こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
今回は76話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
76話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 一つの疑惑
中央神殿の修練室。
ラビエンヌは毎日同じ時間にここで次代の聖女のための授業を受けていた。
その授業が終わる時間になると、どこからともなくカイル司祭が緊張した面持ちで修練室の前に姿を現した。
しばらくして扉が開き、ラビエンヌが何人かの大司祭とともに外に出てきた。
彼女の顔には明るい笑顔が浮かんでいた。
「ラビエンヌ様!」
カイルは今がチャンスだとばかりに凍りつくほどのラビエンヌの威厳に向かって声をかけた。
カイルが名前を呼ぶと、瞬間、ラビエンヌの表情が強張った。
まさかこんなにも堂々と名前を知っているかのように振る舞うとは、彼女も予想していなかったのだ。
堂々とした態度で呼ばれる声に、周囲の視線が彼女に集中したが、それでもラビエンヌは微笑みを崩さず、カイルを振り返った。
「カイル神官様。どうされましたか?」
ラビエンヌがあえて親しげな態度を取ると、カイルはさらに意気込んで近づいてきた。
「以前、私に何か頼まれたことがありませんでしたか?」
「頼み・・・?」
その問いにラビエンヌは一瞬困惑したような微笑を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「ああ、覚えていますよ。少しお待ちください。」
一緒にいた大司祭たちは、好奇心で目を輝かせながらカイルを見つめていた。
状況が大きくなりそうで、ラビエンヌはその場をうまく収めるよう配慮する。
「私が古代文字の解読をお願いした件ですね。少しお話を伺ってから行くべきかと思います。」
「そうですか。それでは明日の授業の時にお会いしましょう。」
「はい、大司祭様。」
ラビエンヌは微笑を浮かべながらも、心の中では少し苛立ちを覚えた。
わざわざカイルに頼む必要があったのだろうかという思いが頭をよぎった。
「では、私たちは静かな場所に移動してお話ししましょうか?」
「ええ、ぜひお願いします。」
周囲に多くの人がいる状況では、話を聞かれるリスクがあると判断したラビエンヌは、落ち着いた場所を提案した。
カイルは嬉しそうな顔をしながら、ラビエンヌの後について行く。
人の視線が届かない場所に移動すると、ラビエンヌは振り返り、少し鋭い声で尋ねた。
「私を探しに来たというのは、何かを突き止めたからでしょうか?」
「まず、大公が正式に神殿で養子にした子供はいないことを確認しました。私は一生懸命調査しました。」
それを伝えに来たカイルの言葉に、ラビエンヌはほっと息をついた。
「やはりそうなのですね。誤った噂だったようです。」
「ええ。そして、これについて私が偶然知ったことですが・・・」
カイルが周囲を見回して息を整えると、ラビエンヌの目が驚きに輝いた。
「どうやら大公が神殿から直接連れ出した子供が一人いるようですね。」
しかし、それは既にラビエンヌが知っている内容だった。
「ダイナのことですか?」
「おや、ご存じだったのですか?」
驚いて動揺するかと思われたラビエンヌが冷静に答える様子を見て、逆にカイルが驚きの声を上げた。
「彼女は聖女候補生でした。私と一緒に授業も受けていました。」
「ああ、友達だったんですね。」
ラビエンヌが頷くと、カイルはようやく理解したように頷き返した。
「ダイナという名前で間違いありません。大公が神殿から子供を連れ出したなんて、不思議ではありませんか?」
「私にもその点は理解できません。」
最初に神殿を出たとき、ダイナと出会ったときの衝撃を思い返し、ラビエンヌはそのときを思い出してかすかに肩を震わせた。
「とにかく、それ以外には考えられないということですね?」
「その通りです。ダイナというその子と大公が養子にした子供が関係しているとは考えにくいですが・・・。私が少し調べてみましょうか?」
カイルは自然と次の行動を心に決めた。
それはラビエンヌとのさらなる接点を持つ口実を作るためでもあった。
「いえ、これで十分です。ただ、気になっていただけです。」
そう答えたラビエンヌは、簡潔にカイルを見送りの言葉を述べた。
彼は近づかれることを好まないタイプの人間だ。
「では、またいつでも助けが必要なときはお尋ねください。」
「ありがとうございます、神官様。」
生真面目に笑みを浮かべたまま背を向けたラビエンヌの表情が、途端に冷たいものに変わった。
(能無しのようね。)
これで話が終わったことに安堵していた。
機会を与えられただけで、ただ揺さぶりたいだけの態度が見えていた。
「それにしても、あいつのことでこんなに気を使うとは思わなかったわ。」
「ダイナ」という名前がまた浮かび上がり、それが心に妙に引っかかった。
苛立たしげに唇を噛んでいたラビエンヌは、ふと突然動きを止めた。
「待てよ・・・あの子も灰色の髪じゃなかったか?」
存在感がほとんど残っておらず、ただのぼんやりとした印象しかなかった子だ。
外観に特に目を引くものはなかったが、最後に挨拶を交わした瞬間が急に脳裏に蘇る。
ラビエンヌはすぐに足早に訓練室へ向かった。
机の上に積み重なっていた書類を慌ただしくめくり始めた。
その中で探していた資料を見つけ、手に取った。
書類には10人ほどの候補生の名前が記されていた。
セスピア聖女の指示で、灰色の髪を持つ子供たちだけをリストアップし記録していたリストだった。
「いるはずがない。」
ダイナが出て行った後に作成されたリストだったため、彼女の名前が含まれているはずがなかった。
ラビエンヌはその紙を握り締めながら、記憶をさらに掘り起こしていった。
ぼんやりとした記憶の中で、ダイナが灰色の髪をしていたことを確信した。
「嫌な予感だ。」
どうしても嫌な気持ちを拭えず、そのまま見過ごすことはできなかった。
「大公領に人を送らなければならない。」
そう決めたラビエンヌは机に座り、実家に送る手紙を書き始めた。