こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
今回は70話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
70話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 特別な日④
「うん。」
マクシミリアンは一瞬返事をためらった後、少し曖昧な声で答えた。
「そうだ、君が木登りに成功した記念のケーキだ。」
「そんなことまでお気遣いいただき、本当にありがとうございます。」
クラリスは腰を深く折り曲げ、丁寧にお辞儀をする。
「気遣いではなく・・・私は。」
彼は少し言葉を詰まらせ、クラリスが顔を上げると、公爵を真っ直ぐ見つめた。
「君を・・・祝いたかったんだ。」
「・・・」
「おめでとう、クラリス。」
特別な響きを持つその言葉には、とても深い思いが込められているようで、クラリスはまるで自分の誕生日を祝われているかのような錯覚を覚えた。
「えへへ。」
嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべるクラリスを見て、公爵は彼女の頭を軽く撫でた。
「さあ、戻ってそれを食べなさい。」
「でも、公爵様は? 一緒に召し上がらないんですか?」
「私はケーキを・・・うん!」
クラリスが無邪気に見上げたことで、公爵は何か心が落ち着かず、少し戸惑いながら話を切り替えた。
「分かった。一切れだけ食べよう。」
「本当ですか?嬉しいです!公爵様が私と一緒にケーキを召し上がるなんて!」
「さっさとしなさい。」
彼は執事に指示を出し、クラリスのために準備を進めさせた。
部屋で三人分の冷たい飲み物を準備してほしいとお願いする。
すると執事が笑顔で答えた。
「それはすでに奥様からのご指示でクラリス様の部屋にお届けしてございます。」
二人は顔を見合わせながら再び居間に戻った。
「ご一緒に来られると思っていました。」
立ち上がった公爵夫人は二人にそれぞれ座るよう勧めた。
この三人が集まることはこれまでにも何度かあったが、今日のようにぎこちない雰囲気は初めてだ。
「さて、とりあえずケーキを切り分けましょうか?」
ブリエルの提案を受け、公爵自らナイフを手に取った。
「公爵様、ケーキは祝われる人が切るものですよ。」
「え?」
公爵は困惑した表情で大きなケーキナイフをクラリスの前に差し出しながら彼女をじっと見た。
「こんなものをあなたに渡すわけにはいきません。刃物ですし危険です。」
「ふむ・・・。」
「公爵様のおっしゃる通りです。お嬢様がこのような大きなナイフを持つことはできません。危険ですから。」
クラリスはマクシミリアンの言葉に一瞬固まった。
しかし、どういうわけか・・・その言葉を聞いたマクシミリアンはナイフの柄をクラリスの前に差し出した。
「持ちなさい。」
「え、はい?」
恐る恐る握ったナイフは想像以上に重い感じがした。
「クラリス、これでケーキをスライスしてみましょう。食材を切る時と同じ感覚でいいですよ。」
ブリエルは手を立ててナイフの刃のように前後に動かし、実際にやり方を示してくれた。
慎重に構えたクラリスは、ついにケーキを切ろうとする。
実際に食器を扱うのが得意なこともあり、自信を持って挑むことができた。
しかし、大きなナイフを扱うことに慣れていないせいか、手元がおぼつかず、いくつかのイチゴを横に落としてしまった。
(ケーキのように柔らかいものは、逆に切るのが難しいかもしれない。)
そう考えながら、困った表情を浮かべていると、すぐ後ろからマクシミリアンがクラリスの近くにやってきた。
「手伝おう。」
彼はクラリスと一緒にナイフを握り、とても器用にナイフ全体を動かしていった。
ケーキはあっという間にいくつかの綺麗なスライスに分けられた。
公爵夫人がそれぞれの皿にケーキのスライスを一つずつ取り分けてくれた。
イチゴがいくつか落ち、クリームが少し崩れたケーキは最初の見た目ほど綺麗ではない。
それでも、クラリスは目の前に置かれたケーキがとても気に入った。
「ケーキを切るのを見るのは初めてです。」
「これからいくらでも機会があるだろう。自分で練習してみなさい。」
「この感覚を忘れないように、しっかり覚えておきましょう」
「またチャンスがあるということですか?」
またこうして皆で集まってケーキを食べる日が来るということなのか?
それとも今日が最後なのか?
「・・・うん。」
マクシミリアンはクラリスの皿の上にイチゴをもう一つ乗せながら答えた。
「お祝いされるようなことは、いつだって起こり得るものだ。」
「はい、私、本当に何事にも一生懸命頑張ります!公爵様からまた祝福していただける日が少しでも多く訪れるように・・・。」
「そうか、さあ食べなさい。」
彼の促しに、ついにクラリスは小さなフォークで大きなケーキを一口で口に入れた。
口いっぱいに広がる甘美な甘さと柔らかさが、彼女の心を満たした。
「ああ、とっても美味しい!」
クラリスは間を置くことなく、急いでまたケーキを口に運んだ。
「ゆっくり食べなさい。」
公爵の注意にもかかわらず、クラリスは目を輝かせたまま、今回はイチゴにクリームをたっぷりつけて、また急いで口に運んだ。
広がる爽やかな酸味が心地よく、彼女は両手で顔を押さえたまま目をぎゅっと閉じる。
口元にクリームがついていることにも気づかずに。
「美味しいなら良かった。」
マクシミリアンはハンカチを取り出し、子どものように彼女の口元をそっと拭ってあげた。
その仕草が驚くほど自然で、自分自身も少し驚いているようだった。
「くすくす。」
その様子を見ていたブリエルが小さく笑う。
その瞬間、クラリスは妙な感覚に包まれた。
公爵夫妻と一緒にいるのはいつも幸せなことだったが、今日はなぜかいつも以上に心が弾み、愛おしさと温かさを感じていた。
(こういうのをなんて言うんだろう?)
ノアは食べ物を分け合う人を「友達」と呼ぶと言っていた。
(公爵夫妻と私が・・・友達?)
いや、似ているけれど少し違う感じがする。
ノアと一緒にいるときは楽しさを共有する感覚があったが、この二人といるときは保護されているという気持ちがより強く感じられるからだ。
(囚人が看守に保護されるのは当然だけれど・・・)
クラリスは本能的にそう思っていたが、実際にはそれが正解ではないことを、彼女自身が誰よりも理解していた。
それなら・・・。
クラリスは不意に浮かんだ一つの言葉を慎重に、心の中でそっと反芻してみた。
(なんだか・・・私たちは家族みたい。)
それも、いつも空想の中で描いていた理想的な家族。
クラリスはわずかに微笑みながら顔を俯けた。
(どうしよう?モチ、助けて。)
クラリスは自分の膝に置いた重たげなナイフを見つめながら、慎重に心の中でつぶやいた。
(こんな感情を抱いてはいけないのに。)
そう思って無理やり忘れようとしたが・・・。
「もっとケーキを食べるのがいいですね。」
「飲み物もさらに用意しますね。」
彼らの親切心に触れたクラリスは、いつの間にか自分が抱えていた孤独感を思い出してしまった。
(どうしよう、ダメなのに・・・本当にダメなのに・・・)
10歳になる初めての日。
クラリスは大きな鞭を贈られた。
・・・もちろん、その鞭が嫌いなわけでは決してなかった。
一年が過ぎた後。
三人は「クラリスが初めて木に登った日」の1周年記念パーティーを開いた。
この日もクラリスは公爵の顔色を伺いながら、「これ、誕生日パーティーではないですよね?」と確認の質問をした。
公爵はただ微笑み、黙って頷いた。
2周年にもパーティーが開かれた。
この時からは、秘密のパーティー集会の新たな会員としてノアが名誉ある招待を受けた。
3周年のパーティーではロザリーが新たに招待され、いつか招待されるのを待っていたクエンティンが突然乱入してきた。
4周年のパーティーは、ハイデン王の第三壁内側の離宮で行われた。
この時はノアが出席できず、代わりに公爵夫妻に同行した目を赤くしたバレンタインが怒りを露わにしてパーティーにやって来た。
「こんな訳もわからないパーティーに招待されるなんて、まったくもって理不尽だ」と言いながらも、彼は贈り物を渡し、ケーキの半分を美味しそうに食べた。
成長期のため常に空腹だという言い訳と共に。
そしていつの間にか、初めて木に登ってから5年が経った。
つまり、クラリス・レノ・グレゼカイアが15歳になったということだ。