こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
161話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 誰も傷つけない結末を目指して⑤
その後、アセラスは自分が舞踏会場で何をしたのか思い出せなかった。
すべてが混乱していた。
限界に達した精神は、これ以上内なる苦しみに耐えられなかった。
ただ絶えず声が聞こえてくるだけ。
《殺さなければ。》
《ダリア・ぺステローズを殺さなければならない。》
手に入らない力なら、他の誰も手に入れられないようにするのが正しい。
彼はダリアの赦しを信じられなかった。
彼は知っている。
自分がブルーポート公爵を殺すべきだったことを。
その瞬間から、すべてが取り返しのつかない状態になってしまった。
彼女の考えが愚かだった。
安易な赦しを与えた後、彼がすべての武器を手から放し、自ら死を受け入れるのを待つなどというのは。
『そんな計画に、俺が引っかかると思ったのか?』
アセラスは笑みを浮かべる。
では、次にどうすればいいのだろう?
それは彼自身にも分からなかった。
ダリア・ぺステローズも殺し、セドリック・ベレスセロやミゲリオ2世も殺さなければならない。
皇帝も、皇后も、ヒーカン・ぺステローズも、アドリサ・ベニテロも……。
こうして、すべての者を……。
すべてを殺してしまい……。
すべてを殺し尽くして……。
《その次は?》
虚無だけが残る。
空っぽの体を抱え、繰り返される過去に沈んでいった……。
存在するはずのない記憶が……彼を苦しめた。
正気を取り戻してみると、彼は会談室に座っていた。
まだ相手側は立場を明らかにしていなかった。
『ルウェイン・ブルーぽーとが交渉代表としてこの場に来るはずだったのに。』
ルウェインは奇妙な男だった。
彼はまるで未来を読んでいるかのように、いつも彼の先を行く。
アセラスは彼に問いただしたかった。
もし未来を知っているのなら、自分はこれからどうなるのか、と。
答えが返ってくるはずがないと分かっていても。
「聖下、どこかお加減が悪いのですか?ご気分が優れないようにお見受けします。」
灰色の髪をした青年が彼の隣で心配そうに見つめていた。
アセラスはその時、ようやくその青年の名前を思い出した。
「ユリ。」
「はい、陛下。」
「聖国に戻るべきかな?」
少しの間があった後、彼は自分が何を口にしたのかをようやく自覚した。
彼は隣を振り返る。
「ユリ」と呼ばれた灰色の髪の青年は、かなり驚いた表情で彼を見つめていた。
「そ、それは、何をおっしゃるのですか、陛下?」
「……すまない。つい不用意なことを口にしてしまった。」
「私たちはただ、陛下のお言葉に従ってここまで参りました。でも、そのようなお言葉をいただくと……現在、ゲダの部隊はフレデリク帝国の皇宮のどこかで戦っています……。」
アセラスに理性が徐々に戻ってきた。
そうだ。
すべてはすでに収拾がつかなくなっていた。
ブルーポート公爵のシャンパンに神聖力を注いだ時点で、すべてが終わりを迎えていた。
アセラスの瞳は暗い緑色に変わっていた。
「なるほど。私は間違ったことを言ったようだ。」
「いいえ、陛下。大変混乱されているようですね。」
アセラスは喉を鳴らした。
しばらくして、彼は再び口を開いた。
「……ブルーポート前公爵は死んだのか?」
「いいえ。」
すぐに返答があった。
アセラスはユリを振り返った。彼は非常に苦々しい表情をしていた。
「警備兵を数名負傷させただけで済みました。魔力で神聖力を防ぐ方法を知っていたようです。攻撃を受けても逃げ延びるつもりだったのでしょう。半分ほど捕まりかけましたが。」
「……そうか。」
「おかげでアーゲルもまだ死んでいません。」
ユリはわずかに顔をほころばせた。
アセラスは妙な安堵感を覚えた。
理由は分からなかったが。
『まるでダリア・ペステローズを愛しているかのようだな。』
アセラスは小さく笑みを浮かべた。
愛——今になって愛がどんな意味を持つというのか?
漠然と蘇る記憶の中で、彼はただ虚しく思った。
誰かを愛したことがある気がする。
しかし、改めて考えれば、それは愛ではなく単なる幼稚な欲望に過ぎない。
アセラスは、愛の本質とはそんな軽薄なものだと信じていた。
「聖下、私は別にやることがあります。急ぎでなければ、行かせていただけますか?」
アセラスはユリを見つめた。
以前であれば、こんな状況で自分のそばを離れるなどあり得ないと思っていただろう。
しかし、アセラスは揺るぎないかのように見えたものの、内心では崩れかけていた。
忠誠心は失われ、その場に残っていたのはただの空虚さだった。
それでも、彼は喉を鳴らして答えた。
「そうだな。ケルシオンとアーゲルをしっかりと片付けたいんだろう。行け。」
ユリは微笑んだ。
アセラスは彼を長く見送ることはしなかった。
ユリはすぐにその場を去った。
今や会議室に残ったのは自分だけだった。
背後には彼を守る神徒たちが控えていたが、誰も彼に声をかける者はいなかった。
アセラスはただルウェインが来るのを待ち続けた。
会議が始まる予定だったが、その瞬間、爆発的な状況が迫っていた——。
敵は阻止され、肉弾戦に進むほかない。
アセラスは既に敵が後方の軍隊と戦闘を繰り広げていることを知っていた。
多くの犠牲者が出るだろうが、どうしようもなかった。
『まずルウェインから陥落させなければならない。』
一人が崩れ始めれば、それに集中することで境界が弱まるのは避けられない。
『そのタイミングを狙って一人ずつ片付ければいい。』
アセラスは冷静に頭の中で計画を整えていった。
本来なら、ダリア・フェステローズをまず救うつもりだったが、今やその必要もなくなっていた。
最後の良心の呵責を振り払う準備も終わった。
「アセラス、全てを諦めて許しを乞いなさい。そうすれば、私の心が変わるかもしれないよ?」
しかし、その声が妙に頭に残り、彼を苦しめた。
彼は喉を鳴らしながら頭を振る。
その時、ドアが開き、ルウェインが入ってきた。
「遅れて申し訳ありません。用事がありまして。」
「……いえ。」
アセラスはそう言って顎を上げた。
微笑む余裕もなかった。
ただ一人で手を組んだ。
そしてその手の中で神聖な力が固体となるのを感じた。
彼は顎を上げ、ルウェインを見た。
彼の全身を守るセドリックの魔力の波動を感じた。
他の者には見えないが、彼にははっきりとそれがわかる。
以前、皇帝の魔力を読み取り、それに対応する心の準備をしてきたからだ。
しかし、彼はその魔力に及ばないわずかな隙間を見つけた。
信仰に満ちているはずのその隙間は、まるで空虚な掌のようだった。
『近づいてきたら、そこを突けばいい。』
アセラスは冷静にテーブルの下でその固体を指で転がした。
目の前には完璧な相手がいた。
しかし、ルウェインは近づいて来ず、ドアの前に立ち止まり、無表情で彼を見つめていた。
そして、静かに口を開いた。
「もう一人いると思っていました。」
「別の用事があって。」
「これは今までとは違いますね。初めて状況が変わりました。」
意味がわからない言葉だった。
ルウェインはやや低い声で言った。
「それは困りますね。あなたが消えたとしても、彼女が危険にさらされる可能性がありますから。」
アセラスはその言葉に潜む深い意図を感じ取った。
二人の視線が交わった。
先に動いたのはルウェインだった。
彼は壁際に向かって走り、アセラスの頭を会議室のテーブルに叩きつけた。
同時にドアが開き、皇帝アレクサンドロ2世が現れ、手を振った。
それに応じて周囲にいた護衛たちが一斉に動き出した。
ルウェインはアセラスの耳元に顔を近づけて囁いた。
「時期を逃してしまいましたね。ダリア・ペステローズ嬢はあなたを救おうとしていましたが。」
「……はぁ。」
その言葉にアセラスは激しい怒りを覚えた。
彼は頭をテーブルに叩きつけられ、力なく垂れ下がったルウェインの手を見つめた。
彼の声が頭上から聞こえた。
「やはりそうだったのですね。しかし、全てがあまりにも遅すぎました。」
アセラスはテーブルの下に隠しておいた聖力の込められた短剣を取り出し、彼の手を突き刺そうとした。
しかし、その刃を空中で振り上げた瞬間、ルウェインの声が脳に深く響き渡った。
「アセラス。」
「……。」
「君の記憶を取り戻してあげよう。」
そして次の瞬間、アセラスは……。