こんにちは、ちゃむです。
「継母だけど娘が可愛すぎる」を紹介させていただきます。
今回は339話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
339話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 2年後②
試着室に一人残されると、静けさが穏やかに広がった。
私は鏡の前に近づいていった。
2年ぶりに見慣れた顔が映る。
しばらく鏡を見つめ、口を開いた。
「ベリテ。」
その名前を口にしただけで、涙が滲みそうになるのを感じた。
何度も呼んでみたが、答えは返ってこない。
私が見たいと思う顔たちは、どこにも映らなかった。
セイブリアン、ブランシュ、ベリテ、そして数多くの人々。
彼らを想って泣きながら眠った夜が2年続いていた。
狂ったように宮殿に飛び込んでみようかとも思った。
黒い魔法を使って皆を眠らせれば、私を止められる者などいないだろう。
でも、もしも・・・。
そうしてセイブリアンと対面したとき、彼が私を認識できなかったらどうする?
この疲れ果てた顔を見て驚き、私を拒絶したらどうする?
その考えに目を閉じた。
それだけは耐えられなかった。
戻るとしても、私はアビゲイルの姿を取り戻さなければならない。
今すぐにでもできる方法があるかもしれないが・・・。
私はため息をつき、本棚から封筒を一つ取り出す。
送り主の名前は書かれていなかった。
それでも何度も読み返した、最も大切にしている手紙を開いた。
「アビゲイル。前回の手紙に返事がなかったため、再度お送りします。いつか気が変わったら、どうか返事をください。迎えに行きます。レイヴン」
私の居場所がわかってから、レイヴンは頻繁に手紙を送ってくるようになった。
最初はその手紙に胸が高鳴り、涙がこぼれることもあった。
彼を探しに行き、助けを借りて宿命を受け入れた後、宮殿へ逃げ込もうかと何度も考えた。
しかし、レイヴンがそんなに軽率な人間であるはずがない。
また、たとえ嘘であっても、彼に愛しているとは言いたくなかった。
それから手紙が来なくなり、かなりの時間が経過した。
私を諦めたのだろうか・・・。
いや、もうこれ以上レイヴンのことを考えるのはやめよう。
自分の実力を伸ばせば、一時的にでもこの宿命を打ち破る方法が見つかるかもしれない。
深呼吸をして、手紙を再び封筒にしまった。
今は仕事に集中するべきだ。
私は店に戻り、目の前の作業に取り掛かった。
すべき仕事を終わらせなければならない。
それは避けられないことだ。
今回の作業を進めるには少し布が足りなかった。
今日は予約の顧客もいないので、ちょっと市場に行く必要があった。
外出の準備をして店を出ようとしたとき、隣の店の扉が開いた。
「まあ、リリー。どこへ行くの?」
靴屋を経営する優しい老婦人が話しかけてきた。
私は笑顔で答えた。
「こんにちは、奥様。ちょっと布を買いに市場へ行くところです。」
「そう、それなら天気もいいし、散歩がてら行くのもいいわね。そういえば、前にあげたパイはどうだった?口に合ったかしら?」
「ええ、とても美味しくいただきました。」
「美味しかった?それ、うちの娘が送ってくれたチェリーで作ったのよ。少し前に娘が・・・」
彼女は、靴屋を手伝いながらいちごが大好きな娘の自慢話を始める。
私にも誇れる子供がいるようだが、誰にも話せないのだった。
話すこともできなかった。
話題を続けていた老婦人が手を叩きながら言った。
「そうだ、この間いい革がうちの店に入ったのよ。次に靴を注文するときは来てちょうだい。安くしてあげるわ。リリー、あなたがこの服を作ってくれたじゃない。」
彼女は自分が着ているスカートをつまんで見せた。
質の良い黒の無地の布で作られたシンプルなデザインだが、上品な雰囲気があった。
「このスカート、本当に素敵ね。色も高級感があるわ。」
「あなたのお好きな色で作りましたから、喜んでいただけてうれしいです。」
「そう、私は黒が好きだったわよね?」
「いえ、ただの黒ではありませんからね。」
私は少し冗談めかした声で静かに笑いながら、心の中の痛みを抑え込んだ。
「私の好きな色はセーブルの色です。ただの黒ではありませんよ。」
「ああ、そうだったわね。いつも忘れてしまうのよ。」
靴屋の老婦人は軽やかに笑い流した。
私も彼女の笑いに合わせて微笑んだ。
それ以上何も話さず、老婦人はこう言った。
「それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。またお茶でも飲みに来てね。」
「はい、行ってきます。」
私は靴屋の老婦人に見送られながら街へ向かった。
歩きながら胸の奥にじわじわとした痛みを感じた。
さっき口からこぼれた「セーブル」という名前が、あまりにも愛おしく、そして切なかった。
私は人に会うたびに話していた。
私がこの世で一番愛しているのはセーブルだと。
それを口にしないと生きていけない気がしていた。
「愛している」と、「愛している」と。
彼のことを思うたびに、その言葉を繰り返したくなる。
鏡を見るたびに、自分の疲れた顔を見つめながらセーブルを思い出した。
黒い髪を見つめるときも、セーブルを思い浮かべた。
絵を見るときも、夜が来るたびに、私は彼の名前を呼び、彼を想った。
恋しかった。
私の一日は、ただあなたを恋しく思う時間でしかなかった。
目を閉じれば闇しかなく、私の世界はすべてあなたで埋め尽くされていた。
明るい道を歩いていても、私の心にはあなたの絵が描かれている。
セーブルのことを考えないようにと思いつつ、結局その名前が頭を離れないまま歩を進めていた。
そんな中、街に到着した。
必要な物だけを買ってすぐ戻ろうと思っていたのに、広場に立つ掲示板が目に入った。
そこにはまだ私の肖像画が掲げられていた。
それが名残で残されているのか、それともまだ私を諦めていないのかは分からなかった。
その絵を見上げていると、いろいろな感情が湧き上がってきた。
もう本当に別人になってしまった気がする。かつての自分の顔だったのに。
ぼんやりと立ち尽くしていると、走ってきた子どもがぶつかってきた。
結った髪をした女性が慌てて子どもを叱った。
「すみません、リリーお姉さん。」
「大丈夫よ。でも転ばないように気をつけてね。」
「はい!ありがとうございます!」
子どもは白い歯を見せながら駆け去っていった。
膝までのズボンを履いた姿だった。
私が出発した頃、ブランシュもあのくらいの年齢だったな。
2年が経った今、彼はどれくらい成長しただろうか。
今年の建国祭で、街での行進が見られたらいいのに。
遠くからでもその姿を見てみたい。
そのためにも、仕事を早く終わらせなければ。
その日は必ず手が空くようにしておかなければならない。
必要な物だけを素早く買い、店に戻ろうとしたとき、店の前に誰かが立っていた。
今日は予約の顧客はいないはずだけど、誰だろう?
新しい客?後ろ姿しか見えなかった。
背が高く、黒髪の男性だった。
その髪はどことなくセーブルに似ていた。
彼はしばらくの間、じっと動かずに立っていた。
そのとき隣の店の扉が開いた。
靴屋の主人が何か気になる様子で外に出て、じっとその様子をうかがっていた。
その姿を見て、私の胸に不安がよぎった。
「少しお尋ねしたいのですが。」
その声を聞いた瞬間、世界の色が変わるように感じた。
「はい、どういったご用件でしょうか?」
彼は靴屋の主人がいる方向に向かって体を傾け、日差しの下でその横顔がはっきりと見えた。
「この村に腕の良い仕立て屋がいると聞いたのですが。」
これが夢ならば覚めないでほしい。永遠にこの夢に閉じ込められたい。
それはあまりにも恋しかった声だった。
この2年間、一度も忘れることができなかった声。
毎晩泣きながら思い続けた人。
私が最も愛する色、セイブリアンがそこに立っていた。