こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
今回は72話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
72話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 皇帝との謁見②
「いらっしゃいませ。お二人をお待ちしておりました。」
馬車から降りるとすぐ、約束の時間に合わせて待機していた皇帝の秘書ゴードンが丁寧に挨拶をした。
「ああ、ゴードン。久しぶりだな。」
ドフィンは軽く挨拶を返しながらゴードンの元へ歩み寄った。
エスターもぼんやりしていたが、急いで後を追う。
「陛下は接見室にいらっしゃいます。すぐにお進みください。」
「すぐですか?少しだけ・・・ふう。」
エスターは大きく息を吸い込み、吐き出しながら深呼吸を繰り返した。
緊張をほぐすための自分なりの方法だ。
その仕草が微笑ましくて笑いをこらえきれないドフィンだったが、ゴードンの驚いた目線を見て、表情を引き締める。
ドフィンとエスター、そして一緒に来たベンは、ゴードンの案内で接見室へと進んだ。
皇帝が待っている接見室へと案内されながら向かった。
皇宮が珍しくて仕方ないエスターは周囲を見回しながら歩いていたが、行列から少し後れを取った。
それに気付いたドフィンは立ち止まり、エスターを振り返った。
エスターも驚いて急いで駆け寄り、彼の隣に並んだ。
「すみません。」
「謝る必要はないさ。私の手を握りなさい。」
エスターが後れないようにと、ドフィンはしっかりと手を握る。
前を進みながら、この様子をちらちらと見ていたゴードンは、自分が夢を見ているのではないかと思いながら手の甲をつねった。
「大公様、ずいぶん変わられたようですね。こんな姿は・・・初めて見ます。」
「ええ、とても変わりましたね。もちろん、お嬢様がそばにいらっしゃる時だけですが。」
ベンは混乱しているゴードンの心を汲み取り、宥めるように言葉を添えた。
分かったような表情をしながらも、意味深に微笑んだ。
エスターが自邸に来て以来、ベンが毎日感じていた感情だった。
それをゴードンも同じように感じていることに、なぜか謎の親近感を覚えた。
「お着きです。中にお入りください。」
ゴードンの案内を受け、接見室を守っていた騎士たちが道を開ける。
「ありがとう。」
エスターと手をつないでいたドフィンの手に、少し力が込められた。
「準備はいいか?」
「はい。」
エスダーは大きく頷いた。
案内してくれたゴードンにも丁寧に頭を下げて感謝の意を伝え、ドフィンと一緒に接見室の中へと歩を進めた。
扉一枚隔てただけなのに、空気が一変した。
皇帝に会うという実感が湧くと、エスダーは緊張のあまり息が詰まるようだった。
(どんな人なんだろう。)
神殿にいたとき、皇帝についていろいろ聞いたことがある。
皇室との関係が良くないせいか、ほとんどが悪い話だ。
独裁的で利己的だという皇帝の姿は、エスダーの頭の中で冷酷な顔つきの人物として思い描かれていた。
「おお、ドフィン公! よく来たね。」
しかし、接見室の中で二人を迎える皇帝の声は、耳を疑うほど穏やかだった。
執務中だったのか、袖を軽くまくり上げた姿で歩み寄ってきた。
エスダーはぼんやりと近づいてくる皇帝を見つめていたが、目が合った瞬間、慌てて視線をそらし、顔を下げる。
ところが、怖いという印象とは裏腹に、その表情はあまりにも柔らかくて戸惑うばかりだった。
笑顔には自然と人を惹きつける魅力があったのだ。
ドフィンに初めて会った日のことを思い返すと、完全に対照的だった。
圧倒的な存在感に冷たい雰囲気をまとった彼とは全く違った印象だった。
「お元気でしたか?」
「バタバタしていて、あまり元気とは言えないね。公爵が少し助けてくれれば、もう少し楽になると思うのだが」
自然に冗談を飛ばす皇帝の様子に、ノアが重なって見える。
その飄々とした性格は父親にそっくりで、思わず微笑んでしまった。
ドフィンと会話を交わしていた皇帝は、視線をエスダーに移した。
「こちらが娘さんですか?」
「あ、こんにちは。エスダー・ド・テレシアです。」
エスダーは丁寧に挨拶をする。
控えめながらも真摯なその態度が、皇帝の口元に穏やかな笑みを浮かばせた。
「そうか、会えて嬉しいよ。遠くから来てくれてありがとう。」
皇帝は自然にソファに座るよう勧めた。
三人は席を移動してソファに向き合った。
「それにしても、君には本当に驚かされた。あの冷静なドフィン公が子どもを養子に迎えるとはね。私も少し驚いたよ。」
エスダーは控えめに皇帝の顔を見上げ、その目がノアに似た澄んだ瞳であることに気づいた。
一瞬、エスダーの頭が真っ白になる。
皇帝と目が合ったことに驚き、慌てて視線をそらした。
「そんなに堅くならなくてもいい。」
皇帝は穏やかに微笑みながら言葉を続けた。
「それにしても、こんなに愛らしいお嬢さんとは。ドフィン公が心を奪われた理由がわかる気がするよ。」
「お褒めいただきありがとうございます。」
皇帝の親切で優しい態度に、エスダーの緊張も徐々にほぐれていった。
皇帝はすでにエスダーのことを知っていた。
パーティーの時にあった展覧会の話題から切り出した。
「この子がそんなに絵が上手だって?展覧会の噂があちこちで耳に入ってきたんだよ、公爵。」
「そうですか?私の娘だからというわけではありませんが、少しは目立つのかもしれません。」
ドフィンは皇帝の称賛を感激しながら受け止め、そのおかげでエスダーは中座の間で照れくさそうにしていた。
「次にまた展覧会を開くことがあったら、ぜひ教えてくれ。とても楽しみにしているから」
皇帝が予想外にも興味を示したことで、エスダーはその場から逃げたくなる思いで、控えめに話題に加わった。
「展覧会ではなくても、次にまた皇宮に来る機会があれば、陛下に絵をお贈りします。」
皇室と親しく過ごす必要があるエスダーは、どうしても再び来る理由を作りたかった。
最初に入ったときの緊張は消え、自然に話すエスダーを見て皇帝は笑みを浮かべる。
「そうしてくれるのかい?ふふ、それならその時には私も君に贈り物をしよう。」
「中途半端な贈り物ではダメですからね」
ドフィンは微笑みながら前に置かれた飲み物をエスダーの方へ押しやった。
それを見た皇帝の目がきらりと光る。
「それにしても公爵に娘がいるとは思ってもみなかった。」
皇帝はコーヒーをすすりながら穏やかな表情を浮かべた。
ドフィンは表情を引き締め、彼の次の言葉を待っていた。
「家族が何人もいると聞いているよ。今度一度真剣に話してみるのはどうだろうか。」
「それはどういう意味ですか?まだそのような話をするには早すぎます。」
ドフィンは冷静に顔を整えながら答えた。
「ふふ、もともと幼い頃から決められていたわけではない。息子の中にはもう17歳になる者もいるが・・・そうではないからね」
人懐っこい調子で話していた皇帝の目が少し揺れた。
7歳の時に婚約をしたが解消されたノアのことが思い浮かんだからだ。
(なんの話だろう?)
エスダーは前に置かれた飲み物のグラスをいじりながら、凍りついた表情を浮かべていた。
その様子に気づいたドフィンがさらに断固とした意見を口にした。
「娘が不快に感じているようなので、この話はまた別の機会にしてください。」
「そうだね。この話題は後回しにして・・・深刻な内容なので、少し時間がかかりそうだ」
皇帝は朗らかな笑顔を浮かべながらエスダーを静かに見つめる。
すぐに送り出したものの、心には引っかかり、その間も皇帝は中座する様子を伺いながら手元を離さなかった。
皇帝は手を弄びながら、良い考えが浮かんだように微笑んだ。
「そうだ。我々のレイナと会ってみたらどうかな?最近あまり元気がなくて、誰かと会えば喜ぶと思う。君にお願いしてもいいだろうか?」
エスダーは元々、レイナ皇女に会うべきか迷っていたので、その提案に目を輝かせた。
「そうします!」
エスダーは深々と頭を下げて、全身で肯定の意思を表現した。
一人で送り出すのが気がかりだったドフィンは心配そうな表情を浮かべたが、エスダーは席を立った。
「では、お二人でごゆっくりお話しください。」
「また次回、必ずお会いしましょう。」
「ありがとうございます、陛下。」
エスダーは手をしっかりと組み、皇帝に丁寧にお辞儀をした。
「・・・気をつけなさい。」
「はい、お父さま。」
そうして、ドフィンの心が変わる前にすぐさま謁見室を出た。