目に入った。

「ケルシオンさん、大丈夫でしょうか？」

「まあ、最後に見たところでは、死にはしないと思います。」

メルデンが何気なく言い残して通り過ぎた。

それで終わりだった。

ダリアは短くため息をつき、彼を見送った。

その時、遅れて皇宮の騎士が無道会場の扉を蹴破り、駆け込んできて膝をついた。

「皇子殿下！」

セドリックの姿を確認した途端、彼は切羽詰まった様子で叫んだ。

「アドリサ様が……失敗なさいました。教皇が敵の捕虜になられました！」

一瞬で、その場にいた3人の表情が固まった。