こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

94話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 贈る花⑤
実はノアは、最初の質問の時からかなり悩んでいた。
お互いに関心のなかったタラントゥラたちを、長い年月をかけて交渉し、なんとか同盟を成立させた経験を考えれば、人間の求愛など簡単に適当に済ませられると思っていた。
しかし……
「クラリスのどこが特に美しいか」という質問には、息が詰まる思いだった。
彼は、クラリスが特別にどこかが美しくて、どこかが劣るという視点で見たことはなかった。
いくつもの要素が集まって、一つのクラリスを形作っているのに、それを分解して特定の部分だけを際立たせることができるのだろうか?
「まあ、多すぎて選べないってことですね。そうですよね?」
夫人がそう問いかけると、ノアはどう答えていいのか分からずにいた。
すると、不意にクラリスが膝の上で手のひらをぎゅっと握りしめるのが見えた。
ノアが適切な答えを見つけられず、動揺しているのではないかと、彼女が気を揉んでいるのは明らかだった。
『また手が冷たくなったんだろうな……』
彼は緊張したクラリスの冷たい手にそっと自分の手を重ねた。
幼い頃、何度か魔法で温めてやったことがあった。
クラリスの手に、彼は光を感じていたから。
それはノアが初めて自分の素顔をクラリスに晒した時のことだった。
臆病になりそうな自分の顔を、クラリスは少しもためらわずに受け入れてくれた。
その瞬間、彼の唇を優しく包んだ小さな手のひらを……彼は決して忘れることができなかった。
初めて他人に完全に受け入れられた瞬間だったから。
彼の僅かな表情すら愛されることはないと信じていた自分にとって、それは特別な記憶だった。
ノアは侯爵夫人の問いに、思いのほか真剣に答えを見つけられた気がして、少し嬉しくなった。
「手のひらです。」
彼は即座にそう答えた。
戸惑いながらもクラリスを見つめたが、彼女はなぜかひどく動揺しているように見えた。
そして、次の質問が続いた。
クラリスを好きになったきっかけ。
単純な答えではなく、考えを要する問題だ。
ノアは出題者の意図を理解しようと努めながら、それらしい話を思い浮かべてみることにした。
『少しの感動と、わずかなノスタルジーが含まれる話なら、侯爵夫人を満足させられるかもしれない。』
そんなものが何かあっただろうか。
考え込んでいた彼は、ふとクラリスの横顔に目を奪われた。
額から鼻へと続く柔らかな曲線をたどった視線は、いつの間にかかすかに震える薄紅色の唇に固定されていた。
なぜか目を離せずにいる自分に気づいた頃、クラリスもまた、彼を見つめ返していた。
『……あ。』
彼は心の中で小さく声を漏らした。
再び心臓が妙な動きをする。
無意識のうちに強く握りしめた手に力が入るのを感じた。
そもそもいつから、自分はこんなふうにクラリスに対しておかしな反応をするようになったのだろうか?
彼の記憶は時間を遡り、ある特定の瞬間にたどり着いた。
クラリスが初めて魔法使いの城にやってきたとき、彼は遠くから偶然、灰色のローブをまとった魔法使いが彼女に強く興味を示している様子を目撃した。
なんとなく足早に近づいた彼だったが、その直後、クラリスがその魔法使いに向かって見事な蹴りを繰り出そうとしているのを悟った。
ノアは反射的に、考える間もなくクラリスの体を魔法で引き寄せた。
突然浮き上がったクラリスは驚いて少し動揺しながら、戸惑ったように宙でじたばたした。
もしかして怖がっているのか?
ノアは迷わず片腕を伸ばし、クラリスの腰をしっかりと抱き寄せた。
すべては彼の魔法によるものであり、危険はないと伝えるために。
しかし、腕の上にすとんと落ちてきたクラリスの体重は、彼の予想よりもずっと軽かった。
(このくらいの年齢なら、もう少ししっかりしていてもいいはずなのに……。)
気になって、彼は心配しながら振り返った。
風に舞う淡いピンクの髪をかき分けながら、まっすぐに目を開くクラリスと視線がばちりと合った。
その瞬間、本来あるべき場所にあるはずの心臓が、まるで足元の床に落ちてしまったような感覚に陥った。
今思い返せば、あの時からだったのだろう。
彼に薬草が必要になったのは。
『……なぜ突然、自分の健康状態を気にし始めているんだ? 医者に診てもらいに来たわけでもないのに。』
意図しない方向へ流れてしまった思考が、なんとも歯がゆかった。
ともかく、貴婦人の質問にこれ以上時間をかけるわけにはいかないので、適当に今浮かんだ考えをまとめて答えてみることにした。
「少女は……。」
彼の話が始まると、なぜかクラリスも緊張していたのか、大きく唾を飲み込むのが見えた。
その仕草がなぜか可愛く思えて、ノアは思わず微笑んでしまった。
「危険な蹴りを繰り出しました。」
「やってない……!」
思わず声を張り上げたクラリスだったが、すぐに口をギュッと結んだ。
実際には、蹴りは繰り出されることすらなかった。
ノアが途中で止めたのだから。
しかし、その出来事が結果的にノアの健康を害することになった以上、彼女の蹴りは確かに彼にとって印象的だったとも言える。
「体も熱心に鍛えているようですね、クラリス。」
幸いにも侯爵夫人は軽く手を叩いてくれた。
どうやら、ノアの答えもそこまで悪くはなかったらしい。
「……あ、はい。」
再び夫人を振り返ったクラリスの声は、わずかに震えていた。
「わ、私は健康を大切にしているんです。子供の頃からずっと、継続的に体を鍛えていて……。」
「素晴らしいことです。最近はこういう点に魅力を感じる人も増えているとか。本当に感心します。教えてくれてありがとう、ノア君。」
「いえ……。」
ノアは襟元をいじりながら答えた。
侯爵夫人は次にバレンタインを見つめた。
ノアも同じように彼を見た。
彼がどんなことを言うのか気になっていた。
バレンタインはノアよりも貴族の生活様式に詳しい分、侯爵夫人の心に響く話をするかもしれない。
『……ということは、夫人はバレンタインとクラリスが釣り合うと考えているのか?』
なるほど。
そんな考えが浮かぶと、妙に気分が悪くなった。
なんとなく不安で、少し腹立たしいような気もする。
『やっぱり、そういうことか。』
唯一の友人であるクラリスを奪われたくない、そんな気持ちなのかもしれない。
そう簡単には消えない幼稚な執着心だった。
十年以上生きてきたのに、彼はこの幼稚な感情を簡単に振り払うことができなかった。
『恥ずかしいことだ。』
小さく息を吐いたとき、ついにバレンタインの答えが返ってきた。
「うーん……ちょっとした馬車事故です。」
そう話す彼の表情はなぜか曖昧だった。
「まあ、事故に遭ったとき、クラリス嬢が助けてくれたんですね?」
「え……ええ、まあ、そんな感じです。」
バレンタインは口ごもりながら答えた。
一方、ノアは彼の口の動きだけで『こいつ、嘘をついてるな。』と確信した。
それは一体どういうことなのか。
ノアは再びクラリスを見つめた。
『彼を馬車で轢いたのか?』と目で問いかけると、クラリスは青ざめた表情になっていた。
しかし、よく考えてみると、クラリスが馬車を運転するわけがなく、それで王子であるバレンタインを容赦なく轢くはずもなかった。
もし本当にそうだったならば、法律的にかなりの問題になっていたはずであり、新聞にも大々的に記事が載っていただろう。
グレジェカイアの昔の王女が王位継承争いで第二王子を馬車で轢き、殺そうとしたという話もある。
「どうやら、クラリス嬢の周りではいろいろな事件がよく起こるようですね。」
興味深そうに笑う夫人に対し、クラリスはすぐに「違います!」と強く否定した。
しかし、ノアとバレンタインが同時に熱心に頷きながら彼女を称賛したため、夫人はついに声を上げて笑ってしまった。








