こんにちは、ちゃむです。
「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

34話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- グリーンウッド領②
ノクターンはセリーナが窓から消えるや否や、険しい表情を浮かべた。
彼の視線は葦の間の岩場へと動く。
そこにはさっきまでノクターンに絡んでいた三兄弟が縛られていた。
セリーナがいた窓からは見えない死角の場所だった。
彼らの周りにパチパチと火が燃える匂いが漂った。
実際に火の中に閉じ込められているようだった。
彼らの顔は火薬の煙に巻かれたように真っ青で震えていた。
ノクターンは、彼女が来る前にこいつらを片付けようと手を動かした。
すると、彼らを縛っていた縄が消えた。
「子供じみた悪ふざけは、いい加減に終わらせたらどうです? まだそんなに未熟だから競争に負けるんですよ。」
「くっ……このクズめ。」
「クズに捕まっていた方たちが言うことではないですね。」
「姑息にイーズリングを使うとは!イーズリングさえなければ、お前なんか……!」
「イーズリングのあるなしに関係なく、兄さんたちは僕の相手にはなりませんよ。」
ノクターンはあきれたように片方の口角を上げる。
そして手でどこかを隠すようにしながら言った。
「もうお帰りください。3分以内に消えなければ、お気に入りの高級服をすべて焼いてしまうかもしれませんよ。」
ノクターンの笑顔の中には、どこか冷ややかさがあった。
冗談にしては、ノクターンが手で隠した方向には火花が走った。
道はだんだん狭くなっていた。
ノクターンはもぞもぞしている三兄弟に向かって笑みを浮かべながら警告した。
「さっさと行かないと、結局火傷することになりますよ。」
「お、おい、このクソ野郎!お前、それでも騎士か……待て、おい!」
兄弟のうち一人がノクターンに向かって突進し、残りの二人も慌てて走り始めた。
「どけ!俺が先に行くんだ!」
「おい!押すな!」
残った一人の兄弟が呆れた顔で二人を見て、歯ぎしりした。
ノクターンは余裕の笑みを浮かべて眉を上げた。
「やっぱり確定ですね。臆病者です。」
「くそっ!」
罵声を吐きながらそのまま道に沿って逃げ始めた。
三兄弟はお互い先に逃げようとバタバタ走り出した。
ノクターンは彼らを物足りなさそうに見送った。
彼らが完全に姿を消し、今は炭のにおいだけが残っているのがむなしかった。
「遅くなりませんでした?」
いつの間にかセリーナがノクターンがいた場所に到着し、にっこりと笑っていた。
「はい。本当にぴったり5分かかりましたね。」
ノクターンはまるで何事もなかったかのように穏やかに微笑んだ。
セリーナがあわてて笑いながら聞いた。
「どこに行くんですか?」
「湖の裏手にある森の道が散歩するにはとても良いんです。夕暮れになるとさらに美しくなりますよ。」
「いいですね。でもノクターンさん、もしかして何か焼いていました?」
セリーナが鼻をすんすん鳴らしながら聞くと、ノクターンは何もなかったように答えた。
「たぶん、ここが厨房の近くだから、料理のときの匂いがここまで流れてきたんでしょう。」
「…ああ。」
セリーナがむずがゆそうにカーテンの端をいじりながら、ノクターンの白い手袋を見つめた。
手袋は消し忘れた灰が残っていた。
『やっぱり面白いね。』
たぶんさっきあの兄弟たちをこらしめたんだろう。
残念だ。
復讐の場面を直接見られるチャンスを逃してしまった。
ノクターンが視線をそらし、気まずそうに笑った。
「やっぱりバレましたね。」
「私、火のにおいには敏感なんですよ。」
「そうですか?」
ノクターンは冗談を聞き流すように微笑んだ。
するとセリーナが肩をすくめながら尋ねた。
「じゃあ今回は縛らずに済んだんですか?」
「まあ、大体ね。似たような感じで片付けたよ。」
「さすが、ちゃんとやってますね。」
セリーナがくすくす笑いながら、凍りついた案内係のような様子で笑いをこらえた。
ノクターンが恋人に接するように彼女に手を差し出した。
「今、エスコートしてくれるってことですか?」
「まあ、そんなようなものです。」
「ちょっと気恥ずかしいですが、案内される立場に文句は言いませんよ。」
セリーナはそっと彼の腕に手を添えた。
すでにレオナルドから何度もエスコートされた経験があったため、気まずさはなかった。
ノクターンは彼女が自然に手を添えると、ちょうど良い速度で歩き出し、セリーナを森の道へと案内した。
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次の日、セリーナは朝の診察のためアジェイドの寝室に向かった。
入口で待機していたグリーンウッド家の侍女が、挨拶するふりをして立ちはだかった。
「お入りいただけません。」
「どうして?」
「陛下はオフィーリアお嬢様と朝食中でいらっしゃいます。」
侍女の胸には侍女長の身分を示すバッジが付いていた。
セリーナは彼女をじろじろ見ながら尋ねた。
「今ですか?」
まだ朝食には早い時間だったので、オフィーリアはせっかちだなと思った。
ならアジェイドは嫌がるはずだが……。
侍女長は硬い表情で答えた。
「はい。ご用件は何でしょうか?急ぎでなければ後ほどお越しください。」
やわらかな口調ではあったが、お願いではなく命令だった。
正式な呼称を使わなかったところを見ると、セリーナをただの侍女だと思っているようだ。
カジュアルな服を着ていたため、そう思われたのかもしれない。
それでも胸元には皇宮のバッジが見えているはずなのに、少しぞんざいだった。
セリーナはさりげなくバイオレットのイヤリングがよく見えるように胸元に手を置きながら言った。
「ご挨拶が遅れました。私は陛下の主治医、セリーナ・ヴィンセントと申します。」
侍女長の視線がバイオレットのイヤリングに釘付けになった。
目をそらしたくなったが、侍女長はむしろさらに戸を閉めながら言った。
「承知しております、セリーナ様。」
…知ってたの?
セリーナは、彼女がわざと門番のようにドアを塞いでいることを知っていても、驚きはしなかった。
それでも冷静に対応しなければならなかった。
「ご存知でしたか。それなら私の訪問が業務の一環であることもおわかりですね。」
セリーナが一歩前に出ると、侍女長が腕で彼女を阻んだ。
「後ほどお越しください。お嬢様が入室されてからまだ間もありません。」
侍女長は、まるで自分の主君の貴重な時間を邪魔しに来た悪党を見るような目つきだった。
実際、セリーナはすでにこの城に来た時から、使用人たちが自分に敵意を抱いていることを感じていた。
微妙な視線が何度もセリーナを突き刺していた。
首都でオフィーリアが巻き込まれた出来事を聞いて、共感しているようだった。
まるで一つの勢力のように。
『情けの一つもかけない家柄なのね。』
セリーナは心の中で大きくため息をついた。
だが、ここで引き下がる彼女ではなかった。
もし今日このまま引き下がったなら、ここで過ごす2週間の間、アジェイドのそばにいるのは難しくなるという直感がビシッと走った。
「どいてください。」
セリーナは静かな声で命じた。
懇願して中に入れてもらおうとするのはやめた。
「私が誰かご存じなら、私が陛下からバイオレットのイヤリングを受け取ったこともご存じのはずでしょう。」
「……はい。」
侍女長はセリーナの気迫に押され、しぶしぶ答えた。
「私はいつでも陛下と二人きりでお話しできます。城内にグリーンウッドの令嬢がいると聞きましたが。」
「……」
「このままずっと塞いでいるおつもりですか?」
「失礼いたしました。」
侍女長は歯を食いしばって唇をかみしめるようにして、しぶしぶその場をどいた。
怒りで顔が引きつっているのを、なんとか隠そうとしているようだった。
セリーナはそんな侍女長を一瞥もしないで冷静に言った。
「陛下、セリーナです。」
しばらくして、部屋の中から「入れ」との許可が下りた。
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アジェイドは朝から豪勢な朝食の膳を持って訪ねてきたオフィーリアを無表情に見つめていた。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「最近、陛下が時々食事を抜いていると聞きましたので。」
オフィーリアは明るく笑いながらお茶を注ぎつつ言葉を続けた。
「今日は私が朝食をお持ちしようと思って早く起きたんです。」
アジェイドは鋭い目でオフィーリアを見つめた。
それでやっとセリーナが朝の診察のあと、無理に食べたことによる変化だと気づいた。
セリーナでなければ、絶対に朝食を楽しむようなことはなかったはずなのに、オフィーリアはその空気をまるで読めていないようだ。
アジェイドはセリーナが来る前まで横になっていたが、診察を受けて少し不機嫌そうだった。
しかしここはあのグリーンウッド領、オフィーリアに対して不満を言うことはできなかった。
アジェイドは牛肉がたっぷり入ったシチューをかき混ぜながら言った。
「朝食にはちょっと重たい料理だな。」
「グリーンウッドだけにある栄養食です。体力回復にとても良いので、残さず召し上がってください。」
「そうか。でも朝から食べるには少し重いな。パンと牛乳くらいでも十分なんだけど。」
アジェイドは朝は消化があまりよくないため、肉料理は避けていた。
セリーナはそんなアジェイドの食習慣を知っていて、朝食には簡単なメニューを用意してきた。
消化に良いリンゴやヨーグルト、温かい牛乳やパンのようなものだ。









