こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
今回は22話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
22話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 一年の最後
一年の最後の夜。
シェリデン流囚人ルックで完璧に寒さに備えたクラリスは、自分の部屋で両足をバタバタさせていた。
重要な事実が今になって浮かんだのだ。
「私は情けない」
北側の城壁に来る時に決心したことがあったが、今日までノアのことを気にしていたので完全に忘れてしまっていたのだ。
「これでは恩知らずのクラリスと呼ばれても仕方がない!」
少女は小さな二つの拳をぎゅっと握る。
「こうなった以上、今日の爆竹を見る時に必ずやり遂げるんだ」
何を?
まさに公爵と公爵夫人の「手を握る」ことだ。
この重要な課題をやり遂げるためには、クラリスも多少勇気を出す必要があった。
彼女は壁に向かって何度か手を差し出し、ぶつぶつとある台詞を練習した。
しばらく練習にはまっていると、しばらくしてノックの音が聞こえてきた。
クラリスは駆けつけてドアを開ける。
その前には黒い冬のコートを着たマクシミリアンがいた。
「こんにちは、公爵様。ノアは?」
「疲れているから寝ると言っていたよ。花火には興味がないという」
「一緒に行けばいいのに」
クラリスは悲しんで、マクシミリアンに片手を差し出す。
なんだかぎこちない仕草だった。
それからずっと壁に向かって練習してきた言葉をかける番だった。
「あの、あの・・・!」
しかし、猛烈な練習の結果は実に悪かった。
(あれ、どうしよう?)
なぜか指先がこわばっているようだった。
彼女が練習した言葉は「手を繋いでください」だ。
こうして彼女が公爵の手を握ると、その後「公爵夫人とも手をつないでほしいです」と自然に誘うことができるはずだから。
(言葉が・・・出てこない)
手をつないでほしいなんて。
ふとすれ違う記憶があった。
恥ずかしすぎて、できれば思い浮かべたくない幼い頃のー場面。
グレゼカイアでずっと一人で過ごしていたクラリスが初めて王妃殿下に謁見した日。
クラリスは王妃様を「母親」のような存在だと勝手に思っては、駆けつけて手を差し出したことがあった。
「手を握ってください!」って。
そして返ってきたのは、激しく額を突く手振りだけ・・・。
クラリスの差し出した手がこっそりと落ち始める。
「・・・確かに城壁には風が吹くよね。手を捕まえたほうがいい」
「え?」
「小さくて軽い囚人が空へ飛んで行くことになったら困るだろう」
「私は飛べません!軽くもないです。夕食をとてもたくさん食べました」
「それはよくやった」
称賛の言葉をかけた彼は、クラリスが差し出した手を優しく握る。
手袋を2枚もはめたのに、クラリスはなんだか自分にすごい温もりが染み込んできたようだった。
「公爵様は暖炉みたいです・・・」
「うん?」
「ああ、なんでもないです!いや、そうじゃなくて!」
クラリスは少し当惑してどもりながら話をした。
「私はただ心配しただけです。公爵夫人もとても軽いじゃないですか。そうでしょう?」
「・・・うん?」
「そうです!そうです!風が吹けば飛んでしまうかもしれません。いや、公爵様が必ず捕まえないとそんな大惨事になるに違いありません!」
「・・・」
「しっかりつかまってください。捕まえないといけません。必ずそうしなけれはなりません!」
「ふーむ・・・」
クラリスが頼み続けているのに、彼はなぜか確答を与えなかった。
高い北の城壁に登ったクラリスは、目を丸くしてあたりを見回す。
真っ黒な空の下で明かりを灯しておいた民家が、まるで星のように綺麗に見えた。
「家がとても小さく見えます」
クラリスは公爵の手をぎゅっと握ることにしたことも忘れて、人ごみをかき分けて石の欄干の近くに駆けつけて遠くに見える風景を指差す。
「クラリス!」
すると公爵夫人がすぐに彼女の後ろに走ってきて叱った。
「危険にならないことにしたじゃないですか」
「あっ」
クラリスはやっと階段を上る前に交わした約束を思い出す。
「・・・ごめんなさい」
「私たちは何を約束しましたか?」
クラリスは指を差しながら答えた。
「城壁の上では走らない、手すりの近くに行かない」
「これからは忘れないことができますか?」
クラリスはすぐにうなずく。
「約束します。絶対に怪我しません」
「分かりました。よかったら私に手をくれますか?」
公爵夫人が先に手を差し伸べてくれたので、クラリスは一瞬心臓がポンと飛び上がった。
夫人は私と手を繋ぎたいのか。
本当に不思議だった。
クラリスもちょうど公爵夫人と手を取り合いたかったからだ。
彼女は夫人の手をそっと握る。
「実は守らなければならないルールがもう一つあるそうです」
「ルール?」
「はい!」
ちょうど激しい風が吹いてきたためか、クラリスの手を握った公爵夫人の手にもう少し力が入った。
「このように風が吹けば、飛んでしまうこともあります。だから公爵の手を必ず握らなければなりません」
クラリスが空いている彼女のもう一方の手をちらりと見て答えると、公爵夫人は楽しそうに声を出して笑った。
「ああ、そうですね。飛んでいくかもしれないから?」
「はい!でも公爵様の手を握ったら絶対に飛ばないと言われました」
「あはは」
ブリエルが楽しそうに笑ったので、クラリスは大きな期待を抱くようになった。
もしかしたら、夫人は「クラリスの言うことが正しい。飛んで行ったら困るから、私も公爵の手を握る」と答えてくれるかもしれない。
クラリスは琥珀色の目を輝かせながら公爵夫人を見上げる。
「クラリスの言う通りです、飛ばされたら困るから・・・」
ドキドキ。
予想通りの言葉が聞こえ始め、せっかちなクラリスの唇がすでに大きな笑いを描いてしまう。
「クラリスは公爵の手をしっかり握っているようにしましょう」
そして公爵夫人はクラリスの手をすぐそばに立っていたマクシミリアンに渡した。
クラリスは困ったが、公爵夫人は「二つの手がよく似合いますね」と手を叩くほど喜んだ。
その姿を見ていると、クラリスも今日必ず成し遂げることにした重要な約束も忘れて、なぜかにっこりと笑いが流れてしまう。
(下女たちがどうして花火を待ったのか分かる気がする)
クラリスは自分の部屋で一人で爆発する轟音だけを聞かなければならなかった日だったので、あまり好きではなかったのだが。
しかし、今は事情が違う。
彼女にはこの夜を共にしてくれる優しい人たちがいた。
「クラリス、あっちに行って待ったほうがいいね。風が和らぐだろう」
「お湯を持ってくるように言いました。あそこで飲みましょう」
なんだかウキウキしたような公爵夫妻の声はもちろん。
「向こうから爆竹が上がってくるって、わかった?一瞬も見逃さずに見ておいて。年に一度だから」
「あと何分ある?」
「三十分ぐらい」
特別に開放された城壁を訪れた人々の期待に満ちた声も聞こえてくる。
「お母さん、お母さん!あそこに私の家が見えます!」
その中にはクラリスと同年代と見られる子供たちもいたが、彼らは皆保護者の手をぎゅっと握っていた。
(私も手を握っている。)
クラリスは自分を捕まえた大きな手をちらりと見る。
何だか自然に足が軽くなった。
(こんな風に手を繋いでみんなで花火を見るのはどんな気分だろう?)
クラリスはなんだかせっかちな気持ちになり、頭をもたげた。
早く新年が来てほしかった。
「あと何分ですか?」という言葉を20回ほど繰り返していたクラリスがうとうとし始めたのは新年を約5分ほど残した頃。
今やクラリスは公爵の足にもたれかかり、本格的に眠り始めた。
ブリエルはクラリスの頬を撫でながらなんとか起こそうとしたが、なぜか呼吸はますます深くなっていく。
「どうしましょう、やっぱりこの時間まで起きているのは無理だったみたいですね。昼寝でもしなさいと言っておけばよかった・・・」
彼女は腕を伸ばしてクラリスを抱きしめようとした。
このまま止めておいては、冷たい床に倒れるのではないかと心配だったのだ。
「置いてください」
ただし、マクシミリアンが片腕で子供を高く抱き上げるのが少し早かった。
クラリスは片方の肩に頭をもたげてぐったりする。
「大変だと思いますが?」
席を立って心配そうに話をすると、彼は首を横に振った。
「まだ軽いです。やはり食事の配給をもっと増やすべきか、悩みますね」
「十分に食べていると聞きました。時間が経てば体重も上がるし、背も伸びるんじゃないかと思うんですが」
「う一ん・・・」
「とにかく、こちらにください。私が部屋に連れて行きます。公爵はここを守らなければならないじゃないですか」
「残りわずかです」
「え?」
「爆竹のことです。楽しみだとおっしゃいませんでしたか?」
「あ・・・」
「あちらです。もうすぐ始まります」
ブリエルは彼が見つめる方向に並んで立ち、まだがらんとした空を見上げた。
(爆竹を期待していると話してはいたけど・・・本当は・・・)
彼女はこっそりと自分の隣にいる男を見る。
彼は依然として微動だにせずクラリスを片腕で抱きしめたまま空だけを眺めていた。
このように多くの人の前で謹厳な公爵の姿を見せたいと思うが、囚人に過ぎない子供の安らかさのために懐を渡す姿が本当に不思議だった。
(前はちょっと怖い方だと思ったりしていたのに・・・)
クラリスが来てから、彼らの周りの空気が変わるような気がした。
ブリエルはかすかに笑う。
「公爵様はとても優しいです」
そうするうちに突然真心が言葉に小さく流れた。
「・・・あ」
間違いに気づいた彼女は、短くうめき声を上げ、すぐに口を閉じる。
そして願った。
彼らを取り巻く人々の声に埋もれて彼が聞かなかったことを。
「・・・」
幸いなことに、マクシミリアンから返ってくる答えはなかった。
ブリエルは目を向けて彼の顔色を見る。
ひょっとして彼女の話を間いたかどうかを確認しているのだ。
幸い、彼の顔には若干の変化もない。
依然としてクラリスを抱いたまま空を見上げるだけだった。
(よかった)
確かにマクシミリアンが彼女の小さな声一つ一つまで耳を傾けるはずはなかった。
そもそも本当の妻でもないのだから。
ちょうど大きな爆音とともに最初の爆竹が白い煙をまき散らし、空の上に素早く立ち上がり、真っ赤な花火を大きく放る。
同時に始まった人々の歓声が高まり、次々と爆竹が真っ黒い空を切り裂く色とりどりの花粉となって遠くに広がった。
「・・・」
ブリエルはマクシミリアンのことはしばらく忘れて、ぼんやりと空を見上げる。
「綺麗・・・」
こうなることを知つていたら、以前にこれを見に来ようとしたマクシミリアンの提案を断らなかったのに。
もし偽物だということがばれるのではないかと怖くて、彼との外出は何でも断っていたので仕方なかったのだが。
実は今回も断らなければならなかったが、彼を好きになったことを知ってしまった以上、一緒に花火を見ようという言葉をどうしても断ることができなかった。
今回も断ったら後悔しそうで。
(思い出くらいは・・・持っていってもいいよね?)
前回マクシミリアンはいつかブリエルを手放すつもりだと言った。
だから、彼らがいつか一緒に住まなくなるということは、すでに決まったことに他ならない。
(ほんの少しだけ、いい記憶を作らないと)
そうしなければ、せっかく気づいた心がかわいそうではないか。
(私がこう思っていることを、公爵様が知っていたら・・・)
ブリエルはこっそりと彼の方を向く。
「あ」
ところが、どういうわけかすぐに視線が合ってしまった。
これでは・・・彼がブリエルを見ていたようではないだろうか。
当然そんなはずはないけど。
「・・・綺麗ですね」
ブリエルは思いつこうとして素早く言葉をかけた。
「え?」
しかし、相次いで爆発する音のため、彼はよく聞いていないようだった。
「だから・・・」
ブリエルは思わず彼に一歩近づく。
しかし、そうすべきではなかった。
怖がらずに突然間隔を狭める時、ついお互いの手の甲がポンとぶつかってしまったのだ。
彼がクラリスを抱えていない側の手のことだ。
お互いに厚い冬の手袋をはめていたのに、この偶然のぶつかり合いに指先がしびれるほど緊張感が押し寄せてきた。
(え、どうしよう?)
謝るべきかな?いや、でも本当にちょっと触れただけなのに・・・。
(それより手を他の所に片付けた方がいいかな?)
しかし、それでは彼と少し触れたことを非常に気にしていると堂々と話すことに他ならなかった。
そしてまた爆竹が吹き上がる時、また手の甲が触れてしまった。
今度はなんだか不器用に触れたまま、二人ともびくともしなかった。
だからといって必ずしも捕まえるわけでもないくせに。
(まさか公爵様は。ご存知ないかな?)
ブリエルはそれまで考えたが、どうやらそれは違うようだ。
(・・・恥ずかしい)
そう思いながらもブリエルは彼に触れた手を離すことができなかった。
同時に爆竹が爆発する音がもっと大きく聞こえてくる。
それが本当はブリエルの心臓が痛くなるほど損れ動く音だという事実に気づいたのはしばらく後のことだった。
また空の上に赤い花が咲く。
手の甲はやっと触れ合ったが、もう少し近くなった。
クラリスが城に来たことで、周りの空気も変わってきましたね。
公爵夫妻の関係にも進展がありました。