こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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82話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 裏工作
「あ。」
相手がバレンタインではないと分かると、クラリスは慌てて謝罪した。
「……すみません。」
「……構いません。さあ、私たちは後でまた話すことにしましょう、ユゼニ。」
エイビントンは軽く肩をすくめ、その場を去った。
クラリスは今、金髪の女性と二人きりになった。
ちらっと見上げると、彼女は感情が読み取れない無表情な顔でクラリスを見下ろしていた。
『すごく美しい人だわ。背も高いし……』
クラリスはひとまず彼女に謝罪の言葉をかけることにした。
彼女とエイビントンが会話をしていたのを邪魔してしまったのは事実だからだ。
「あの……」
何とか言葉を発しようとした瞬間、
「お断りします。」
彼女が先に話した。
「え?」
「あなたの謝罪は受けません。」
「えっ……そ、それでも私は……」
「初対面で訳もなく謝罪するのは、下位者の卑屈な……」
ユゼニは一瞬言葉を止めた。
どうやらクラリスに対してこれ以上きついことを言っていいのか迷っているようだった。
「私は下位者でも卑屈でもありません。」
クラリスは素早く彼女の言葉に返した。
「だからといって、軽々しく謝罪するものでもありません。会話を妨害したのは事実じゃないですか?」
「どっちが妨害したのかと言うなら、エイビントンの方だと思いますけどね。馬鹿な奴。」
その痛快な言葉にクラリスが驚いていると、彼女は軽く肩をすくめた。
「では、これだけ。」
「あ、えっと、私はクラリスと呼んでもらってもいいですか? そちらは?」
「私はユゼニ・マクレドです。」
手短に自己紹介を終えた彼女は、すぐに他の受験生たちの輪に戻っていった。
何人かの受験生が彼女を尊敬の目で見つめている様子が目に入った。
どうやら非常に優れた人物のようだ。
なぜか気後れしたクラリスは、地面に垂れた自分の髪をいじりながら受験生たちの最後尾に加わった。
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朝の運動を終えて戻ってきたユゼニ・マクレドの前に、エイビントン・ベルビルが再び現れた。
「お前、本当に俺を助けないつもりか?」
「断る、愚か者。」
その言葉に一瞬たじろいだが、エイビントンはすぐに彼女の後をずっとついていった。
「ここは金持ちのお嬢様が趣味で過ごす場所じゃないんだぞ! 本当にこのまま放っておく気か?」
ユゼニは彼の話を聞いていないふりをした。
「今朝も見ただろ? あいつが両脇に魔法使いと王子を従えてうろついてるのを。何の考えもなくここに来たって言うんだろ? 首都院で俺たちが貴族たちのご機嫌取りでもしろって言うのか?」
「仮にそうだとしても、私には関係のないことよ。」
「どうして関係ないんだ? 首都院の雰囲気が悪化して全体の成績が下がるんだぞ!」
「エイビントン・ベルビル。」
「お前、本当に協力しないつもりなのか? 本当にこのまま見ているだけでいいのかよ! 毎回満点ばかり取るからって、他の人の成績には関心もないってことか?」
正直、関心はなかった。
ユゼニは、こう答えるとエイビントンがさらに面倒くさくなると思い、ただ別の言葉を口にした。
「……最初からどうして私の協力が必要なの?」
彼の要求は一つだった。
次の試験でユゼニの答えを共有してほしいということ。
「お前、もう悪くない成績を出しているだろう。」
「確実にしておけば怖がることはない。どうせあの女は科目ごとに先生を呼んで勉強したに決まってるんだから。」
「だからといって、時間配分の感覚も掴めていない初試験で良い成績を出すのが難しいという点はお前もわかっているはず……。」
ユゼニの説明が続いたが、エイビントンは最後まで聞いていなかった。
「とにかく試験場で俺に答えを教えてくれ! それだけで全部解決するんだってば!」
「……。」
「お前、奨学金を受けたいと言ったじゃないか? 金がなければ。」
「突然その話がなんで出てくるんだ?」
「お前、俺が王妃の前で自分の価値を証明できる資格を持つ唯一の受験生だって知ってるだろう?」
王妃の信頼。
それはこれまでエイビントンが「受験生代表」の地位で権力を得るための武器となっていた。
宮廷では未来の人材を育成するため、首都院の優れた誠実な受験生を選抜し奨学金を支給してきた。
この選抜過程で最初に考慮されるのは成績であり、その次は教師と受験生代表の意見だった。
ただし、受験生たちの生活に深く関わらない教師たちは個人の人格などを十分には知らないため、エイビントンの意見に影響力があった。
「お前が毎回満点を取っているからといって、必ず奨学金を得られるとは限らない。王妃殿下が重要視しているのはまさに人格だ。」
ユゼニから見れば、特にそうは思えなかったが……。
王妃がエイビントンに対して持つ信頼は揺るがないようだった。
ただ彼が今、ユゼニに協力してほしいとしきりに言っているものの、普段はまるで存在を気に留めないような素振りだったのだ。
そもそも彼がなぜこれほどまでにユゼニに執着するのかは分からない。
しかし考えてみると、彼と親しい受験生がいてくれるのが都合良かったのかもしれない。
受験生代表の地位を維持するために、教師たちにはへりくだり、正規の受験生たちにはひたすらご機嫌を取るように振る舞っていたのだ。
実際、たまに受験生たちがユゼニに「君が代表をやったほうが良いのではないか」と言うこともあったくらいだ。
とはいえ、彼の評価が実際に奨学金に影響を与えることは否定できなかった。
「このままだと、君が非協調的で利己的な人間だと見なさざるを得ない。そうなると、君は奨学金を受け取れなくなる。その後どうなるか、考えたことはあるか?」
ここを出て行かなければならなくなる。
そしてどういうわけかユゼニは農場の労働者として働かされるために、意地悪な継母の家に戻らなければならない。
早朝から夜までただ労働だけの日々が待っている。
勉強する余裕など、許されるはずもない。
ここに来た時も、ほぼ夜明けに逃げるようにして避難してきたようなものだったのだから。
受験勉強に必要な資金は、亡き父が残した物品や家族の保護具を売り払ってどうにか工面していた。
しかし今や奨学金が確定しなければ、ここでの日々を続けるのはさすがに難しくなりそうだった。
「……エイビントン。」
ユゼニの絶望的な未来を見据える彼は、勝利者のように微笑んだ。
カチン。
彼らのそばで、褐色の短剣が音を立てた。
もちろん、それがそれほど重要なことではないが。
・
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時間が過ぎて月末評価の日。
エイビントン・ベルビルは、意気揚々とした表情で席に座り、試験が始まるのを待っていた。
彼のすぐ前にはユゼニ・マクレドが座っていた。
「ユゼニ。」
静かに名前を呼ぶと、彼女は険しい表情で振り返った。
「試験、頑張れよ。わかったな?」
意味ありげな口調で激励の言葉を送ると、彼女はゆっくりとうなずいた。
依然として彼女は消極的な様子だったが、その要求を断ることができないことは明らかだった。
教師たちにエイビントンの脅迫を告発することも、彼女にはできないだろう。
彼は受験生代表として教師たちの信頼を一身に受けているが、最初に彼が脅迫をしたという証拠や証人はなかったのではないか。
エイビントンは歯を見せて微笑みながら、視線を別の方向に移した。
対角線の方向に座っているクラリスは、整理ノートをめくりながら見ていた。
おそらく、何としてもエイビントンをこの場に留めるために彼女を利用しようとする様子だった。
「仕方ない……。」
高貴なお嬢様はおそらく、彼に利用されたと感じることさえ知らないだろう。
間もなく、試験の開始を告げる鐘の音が鳴り響き、厚い試験用紙を持った担当教師が入室した。
「試験を始めます。ノートや本、あらゆる紙類をカバンの中にしまってください。試験紙以外の紙を所持していることが発覚した場合、その内容にかかわらず、不正行為として厳しく処罰され、修道院から退場していただきます。」
毎月耳にするおなじみの注意事項に従い、試験が始まった。
受験生たちは迅速に自分の周辺を整理する。
月末評価で余計な誤解を受けて修道院から追い出されたくない人はいないだろう。
試験が始まった。
静かな試験時間がほぼ半分過ぎたころ、エイビントンはそっと頭を上げて小さな紙片を手に取った。
彼の動きに気づかれることはなかった。
そっとユジェニに渡そうとしている様子が見えた。
ユジェニがそれに気づいて対応するかどうかは定かではなかった。
『まだなのか。』
彼女の手は絶え間なく動き、問題を解き続けていた。
エイビントンは再び自分の試験用紙に視線を戻したが、それでもしばらくすると再びユジェニーに目をやった。
彼女が書き終えた合図を送る方法として、三度頭をかくという動作を決めていた。
その瞬間を逃すわけにはいかなかった。
彼の予測は外れず、しばらく後、ユジェニーは不自然な動きで頭を三度かきむしった。
エイビントンは待っていたかのように手を挙げた。
「先生!」
監督を呼んだ試験官が振り返ると、彼は意気揚々とした表情で言った。
「ユジェニーが変な紙を持っています。確認していただけますか。不正行為ではないかと思うのですが。」
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