こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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210話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 囚われの身③
その時、西帝国と一戦を交えるクロネ山脈の第1関門。
防衛線を張ったクローアン王国軍には緊迫した雰囲気が漂っていた。
マリに代わって軍権を握った誠実な伯爵が城壁に上り、口を開いた。
「すべての状況はすでにご存じだと思う。」
「……。」
「女王陛下は、王国民を守るため自ら西帝国軍の捕虜となることを決断された。」
王国軍の顔には暗い影が落ちた。
マリは単なる王位継承者としてではなく、すべてを投げ打ち、犠牲を払うことで王としての責務を果たしてきた。
その献身的な姿勢が人々の心を揺り動かし、王国民は心から彼女を王として受け入れたのである。
マリは彼らにとってただの君主ではなく、頼れる精神的支柱であり、心の中で家族のような存在だった。
そんな彼女が再び人々のために声を上げる。
彼らを救うため犠牲となり、西帝国に身を差し出したが、果たしてじっと黙っていられるものだろうか
そのとき、バルハンが言った。
「君たちも分かっているだろうが、陛下はいつも我々のために犠牲となってくださった。しかし、今度は我々が陛下のために立ち上がる番だ。」
「私たちは何をすればいいのですか?」
王国軍の兵士たちは目を赤くして尋ねた。
「簡単だ。」
バルハンは決然とした顔つきで答えた。
「王国を侵略した西帝国軍に一歩も引くな。命を賭してクローアン王国を守り抜け。それが陛下が我々に下した命令だ。」
その言葉に王国軍の兵士たちは再び胸が熱くなった。
敵陣に身を投じつつも、彼女は最後の最後まで王国を案じていたのだ。
王国軍は歯を食いしばり、叫んだ。
「陛下の命に従います!」
「命を落とすとしても、一歩たりとも引きません!」
そうして彼らは心をひとつにして声を上げた。
「モリナ女王のために!」
「陛下の栄光のために!」
こうして王国軍は決戦の覚悟を決めた。
いつも自分たちのために犠牲を払ってきた彼女を守るために。
一方、そんな王国軍を見てバルハンは憂いを帯びた表情を浮かべた。
『全てがうまくいかなければならない』
実際、どれだけ王国軍が士気を高めても、西帝国軍に勝つことは不可能だった。
兵力は10倍、実質的な戦力差は20倍以上。
唯一の希望はマリが練った計画。
現在、彼女はその計画を遂行するため命を賭して西帝国軍に捕虜として向かっていた。
『成功すれば西帝国軍に勝利できる。この戦争は我が王国の勝利となる』
しかし、その計画はあまりにも危険で、賭けのようなものだった。
数多くの変数のうち、一つでも狂えばマリが命を落とし、全てが無駄に終わる可能性があった。
『ダメだ、そんなことは』
バルハンは拳を握りしめた。
この瞬間、彼の胸にある決意が芽生えた。
彼女は王国のためにすべてを捧げた。
その犠牲が無駄に終わらないようにするため、彼も全力で努力しなければならなかった。
バルハンは毅然とした目でクロネ山脈に侵攻してくる西帝国軍の20万の大軍を見据える。
遠くの霧のようにも見えるその大軍は圧倒的だったが、バルハンは一歩も退かない覚悟で叫んだ。
「西帝国軍だ!全員戦闘準備!女王陛下を守るため、一歩も退くな!」
こうして、王国の運命を賭けた決戦が始まった。
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クロネ山脈に到達した西帝国軍は、谷間の王国軍に対し総攻撃を仕掛けた。
しかし王国軍も簡単には屈しなかった。
険しい山脈と関門に依拠し、徹底的に抵抗した。
そのため、短期間で終わるはずだった戦いは予想外の長期戦となり、西帝国軍も苦戦を強いられた。
「簡単にはいかないな。」
副司令官のヘリアン伯爵が言った。
「こんな必死な気勢とは。」
ヘリアン伯爵は腕を組みながら関門を眺める。
王国軍は装備も訓練も不足していたが、それでも全滅するまで一歩も退かない覚悟を示していた。
「ふむ。」
ストーン伯爵が口を開いた。
「モリナ女王を人質に取ったことが、むしろ奴らを奮い立たせたようですね。」
「ではどうするつもりですか?」
ヘリアン伯爵は困惑した表情で尋ねた。
しかしストーン伯爵は依然として余裕のある顔で答えた。
「このような気勢も、きっかけさえあれば消え去るものです。燃え盛る火も、水をかければ鎮まるように。」
「では、どんなきっかけを?」
ストーン伯爵は口元に笑みを浮かべて答えた。
「モリナ女王こそが彼らの気勢の源。それなら、モリナ女王を揺さぶるのが最も効果的でしょう。」
「……!」
ヘリアン伯爵の目が大きく見開かれた。ストーン伯爵の言葉の意味を察したのだ。
「ま、まさか……以前おっしゃった方法を?」
「はい、その通りです。」
「しかし、それは他国の軍主に対する礼儀の問題ではありません。再考してください。」
ストーン伯爵は冷笑を浮かべて言った。
「伯爵、誰もが言いますが、これは戦争です。礼儀よりも勝利が重要です。」
「しかし……。」
ヘリアン伯爵は言葉を詰まらせた。
彼が戸惑う理由は、ストーン伯爵が言葉とは裏腹に、単なる勝利のためにその方法を使おうとしているわけではなかったからだ。
モリナ女王に関する話題になるたびに、ストーン伯爵の目に危険な光が宿るのをヘリアン伯爵は見逃していなかった。
「早急に実行してください。」
「……わかりました。」
どうすることもできず、ヘリアン伯爵は身を引いた。
ストーン伯爵はその様子を見て歪んだ笑みを浮かべる。
「さあ、これからが始まりだ。楽しみだな。」
・
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・
翌日、城門で農作業をしていた王国軍はその光景に目を奪われた。
「何だあれは?」
「まさか……?」
西帝国軍が、天幕に覆われた巨大な何かを前方に押し出して進んできたのだ。
間もなく西帝国軍が立ち止まり、天幕を剥ぎ取った。
そして、その下に隠されていた「何か」を目にした瞬間、王国軍の目は驚愕で見開かれた。
「女王陛下だ!」
「なんてことだ!」
そこには巨大な十字架があり、その上にはマリナが手を縛られたまま釘付けにされていたのだ。
「この……外道ども!」
「女王陛下を放せ!」
王国軍は激怒し叫んだ。
戦争中とはいえ、最低限の礼儀というものがあるのに、彼らは王国の女王をあのような形で縛り、晒し者にするとは!
その時、ストーン伯爵が十字架に近づき、冷たい声で王国軍に向けて話し始めた。
「見ろ。この通り、お前たちの王は我々の手中にある。この意味が何か分かるだろう?」
彼は十字架の中に手を伸ばし、マリの髪をなでた。
マリは忌々しそうにその手を避けたが、自分たちの王が冒涜されるその姿を目の当たりにした王国軍の怒りは頂点に達した。
「この野郎! 女王陛下を離せ!」
しかし、ストーン伯爵はその怒りを嘲笑うかのように続けた。
「どうだ、よく考えるんだ。この王の命はお前たちの手にはなく、我々の手中にあるという事実を。」
その後、戦闘が再び始まる。
王国軍の怒りは空をも突き抜ける勢いだったが、士気は徐々に崩れ始めた。
彼らにとって最も大切な存在であるマリが危険にさらされるかもしれないという懸念が、彼らの集中力を奪ったのだ。
そうでなくても、戦力的に劣勢だった王国軍は、次第に押し込まれ、陣形も乱れていった。
「ダメ……!」
王国軍が崩壊しつつある光景を、十字架の上から見たマリは、心の中で叫び声を上げた。
マリは檻の中から叫んだ。
「私は大丈夫ですから、私に気を遣わずに戦ってください!お願い!」
しかし、そう叫べば叫ぶほど、王国軍は彼女にさらに注意を払わざるを得なかった。
全てはストーン伯爵の意図した通りだった。
結局、王国軍は敗北し、第1門を放棄して第2門へと後退するしかなかった。
その後退する王国軍の姿を見て、ストーン伯爵は美しい微笑みを浮かべながら、マリに近づいてきた。
「哀れなものですね。王を守ろうとする臣民たちと、臣民たちを守ろうとする王。まさに物語の中のような姿です。」
マリは歯を食いしばりながら彼を睨みつけた。
「悪魔……あなたは本当に悪魔そのものよ。」
ストーン伯爵は薄笑いを浮かべた。
「そうですか?そうかもしれませんね。」
「私は絶対にあなたを許しません。必ず罪の報いを受けさせてみせます。」
その言葉を聞いたストーン伯爵は、じっとマリナを見つめ返した。
「他の誰でもない、女王陛下がそうおっしゃるのですね。」
「………」
「しかし、その前にあなたの覚悟をもう一度考えさせる必要があるようです。今夜、楽しい光景をお見せしましょう。」
その言葉を聞いたマリの顔色は真っ青になった。
彼が言う「楽しい光景」が本当に楽しいものであるわけがなかった。
「また何を考えているのですか?」
「まあ、楽しみにしていてください。がっかりはさせませんよ。」
ストーン伯爵は柔らかな声でそう告げる。
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