あなたの主治医はもう辞めます!

あなたの主治医はもう辞めます!【157話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「あなたの主治医はもう辞めます!」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【あなたの主治医はもう辞めます!】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「あなたの主治医はもう辞めます!」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

157話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 幼いころ

「エルアン?」

私が執務室のドアをノックして、そっと顔をのぞかせると、書類に没頭していたエルアンがぱっと笑顔になり、声を上げた。

「リチェ!」

「おやつを持ってきましたよ。一緒に食べながらどうぞ。」

長期研究プロジェクトを無事に終えた私は、久しぶりにとても長い休暇をもらい、公爵城で家族と過ごす日々を送っていた。

私が持ってきた巨大なチョコレートケーキを見て、エルアンは一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、すぐにぱっと笑った。

「ケーキだね?」

「はい!チョコレートも砂糖もたっぷり入れました。体には良くないかもしれませんけど……でも、甘ければ甘いほど美味しいでしょう?」

もちろん台所の皆は、私に料理の才能はないと言った。

料理はただ甘ければいいというものではないと、何度も強調された。

甘ければ甘いほど好きだという私の味覚は、偏っているし適度に甘くなければならないとも言われたけれど……それでもエルアンは、私が作ったものは全部美味しそうに食べてくれた。

ただ私が作ったから無理して食べているのだと言うには、他の人には一口も分けなかった。

だから、私たちの味覚は似ているのかもしれないと思いたかった。

「セドリアンとユリアも一緒に作ったんですよ。かなり疲れたのか、作り終えた途端に食べもしないでそのまま昼寝すると言って寝てしまいました。」

不思議なことに、セドリアンとユリアは私が何かを作るときは楽しそうに一緒にいてくれるのに、いざ食べるときになると、そっと席を外すことが多かった。

まぁ、あえて二人きりで過ごさせようという深い配慮だったのだろう。

特にセドリアンは幼い年齢にもかかわらず、本当に大人びていたから。

すぐにでも立ち上がって駆け寄ってくると思っていたエルアンは、誘惑するようにただにやりと笑みを浮かべるだけだった。

ほんのひとときティータイムを楽しむなら、テーブルに向かい合って座るべきなのに。

お茶を持ってきていないから、侍女に持ってこさせなければならないし……。

けれど彼は、甘い言葉を囁く代わりに、疲れたように軽く目を閉じた。

私はふと疑わしく思い、結局彼のそばへと歩み寄った。

「エルアン、どこか具合が悪いのですか?」

エルアンは答えることなくただ目を細めただけで、私はもしかして本当に体調が悪いのではと気になり、机の上にケーキを置いてから、そっと彼の頬に手を当てた。

私が近づいた瞬間、エルアンは私の腰を抱き上げ、そのまま膝の上に座らせた。

「えっ!」

あっという間に書斎の椅子に座る彼にまるで子どものように抱かれてしまった私は、少し目をしばたたきながら尋ねた。

「な、何をしているんですか?」

するとエルアンは率直に答えた。

「わがまま。」

近くで見た彼の体は、どこも悪いところがなく、むしろ驚くほど健康そのものだった。

私のそばに寄り添っているときの彼の顔は、いつになく生き生きとして血色も良かった。

「ティータイムをするなら離れて座らないといけないだろう。でも僕はこうしていたいんだ。」

もっとも、こんな姿を侍女に見せるわけにはいかなかった。

いくら私たちが仲睦まじいのをセレイアス公爵城の誰もが知っているとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだから。

私は小さく息を吐き、彼の体に身を寄せた。

その体は思った以上に引き締まっていて、とても逞しかった。

「じゃあ、仕方ないですね。」

「ありがとう、リチェ。」

エルアンは私の頬や首、肩などに熱い口づけを落としながら、低くつぶやいた。

「ケーキ……僕も一緒に作れたら良かったのに。」

家族との時間を何よりも大切に考えるエルアンにとって、一緒にケーキ作りに参加できなかったことは、とても悲しいことだった。

「でも、予算案が少し急で……」

けれどもエルアンは非常に優秀な参謀であり、それはつまり仕事が山ほどあるということでもあった。

私は彼の力強い腕の中に抱かれ、降り注ぐ口づけを受けながら、切なげに答えた。

「もちろん仕事が優先です。普段だってちゃんと一緒に過ごしているんですから……」

「お母さまが少しでも手伝ってくださればいいのに、書類の一文字さえ見ようとされないんですから。」

「良心があるなら、お母さまに助けを求めるわけにはいきませんよ。」

「……それもそうだね。」

エルアンが公爵位を継いでから、お母さまは本格的な社交と享楽の日々を送っていた。

それまで几帳面に領地を管理していた姿とはまるで別人のようだ。

私が幼かった頃、公爵城に日替わりで使者たちが出入りしていたことを思うと、なおさら信じがたい変化だった。

「そんなに働くのがお嫌いだったのなら、私が公爵位を継いだ後も仕事をされていたのはなぜかしら……。」

――私を必ず嫁に迎え入れなければならない、とエルアンをフェレルマン邸に送り出し、またエルアンが病で意識を失っていたときにも、母上はずっと公爵家の仕事を代わりに取り仕切ってくださった。

だが、エルアンが回復するとすぐに、母上は完全な引退を宣言された。

数日前、ティタインで私が「急に仕事を放り出してしまってよろしいのですか?」と尋ねたとき、母上は宝石のカタログをめくりながら、あっさりと答えられた。

「私が働くためにセレイオス公爵と結婚したと思う?あの美しい顔をじっくり眺めて、この莫大な財産を湯水のように使おうと思っただけよ。」

「……は?」

「この程度の図々しさがなければ、あの頑固な公爵が私にこの座を譲ることなど決してなかったでしょうね。」

「お父さまを……愛していらしたんですよね?」

「もちろん愛していたわ。その人がこの世を去ったあとも、この美貌とこの魅力で一人の男性にもなびかなかったのを見ればわかるでしょう?でも、その人を愛していたからといって、その人の背景まですべて好きになる理由はないじゃない?」

「まぁ……確かに、かなり独立心の強い方ではありましたけど……。」

「そうよ。良い人間が良いものを持っていれば、それに越したことはないのよ。」

――言われてみれば確かに一理あると思い、私は思わず口をつぐむしかなかった。

どんな言い方をされても、お母さまがお父さまを心から愛していたことだけは間違いなかったのだ。

私が初めて母上をお見かけしたときも、すでにかなり高貴で美しい方だったが、それ以上に管理を徹底されていたので、今もなお驚くほどの美貌を保っていらした。

その美しさに加えてその才覚であれば、多くの男性が言い寄ったはずなのに、どの男性とも噂になったことはなかった。

息子であるエルアンが幼いころ長く領地に下っていたため、心置きなく他の男性と出会うこともできた環境だったのに、結局一切なかったというのだ。

エルアンの話によると、母上の机の書棚には常に父上の小さな肖像画が置かれていたともいう。

私は思わず胸が詰まった。

父が母を亡くし私を探して大陸を駆け回ったように、母上もまた父を失ったあと、領地をしっかり治めるために並々ならぬ努力をなさったのだ。

大切な愛を失っても、なお残されたものを守るために――。

二人が人生をかけて尽くしてくれたおかげで、私たちはこうして生きていけるのだろう……。

私がひとり胸を熱くして感動していると、お母さまは目をぱちりと開けて言い放った。

「だからあなたも公爵家の仕事を引き受けようなんて思わないことね。あれは骨折り損よ。全部エルアンに任せなさい。最初から関わらないのが一番よ。」

「ええ、まぁ……今のところそうしていますけど……。」

「うちの息子だけど、顔はいいんだから、それでも眺めてお金でも使って暮らしなさいよ。それって最高の立場じゃない?」

とにかく母上はそのようにして公爵家の仕事から完全に手を引かれた。

私も研究で忙しく、公爵家の仕事を手伝うことはほとんどできなかったので、エルアンは一人ですべてをこなさなければならなかった。

さらには、通常なら公爵夫人が担うような雑務まで、エルアンがすべて引き受けていた。

「仕事が多いですよね?私が少しでも助けになれたらいいのに……」

「君は存在そのものが助けなんだ。こうして時々会いに来てくれるだけで、すべての疲れが溶けていく気がする。」

エルアンは私をぎゅっと抱き寄せ、私の首筋に深く口づけをした。

押し寄せる熱に息が詰まり、思わず体が震えたけれど、私は懸命に気を保ちながら会話を続けた。

「私が研究室に行くとき、あなたは必ず帰り道にまで迎えに来てくれるでしょう。疲れているはずなのに……。」

「何を言ってるんだ。お前の顔を見るだけで疲れなんて吹き飛ぶんだよ。少しでも一緒にいたいから迎えに行ってるのに、それがどうして疲れるんだ。」

「でも、それは……理論的に言えばエネルギーを使ってるわけですから、疲れてることには違いないでしょう。」

「そうか。」

エルアンは淡々と答えながらも、にっこり笑って私の目をまっすぐ見つめた。

「だったら次の研究テーマにしてみたらどうだ?なぜエルアン・セレイアスはリチェに関することなら、エネルギーを使っても逆に疲れが取れるのか。」

「な、何を……。」

「俺は生体実験だって歓迎するぞ。お前が直接やるならな。」

彼が整った顔を上げてにっこり笑った瞬間、それまで必死に抑えていた理性が少しずつ解けて、心がふわりと揺らぐような気がした。

そうだ、母上のお言葉は正しかった。

いずれにせよ、セレイオスの血筋は見事で、この美しい顔を見られるだけでも、公爵夫人の座は十分に価値あるものだった。

「僕はこうしているだけでも疲れが取れるんだ……」

エルアンは私の腰を優しく撫でながら、微笑を浮かべた。

「研究してみない?」

ゆっくりと彼の唇が近づいてくる。

抗えないことをわかっていながらも、私は不満げに小さくつぶやいた。

「……今こうしようとして研究を口実にしたんですか?」

「違う。」

エルアンは柔らかく息を混ぜながら、私の唇に触れて囁いた。

「今だなんて、とんでもない。最初からずっと、そうしたくて仕方なかった。」

まあ、誰もいない執務室に入った時点で、エルアンが私を大人しくさせておくつもりなんてないことくらい、わかっていた。

分かっていても彼の思うままにされてしまったのだから、今さらじたばたする理由もなかった。もちろん拒む気持ちもなかった。

私は彼の膝の上に座ったまま、静かに目を閉じてその想いを受け入れた。

私が作ったチョコレートケーキよりも、はるかに甘美な口づけだった。

私にとっては、いつだって与えてくれるのはエルアンだったけれど――

こんな状況では、私が抵抗しても結局は抱きしめられるように包まれてしまうので、ついには涙がにじむほど切なくなってしまった。

しばらくして、エルアンは満足そうに微笑んでおり、私はすっかり疲れ果てて彼のたくましい体に身を預けていた。

「とても疲れた?」

「……はい。」

手を動かすことさえできず、息を整えていると、ふと視線の先に机の上に置かれた彼の予算案が目に入った。

きちんとした筆跡でまとめられた書類には、「保育院案」――と記されていた。

「支援金」が割り当てられていた。

他の領地に比べても驚くほど大きな金額だった。

私は黙ってその予算案を見つめた。

保育院の名簿には、かつて私が過ごした〈ジェハ保育院〉の名もあった。

改めて、自分がセレイアス領地にある保育院の出身であることを実感した。

去年の秋にも挨拶をしに直接訪れたが、その建物がまるで新築のように輝いていたのを覚えている。

私の視線の先に気づいたのか、エルアンが静かに問いかけてきた。

「保育院での生活はどうだった?大変だったか?」

「いいえ。」

私は冷静に答えた。

それは事実だった。

「実は、母上は資金横領とかそういうことにとても厳しかったんです。当時、支援金を着服して子どもたちを虐待していた近隣の保育院の院長を大きく処罰なさった事件がありました。それで、セレイオス領内の保育院はそうした不正とは無縁になったんです。」

母上の統治は苛烈ではあったが、効果は確かだった。

中間管理者たちが何度か犠牲になることもあったが、その分、領民たちの暮らしはとても良くなったのだ。

もちろん副作用もあった。

セレイオス領の保育院がとても優れているという噂を聞きつけて、他の領地からも親たちが子どもを連れてきてセレイオスの保育院に預けてしまうようになったのである。

子を置いていくときに、せめてのつぐないのように立派な寄付をしていったため、教師たちは戸惑いつつも苦笑していたのを覚えている。

子どもの数が増えるにつれて、当然ながら資金は常に不足しており、だからこそ支援は必要不可欠だったのだ。

「欠けることなく、学べないこともなく、私はそれなりにちゃんと暮らせていました。うちの院長先生は、他のことはともかく“食べるものだけはしっかり食べさせなきゃいけない”という方でしたから。ただ、やっぱり保育院ですから、贅沢に育ったわけではありませんけどね。」

久しぶりに思い返す幼い頃の記憶。

保育院でのことは父にすらあまり話さなかった。

ただ聞かせたところで、余計に心を痛めさせるだけだと思ったからだ。

私は少し苦笑しながら続けた。

「だから甘いデザートなんて、本当に特別な日にしか食べられませんでした。院長先生は“成長期の子どもにはそんなものより肉と主食と牛乳の方が大事だ”とおっしゃっていましたしね。確かにその通りです。」

「……」

「だから、セレイオス公爵邸に来たとき、甘いものをたくさん食べられて、本当に嬉しかったんです。」

何気なく言葉を続けながらエルアンの顔を見つめると、その表情が妙に曇っていた。

少し悲しげな目でチョコレートケーキを見つめているようにも思えた。

「……えっと……こういう話、お嫌いですか?ちょっと暗い気分になりますよね?」

私が恐る恐る尋ねると、彼は首を振りながら私をさらに強く抱き寄せた。

「いや、違うんだ。ただ……」

彼はわずかに表情を歪めながら、言葉を続けた。

「君の幼い頃について、思っていた以上に知らなかったんだなと実感したよ。」

「まあ、十一歳からは公爵城で過ごしましたし、その頃にはもう子どもではありませんでした。保育院で過ごした時期なんて、たいした長さでもありませんから。」

「……」

「まさか同情なさってるんじゃないでしょうね?私は私なりにちゃんと幸せに過ごしましたよ。」

それでもエルアンの表情が沈んでしまわないように、私は軽く肩をすくめて笑いながら言葉を続けた。

「例えば“両親の日”だって、誰にも渡せない手紙なんか書いて泣いたりはしませんでした。私が知っている医学書を一日中読みふけっていたくらいです。」

帝国では“両親の日”になると、普通の子どもたちはの両親に感謝の手紙を書いて花と共に届けることにした。

そして、保育院の友達が次々と引き取られていく中で送ることのできなかった手紙を綴っていた頃、私はただの一文字も書かなかった。

「リチェ。」

しばらく沈黙していたエルアンが、やわらかく私を抱きしめ、低く言った。

「一日中、みんなが知っている医学書を読みふけっていたこと……もしかしたら、手紙を書くよりもずっと悲しいことだったんじゃないかな?」

そうかもしれない。

私は疲れ切って、すっと瞼を閉じた。

やがて眠気が押し寄せ、うつらうつらと夢の中へ落ちていった。

エルアンがそっと私を抱き上げ、ソファに横たえてくれる間、私は遠い昔に見た夢を見ていた。

長いこと思い出すことさえしなかった夢を――。

保育院時代の夢だった。

 



 

 

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