こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

91話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 再会③
家の裏にある散策路を少し進むと、ノアが言っていたような青々とした草むらの中に川が見えてきた。
ノアは小道を案内しながらエステルを連れ、二人で入り組んだ道を抜けると、突然開けた景色が目の前に広がった。
「ここだよ。僕が好きな場所なんだけど、どうかな?」
ノアが指さした先には、川が大きく曲がりながら流れる美しい場所が広がっていた。
エスターは魅了されたように前へ進んでいった。
川をこんなに間近で見るのは初めてで、彼女の目は輝いていた。
「とても素敵。すごく心が落ち着く感じがするわ。」
穏やかな川面には陽光が優しく降り注ぎ、静かに流れる水音が聞こえる美しい場所だった。
ただじっと川を眺めているだけで、心配事がすべて消え去り、気持ちが穏やかになるような気がした。
「君が気に入ると思ったよ。」
ノアはようやく安心したように、持ってきた布を広げてエスターが座れるように準備を整えた。
「ただ座ったら服が汚れちゃうから。」
「ありがとう。」
エスターは心から感謝の気持ちを込めて礼を言い、慎重に布の上に腰を下ろした。
そよそよと心地よい風が二人の間を優しく通り抜けていった。
エスターの目は柔らかく流れる髪の毛越しにノアを見つめた。
最近どうしてたの……?
久しぶりに隣に座ることに気まずさを感じたエスターは、最初の質問をのみ込み、口を固く閉じた。
「うん?」
「サンドイッチを食べましょう。」
「お腹空いてたの?」
ノアはバスケットを開け、中に詰めてきた手作りのサンドイッチを取り出し、エスターの手に渡した。
たっぷりとサラダが詰まった美味しそうなサンドイッチだった。
ノアは少し緊張した面持ちでエスターを見守りながら、一口大きくかじった。
「どう?」
エスターの予想を超える美味しさに、彼女の瞳が驚きに満ちて大きく開かれた。
「美味しい。本当に君が作ったの?」
その瞬間、ノアの顔には喜びの色が浮かんだ。
「うん。ファレンが少し手伝ってくれたけど……作ったのは僕だよ。」
ノアは助けを求めるような視線を近くにいるファレンに送った。
ノアとエスターのやり取りをそばで見守っていたファレンは、一瞬驚いた表情を見せた後、すぐに丁寧に頭を下げる。
「そうです。すべて殿下が作られました。」
再び微笑みながら、ファレンは二人に視線を移した。
その時、ビクターが二人を見ているのに気づき、彼は提案した。
「お二人がゆっくりお話できるよう、私たちは向こうへ移動したほうが良いでしょうか?」
「そうしましょう。」
ビクターの提案にファレンが同意し、二人はエスターとノアから少し離れた場所へ歩いて行った。
エスターとノアはそのことに気づく様子もなく、久しぶりに会った懐かしさと積もる話に夢中になっていた。
ノアは思い出話や溜まった話を語り合いながら、終始楽しそうにしていた。
ノアは、自分がどう過ごしてきたかをエスターに熱心に語った。
「……それで、来月には皇太子を決める会議が開かれるんだ。」
「君を支持してくれる人は十分に集まったの?」
「うん。当然さ。」
自信満々に答えるノアを見て、エスターは親指を立てた。
「本当にすごいね。」
心からそう思った。
追放された立場から再び支持者を集めるのがどれだけ大変だったか、想像もつかなかった。
「すごいってほどでもないさ。別に大したことじゃないよ。」
いつもは他人を褒める側だったノアにとって、エスターからの賞賛は珍しいことだったようで、少し照れくさそうに髪を触った。
エスターは気づいていなかったが、ノアの耳はすっかり赤く染まっていた。
「僕の話ばかりしてたね。エスターはどう過ごしてたの?」
「特に何もなかったよ。お父さんやお兄さんたちと楽しく過ごしてた。」
この1年は、ためておいたプレゼントを一気にもらうような、そんな時間だった。
安定した表情のエスターを見て、ノアは微笑んだ。
「君の顔を見ればわかるよ。元気そうでよかった。」
「うん。」
最後の日、ノアと別れる前に交わした言葉が頭をよぎる。
『毎日少しずつもっと幸せになってね。』
その言葉はしっかりと守られていたと、自信を持って言える時間だった。
「ノア、あなたも……」
あまりにも無理をして大変な時間を過ごしていないか、と聞こうとしたが、ドロシーの言葉が思い出され、言葉を飲み込んだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。」
問いかけをやめたエスターは、「サンドイッチでも食べよう」と気を紛らわせた。
ノアはエスターがパクパクと食べる様子をじっと見て、手を伸ばした。
エスターの口元にはソースがついており、ノアは何のためらいもなく自分の指でそれを拭き取って笑う。
「僕の分も食べる?よく食べるね。」
「もう十分お腹いっぱい。」
「次は僕がまた作るよ。それに、他の場所にも一緒に遊びに行こう。」
エスターは、まるで子ども扱いされているようなノアの態度に驚きながらも、固まった表情をしながら自分で口元を拭いた。
「昨日、ダンスは上手に踊れた?僕以外の誰かと踊るのはあまり楽しくなかったんじゃない?」
「そうでもなかったけど?」
エスターが冗談っぽくノアをからかうために視線をそらしながら答えると、ノアは驚いたように目を大きく開いた。
「酷いな。せめて口だけでも“あまり楽しくなかった”って言ってくれたらいいのに。」
ノアはすぐに笑顔を取り戻し、膝を抱えて丸くなる。
その表情を見たくてからかい半分で悪戯を仕掛けたエスターは、心の中で満足感を味わいながら、川辺を見渡した。
「ここ、本当にいい場所ね。」
二人で過ごす時間が楽しいという言葉は、直接言い出せず、代わりにこの場所が好きだという形で思いを伝える。
しかし返事はない。
普段は騒がしいノアが黙り込むのは珍しく、エスターは不思議に思って彼を見た。
すると、ノアがじっとエスターを見つめていることに気づき、目を丸くした。
気づかぬうちにノアはエスターの顔に近づいており、その距離感にエスターは驚きつつも何も言えなかった。
(なぜ……こんなに近いの?)
動揺したエスターは顔を背けることしかできない。
ノアの視線が自分の目の前にあることに気づき、エスターは固まってしまった。
「君が近づいてきたんだよ。僕はずっとここにいるだけ。」
ノアはその場で微笑みを浮かべたまま座っていた。
その距離は驚くほど近く、顔の細かい特徴まで見えるほどに。
「近くで見ると、もっときれいだね。エスターの瞳、本当に透き通っている。」
「やめて、驚くじゃない……!」
エスターは動揺しつつも、ノアのさらに近づく仕草にたじろぎながら後ずさりした。
心臓が高鳴り、ノアに聞こえてしまうのではないかと心配になるほどだった。
「ふう、暑いね。」
「そうだね、ちょっと暑い。」
エスターは赤くなった顔を隠そうと視線をそらし、視線を遠くに移そうとする。
しかし、その時ノアの顔も赤く染まっていることに気づいた。
ノアもまた、心臓が大きく脈を打つ音を感じているようだ。
『すごく近くにいた。』
自分でも気づかぬうちにエスターの頬にキスしそうになったノアは、激しく鼓動する胸を押さえる。
二人はしばらくの間、お互いを見つめることもできず、感情が高ぶる中で沈黙を保つ。
少し経って、エスターが手で頬をさすりながら、気まずさを隠すように口を開いた。
「皇太子の座を争うのに、デイモン皇子が関わるの?」
「そうだ。デイモン兄さんとはその後、また会った?」
突然、デイモンが婚約を提案したという噂が脳裏に浮かび、ノアの目に不安がよぎる。
「パーティーで一度会っただけ。それだけよ。」
エスターは冷静を装いながらも、再びデイモンの存在を思い出し、心が揺れるのを感じた。
エスターは隣にいるノアの手を取り、力を込めて握りしめる。
「ノア、絶対に勝って。どんなに考えても、デイモン皇子ではない。君が皇太子にならなければならないんだ。」
応援するつもりでエスターが先に手を握るのは初めてのことだったので、ノアは少し驚いて口をわずかに開いた。
驚いたものの嬉しさが勝り、ノアの瞳が一層輝く。
「うん、絶対に勝つよ。」
ノアはエスターが握った手をそのままにし、自分の手をエスターの手の上にそっと重ねた。
遅れてエスターが手を離そうとしたが、ノアの握力が思ったよりも強くて、どうすることもできない。
「握るのは自由だけど、離すのも自由じゃないとね。」
ノアの手、エスターの手、そしてその間に流れる静かな時間が続いた。
ノアの手が再びしっかりと握られ、静かな空気が流れる。
「ところでエスター、僕に対して気になることってそれだけ?今日はなんだか質問に答えるだけで終わってる気がする。」
突然の問いかけにエスターは困惑し、無意識に髪の毛先をいじりながら、小声で答えた。
「だって、君が全部話してくれるから。」
「じゃあ、このまま終わりにする?」
ノアはもう話すべきことは全部言ったという表情で冗談めかした態度をとった。
思わぬ反応に驚いたエスターは急にノアの袖を掴み、何か言おうとしたが結局何も言わずに唇を噛んだ。
「まだ来てそんなに時間経ってないけど、もう帰るの?今日の天気もいいし、こうして君と過ごすのが楽しいと思ってるのに。」
まるで期待していた答えが得られなかったようなノアの言葉に、エスターは心が少し揺れた。
「……つまり、君は僕と一緒にいるのが良いってこと?」
ノアの問いにエスターは何も答えられず、ただ視線をそらしただけだった。
エスターは恥ずかしくなり、ノアの顔を見ることができずに事実を打ち明ける。
「実は、ドロシーが君に会うときは質問しないように言ったの。それなら主導権を握れるからって……」
「何?君は本当に言いたいことがあったのに我慢してたの?」
ノアはこれまでで一番大きく笑い声を上げた。
その笑い声は、顔全体の筋肉を動かすほど楽しそうなものだった。
「見てごらん。もし僕たちの間に主導権があるとしたら、それは間違いなく君の方にあるんだ。まだ僕に気づいてないのかい?」
ノアはエスターの前髪を軽く引っ張りながら、そんな心配をする必要はないと優しく言った。
「僕と一緒にいるときは、そんなの必要ないよ。ただ、他の男が近づいたらそのときは別だね。質問するのも禁止。むしろ君に尋ねることさえ無駄だと思うよ。」
ノアの冗談が自分をからかっていると感じたエスターは、つい拗ねたようにノアを見つめる。
ノアとの軽い冗談を交わしながら一緒に過ごすこの時間は、エスターにとって甘くてまるで夢のように感じられた。
川辺の美しいこの場所は、彼女にとってずっと思い出に残りそうで、心に深く刻まれるだろう。






