こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

110話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 偉大な願い
夢を見ていたようだった。
青い草原が広がっていて、緑の髪の女性二人が互いに抱き合って喜んでいた。
「生まれ変わったあなたの運命には、もう炎のような苦しみも、歩くのもつらい茨の道もないわ。私の娘よ。」
その光景を見た瞬間、なぜか私は涙がこぼれて、両手で顔を覆った。
“ありがとう。ありがとう、アリエル。”
リタの声が耳元に優しく響いた。
彼女たちを見ていた私の背に、何本かの手が触れるのが感じられた。
トントン、トントントン、トントントン、トントントン。
そのあたたかい感触に、私は再び深い無意識の中へと沈んでいった。
目が覚めると、体がとても軽かった。
「聖女様!」
「ああ、デイジー……私、どれくらい寝てたの?」
「6時間です。」
窓の外には太陽が空高く昇っていた。
外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
私は目を細めながら伸びをした。
「バルコニーに出てみてください!人々が聖女様を呼んでいます!」
デイジーの言葉に、私は目をこすりながら起き上がった。
「偽りの神ベラトリクス様の信徒たちです。」
デイジーの言葉を聞いた瞬間、私は足を止めた。
レイドの信徒たちに襲われたあの出来事が思い出されたのだ。
ベラトリクスの神格はほとんど消滅し、神の性質も変化していた。
もしかするとベラトリクスの信徒たちも私に対して悪感情を持っているかもしれない。
一瞬、胸がドキドキと高鳴った。
しかし逃げはしないという思いで勇気を出し、バルコニーの外へ出た。
「聖女様だ!」
「聖女様!」
「おお!聖女様!」
「運命の神の加護を!」
「八柱の神の加護を!」
最も位の低い神だっただけに、信徒の数は多くなかった。
しかし彼らは皆、神殿に立ち尽くして私を熱烈に歓迎していた。
「偽りの神殿の名札がすべて〈運命の神殿〉に一晩で変わる奇跡が起きたんですよ。」
後ろからデイジーの声が聞こえた。
「それに、神力を持つすべての神官たちが神の言葉を聞いたんです。私も……ほんの少しだけですが聞こえました。本当に、こんなことは初めてです。」
感動したような彼女の声が少し震えていた。
「この奇跡について大神官様がこれまでの出来事と共に、聖女様の功績を知らせてくださいました。皆が聖女様を称えています!」
私を歓呼する人々の声に胸が少し震えた。
「聖女様は運命の神を救われました!」
「聖女様は偉大です!」
「聖女様!ありがとうございます!」
私は手を振って彼らに応え、彼らは激しく歓声を上げた。
そして私はそっと振り返り、バルコニーから出て扉を閉じた。
「レイドの信徒たちはほぼ新たな神殿に登録を終え、偽りの神の信徒たちも今や運命の神の信徒となった……徐々に白聖徒たちも——民心も安定するはずです。すべては聖女様の力ですよ。」
感嘆するデイジーを後にして、私は安堵のため息をついた。
「すべてがうまく解決して本当によかった。」
少しして気になることを尋ねた。
「そういえば、ロイド侯爵は?」
聖騎士たちに連れられて、今頃どこかで眠っているだろうと思いながら尋ねた。
目を覚ましたら元のアリエルに戻っているだろうか?
「それが……その……」
デイジーは言葉を濁した。
私が顔を上げると、デイジーは困ったように口を開いた。
「目を覚ますやいなや、すぐに神殿に行かれたそうです。」
その言葉に、なぜか体の力が抜けた。
「ここに来なかった?私の部屋に。」
デイジーは私の目線を見ながら頭をかいた。
「うーん……」
昨夜キスをして彼と交わした会話が、耳元に鮮やかに蘇った。
『好きです、聖女様。』
心臓が破裂しそうなほど高鳴ったその瞬間、そして私が彼の想いに応えようとするより早く、突然レイハスから信号が響いた。
しかし言葉にしなくても、きっと気持ちは伝わっていたと思う。
重ねた唇を通して、そして笑顔で熱を帯びた呼吸を通して言った。
『でも……ただ行ってしまったって?』
「とても疲れていて、自宅に戻って休みたかったのかもしれません。」
デイジーはあわててアリエルをかばいながら、私の様子をうかがった。
「そう……。そういうこともあるわね。とても疲れていただろうし。急ぎの用事があったのかもしれないし。」
私はできる限り平静を装って答えた。
「聖女様……。」
けれど、胸は妙な不安感でドキドキしていた。
こんな大きなことがあったのに、一度も顔を見せずに神殿を出てしまったなんて……いくつもの複雑な思いが私の中を巡っていた。
はあ…… この災いがまたカミーラというあの魔族のせいで起きたということか。」
「今は鎮められました。聖女様と……ロイド侯爵の功績が大きかったのです。」
皇宮の皇帝の接見室。
カイルの言葉に皇帝はわずかに関心を示した。
「昨夜の落雷によって首都の多くの建物が被害を受けた。民心をなだめるために、おまえが直接現地に赴いて鎮静させよ。」
「承知しました、陛下。」
カイルは険しい顔でその場から立ち上がった。
もう少し時間を無駄にしていたら被害はもっと大きくなっていただろうが、それでもすぐにすべてが収拾された。
「殿下。カッシュ・ロイド侯爵と聖女様の熱愛の噂が広がっています。このままだと本当に面倒なことになるかもしれません!」
セインの言葉が耳に入ったのだろうか。
なぜか運命に呼ばれるかのように、足が自然と神殿へと向かっていた。
胸は不安で高鳴り、拳には自然と力が入った。
『ただのスキャンダルだと信じようか。』
そして神殿にたどり着いたとき、すべてが始まった――。
驚いたアリエルに思わずとんでもないことを言ってしまった。
まばたきする間に神殿の前だった。
なぜこのような状況になったのかは、後でレイハスから聞いた。
カイルはアリエルの行動方式がまったく気に入らなかった。
しかしずっと気になっていた。
カミーラに勇敢に向かっていくその姿は無謀で止めたくなる一方で、彼の胸を熱くさせた。
こんな女性を今まで見たことがあっただろうか。
すべてが終わってやっと安堵のため息をつき、涙交じりの微笑みを浮かべるその姿は、彼自身を穏やかな気持ちにさせた。
『手を差し伸べないつもりなら、せめて期待はしてくれ、アリエル。』
なぜこんな気持ちになるのか、今やその理由をもう一度はっきりと認識していた。
「カイル。」
振り返るカイルを皇帝が呼び止めた。
そして、小さな首飾りを取り出してカイルに差し出した。
それを見たカイルの目が揺れた。
「お前が幼い頃、お前の母が、お前の目の色を見てこの首飾りとそっくりだと言っていた。」
母が大切にしていた首飾りだった。
ある日突然持ち出して姿を消したが、それきり行方が分からなかったのだ。
「これは……どこで見つけられたのですか?」
首飾りを受け取ったカイルに、皇帝が答えた。
「聖女が見つけてくれた。神が助けてくださったそうだ。」
その言葉に、首飾りを握る手に力が入った。
「聖女が……ですか。」
ベッドの上に横たわり、物思いにふけりながら窓の外を見つめていた母の姿が浮かんだ。
「民心が安定したら、死の神殿に供物を捧げなさい。」
母が愛していた品。
格式ばった古い首飾りだが……それを自分を愛してくれた皇太后からもらったという点で、他のどんな宝物よりも惜しかった。
「わかりました。」
「カイル。」
皇帝の声が聞こえた。
「もうお前に結婚を強要するつもりはない。」
「………」
父子の間に、長い沈黙が流れた。
「強引だからといって、人の心を得られるわけではないのだ。」
カイルは小さな首飾りをポケットにしまった。
皇帝の声が聞こえてきた。
「だが応援しよう。父として。」
その言葉にカイルの手が止まった。
カイルは皇帝を見つめた。
「私がお前を見守ってきた年月がどれだけだと思う?今さらお前の心を知らないはずがない。いくらお前が不器用で頑固でも、気にも留めていない相手と結婚しろとは言わないさ。」
カイルの口元に苦笑が浮かんだ。
「そうですか。バレてましたか。」
皇帝もつられて寂しげな微笑みを浮かべ、喉を鳴らした。
「これからは皇宮で厳しい人生を心配してあれこれ詮索せず、連れて来るのなら、お前の母よりも幸せにしてやる覚悟を持って迎えなさい。」
少し考え込んだカイルは、うなずいた。
「分かりました、父上。」
日が過ぎた。
私は我慢できずカッシュに何度か手紙を送ったが、返ってきた返事はこのような内容だった。
<仕事が片付いたら神殿に伺います。>
だからその仕事がいつ整理されるのか分からないってことだ。
『嫌われたのかな。キスが下手だったから。』
あらゆる思考が頭の中を駆け巡っては消えていった。
『それとも、神が憑依していた影響で体に後遺症でも残ったのかな?それとも、一緒に過ごした時間の記憶を失ったのか……。あるいはまだ、神の残滓が……。』
死にかけていたカッシュの姿を思い出しながら、私は苦悩した。
「聖女様。いちごのムースを持ってきました。甘いアップルティーもありますよ。」
最近気分がずっと沈んでいる私のために、デイジーは最善を尽くして私に付き添ってくれた。
「そうだ、『リタ様』のネックレスは先日おっしゃった通り、ドレイブ教授にお渡ししました。ご覧になって涙を浮かべられたそうです。」
彼女の報告にうなずいた私は、小さくため息をついた。
「よかった。でも今日はどうしてこんなに天気が曇っているんだろう?」
「え?今日は日差しがずいぶんきついですよ?」
「そう?私だけ曇って見えるのかな。」
私はなんとなくぼんやり見える空を見上げて、再び小さくため息をついた。
すべてが終わったとはいえ、カッシュのことを思うと心が複雑だった。
「そうだ、聖女様。リーの婚約の話、聞きましたか?」
私はスプーンを止めた。
「デイジー、噂を私に伝えてくれるのは君だけだって知ってるよ。」
私の言葉にクスクス笑っていたデイジーが、興味深そうな表情で口を開いた。
「婚約されるそうです。それで婚約パーティーの招待状をあちこちに送っている最中みたいですよ。」
その言葉に、突然胸がドキンと鳴った。
最近連絡がないカッシュと、なぜか頭の中でつながってしまうのはなぜだろう。
「婚約って……誰と?」
私は平然を装ってデイジーに尋ねたが、声の調子が少し震えていた。
「ダグラス伯爵家だそうです。年の差は10歳くらいあるそうですが、家門の借金のせいで嫁いだという話もあるそうですよ。」
リーの恋愛事情は詳しくはわからなかったが、私は思わずため息をついた。
「はぁ、そうなんだ。」
そんなはずはないと思っていたけれど、もしかしてカッシュがもう自分のことを忘れてしまったのではないかという不安があったのかもしれない。
突然恋人からの連絡が途絶えて、別の女性と結婚するなんて、あまりに典型的なクリシェではないか。
『もう……時間が経ったのね。』
しばらくして、私は部屋の扉を閉め、デイジーも入ってこないようにした後、まっすぐに座った。
葬儀の後、自動的に収集されると言っていたが、どうやらすでに時間が来たようで、厳かに光り始めていた。
『願いは……やっぱりそれがいいわ。』
名前が「偉大な願い」であるだけに、それなりの願いが込められていることは予想していた。
瞬きをする速度がさらに速くなり、ついには花火のように爆発的な効果が現れ、ミッションウィンドウが表示された。
【最終ミッション報酬が自動で支給されます。】
これまでの苦労に対する報酬を受け取る時が来たのだ。
「……!」
突然、目の前が暗くなり、どこか別の空間に移動するような感覚に襲われた。
そして意識がはっきりしてきた場所は、すでに二度も訪れた場所だった。
私の署名がウッドフレームとスチールフレームに豪華に飾られているのが見えた。
「おめでとう!すべてのミッションを達成したんだね!」
「おめでとう、アリエル!世界を救ったんだね!」
レンとバンが拍手をしながら私を迎えた。
「カミーラの消滅と共に予言は完全に破棄されたよ。」
「アリエルがここまでやり遂げるなんて、本当にすごいよ。」
私は少し気まずい顔で、レンとバンに神聖力を集めて差し出した。
神の絶対的な教信装置であり、無形の形態だったそれは、カミーラによって神託が妨害されたとき、私がレンとバンに交渉して手に入れたものだった。
「返すね。」
私の手をそっと握ったレンは、絶対的な教信の力を再び回収していった。
「ふう、これなしでしばらく耐えるのは大変だったよ。」
「私を苦労させたことに対する当然の報酬だと思ってる。」
クスッと笑った私は腕を組み替えて頬杖をついた。
「でも、まだあげるものがあるんじゃない?」
レンと目を合わせたまま、私は手を差し出した。
『偉大な願い。』
二人とも、私が何を言おうとしているのか分かっているはずだ。
「君たちに言ってもいいのかな?私の願いって……?」
私はこの二日間、願いについて悩み続けていた。
『千万フランくらい欲しいと言えば、大富豪になれるかも?それとも、せっかくカッシュとの関係をうまく築けたから、それを活かしてみようか。現代に戻りたいとは思わなかった。ここの暮らしに私は満足していたのだから。』
少し考えた私は再び口を開いた。
かなり真剣に悩んだ末の結論だった。
「これからもずっと神々と一緒にいたい。」
私がこの新しい世界に適応できたのは、ひとえに神々のおかげだった。
ときにはおっちょこちょいで慌てさせられるけれど、家族のようにそばにいてくれるその温かさが心地よかった。
彼らのぬくもりの中で、私はずっと生きていきたいと思った。
一度カミーラによって神殿で神託を使えなくなったとき、神々がみんな去ってしまったように感じたその瞬間……私が感じた喪失感は、自分でも驚くほど大きかった。
「最初は好きじゃなかったみたい。」
「そんな時もあったけど、でも今は神々がいないとダメだ。」
今この瞬間も神々の執着ぶりを見ればわかる。
私の隣で微笑んでいるバンとレンは、しばらく私を見つめていて顔を赤らめた。
「神々は幸せだね。アリエルが好きでいてくれるから。」
レンはぼんやりと独り言のように呟いた。
一息ついて軽く咳払いをしたあと、口を開いた。
「アリエル、ごめん。産痛から目覚めさせてしまって……。」
そしてそのあとの言葉に、私は驚かざるを得なかった。
「偉大な願いってのは、君の願いのことじゃないんだ。」
「え?」
私は目をぱちくりさせた。
ちょっと待って、『偉大な願い』ってミッションの報酬は私のためのものじゃなかったの?
「じゃあ……まさか?」
バンがにっこりと笑いながら言った。
「それは『偉大なる存在たち』である神々のためのものだったんだよ。」
その言葉に、バリバリッという音とともに、私の頭の上に稲妻が落ちるような衝撃が走った。
「なに?なになになに?」
つまり、『偉大な願い』は『私の偉大な願い』じゃなくて『偉大な存在たちの願い』だったってこと?
驚いて振り返った私は、あまりの衝撃に言葉を失った。
「太初の存在が、これまで人間たちのために存在してきた神々に与える褒賞だといえるだろう。」
私は衝撃を受けたまま体を震わせた。
「じゃあ……信託の人数を満たすことって、神々のためだったの?」
レンとバンは微笑みながら手を差し出した。
「じゃああのミッションウィンドウはどういうこと?あたかも私に報酬が与えられるかのように表示されたじゃない!」
「でも心配しないで、アリエル。神々は決して君を見捨てるつもりなんてないから。君のことを……神託室はいつもいっぱいだろうね。」
その言葉に、私は震える目でレンとバンを見つめた。
「そう。君が願った願いは、すでに叶っているんだ。退屈な“神の生(神生)”の中で、唯一の楽しみが生まれた……。君が金をまいても出られないよ。」
バンは、レンの言葉が正しいとばかりに頷いた。
「ああ……。」
自分の願いではないという点は少し寂しかったが、願いをする必要がないという事実に、少し心が軽くなったような気もした。
そのとき、金色のメッセージウィンドウが現れた。
【すべての神々が願いについての悩みを終えました。】
そしてその瞬間、目の前の会話ウィンドウにメッセージが浮かび上がった。
私はそのメッセージに気を取られないわけにはいかなかった。









